ダンジョンで温泉宿とモフモフライフをはじめましょう!〜置き去りにされて8年後、復讐心で観光地計画が止まらない〜

猪鹿蝶

文字の大きさ
114 / 168
第五章 襲来に備える俺

114、前のダンジョンマスターとは

しおりを挟む

 俺は今、セシノが置いていったカバンを拾い上げながらため息をついていた。
 仕方がないのはわかっているんだけど、人手不足なのに何も出来ないのが申し訳なかったのだ。
 しかも宿屋には『お面の英雄』を目当てに来る人が増えているようで、そろそろ対策を考えたいと思っていた。
 そしてそんな悩んでいる俺を見ていたのか、マリーはおでこを指差しながら言ったのだ。

「マスター、眉間にシワが寄っておるのじゃぞ?」
「仕方がないだろう。俺は何もできなくて歯痒いんだから……というか、マリーは手伝いにいかないのか?」
「うむ、今日はマスターに話があるのじゃよ」
「俺に話……?」
「以前、話したい事があるからモンスター牧場にきて欲しいと、お願いしなかったかのぅ?」

 確かに観光地計画を手伝ってもらったときに、マリーにお願いをされていた。

「でも俺はモンスター牧場に来て欲しいとしか言われてないけど……?」
「うむ、モンスター牧場でしか話せない内容なのじゃよ」
「ここでしか話せないって、どう言う事だ?」
「まあ、言葉だけでは伝わらない事もあるからのぅ、とりあえずワシに着いてくるのじゃ」

 そう言って俺の腕を掴んだマリーは、有無を言わせず歩きだしたのだ。
 そして引き摺られるようにマリーついて行った俺は、前マスターが住んでいたという建物にまた足を踏み入れたのだ。

「なぁ、ここってずっと綺麗なままだから少し不気味なんだよな……」
「何を言っておるのじゃ、ダンジョンの建物なのじゃから当たり前じゃろ?」
「そうなんだけどさ……でも俺のダンジョンリフォームにはこんな建物ないんだよなぁ」

 それなのにどう見てもこの建物はダンジョンリフォームで作った物だった。
 つまりダンジョンリフォームにはマスターごとに作れる物が違うか、スキルレベルがあって後から増えるタイプなのかもしれない。
 そう考え事をしながら歩いてると、マリーが突然通路の真ん中で立ち止まったのだ。
 しかしそこには一枚の額縁と、灯り用の蝋燭しか見当たらない。

「マスターをここに呼んだのは、この部屋に連れて行きたかったからなのじゃよ」
「……え? この部屋と言われても、扉も何もないのに何処に部屋があるんだ?」
「それは、ここじゃよ」

 そう言いながらマリーは額縁に手を突っ込んだ。

「……は?」
「では、部屋に入るのじゃ!」
「いやいや、どうなってっ!?」

 俺はよくわからないまま、マリーに腕を引かれ額縁の中へと入ったのだ。
 そして俺達が出た先は書斎のようだった。
 しかもそこには何故か、黒髪の厳つい男の肖像画が何枚も何枚も置いてあったのだ。
 そしてマリーはその肖像画を指差して言った。

「この肖像画は歴代の魔王様じゃ」
「魔王様……」

 あれ、魔王ってなんだっけ?

「って、魔王!? 全員顔そっくりだけど別の人なのコレ? いやいや、それよりも何でこんなところに魔王の肖像画が……」
「肖像画だけなら、どのダンジョンにも飾ってあると思うのじゃ」
「そ、そうなのか……?」

 一瞬魔王が実在するのかと思ったけど、流石にそういう訳じゃないよな……でも、歴代のってどう言う意味だ?
 そう混乱していると、マリーは無機質な瞳で俺を見つめながら、少し言いづらそうに口を開いた。

「……マスターにはずっと隠しておったのじゃが、やはりこの事は伝えておこうと思うのじゃ」
「えーっと……それは大事な話なんだよな?」
「そうじゃな」
「なら俺も、真面目に聞くか……」

 そう思って俺は姿勢を正す。
 きっとマリーが隠している事はこのダンジョンについてだ。
 なにより俺はこのダンジョンについて、まだ知らない事が多い。だからこうして話してもらえると、少しはマリーから信頼された気がして嬉しかった。

「それなら驚いて飛び上がらないようにするのじゃぞ?」
「ああ、わかってるよ」
「うむ、では話すのじゃが……」

 マリーは肖像画の前を歩き出すと、一番右端の男を指差して言ったのだ。

「実はここにある一番最後の肖像画の男は、マスターの一つ前のダンジョンマスターなのじゃ……つまりここの前マスターは、一代前の魔王様だったわけじゃ」

 その話に一瞬思考が固まった俺は、マリーの言葉を脳内で反復してしていた。
 前マスターが前魔王様……魔王様?

