10 / 22
番外編
花咲夢乃④
しおりを挟む
私は夜ご飯をご馳走になった後、裕美の部屋にお邪魔した。
綺麗に整理された部屋は、縦長のテーブルを置いて、人が二人座っても空間に余裕ができるほど広さを持っていた。
「ごめんね、夢ちゃん。心ちゃんに勉強教える邪魔して」
「ううん、いいですよ。それよりも話って?」
「あのね、夢ちゃん。夢ちゃんはずっと心ちゃんのことを思って大切にしてあげてきたと思う。でも、心ちゃんは今年国家試験に通ったら春くんと結婚するんだよ。夢ちゃんもそろそろ幸せになってもいいんじゃないかな? 確かに私たちが春くんと心ちゃんを引き離したから、夢ちゃんは心ちゃんをずっと一番に考えてきたんだよね。夢ちゃんはどうなの? もう自分の幸せを願ってもいいんじゃない」
「……」
裕美の言葉に私は口をつぐんだ。自分でも心乃のことを一番に考え過ぎていることは分かっていた。ただ、心乃には本当に幸せになって欲しかった。じゃあ、私はどうなのか。そう考えた時、私には何も分からなかった。心乃の幸せが私の幸せだも思っていたから。
「夢ちゃん、そうだよね……ごめんね」
「え、何で裕美さんが謝るんですか?」
「夢ちゃんの気持ちを押さえつけたのが私たちだからだよ」
「……。でも、裕美さん。私は心乃が幸せになることが、私の幸せだとずっと思ってきました。今、心乃が幸せで私も幸せを感じています。ただ、心乃が幸せになった今、私は何かぽっかりとした空白がある気がするんです。それは裕美さんの言ったように私の幸せと心乃の幸せとがまた違ったからだと思います」
「うん。そうだよね」
「そろそろ私も好きな人と幸せになってもいいんですよね?」
「そうだね。夢ちゃんももう幸せになってもいいと思う。夢ちゃんは好きな人いるの?」
「うん」
私は小さく頷いた。長い黒髪が顔を隠すように覆いかぶさった。顔を赤らめていた私は、裕美に表情が見られなくて良かったと心のどこかで安堵していた。
「そっか、夢ちゃん頑張るんだよ」
「ありがとうございます」
私は春人の部屋へと向かうため、裕美の部屋を後にしようとした。
ドアノブに手を掛けたとき、裕美の声が耳に届いた。
「夢ちゃんの好きな人って寿人だよね?」
「えっ」
私は裕美の方を振り向いた。驚きで半分口が開いたままになっていた。
「寿人もね、夢ちゃんのことが好きなんだって。本当はもっと早くに伝えてあげたかったんだけどね、春くんと心ちゃんのことがあるから、言えなかったんだ」
寿人は水沢家の長男で、水沢商店を継がずに公務員になる道を選んだ。春人の兄である寿人と私は、春人と心乃と同じで従兄妹になる。
幼い頃から春人と心乃は幼いなりの恋愛感情があったが、私は寿人に恋愛感情を抱いていなかった。
ただ、春人と心乃のことで、私たちも引き離された時に私は寿人に恋愛感情を抱いていたことに気づいた。
「裕美さん?」
「私は知ってたよ。夢ちゃんが寿人のこと好きだって。それに寿人もずっと夢ちゃんのこと好きだって言ってたんだ。あ、二人ともが好きだって分かった時に寿也さんが言ってたことがあるんだ。好きな人同士が離れ離れになるなんて可哀想だって。だからね、今回の春くんと心ちゃんのことはすぐに解決したの。だから、夢ちゃんも寿人と付き合ったらいいのよ」
「いいんですか?」
「もちろんよ」
「ありがとうございます」
そう言って、私は裕美の部屋を後にした。
綺麗に整理された部屋は、縦長のテーブルを置いて、人が二人座っても空間に余裕ができるほど広さを持っていた。
「ごめんね、夢ちゃん。心ちゃんに勉強教える邪魔して」
「ううん、いいですよ。それよりも話って?」
「あのね、夢ちゃん。夢ちゃんはずっと心ちゃんのことを思って大切にしてあげてきたと思う。でも、心ちゃんは今年国家試験に通ったら春くんと結婚するんだよ。夢ちゃんもそろそろ幸せになってもいいんじゃないかな? 確かに私たちが春くんと心ちゃんを引き離したから、夢ちゃんは心ちゃんをずっと一番に考えてきたんだよね。夢ちゃんはどうなの? もう自分の幸せを願ってもいいんじゃない」
「……」
裕美の言葉に私は口をつぐんだ。自分でも心乃のことを一番に考え過ぎていることは分かっていた。ただ、心乃には本当に幸せになって欲しかった。じゃあ、私はどうなのか。そう考えた時、私には何も分からなかった。心乃の幸せが私の幸せだも思っていたから。
「夢ちゃん、そうだよね……ごめんね」
「え、何で裕美さんが謝るんですか?」
「夢ちゃんの気持ちを押さえつけたのが私たちだからだよ」
「……。でも、裕美さん。私は心乃が幸せになることが、私の幸せだとずっと思ってきました。今、心乃が幸せで私も幸せを感じています。ただ、心乃が幸せになった今、私は何かぽっかりとした空白がある気がするんです。それは裕美さんの言ったように私の幸せと心乃の幸せとがまた違ったからだと思います」
「うん。そうだよね」
「そろそろ私も好きな人と幸せになってもいいんですよね?」
「そうだね。夢ちゃんももう幸せになってもいいと思う。夢ちゃんは好きな人いるの?」
「うん」
私は小さく頷いた。長い黒髪が顔を隠すように覆いかぶさった。顔を赤らめていた私は、裕美に表情が見られなくて良かったと心のどこかで安堵していた。
「そっか、夢ちゃん頑張るんだよ」
「ありがとうございます」
私は春人の部屋へと向かうため、裕美の部屋を後にしようとした。
ドアノブに手を掛けたとき、裕美の声が耳に届いた。
「夢ちゃんの好きな人って寿人だよね?」
「えっ」
私は裕美の方を振り向いた。驚きで半分口が開いたままになっていた。
「寿人もね、夢ちゃんのことが好きなんだって。本当はもっと早くに伝えてあげたかったんだけどね、春くんと心ちゃんのことがあるから、言えなかったんだ」
寿人は水沢家の長男で、水沢商店を継がずに公務員になる道を選んだ。春人の兄である寿人と私は、春人と心乃と同じで従兄妹になる。
幼い頃から春人と心乃は幼いなりの恋愛感情があったが、私は寿人に恋愛感情を抱いていなかった。
ただ、春人と心乃のことで、私たちも引き離された時に私は寿人に恋愛感情を抱いていたことに気づいた。
「裕美さん?」
「私は知ってたよ。夢ちゃんが寿人のこと好きだって。それに寿人もずっと夢ちゃんのこと好きだって言ってたんだ。あ、二人ともが好きだって分かった時に寿也さんが言ってたことがあるんだ。好きな人同士が離れ離れになるなんて可哀想だって。だからね、今回の春くんと心ちゃんのことはすぐに解決したの。だから、夢ちゃんも寿人と付き合ったらいいのよ」
「いいんですか?」
「もちろんよ」
「ありがとうございます」
そう言って、私は裕美の部屋を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました
cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。
そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。
双子の妹、澪に縁談を押し付ける。
両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。
「はじめまして」
そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。
なんてカッコイイ人なの……。
戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。
「澪、キミを探していたんだ」
「キミ以外はいらない」
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる