地方公務員のおっさん、異世界へ出張する?

白眉

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第五章

5-26 渡り人の使命

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 さて、この郷の方向性も決まったことなので、今晩は大宴会を開くことになった。
 俺はデカいサーペントの肉と砂糖、塩、胡椒とソース、マヨネーゼを提供し、郷はここで採れる野菜とキノコ類を提供してもらう。

 サーペントの肉は焼いてみるとウナギのようなほっこりとしたものだ。
俺は壺を一つ借り、その中に砂糖、酒、味噌を加えていく。
後はここで採れる秘伝のスパイスは無いかと聞けば、持ってきたのが鼻につーんとくる香辛料のようなスパイスだった。

 これらを煮立て、そして熟成魔法をかけえると、なんちゃってタレの完成だ。
ウナギのかば焼きのタレには程遠いが、このタレに風味を加え肉のエキスを追加していけば、いつかは“秘伝のタレ”となるだろう。

 俺とナズナとで土魔法でU字溝を3mほど作り、そこに炭をおこす。
串をつくってもらい、そこにサーペントの肉を刺し、かば焼きにしていく。
皮が焼ける匂いがし始める。
そして表面が焼けたら壺に集めたタレにつけ、もう一度焼く。

 はい。最終兵器完成!
郷のエルフさんたち、それにヤハネのみんな、シーラさんまでもが涎が出ています。
この匂いは暴力を通り越して、リーサルウェポンなんだよ。
丑の日はうなぎ屋の半径1mは紛争地帯になるから…。
もう匂いだけでご飯いける!

 もっと匂いをかがせるために、俺とディートリヒ、ナズナの3人で葉っぱで仰ぎながら焼く。
そりゃ、みんなイチコロですよ。

「ニノマエ殿、こんな美味しい料理は見たことも食べたこともありません。」
「イチよ、やはり主は料理人だったのかの?」
「ニノマエ様~やはり一家に一人…。」

 なんか変な言葉も入ってはいるが、まぁ気にせず焼いていきましょう。

「カズ様、私たちはまだ食べないのですか?」
「お館様、お腹がすきました。」
「君たち、俺たちはさらに上に行く美味しいものを食うんだよ。それまでお腹を空かせていよう。」

 そう、壺に入れたタレはつければつけるほど旨味が増す。
 郷で作ってくれたスープの中に入っている薬草やスパイスなど、美味しいと思ったものを壺の中に入れて味を変えていく。そして、ウナギ、もといサーペントにつけてかば焼きにする。

 徐々にリーサルウェポンが戦略兵器に変化しつつある。
もう少しだ!“秘伝のタレ”とするためにも踏ん張らねば…。

「さて、そろそろ良いと思うぞ。」

 俺は2人を見る。
ようやく食事にありつけるのだ。さぞかし美味しいかば焼きだろう。

ん?二人の口元にタレが付いているぞ…。
もしかして…、つまみ食いしてた?

「なぁ、お二人さん…、もしかして…。」
「しゅみましぇん…モグモグ。匂いに負けました……。」
「申し訳ありません…。ヒト串だけでもと思い…。」
「あ、まぁこの匂いだもんな…。負けて当然か…。」

 俺も諦めてヒト串食べる。
うん。美味い!タレはそんなことはないが、それでも美味い。

「これは美味いな。」
「はい。街に戻っても食べましょう。」
「でも、この匂いを充満させると、周囲から“匂いの暴力”だと訴えられる事になるけど…。」
「そうですね…。この匂いは暴力ですね。
では琥珀亭で焼いてもらいましょうか。」
「それが一番だが、この肉の出所を聞かれるとマズいな…。」
「カズ様、ではサーペントの肉と称して食べては…。」
「それだと嘘になる…。
うん!諦めよう!」
「えーーー(えーー)。」
「別にここに来れば食べれることができるよね。
 だったら、この地をサーペント肉が唯一食べることができる場所にすればいいんじゃない?
 ただ、数量限定だけどね。」

 まぁ、サーペントのかば焼きは残り数百キロだから無理だろうけどね。

 それなら、この地で食べてもらう事でいいと思っている。
それに、コカトリスとの関係にも使えば良いと思う。

「まぁ、食材なんて獲れる所で食べるのが一番だよ。
いろんなところに行って、その土地で採れたおいしいモノを食べる。
それでいいんじゃないか?」
「そうですね(はい)。」

