ダンジョンで温泉宿とモフモフライフをはじめましょう!〜置き去りにされて8年後、復讐心で観光地計画が止まらない〜

猪鹿蝶

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第五章 襲来に備える俺

136、首を傾げて

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「……ああ、ディーネか……なんか俺もビックリして悪かったよ。もう逃げないからさ、その手を離してもらってもいいかな?」

 コクリと頷いたディーネがそっと手を離したのを確認し、俺は再び座り直す。

「マスター、勘違いして欲しく無いのであるが……妾がこうして話しているのは、あのバカの言葉に少し思うところがあっただけで……べ、別にそやつの為ではないのであるからな……」

 そういえばこの二人、犬猿の仲と言えるほど仲が悪いんだったな。だからこそレッドの言葉は、ディーネを苛つかせるのには充分だったのだろう。
 俺はニヤけているレッドの顔を手で抑えると、今にも沈んでしまいそうなディーネを反対の手で支えながら、改めて俺に話しかけたその理由を聞く事にした。

「わかったよ。ディーネはレッドの為じゃなくて、俺の為に話そうと思ってくれたんだよな?」
「……うむ。しかしこれは妾が少し思っただけである故に、確信は全くないのであるが……それでも、マスターは妾の話を聞くのかえ……?」
「ああ、聞くに決まってるだろ。感謝はすれども、それが間違ってたとしても俺はディーネを責めたりはしない」
「……そうか。そんなマスターだからこそ、妾は好きになったのであったな……」

 ボソリとそう呟いたディーネは、俺の腕にそっと触れると少し嬉しそうに笑った。

「ディーネ?」
「マスター、フォグの事であるが……紫のモヤに黒い球、その話から思うに受けたのはもしかすると呪いかもしれぬ……」
「え? 呪い……?」
「先程も言ったが、実物を見てない故に全く確信はないのである。しかし呪いについては、ひとつの可能性として調べておくのはよいかもしれぬ。すまぬが今の妾が言える事はそれだけである故、これ以上は……」

 そう言いながらディーネは力が抜けたように俺の手をすり抜けると、再び湯の中へと戻っていった。

「貴重な情報、ありがとな……ディーネ」

 本当はその話について俺はもう少し詳しく聞きたかったのだけど、こんなにも弱っているディーネにこれ以上話を聞くのは難しいだろう。
 そしてもう一度モンスター達を見回した俺は、グッタリと温泉に浸かったままのコイツらから話を聞くのも、無理そうだと思っていた。
 俺はため息を吐きそうになるのを堪え、落ち着く為に深呼吸をする。

 ……大丈夫、コイツらが元気になりさえすれば何か良い解決策が出る筈だ。
 そう思いながらも俺は、フォグを本当に直せるのかという焦りを少しずつ持ち始めていた。
 そんな俺の不安が伝播してしまったのか、首を傾げたままのセシノは眉を寄せてボソリと俺に呟く。

「バンさん、フォグさん大丈夫ですよね……」
「ああ、大丈夫……。俺がどうにか治す方法を見つけてみせるさ」
「……バンさん」

 そうセシノに言ったものの、今はまだ情報が少な過ぎる。
 今日、俺が得たヒントといえばディーネから聞いた『呪い』という言葉だけなのだ。

 ーーーでも、まてよ。
 そういえばマリーは、モンスターにしては無駄に知識が多かった。それは前マスターから色々な話を聞いたというのもあると思うが、もしかすると牧場に建っているあの家にそういう知識が書かれた本があるのかも知れない。
 ……本を読むのは嫌いだけどよ、フォグの為にも絶対に解く方法を探してやるさ!
 そう思い立った俺は、明日の予定をセシノに伝えておく事にした。

「セシノ、明日の事だけどさ……朝、フォグから話を聞く事が出来たら、その後すぐに牧場に行くつもりだ。マリーの様子を見たいってのもあるけど、俺は前マスターの家に行こうと思ってる」
「あの、牧場にある家にですか……?」
「あそこには沢山本があったし、もしかしたら何かしらの情報があるかもしれないからな」
「……確かに、あの家なら何が出てきてもおかしくなさそうですよね」
「やっぱ、セシノもそう思うよな」

 うんうんと頷く俺を見ていたセシノは、何故か突然真顔になると人差し指をピッと立てたのだ。

「バンさん、行くのは良いですけどひとつだけ私と約束して下さい。出かけるのなら、絶対に怪我をしないようにして下さいよ……」
「ああ、わかったよ」

 あんな事があった後なのだから、セシノが心配するのも仕方がない事だろう。
 そして少しムッとしてるセシノは、相変わらず首を傾げていた。
 この時の俺は、セシノが一体何をそんなに考え込んでいるのか何故か気になってしまい、首を傾けるその理由をつい聞いてしまったのだ。

「そういえば……さっきから首傾いたままだけど、首痛めた訳じゃないよな?」
「っへ? 私、いつから首傾いてましたか?」
「あー、確か俺の話を聞いてからずっと傾いてたような……」
「嘘っ!? そ、そんな前からなんて……なんて、恥ずかしい姿を……!」

 顔を真っ赤にするセシノは、恥ずかしさの余り両手で顔を隠してしまう。

「わ、私……変な顔、してませんでした?」
「大丈夫大丈夫、いつもと同じ可愛い顔だから」

 何も考えていない俺は、親バカ丸出しで自信満々にそう言った。
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