どんなことも乗り越えようね

m-t

文字の大きさ
4 / 22
一幕 第一章

隠しごと

しおりを挟む
 心乃と恋人になってから一週間が過ぎようとしていた。
 あの時の雨のせいで心乃は病院に入院していた。
「ごめんね。ただの風邪だったんだけど、私普通の人よりも白血球が少ないの。だから、ちょっとごじらせちゃって。毎日お見舞いに来てくれてありがとう。春人くんを見てると元気が出るんだ」
「心乃ちゃんがそう言ってくれると嬉しいよ」
 僕はそう言って、心乃のベッドの横にある椅子に深く腰掛けた。
 心乃の病室は一人部屋だった。窓から差し込む陽射しは春人の顔を赤く色づけていた。  
 病院は春人の家より、もう一駅先にあった。でも、春人は心乃の顔を見る為に毎日通った。心乃が早く退院出来るように……
「春人くん、学校どうだった? 嫌なことなかった?」
 心乃はいつも僕に同じ質問を投げかける。別に話題が無い訳ではないが、心乃は僕のことを心配していた。
 僕はいつもクラスの端の席で一人で勉強をしていた。授業中だけでなく休み時間も常に一人でいることが多かった。友達がいない訳ではないが、いつも僕の近くにあったのは窓から差し込む陽射しだけだった。
「楽しかった……かな。でも、嫌なことはなかったよ。それよりもリンゴ買ってきたんだ、食べる?」
「うん、食べる。春人くんが剥いてくれるの?」
 僕は右手に下げていた袋からリンゴを一つ心乃前に差し出して
「僕以外の誰が剥くの? 心乃ちゃんは病人なんだから安静にしとかないと。それにリンゴの皮くらい剥けるよ、ほら」
 心乃の前で皮を剥いてみせた。綺麗に剥かれた皮は、途切れることなく地面に吸い込まれていった。
「ありがとう、春人くん。ありがとう……」
 心乃は涙を流していた。頬を伝う雫が夕日に照らされ赤く光っていた。
「心乃ちゃん……どうしたの?」
「春人くん、ごめんね。お母さんにね、私たちは付き合ったらいけないって言われたの。春人くんは気づいてない振りをしてるの? それともホントに覚えてないの?」
「何のこと? それに心乃ちゃんのお母さんは何を知ってるの?」
「そっか。じゃあ、春人くんは幼い頃に私と約束したこと覚えてないんだね。でも、やっぱり私もね、春人くんと付き合うなら春人くんが全てを知って、それでも一緒に乗り越えていこうって言ってくれるなら付き合いたいな。ホントは春人くんのこと好きだからね、もうこのままの関係でもいいと思う。でも、やっぱり春人くんには私たちの関係を知った上で考えて欲しいの」
「確かに僕は何も知らないのかもしれないよ。でも、僕たちなら上手くやっていけるんじゃないかな」
「……ありがとう。でも、春人くんに言ったら、そう言ってくれるんじゃないかなって思ってたんだ。そう思う度に春人くんの優しさに胸が痛くなるんだ。だからね、そんな春人くんだからもっといい彼女ができると思う。それでも私のことを好きでいてくれるなら、全てを知って欲しいな」
 心乃の瞳は真剣だった。僕は心乃が言った、心乃との関係を全て知ることを決心した。たとえ、それが僕と心乃の恋人という関係を壊すものだとしても、僕は心乃と一緒にどんなことでも乗り越えていくことを胸に誓った。
「分かった。心乃ちゃんがそういうのなら、僕は全てを知ってくるよ。だから、心乃ちゃん……他の人を好きにならないで。それに、僕は心乃ちゃんのことしか見えてないから、僕たちの関係を知っても好きでいたいんだ」
「……春人くん。私も待ってる、春人くんをずっと。だからね、また逢いにきて……」
「うん。じゃあ、またね」
「うん」
 心乃は最後まで隠しごとをしているようにみえた。僕はそれにすぐに気づいた。でも、敢えて心乃が言うとおり、自分で心乃との関係を知りたいと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...