サーペントの肉はそれでいい。
後は鱗だけど、どうするか…。レルネさんに相談しようか。

 まだ宴が続いている中、さっきまで居たレルネさんを探す。
俺はレルネさんが居る場所を教えてもらう。
彼女は、長老の家に居るようだ。

「レルネ様、いらっしゃいますか。」

 しばらくしてレルネさんがドアを開けた。

「入って良いぞ。と言ってもベルタの家だがの。」
「では、お邪魔いたします。」

 俺たちは長老の家に入り、ソファのある部屋に通される。

「イチよ。今回の件、すまなかった。それに主にいろいろと教えられた事、感謝する。」
「あ、すみませんでした。結構、俺怒ってましたか?」
「うぬ。あそこまで言われたのは、前の“渡り人”以来じゃ。」
「じゃぁ、そのヒトもレルネさんの事を真剣に考えていたんですね。」
「そうじゃの。じゃから儂は奴に恋をしたんじゃと思う。」
「そうだったんですか…。それはいろいろと言ってしまってすみませんでした。」
「なに、すべて当たっておるからの。好きな事に没頭し、すぐどこかに行ってしまう。
 そんな奴でも儂の前では屈託のない笑顔で『ただいま』と言ってくれる。
そんな奴に恋をしていたんじゃの。
主を見ていると、奴を思い出す。」
「それだけ好きだったんですね。」
「儂の片思いよ。それでも良き思い出であった。」
「その思い出を良きものにしてください。
 それに、レルネさんはまだまだ青春していますよ。
 その青春に俺たちが居れば良いですね。」

 レルネさんは寂しく笑う。
思い出には良いものも悪いものもある。彼との出会いは数百年前ではあるが鮮明に残っているという事は、それだけ充実した日々だったんだろう。
しっかりと前の“迷い人”もとい、“渡り人”は仕事をしていたんだな…。

「俺も、そんな“渡り人”になれればいいな、って思います。」
「主は既にディートリヒ、ナズナだけでなく、この郷の民も救ってくれた。
 さらに、魔獣との共存というとんでもない事をやってのけたのじゃ。
 主は良い“渡り人”になれると思うぞ。」
「そうですかね。でも、まだまだですよ。
 俺はレルネさんも笑顔で過ごせるようになってほしいですからね。」

 彼はレルネさんに次の代へと繋げるものを託した。
それが防具であり、“渡り人”用の武器であった。
そんな凄いものを俺も残せるのか分からないが、何かを残していきたい。

「レルネさん、お願いがあります。」
「なんじゃ。」
「あのエンペラー・サーペントの鱗をすべてレルネさんに託します。
 それで、俺たちに凄い防具を作ってください。
 それと、あの鱗で女性のための髪留めやアクセサリーを作ってください。
俺は…、何というか、武器とか防具には詳しくないので、次のヒトに託すことはできないけど、レルネさんや、ディートリヒ、ナズナのように美しい女性がより美しくなるものを作り、それを伝えたいと思います。」
「イチよ。主は前の“渡り人”を知っておるのか?」

 レルネさんが涙ぐんでいる。

「いえ、全然知りません。
 でも、前の“渡り人”や俺がする事は何か、と考えれば自然と分かる事です。
 俺たちの役目は、次の代へ繋げる、何かを託すという事だと思います。
 それが何かは、それぞれの“渡り人”によって違います。
 でも、それを託せるヒト、それがレルネさんであり、ナズナであると思っています。
 悠久の時を生き伝承し、俺たちの存在を伝えてほしい。
 それが、彼の思いだったんですね。」
「そうかも知れぬ…。しかし、残された方は悲しいものじゃ。のう、ナズナ。」
「いえ、悲しいのではありません。レルネ様もすでにお感じになっておられると思います。
 レルネ様はその方の事をお話する時は、それはそれは笑顔になられておりますよ。」

 ナズナがゆっくりと微笑んだ。

「そうじゃの。楽しかったの。」
「であれば、俺たちの事も覚えていてください。
とんでもない魔法を放つ奴がいたとか、齢も関係なく立場も関係なくただ単に真正直に突っ込んでいくバカな“渡り人”も居たと笑ってやってください。」
「そう早う逝くなよ。」
「逝きませんよ。まだまだやりたいことは沢山ありますからね。
 それに、レルネさんも俺たちと一緒に笑っていきましょう。」
「それはプロポーズと取ってよいのか?」
「あ、そういうのではないです。
 だって、レルネさんの心には既に前の“渡り人”じゃなかった、“迷い人”さんが居ますからね。」
「主は本当に面白い奴じゃの。
 よし!分かった。その話に乗ってやるわ!せいぜい儂に貢げ!良いモノを作ってやるぞ。格安での。」

 やっぱ、金取るのかよ。どこまでも強欲な女性だ。
でもレルネさんも笑顔になってくれた。
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