地方公務員のおっさん、異世界へ出張する?

白眉

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第八章

8-4 ほろ苦い再開

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「到着しました。」
「あぁ、ありがとう。」
「厨房の方へは裏門からが近いのでそちらから入りましょう。」

 まぁ、正門だろうと裏門だろうとどっちでもいい。
少し、貴族というものに猜疑心が芽生えている。少し語気を強めてしまう。

「ここが厨房です。ここにある食材は自由に使ってください。」
「分かった。後、料理ができるまで執事さんやメイドさんが、この厨房に入れさせないで欲しい。
もし、入って来た者がいれば、そいつは自分の敵とみなすから。」
「そんな仰々しくお構えになられると困ります。」
「それは、メリアドール様の出方次第だ。」
「分かりました。では、そのようにいたします。」

 ブライアンさんは厨房を出ていった。
さて、ここから少し、心に引っ掛かっているものをすっきりさせよう。
食材をすべて鑑定し始めた。
別に疑う必要もないのだが、ザックさんの館のメイドさんの件もある。

 すべて鑑定し、毒が入っていないことを確認できた。
だが、ジャガイモもどきは既に皮が気緑色や緑色になっているが、皮と芽さえ食わなければ大丈夫か。
あとは処方されている薬があれば鑑定はしておきたい。

「カズよ、何をしておるのじゃ。」

うわ、びっくりした!
40㎝くらい飛んだぞ。
声のする方を見ると、メリアドールさんが立っている。

「あ、メリアドール様…。」
「なんじゃ、久しく会っておらんからそんなつれない顔なのかえ?」
「いえ、お久しぶりです。」
「じゃの。」
「ここは入る事は厳禁とブライアンさんにお願いしておりましたが…。」
「雇っておる者はな。しかし妾は入っておらなんだ。故に入って来た訳じゃ。」
「まぁ、詭弁でもありますが、問題はないでしょう。」
「どうしたのじゃ?再会が嬉しくはないのか?」
「嬉しいと言えば嬉しいですが、悲しいと言えば悲しいです。」
「ほう、それは何故じゃ。」
「理由は二つ。
 先ずは、メリアドール様の体調がすぐれない事。
 次に、貴族と言うものに猜疑心を持っている事です。」

 メリアドールはしばし考える。
俺はその間にこの部屋に音遮断魔法をかけておく。

「一つ目は分かるが、二つ目は分からぬの。」
「では、一つ目からお教えください。
 いつからご体調が芳しくないのですか。」
「それはカズと会う前からじゃ。
 体調が良かったり悪かったりするからの。」
「先月の王宮に行かれてからはどうですか?」
「なんじゃ、ブライアンの奴、全部しゃべったのか。」
「全部かどうかは分かりませんが、健康状態などを隠さず仰って頂けなければ治る病気も治りません。
 勿論、それはヴォルテス様、スティナ様にも当てはまります。」
「ふむ。そうか…。」
「で、どうなんですか?」
「何をじゃ?」
「どういった症状が出ていて、今どのような体調なのかです。」
「普段と変わらぬ…。」
「メリアドール様…。契約の事はお忘れではないですか?」
「あぁ、あの契約書だな。勿論忘れてはおらぬぞ。」
「では、詳細にお話しください。俺はメリアドール様も治せるかもしれませんので。」
「そうか、それは嬉しいの。
 しかし、呪いまでも治療して治すというのかえ?」
「この世界に呪いというものがあれば、それを実際に見てみたいです。
しかし、呪いなどといった話の半分以上は、後から背びれや尾ひれがついて大げさになったものだと思っています。
何の根拠もない話にヒトが面白おかしく、そしてあたかも実在したかのように話すこと、それが迷信や呪いといった言葉になるんだと思います。」
「そんなものかえ?」
「少なくとも俺はそう思います。それにメリアドール様の家に呪いがあるのであれば、今は無きご当主様の死は説明できなくなります。」
「そこまでブライアンの奴は喋ったのか。」
「ブライアンさんは、あなたの事を心配なさっているんです。そんな所に怒りをぶつけないでくださいよ。」
「うむ。分かった…。
 では、少し話そうかの。
 昨年から左の肩口と脇との間に“しこり”がでてきての。
そのしこりがここのところ大きくなってきよったのじゃ。そして痛みも出だした。
シェルフールでカズを別れてから、日に日に痛ぉなり、先日王都に行き医者に診てもらったところ、同じようなしこりが身体の中にあるとの事じゃった。
 このしこりは、たまに痛くなるから、薬師に頼み鎮痛剤を飲んでいる。という状況じゃの。」

