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第六章 取り戻しに行く俺
156、理由
しおりを挟むこの最奥の部屋は今までの広間よりもさらに大きかった。
扉から真っ直ぐ進むと玉座があり、ここが謁見の間になっているように見える。
しかし俺たちが見ていたのはそこではなかった。
右端の奥に、どう見てもこの広間に不似合いの天蓋付きのベットが、ポツンと置かれていたのだ。
その横の椅子に座る男は、俺たちをチラリと見て呆れたように呟く。
「まさか、ここまで来るとは思ってなかったよ」
そこに横たわる誰かの看病しているのか、オデコのタオルを変えながら話す姿は、今現在進軍を命令してる男とは思えないほどのんびりとしていた。
「本当はすぐにでも君たちの相手をしてあげたいんだけど、今は妹の、ララの看病をしている最中なんだ……少し待っててくれたら嬉しいな」
ララと呼ばれた女性を見つめる瞳は何処までも優しい。
何故こんなにも愛情溢れる男が、あんな事をしでかしたのか……その答えも、きっとその女性にあるのかもしれない。
そんな事を考えてしまった俺は、動くことができずその様子を見守ってしまう。
しかし、レンさんは違った。
「ふざけるな! お前のせいで、どれだけ多くの人が苦しむと思ってるんだ!! 例えどんな理由があろうが、お前がした事は人として間違ってる……」
「……レン、君の言う通りさ。俺のやった事は間違っているのだろうね。だけど、大切な人と世界中の人を天秤にかけた時……俺は大切な人を選んだ。ただそれだけの話だよ? それと……今襲いかかってこられても困るんだよね。せっかくだし俺の準備が終わるまで、君たちが気になっている事を教えてあげよう」
そう言うとグラシルは手を動かしながら、自分と妹の話をしはじめたのだ。
「俺の本名は、ユリウス・ドラシーラ。一応は現魔王の孫になるかな……。ちゃんとした跡取りではないけれど、将来は一族の一人としてダンジョンマスターになる筈でさ、ここのダンジョンを分け与えられる予定だったんだ。だけど人生はそんな上手くいかないものだよね……俺たち双子には、少しだけ問題があったんだ。妹は『魔力枯渇病』で、俺は魔力なし。そのせいで俺たちは実家から捨てられたわけさ。まあ、俺は生きるのには困らなかったけど、ララの症状は深刻だった。俺はね、唯一の家族であるララを救うために何でもしたよ。俺にとってララだけが生きる目的だったからね。そして妹を救う方法を探した結果、俺が魔王になる方法と、バン……君を殺す方法があったと言うだけの話なんだよね。だからララを救う為、代わりに死んでくれないか?」
そう言いながらユリウスと名乗った男はニコリと笑う。その顔をよく見ると、目の周にはクマがあり精神的にとても疲れ果てているようにみえたのだ。
そして話し終えたのと同時に看病を終えたユリウスは、ベッドからなるべく離れている玉座のある方へと歩いて行く。
多分、俺たちをなるべくベッドから遠ざけるのが目的なのだと思う。
「待たせたね。正直、君のことは後回しでもいいかと思っていたのだけど、せっかく獲物が直接乗り込んできてくれたんだ。それなら君を殺して、そのスキルを妹の為に貰うよ」
その言葉に、俺の思考は一瞬止まってしまう。
そんな俺の様子に気づいたレンさんは、肩を叩きながら言う。
「……成る程。アイツの目的は、バンのスキルだったって事だな」
「そう、みたいですね……。俺としては、ずっと不思議に思ってたことがようやく解消できたのは有難いんでけど……でもまだ死ぬわけにはいかないし、全力で抵抗してやりますよ!」
正直言うと、殺した後にどうやってスキルを奪うのかはわからない。
だけど俺のスキルを奪えば、ララに魔力を供給できるのは間違いないだろう……だけどそれは、誰かを犠牲にして魔力を吸い続けると言っているようなものである。
そんなの根本的な解決にならないのに、そんな事で俺の命を渡してたまるものか!
こうしてモヤモヤした気持ちを抱いたまま、俺たちの戦いは始まったのだった。
くそ、おかしいだろ……!
当初より確かに人数は少なくなってしまったけれど、2対1である以上はコチラが有利になるものだと思っていた。
しかし俺とレンさんは今、かなり苦戦をしいられている。
そもそも、ユリウスはランク10の人類最強の男と言われる人物である。
一応レンさんだってランク9の強者ではあるが、基本的には魔法と槍を組み合わせて使う戦い方をしている為、魔法が効かないこの男には物理攻撃をしかけるしかなかったのだ。
しかし戦いの中で得たものもあった。
効かないとわかっていながらも何度も『プロテクト・ゾーン』を張り続けた結果、ユリウスが結界に触れる瞬間、一瞬だけ動きを鈍らせる事が出来ると判明したのだ。
それにいち早く気がついたレンさんは俺に合図をおくる。
どうやらレンさんはユリウスの隙が一瞬出来たところに、物理攻撃をするから上手く合わせろと言っているようだった。
しかし、奴が得意とするのは物理攻撃だけではない。呪いの他にも、天術、気孔術というのかわからないが、他の術を多用し攻撃してくるせいで先が読めないのだ。
俺たちは完全に、奴のペースに翻弄されていた。
しかしこの部屋に妹がいるからなのか、ユリウスはあまり大規模な技を仕掛けてはこなかった。
何よりユリウスは俺を集中して狙う為、俺が囮になりつつレンさんが攻撃すると言うのを先程からずっと繰り返していた。
後はどちらの体力が持つかの勝負になる。そう思われた時、その均衡が崩れた。
俺がユリウスの気孔術に吹き飛ばされ、一瞬意識を失ってしまったのだ。
本当に一瞬だったためにすぐに起き上がれたのだが、それに動揺したレンさんがユリウスの攻撃を正面から受けてしまう。
「くっ!」
「レンさん!!」
「ははっ! どうだい、麻痺の味は?」
どうやら今の攻撃には麻痺の効果があったのか、上手く体が動かないレンさんは片膝をつき、麻痺を解こうと足掻いている。
「ふぅ……ようやく邪魔者はいなくなった。これで一対一、もう君の勝ち目はゼロかな。楽に死なせてあげるから、大人しく降参しなよ?」
「そう言われて、大人しく首を差し出す奴がいるかよ!」
起き上がった俺は、ユリウスの攻撃範囲から少し離れ、奴の速度を落とす為に『プロテクト・ゾーン』を何重にも重ねて展開していく。
例え無駄だと言われようが、俺はまだ諦めていなかった。
だって今、皆も同じように戦っている筈なのに俺が諦めたら、ここまで来た意味がないだろ……。
そう思いながら俺はコートの裏ポケットに手を突っ込み、セシノから渡された物を大量に取り出したのだった。
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