地方公務員のおっさん、異世界へ出張する?

白眉

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第三章

3-5 パワハラという言葉は存在しません

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 今ギルドに来ている。
ギルドから報告があるからと言って、何故か俺が呼ばれることとなった。

ギルドの入り口で、“風の砦”のコックスさんと会う。

「イッさん、あんたも呼ばれたのですか。」
「あぁ、そうみたいだよ。」
「これからダンジョンの情報について報告をするから、イッさんの意見も聞かせてほしい。」
「まぁ、良いけど、自分“薬草おっさん”だよ。」
「それでも、いろいろな意見があった方がいいからな。」

 俺はコックスさんたちと冒険者ギルドの会議室に入った。
 しばらくして少し身なりの良い人物が2名入室した。
うわ!お局様も一緒じゃん。

「皆、集まってもらってすまない。」

 第一声はこの副ギルド長のクーパーさん。初めてお会いします。
齢は40にもいってないくらいの気丈夫で、まだまだ現役で活躍できそうな人だ。

この会議室には、Bクラス、Cクラス、Dクラスから2パーティーが呼ばれている。
俺もDクラスのパーティーの一つという事で呼ばれているようだ。
が、俺は“薬草おっさん”と呼ばれる薬草採取専門の冒険者だ。他のパーティーとは全然違う。

 ディートリヒは俺の側に陣取っている。
“寄らば切る”的なオーラを出しっ放しだよ…。ディーさん、もう少し穏便に行こうね。

「まぁ、初めての人もいると思うので、簡単に自己紹介をお願いしたい。」

 お、なんか合コンみたいだな。なんて思いつつも、各自、自己紹介を始める。

Bクラスからは、“炎戟”と“龍燐”、Cクラスからは、“獅子槍”と“風の砦”、Dクラスは“パッキャオと愉快な仲間たち”と俺。
おいおい、Dクラスのパッキャオさん、すごいパーティー名だ。

「ニノマエさんはパーティー名を決めていないのか?」

 パッキャオさんに尋ねられた。
え?パーティー名って決めなきゃいけなかった?

 少し焦るも、パーティー名はいつでも決めることができる訳なので、まだ決めてないって事でいいか。
俺はギルド内では“薬草おっさん”として名が通っているし、ムードメーカーだから、まぁ、捻りながら皆がクスっと笑えるようなパーティー名でも考えよう…。

「えぇ、まだ駆け出しですからね。」
「でも、薬草採取の回数だけでDランクまで上り詰めた男って有名だぞ。」
「まぁ、嘘ではありませんね。」
「しかし、あんたすげえよな。あんな依頼を50回やってるなんて。」
「いえ50回ではなく、今では88回ですよ。」
「げ!俺にはできねぇわ。ははは。」

 よし!薬草採取の回数で、ムードメーカーとして動けたし、俺の立ち位置も決まったな。

「それで、皆に集まってもらったのは、北西にあるダンジョンの事だ。
 “風の砦”から報告があるから、皆聞いてほしい。」
「では、風の砦を代表して、俺から報告させてもらう。」

 お、コックスさん、凛々しくて格好いい!
と、茶化してはいけないので、静かに聞くことにする。

 報告の内容は、
 ・ダンジョン内の魔物が活性化している。
 ・階層すべてを調査した訳ではないが、各階層には普段の2倍以上の魔物がいる。
 ・低階層であっても、高位ランクの魔物も確認できた。
 ・ダンジョン付近でも、既に低ランクの魔物が徘徊している。
 ・ゴブリン、オークの集落も発見。おそらく上位ランクのゴブリン、オークが統括している模様。

 なんだか、完全に危機事案、即ちスタンピードではなかろうか…。
そんな事を思いながら、急にコックスさんに振られる。

「ダンジョン付近の状況は、ここに居るニノマエさんが良く知っている。彼は薬草採取であちこち歩いているので、あの辺りのことも知っているはずだ。じゃぁ、イッ…ニノマエさん、お願いします。」

 え?いきなり振られた…。どうしよう…、なんも準備してこなかった…。
とは言え、あの辺りの状況を説明すればいいんだから、順を追って話をすることにした。

「自分は、街から森、そして山の麓までの薬草採取をしていますが、10日前くらいから麓にいる魔物を倒すと素材がドロップされるようになりました。
 そして日を追うごとに、素材をドロップする魔物が街に近づいて来ていると感じています。
 その証拠に、昨日素材をドロップした魔物を倒したのが森の中ほどより街に近い方でした。」

