103 / 168
第四章 ダンジョンを観光地化させる俺
103、緊張(アンナ視点)
しおりを挟むバンたちが帰った頃、ギルド居残り組の話をアンナ視点で2話挟みます。
ーー▼ーー▽ーー▼ーー▽ーー▼ーー
目が覚めた私は、よくわからないままイアに連れられてサバンの部屋に向かっていた。
どうしよう私、サバンとか久しぶりに会うんだけど……?
だってサバンといえばアイツと仲が良かった一人の筈だ。そんな男にどんな顔して会えばいいのかわからなくて、私はあれ以降ずっと避けていた。
だから今の私もサバンに会いたくなくて少し緊張しているというのに、隣を歩くイアは何故か笑顔だった。
「アンナさん。これはサバンの所で話そうと思っていたのですが……早く伝えたいので先に言いますわね」
「何よ……そんな笑顔で私に何を言うつもりよ?」
「ふふ、実は今回の事でアンナさんには勲章が与えられると思いますわよ」
「……は?」
勲章……? 勲章と言ったら、それを持ってるだけでブラックバッジを無効化できるとか、それ以上にも色々優遇されてヤバイと噂される物のはずだ。
「なんで、それを私に!?」
「実は本当ならお面の彼に渡した方がいいのですが、どうせ彼は受け取りを辞退しますわ。だからその代わりに、彼をサポートしたアンナさんへと贈られるのですわ」
「何よ、辞退って!? それなら私だってオマケみたいに勲章を貰っても全然嬉しくないわよ!」
「……アンナさん」
肩を掴んだイアはあまりにも真剣な顔をしていた。そのせいで私は後退りしてしまう。
「な、何よ……?」
「私はアンナさんがもう充分苦しんだ事を知っていますわ。確かにアンナさんが許されない事をしたのは事実ですし、もう少し反省をした方がいいと思う所もありますわ。それでも私は、アンナさんにもそろそろ幸せになって欲しいのですわ」
「……真面目な顔で、いきなり何言ってんのよ」
「これは、私の本心ですわ」
「そんな事言われても、私は……」
私は、幸せになれるわけがないのに。
だって私の性格が直らない限り、同じ事を繰り返すってわかってるもの。
何よりおこぼれで貰う勲章とか、私のプライドが許せない。
「私はその勲章を受け取れないわ。今は普通にブラックバッジを一つ回収して貰えるだけでも充分よ」
「……アンナさん」
「でもバッジの回収方法がわかった以上、何かあれば人助けを頑張ればいいんでしょ?」
「まあ、全てとは言えませけど……何かあればアンナさんを率先して誘う事にしますわね」
そんな事を言うイアに私は驚いてしまう。
どうしてイアは昔から私にこんなにも親切なのよ? 私はこんなにも嫌な奴なのにーー。
そう思った瞬間、私は昔から何度もイアに庇われていた事を思い出してしまったのだ。
イアはダンジョンでも買い物の時だって、まるで本物の妹のように、いつも私の失敗をカバーしてくれた。それなのに私は一度も感謝の言葉をかけたことはなかった。
ーーきっと、謝るなら今しかない。
そう思ったのに素直になれない私は目を逸らしてしまう。だけど私は、その口をなんとか開いた。
「い、イア……私、いつもこんな態度だし迷惑かけてばかりで、悪かったわね……」
そんな私の姿に、イアは目を丸くした。
そして何がおかしかったのか、すぐに吹き出したのだ。
「ふふふっ、まさかアンナさんが謝るなんて……明日は雨でも降りそうですわね」
確かに、今までの私なら誰かに謝るなんて絶対にしなかったけど……それでもその言われようは酷くないかしら?