「嘘だろ!? ってか、それよりもこの世界に本当に魔王っていたのか?」
「何を言っておるのじゃ。勇者の一族がいるのじゃから、魔王の一族がいてもおかしくないじゃろが」

 確かにそれはマリーの言う通りだ。
 だけど子供の頃に何度も勇者物語を読んだ俺には、魔王が今も現実にいる事が想像できなかった。

「それなら、ダンジョンボックスは魔王が作り出したっていう御伽噺も史実なのか?」
「そんな事は流石に知らぬのじゃ。じゃがダンジョンボックスのマスターは魔王の一族が仕切っておるのじゃ。そして本来ならこのダンジョンも、前マスターの孫が来る予定じゃった」

 つまり元魔王の孫だから、次期魔王になる可能性がある人って事だよな?
 それなのに、今は俺みたいなのがここのマスターになってるわけで……。

「それって凄くまずいんじゃないのか?」
「その通りなのじゃが、何年待てども孫が来る気配がなくてのぅ……一族側で何かあったとしか考えられぬじゃ。それにおかしいのは現魔王様の視察についてもじゃ。本来なら年に一度はあったのじゃが、ここ10年は全くないからのぅ……」
「いや待ってくれ、その魔王様の視察って何だよ?」
「そのままの意味じゃな。魔王様が視察に来てダンジョンに点数をつけるのじゃ。その点数によってダンジョンが無くなったり、マスターが入れ替わったりするのじゃよ」

 それじゃあ、このダンジョンはやばくないか?
 そう思った俺は、嫌な汗がダラダラと流れ始めていた。

「どうしよう、こんな魔改造したダンジョン見せて怒られないか……?」
「そこは大丈夫じゃな。それよりもワシは、マスターの方が心配じゃよ」
「え、俺?」
「ここは本来なら、マスターのダンジョンではないのじゃからな」

 確かにマリーの言う通りだ。
 俺がマスターってバレたら、もしかるすと簡単に消されたりするのかもしれない。
 一応、相手の肩書は魔王なんだし……。

「そう言うわけじゃから、この顔の男には気をつけるのじゃ。ワシとて、いつまでマスターの側にいられるかわからぬのじゃからな」
「なんだよそれ、まるでマリーがいなくなるみたいに言うなよな」
「それはわからぬのじゃ。いなくなるのはワシかもしれぬし、マスターの方かもしれぬのじゃ。それにワシは最近、嫌な予感がしておるのじゃ……わかっておると思うのじゃがワシの感は当たるからのぅ、マスターも充分に気をつけるじゃぞ?」

 そう言われてもどうやって気をつけたらいいのかわからない俺は、とにかく宿屋周りに新しい罠を張る計画を立てようと決意した。
 そして話し終えたマリーとともに、俺たちは屋敷を出ようとした。
 その時、突然セシノがカバンから飛び出してきたのだ。

「バンさん!」
「せ、セシノ!? いきなり出てきたからビックリした」
「す、すみません。急いでたものですから……」
「いや、それはいいけど宿屋で何かあったのか?」
「何かあったと言うわけではないのですけど、実は宿の方にマヨさんが来ていたので呼びに来たんですよ」
「マヨが?」

 ギルド職員であるマヨがわざわざ来るなんて、町の方でまた何かあったのかもしれない。
 そう思った俺は、なるべく人に見つからないように急いで宿屋に戻る事にしたのだ。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

ギルド受付嬢は今日も見送る~平凡な私がのんびりと暮らす街にやってきた、少し不思議な魔術師との日常~

弥生紗和
ファンタジー
【完結】私はギルド受付嬢のエルナ。魔物を倒す「討伐者」に依頼を紹介し、彼らを見送る毎日だ。最近ギルドにやってきたアレイスさんという魔術師は、綺麗な顔をした素敵な男性でとても優しい。平凡で代わり映えのしない毎日が、彼のおかげでとても楽しい。でもアレイスさんには何か秘密がありそうだ。 一方のアレイスは、真っすぐで優しいエルナに次第に重い感情を抱き始める―― 恋愛はゆっくりと進展しつつ、アレイスの激重愛がチラチラと。大きな事件やバトルは起こりません。こんな街で暮らしたい、と思えるような素敵な街「ミルデン」の日常と、小さな事件を描きます。 大人女性向けの異世界スローライフをお楽しみください。 西洋風異世界ですが、実際のヨーロッパとは異なります。魔法が当たり前にある世界です。食べ物とかファッションとか、かなり自由に書いてます。あくまで「こんな世界があったらいいな」ということで、ご容赦ください。 ※サブタイトルで「魔術師アレイス~」となっているエピソードは、アレイス側から見たお話となります。 この作品は小説家になろう、カクヨムでも公開しています。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜

たまごころ
ファンタジー
無実の罪で辺境に追放された公爵令息アレン。 だが、その地では神竜アルディネアが眠っていた。 契約によって最強の力を得た彼は、戦いよりも「穏やかな暮らし」を選ぶ。 農地改革、温泉開発、魔導具づくり──次々と繁栄する辺境領。 そして、かつて彼を貶めた貴族たちが、その繁栄にひれ伏す時が来る。 戦わずとも勝つ、まったりざまぁ無双ファンタジー!

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

処理中です...