 時系列的に分かりやすい説明に心がけた。
 皆、少し考えてから意見を言い始める。

「ダンジョンから溢れた魔物が街に近づいていると見るか、たまたまと見るか。」
「ゴブリンとオークの集落が発見されたことと何か関係があるのでは。」
「偶々という事ではないのか。」
「森全体を把握している者からの情報を聞きたいが。」
「そんな奴おらんぞ。」

 各々自分の考えを言うが、これを誰がまとめるんだろう…。クーパーさんかな?
それと、皆“スタンピード”というある意味“言霊”となるようなワードを発していない。

そう思いながら、周りを見渡すと、皆腕を組み下を見つめている。
あ、このパターン、“誰かの意見を待ってる”オーラだよな。完全に日和見状態になっている。
これは、最悪、真逆な方針に進む可能性もあるぞ。
誰も何も考えが無いわけではない。しかし、自分の意見を通しても、それが間違っていれば、責任を取らされる。皆、その責任を取りたくない。だから、何も言わない。
俺は、そんな経験を何度もしてきた。
何度も真逆な方針に進み、間違った事を誰も認めない。そのうち、惰性で動き誰も指摘しなくなる…、まさに絵に描いたような非効率だ。

「あの、ひとつよろしいでしょうか。」

 俺は、おずおずと手を挙げる。

「どうした?ニノマエさん、何かあるのか?」

 クーパーさんが少しにらみながらこちらを向く。
クーパーさん…、顔が怖いので、睨まないでください…。

「自分は新参者で、この街のことはあまり知りません。『そんな奴に何が分かるのか!』と言われることを覚悟で言いますが、まず、皆さん、様々な憶測があると思います。
しかし、憶測でモノを進めていくことはできませんし、人員を割くようなこともできないと思いますので、先ずはゴブリンとオークの集落を早々に潰し、その集落の影響が森と山の麓にあるのかを調査していくのが最善だと思います。
 集落と森、麓の魔物の数は減らせるわけですので。
それと、最悪の事態を想定し、関係者にも情報共有しておくことが良いと思います。」
 
「えーと、ニノマエさん…。ひとつ質問するんだが、その依頼は誰がするんだ?
俺たちは冒険者だ。依頼があって初めて討伐を行うんだぜ。」
「それは、ギルドが依頼することで、対応が可能であると思いますよ。」

「やはり、新参者がでしゃばるのはいかんな。」

 お、今まで黙り込んでいた初老のおっさんが口を開いたぞ。この人は誰だろう?

「ギルドがそんな世迷言に依頼を出すなんぞ聞いたことがないわ!
そんなことをしたら、冒険者ギルドの信用に関わる。
ニノマエとか言ったな。薬草を70回か80回か知らんが、そんな陳腐な依頼を受けランクを上げた奴がデカい口を叩くな。」

 いえ、88回です…。

「あの人がこの冒険者ギルドの長であるベーカーです。」

 横でディートリヒが小声で教えてくれる。
ここで黙ってしまえば、ギルドの圧力に負けたと映ってしまうので、もう少しだけ反論しておこうか。

「確かに世迷言かもしれませんね。しかし、最悪という事態に備えて準備しておくことも必要だとは思いますよ。」
「そんな最悪な事態なぞ、この街では有史以来起きてはおらん。そのような事を考えるだけ無駄だ。
 さっきも言ったが、お前のような新参者に言われる筋合いはない。誰だこいつを呼んだのは!」
「別に好き好んで来ている訳ではありませんよ。ギルドから来てほしいと言われたので来ただけです。それとも、その依頼を長であるあなたが知らなかったのですか?」
「ええい、黙れ!お前のようにギルドに文句言う奴は、俺の街で活動する冒険者として失格だ。冒険者の身分を剥奪しても構わんぞ。」
「別に冒険者として保証されているとは思っていませんので構いませんよ。しかし、その文言はギルドを預かる長として職権乱用になりますね。パワハラになりますよ。」

「煩い煩い、ええい、もう良い!パワハラかハラハラかは知らんが、俺の意見を聞かん奴はここに居る資格はない。即刻この場から出ていけ。」
「はいはい。分かりました。ただし、今、あなたが話した内容はすべて記録して関係機関にはお伝えしてくださいね。ま、どうせ今日の会合も無かったとして扱われるんでしょうが。」

「煩い!出ていけ!」

 俺は会議室を追い出された。
ギルド長の横でお局様が嘲るような笑みで俺を見ていた。
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