 俺はびっくりした。
鑑定できるかは分からないが、おそらく乳がんだと思う。
まだ、がんと言う病気は見つかっていないのか…。
となれば、既に手遅れだという事か…。

痛みも出てきて他のへの転移もあるという事は、大分進行が進んでいるんだろう。
そして、呪いの話へと続き、メリアドール様が死に新しい命が生まれる、と。
なんだかいかにも貴族が吹聴しそうなゴシップだ。

「メリアドール様、一つ目の話は分かりました。
 では、二つ目の話です。
 ヴォルテス様もスティナ様も何故3年前の事を仰って頂けなかったのですか。」
「あれは、当家だけの秘密であったからの。
 ほんの一握りの者しか知らぬ…。そのような事をあの場所で話すわけにはいかなんだ。」
「では、治療の前にでもヒト払いして話していただいてもよかったのでは?」
「そうであったの。すまなんだ。」
「そして、今回スティナ様がご懐妊された事とこの家の呪いを理由にしてご自身がこの世から消えればすべて何もなかったと言えるのではないか…と。」
「ふふ、そこまで考えておったか。」
「しかし、そんなものは呪いではありません。
 たまたま偶然が重なっただけです。そんなことで人が死んだりするような事はありません。
という事で、契約書を行使し、アドフォード家に白金貨100枚を支払っていただきます。」
「なんじゃと。そんな金などある訳がなかろう。
 戯言を申すでない。」
「では、俺がヴォルテス様とスティナ様にかけた治癒魔法は戯言で済ませるおつもりですか。」
「そ、それは…。」
「良いですか。
自分の命を投げうってまで、ヴォルテス様とスティナ様を救おうとしている俺の姿を見て、あなたは戯言と言って済ませるおつもりですか?
それとも、ご自身の病気を呪いとして自分だけが死に、死んだ香典料でお支払いしていただけるのか、それとも死んだという理由で支払いそのものを無くすという算段をお持ちだったんですか。」
「カズ、そこまでそちは妾を侮辱するのか。」
「では、もう一度問います。
 契約書に記載のあった約束を破った際はどうなりますか。」
「は、白金貨100枚そちに払うと記載があった。」
「記載があったのではなく、それを了承されてご署名されたんです。
 契約は成立しているんですよ。」
「分かっておる。しかし、そのような金額は到底払えるわけはなかろう。」
「メリアドール様、契約というものは破った時の金額を支払うためにあるのではないのです…。
 相手を信頼する。信頼関係を構築するためのものであると俺は考えます。
 だから、貴族は市民から相手にされないのです。
 勿論、俺も市民です。貴族を信用しなくなった一人です。」
「そちはアドフォード家を侮辱するつもりか。」

 はぁ…、と俺は大きなため息をついた。

「メリアドール様、あぁ、もう面倒臭い、メリアドールさん!
あなたは最初、あなた自身を侮辱されたことに怒りを持っておられましたが、いつの間にか家のことを言われた事に怒りの矛先を変えています。
 つまり、ご自身の事はどうでも良いから、家だけは守るんだって思いになっているんです。
  
で、あなた自身はどうしたいのですか。
家を守り、そして死んでいくんですか?
王宮の医者がどれくらいの水準をもっているのかは知りませんが、多分、今の症状であれば、余命半年、いや、それよりも短いんでしょ。」
「カズはこれまでの話だけで、そこまで言い当てるのか…。
 そうじゃ…、妾の命はもって3か月じゃ…。」
「じゃぁ、それまでの間、『私は元気です!アドフォード家は大丈夫ですよ~』とか、他の貴族を牽制して、ヴォルテスさんに丸投げするんですか?
でも、既にヴォルテスさんは家督を継いでいる領主さんですよね。
領主さんにとって、うるさい上がまだ居るのってどう思いますかね。」

 返す言葉が無いんだろう…。
メリアドールは下を向き、唇をぐっと噛んでいる。

「メリアドールさん、言い過ぎました…。
 俺には貴族という恐ろしい世界は分かりません。
 でも、貴族も市民もヒトはヒトです。上下なんて本当は無いんです。
 少しだけでも自分が思うように生きていく事はいけない事でしょうか。
 お孫さんを抱いてみたくはないのですか…。」
  
 メリアドールは下を向いたまま絞るような声で言う…。

「カズ…、カズよ、少しだけでも良い。お願いだから妾に力を貸してほしい…。」
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