転生マオウは秘密を見透す

アオノクロ

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第2話「マオウ志望は盗賊に捕まる」

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「おい起きろ」
「……ん?」
 男の声で起こされた俺は森の中で倒れていた。あたりを見渡すと揺らぐ草木、暖かい木漏れ日、そして俺を取り囲む武装している男だらけの集団。
 剣や槍を持ち、ゲームの中でしか見たことのないまるで盗賊のような、いや見た目は盗賊そのものだが、まだそうじゃない可能性が残っているはず。
「おい何もんだテメェ、見慣れねぇ格好しやがってよぉ」
「貴族か、なら金持ってんだろおい」
 可能性など何もなかったかと言わんばかりの言動。
 さっきまで美人と部屋で二人きりでいたのに、今では屋外で野郎どもに囲まれると言う落差がひどい。
 是非とも夢であってほしい。
「スカしてんじゃねぇぞおい!」
「いて」
 槍の石突で小突かれた痛みが夢ではないことを教えてくる。せっかく異世界に来たと言うのに、特別理想があったわけじゃないけどこれは違う。
 せめて普通の町で目覚めたかった。
「あー、そのごめんなさい。ちょっと待ってください」
 さすがに寝たままだと何もできないので立ち上がろうとするが、平衡感覚が狂ったようにふらつき、座り込んでしまう。
 どうも寝起きのように頭がはっきりしない。
「何してやがる、さっさと立て!」
 こっちの都合など知ったことではないと言わんばかりに容赦無く立たせようとするが、まだ目がまわった時のように足元がはっきりしない。
「どうしたお前ら」
「頭領、それが変なガキがいまして」
 そんな俺の様子を見ていた盗賊の後ろから、別の盗賊が現れた。
 一目で分かる他の盗賊と違う雰囲気、会話から察するまでもなくこいつがこの盗賊団の頭領だと分かる。
 盗賊の中でも一際でかい身体に鎖を巻き付け、一際ハゲている頭が太陽の光を反射して眩しい。
 ……盗賊はハゲが頭領になる規則でもあるのか?
「偶然であってそんな規則はありません」
「アイ? いたのか」
 眼だけの相棒は思いの外近くにいたらしい。うっかり逸れたかと思ったので少し安堵した。
「はい、ちなみにふらつきは世界転移の影響ですね。この世界の言語などを脳が処理したのが原因ですが、すぐに治りますよ」
「お、確かに。頭がはっきりしてきた」
 アイの言うとおり、徐々にそして、モヤが晴れたようにはっきりとしてきた頭で改めて周りを見る。移転してきたばかりの未知の世界で武装した盗賊に囲まれている。
 まずい。
 いや、考える必要もなくまずい。
 さっきまでは男どもに囲まれてむさ苦しい、とか呑気に考えていたが、そんなことがどうでもよくなる程に、命の危機的な意味でまずい。
「……アイは戦闘手段とか」
 一縷の希望にかけて相棒に聞いてみる。
 アイはただの眼じゃない、魔眼だからさっき聞いた以外にも能力が、こう眼からビームを放つとか。
「できません」
 言い澱む事もなく、あっさり否定された。
 まぁ、さっき聞いたばかりだし、異世界に来ることで新たな力に目覚めるとか、そんな都合の良いこと無いよな。
「何ひとりでぶつぶつと言ってんだ」
 アイに気を取られて気がつかなかったが、すぐ目の前に頭領が立っていた。
 さっきまではハゲにしか目がいかなかったが、それは今もか、現実逃避も兼ねた状況整理をすると。
 盗賊達は見上げるほどでかい身体の頭領をはじめ、数と武器それに数人の仲間。
 対するこちらは武器も無い一般人がひとりに、戦えない目玉が一つ。これだけの圧倒的な差を前に対策など考えるまでも無く。
 取れる行動はたった一つだ。
 俺は覚悟を決めて頭領の前に立つと……!
「金も何もないです、見逃してください」
 両手を上げて降参した。
 みっともないと言われても、何もできないのでしょうがない。勇気を振り絞って立ち向かえ?
 それが成功するのは物語の中だけです。痛いのは嫌だし、死にたくない。
「潔いのは良いと思います」
 ほらアイも賛同してくれる。
 プライド?
 生まれた時に置いてきたよ、命あっての物種だ。
「ほら剥ぐほど身包みも無いですし。俺みたいな小物、ほっとくのが吉ですよ」
 襲ったところで何の利点もないことをアピール。見逃される一点にかけるしかできない。
「ふーむ、言われてみればそうだな」
 正直に話したのが良かったのか、頭領の反応は良い。このまま言い逃れることができれば何とか。
「しかし、身分も武器も無いガキ。それでも俺たちには金になる。こいつみたいにな」
 頭領が後ろを振り向く。つられて見ると、俺と同じく盗賊に囲まれ、角の生えた長い紅色の髪を持つ女性がいた。
 俺と違うのは鎖に繋がれた手枷を嵌められていること。
「えーっと、そちらは?」
 少し引きつった笑顔で頭領に話しかける。
「良いだろ、魔族の女だ。見た目も良いしな、こいつは高値で売れるぞ」
 笑みを浮かべながら答えてくれる頭領。
 引きつった笑顔が崩れないよう頭を回す。
 盗賊、女、高値、これらから導き出される答え。
 それはつまり、
「奴隷売買……?」
 いやー、口に出したけどまさかそんなファンタジーの暗い部分にいきなり直面することなんてそうそうあるわけが、
「理解が早いな」
 あったよ、コンチクショウ。
 思わず乾いた笑いがでた。
 それにつられたのか、笑いだす頭領。何が面白いのかもわからないまま、次第に大声で笑い合う俺と頭領。
 このまま友好関係を築き上げることができれば、逃してくれるなんて希望も、
「大人しく捕まれば乱暴はしねぇよ?」
 はい、消えた。
「おっす」
 何もできない俺は素直に手枷を受け入れた。人間どの世界でも素直が一番。

「さってさて、どうしようかアイ」
 俺に手枷を付けた後、盗賊は休憩を始めた。
 盗賊達から少し離れた場所で魔族の女性と一緒に座っていた俺は、アイに小さな声で話しかける。
「情報収集をしてから検討することを勧めます」
 なるほど。
 逃げるにせよ、戦うにせよ、情報を集めないと何をするかも考えることはできない。
 もし俺がこそこそと動けば盗賊達は怪しむだろうが、幸いこっちにはアイがいる。
 主である俺が許可を出さなければ他人に見えず、情報を集めることができるアイなら今にうってつけだ。
「よし、早速頼んだぞアイ」
「了解です」
 俺の頼みに返事をすると、アイは盗賊達の方へ向かって飛んでいった。
 これで情報は集められるが、アイが帰ってくるまで俺はどうしようか。
 いつ帰ってきてもいいように気を抜くわけにも行かないが、手錠は外せないし、行動は起こせない。そうなると、計画を立てるくらいしかできないか。
「あの、すいません」
「え? はい」
 頭の中でこれからの計画を考えていると、隣から声をかけられた。
 声のする方を見ると、俺と同じように繋がれた赤髪の女性がこちらを向いている。
「お互い災難ですね、こんなことになってしまって」
「まったくですね」
 悲観したようすの女性を慰めも含めて返事をする。
 さっきは余裕がなかったので分からなかったが、よく見ると女神にも負けず劣らずの美人だ。
 自分の感性で区別すると、女神が万人に愛されるなら、この人は世界中を虜にするような美人。
 さっきの頭領が言うには魔族、らしいが、詳しく知らない俺からすれば美人というだけで世界の価値だ。
 ……これ売る側の考えじゃね?
