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番外編

花咲夢乃④

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 私は夜ご飯をご馳走になった後、裕美の部屋にお邪魔した。
 綺麗に整理された部屋は、縦長のテーブルを置いて、人が二人座っても空間に余裕ができるほど広さを持っていた。
「ごめんね、夢ちゃん。心ちゃんに勉強教える邪魔して」
「ううん、いいですよ。それよりも話って?」
「あのね、夢ちゃん。夢ちゃんはずっと心ちゃんのことを思って大切にしてあげてきたと思う。でも、心ちゃんは今年国家試験に通ったら春くんと結婚するんだよ。夢ちゃんもそろそろ幸せになってもいいんじゃないかな? 確かに私たちが春くんと心ちