【R18】ユーテリアにさいわいを!

kuro-yo

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下界にて

5〜6:前世の記憶

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「(ここはきっと、前世でプレイした『ユーテリアに祝福を!』の世界に違いないわ。私、主人公に転生したって事なのかしら…。)」

 ゲームの設定では、王弟との不倫を隠したい王妃が、大賢者の弟子で聖処女のマリアンヌを騙し、胎児交換の魔道具を使って、自分が身ごもった子供を無理やりマリアンヌに産ませた。その子が、ゲームの主人公の少女、ユーテリアってわけ。

 王妃は、王宮に入る前は教会の聖処女で、聖賢女の器候補だったのに、当時王太子だった現国王のお手付きになっちゃって、それを若いマリアンヌに見抜かれて教会を破門されたのを逆恨みして、マリアンヌを傷物にしたのよね。それも最悪の方法で。

 魔道具を使った時に受けた苦痛と呪い、出産の疲労に加え、産後の肥立ちも芳しくなく、マリアンヌはユーテリアを産んで半年ほどで亡くなってしまう。

 でもユーテリアは王族の血と、王妃とマリアンヌの潜在能力を受け継いで、十数年後に聖賢女として覚醒する。

 マリアンヌ…お母さんが生きてれば、前日譚でユーテリアの継母や継父から受けていた虐待を受けずに済むと思うのよね。どうにかお母さんにはもっと長生きしてほしい。

 とにかくお母さんが受けた、魔道具の呪いを誰かに解いて欲しいんだけど、そんな事できるのは大賢者のユリナスくらいなのよね…。

 そうだわ、確か、お母さんが亡くなる少し前に、ユーテリア達と大賢者がどこかの町でニアミスしてたはず。でも、呪いのせいで大賢者はマリアンヌの存在に気付かず、町を素通りして旅を続けちゃうのよね。

 もう、どうしたらいいのかしら…。

 何をおいてもまず、今がいつでどういう時期なのかを確かめなきゃならない。

 この世界にはカレンダーやら時計やらといった高級品は庶民に普及していない。ではどうするかといえば、夜空の月を見る。この世界の月は前世の月と違い、満ち欠けがない。代わりに、色と模様がころころと変わる。これが庶民にとってはカレンダー代わりなのだ。

 確か設定では、供を二名か三名連れた大賢者が、夜中に中継地の町に到着するんだけど、それが「邪の月」と呼ばれる月が出る前の日だったはず。邪の月が出る日は外出しないのがこの世界のならわしで、邪の月が消えるまで町に逗留しようと供の者は言う。だけど大賢者は、先を急ぎたいからと言って、すぐに町を出発する。この時、町を出た先の街道から少し離れた所に、ユーテリア達がいる寒村があるんだよね。

 アディアナ様は私を誕生間も無い時期に転生させるっておっしゃっていたけど、前世の記憶が戻るまでにどうも半年近く経っているようだ。私は少し前につかまり立ちできるようになった程度で、赤ん坊の成長としては順調なのだろうが、心もとない。
 もっとも、前世の記憶を取り戻す前の私も、どちらかというと引っ込み思案で大人しい性格だったらしく、あまり手のかからない子供のようだ。これはゲームのユーテリアの性格に通ずる物があるわ。

 赤ん坊のための柵のついた寝台に寝かしつけられていた私は、隣の寝台にいるお母さんの方を見た。ちょうどお母さんは体を起こして、ディック伯父さんに体を拭いてもらっているところだった。寝巻きの上半身をはだけ、自分では拭きにくい背中を拭いてもらっているところだった。と思ったら、続けて腕や首筋、乳房、腹部と拭いていき、寝間着を羽織り直したと思ったら今度は下半身も、足、ふくらはぎ、ふともも、と丁寧に拭って、最後は鼠蹊部、陰部、と…いやいやいや、いくら兄妹仲が良かったとしても、そこまでする!?見ているこっちが、

「あうあうあう(恥ずかしいよ!)」

「テリア!起きてたのか!?何でこっちをじっと見てるんだ!?恥ずかしいだろ!?」

「…兄さん、テリアはまだ赤ん坊よ。」

 そう小声で呟くお母さんも、赤い顔で恥ずかしそうに俯いている。

 それにしても、なんとなく生まれた頃の記憶を辿ってみても、お母さんは今ほどやつれてはいなかった。
 乳房はもっとふくよかでみずみずしさも張りもあったのに、いまは年寄りのように垂れ下がり、上半身にはあばらが浮き出ている。力強く見えていた腕や足も、それが今ではまるで枯れ枝のようだ。きっとお母さんはもう長くはないのだろう…。

 私は柵につかまり、ディックの方に両手を広げて、のアピールをする。

「あうあう(だっこ!)」

「ん、だっこか?よしよし。」

 よし成功だ。次は窓の方を指差して、そっちに誘導してもらう。

「ん?そっちに行きたいのか?」

「あう」

 ディックにだっこされた私を、お母さんが微笑ましげに見ている。

 外はすでに月が上り始めていた。見れば放射状の何本かの直線的模様に、二つの同心円の影がうっすらと見えている。

 こ、これは…

「あうあうあうあうー!(邪の月って明日じゃん!)」

 私が月を指差して絶叫したのに驚いて、ディックは私を優しくあやし始めた。

「おうおうよしよし、怖くない怖くない。家の中にいれば邪の月は怖くないよ。赤ん坊でも邪の月の事がわかるのかな?」

 しかしよりによって、大賢者とニアミスするのは今晩か…時間ぎりぎりじゃないですか、アディアナ様!




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