 いや違う、俺は盗賊みたいに人攫いなどしない。
 正面から正々堂々と口説く。
「あなたみたいに綺麗な人と出会えるなら、もっと良い場所があったでしょうに」
 そう、豪華なホテルの一室とか。ほんの少し前にいたけど美人もセットで最高でした。
 さあ、褒められて喜ばない人はまずいない。手始めのジャブ、どんな反応が返ってくるのか。
「そ、そうですか。綺麗だなんて」
 褒められ慣れていないのか、少し頬を染める。ベタと言えばベタだが、照れる美人。
 とても好きです。
「あの、名前、聞いても良いですか」
「正樹と言います。清く正しい樹木と書いて正樹です」
 あくまで自然に、格好をつけずに丁寧で誠実な点をアピール。ガツガツと攻めるのはバカのやる事。
 頭の良い俺は計算して口説く。
「はい?」
 その計算も残念ながら彼女には伝わらなかった。漢字の文化がないのか、彼女が知らないのか。
 それは分からない。
「私はイリスと言います。ちょっと用事があって一人でいたんですけど運悪く捕まって、ダメですね私」
 俯くイリス、さん。いくつなんだろう? 会話をするための要素として知っておきたいが、女性に歳を聞くのは失礼すぎる。異世界だとしても、このルールは適用されているだろう。
「アイなら分かりますよ」
「うお!?」
 どうしたものかと頭を悩ますと、隣から声が聞こえて思わず驚いた。声で誰なのかは分かったが。
「早いな」
 思っていた以上に短時間で情報収集を終えたアイがいた。どれくらいかかるのか知らなかったが、もしかしなくてもかなり有能じゃないだろうか。
 ……戦闘能力はないが。
「戦えないマスターよりも有能で申し訳ありません」
「おい、喧嘩売ってるよな。いいぜ、主として使い魔のしつけはしないとな」
 さりげなく心を読む能力を使ったアイと睨み合う。
 盗賊? 情報? そんなもの知ったことじゃない。
 今やるべきことは目の前のこいつを……、
「あの? さっきからどこに話しかけてるんですか?」
「はっ」
 イリスさんの言葉で我に返る。
 冷静に動かないといけないのにうっかりアイの挑発に乗ってしまった。
「すいません、イリスさん」
「いえ……、それよりどうしたんですか? 謝られる理由も分からないのですが」
 そういや、イリスさんにはアイの姿が見えないのか。
 動くなら見えたほうが協力できる、か。
 …………。
「アイ」
 少し考えてから、俺はイリスさんに姿を見せるように合図する。
「良いのですかマスター」
「協力しないと、できるものもできないだろ」
 反対する雰囲気はないものの、本当にいいのかと念押しして確認するアイ。
「何かあればその時だ、それにお前もいるしな。どうにかできるだろ」
「……分かりました」
 俺が意見を変える気がないことが伝わったのか、アイの模様が点滅する。
「マサキさん? え?」
 アイの点滅が終わると同時に、これまでずっと俺を見ていたイリスさんは視線を俺の横にずらした。
「初めまして、マスターの使い魔。アイと言います」
「あ、はい。イリスです。どうも」
 宙に浮かぶ目玉を見ても驚かず、挨拶を返す。肝の座った人だ。……魔族って人? 種族的に肝の据わった魔族?
 最近は出身だの呼び方だのが、細かく言われているから気にしないといけない。
 この世界にあるのか知らないが。
「アイさん……って、もしかして全てを見透かす魔眼じゃ? それを使い魔にするなんて」
 イリスさんがアイを見てすごく驚いている。
 あれ? アイってただの有能な使い魔じゃないのか?
「私はマスターの使い魔アイ、それ以上でもそれ以下でも、それ以外でもありません」
「らしいです」
 やっぱ違うわ。
「えぇ!? イヤイヤ! 本物なら伝承に載るくらいの超常幻物ですよ! その力を使えば世界の謎も神の心も見透すことができるって」
 俺とアイの言葉に首を振って否定しながら、まくし立てるイリスさん。えー……、アイってこの世界じゃそんなに有名なのか。少しミスったかな。
 あー、この辺りの情報もないから辛い。
 イリスさんの話を半分くらい聞き流しながら今後について考える。
 この時、俺はアイも戻ってきたこともあり、多少気が緩んでいた。そのため近づく影に気付くことができなかった。
「遠視も代表的な能力ですよね」
「ほう、他には?」
「例えば……、あっ……」
 イリスさんは流れで返事をしようとしたが、聞いた相手は俺ではない。
 俺たちが顔を上げると頭領を先頭に、盗賊たちがぞろぞろと集まって俺たちを囲んでいた。
「仲間外れは寂しぃなぁ、俺たちにも何の話してるのか教えてくれよ」
 いかにもな、悪い笑みを浮かべる頭領。
 唯一の切り札がバレてしまった。
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