そのせいでなんだか私までおかしくなってしまい、イアと一緒にクスクスと笑ってしまったのだ。
だけどこうしてイアに謝ろうと思えたのは、きっとお面の彼に会ったからなのかもしれないわ……。
そう思って少し顔を赤くしてる間に、気がつけば私たちはサバンの部屋までたどり着いていた。
イアは律儀にノックをしてサバンに声をかけると、その返事はすぐに帰って来たのだ。
「サバン、イアですわ」
「おお、来たか。入ってくれ」
その返事にイアは扉をガチャリと開ける。
部屋に入ると、そこには昔と全く変わらず鉢巻のむさ苦しくい男、サバンがいた。
しかもサバンは、イアの後ろからコソコソと入って来た私にすぐに気がついたのだ。
「おお! お前、アンナか?」
「……そうだけど、何よ」
「そうか、そうか! なんか大人になって、大きく綺麗になったな」
「何故かしら、アンタに言われるとセクハラされてる気分だわ」
「相変わらず、厳しいツッコミだな!」
そう笑うサバンは特に私を恨んでいるようには見えなくて、もしかして気にし過ぎだったのかしらと私は肩の力を抜いたのだ。
そして部屋の奥へ案内された私たちは、サバンの向かい側に座っていた。
「それで、イアはなんでアンナも一緒に連れて来たんだ?」
「それは、今回現れたあの男の話をしようと思ったからですわ。ですが先にサバンの要件を聞きますわね。その話はアンナさんがいても大丈夫ですの?」
「ああ、アンナなら特に問題ない」
そう言いながら、サバンは机の資料を手に取って内容を読み始めた。
「まずは今回の騒動についてだが、とりあえずは終結したようだ。しかし市民からはお面派に物凄く不満が出ている」
「それはそうですわよね」
「しかも何故か勇者派が悪いと思っている連中もいるらしくてな、現在はどちらもこの町には居づらい状態らしい」
まあ、両者ともあれだけ暴れたんだもの。市民から嫌われるのは仕方がないわよね。
「そのせいで勇者派が多いうちのギルドに抗議が増えそうだと、受付が嘆いていたな」
「そこはギルド内でどうにか持ち堪えて下さらないと困りますわ」
「そうだな、このままギルドごと潰されないように俺も頑張るさ」
そう言ってため息をつくサバンに、私は少し同情してしまう。
だって、一般市民は危険な事があれば助けを求めてくる癖に、こちらに不備があればすぐに手のひら返して糾弾してくる人たちがいるのだ。
これだから市民の圧力は嫌なのよ……。
私も昔、そういう糾弾に巻き込まれそうになった事があるからわかるのよね。
「ですが問題なのは本当にこれで全てが終わったのか、ですわね」
「ああ、今回お面派に関わっていたギルド職員がいた事はわかったが、お面派のバックにいる集団が一体何者かは全くわからなかったからな」
そう言って少し悩んだサバンは、私たちを見回すとゆっくり口を開いた。
「それと……屋上でフード男を見送った時、俺はお前らに言わなかった事がある。実はあの時、俺はすでにスキル『クレアボヤンス』を発動していた」
「という事は、お面をしていた二人の顔を?」
「勿論見た。見たんだけどな……」
「その反応、それとすぐに言わなかった事を考えますと、サバンのお知り合いだったのですわね?」
「ああ、一人はな……」
私はサバンのスキルなんて知らないけど、今の話から幹部がサバンの知り合いだったという事はなんとなく理解できた。
「それなら、そいつをすぐに捕まえればいいじゃない!?」
「いや、そんな簡単な事じゃない。捕まえるには先に証拠を押さえる必要があるからな。だけど、そこは俺に全て任せて欲しい。……アイツとは俺が直接話し合いをしたいからな」
「それなら仕方がありませんわね。その件はサバンに任せますわ。そのかわり絶対に失敗は許しませんわよ?」
「ああ、わかっている。俺は仕事に私情を持ち込むつもりはないからな」
そう言うサバンを見て、イアは嬉しそうにニコリと微笑んでいた。
そのやりとりを見た私は、二人の間に確かな信頼がある事を不思議に思ったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ギルド受付嬢は今日も見送る~平凡な私がのんびりと暮らす街にやってきた、少し不思議な魔術師との日常~
弥生紗和
ファンタジー
【完結】私はギルド受付嬢のエルナ。魔物を倒す「討伐者」に依頼を紹介し、彼らを見送る毎日だ。最近ギルドにやってきたアレイスさんという魔術師は、綺麗な顔をした素敵な男性でとても優しい。平凡で代わり映えのしない毎日が、彼のおかげでとても楽しい。でもアレイスさんには何か秘密がありそうだ。
一方のアレイスは、真っすぐで優しいエルナに次第に重い感情を抱き始める――
恋愛はゆっくりと進展しつつ、アレイスの激重愛がチラチラと。大きな事件やバトルは起こりません。こんな街で暮らしたい、と思えるような素敵な街「ミルデン」の日常と、小さな事件を描きます。
大人女性向けの異世界スローライフをお楽しみください。
西洋風異世界ですが、実際のヨーロッパとは異なります。魔法が当たり前にある世界です。食べ物とかファッションとか、かなり自由に書いてます。あくまで「こんな世界があったらいいな」ということで、ご容赦ください。
※サブタイトルで「魔術師アレイス~」となっているエピソードは、アレイス側から見たお話となります。
この作品は小説家になろう、カクヨムでも公開しています。
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~
夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力!
絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。
最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り!
追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜
たまごころ
ファンタジー
無実の罪で辺境に追放された公爵令息アレン。
だが、その地では神竜アルディネアが眠っていた。
契約によって最強の力を得た彼は、戦いよりも「穏やかな暮らし」を選ぶ。
農地改革、温泉開発、魔導具づくり──次々と繁栄する辺境領。
そして、かつて彼を貶めた貴族たちが、その繁栄にひれ伏す時が来る。
戦わずとも勝つ、まったりざまぁ無双ファンタジー!
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる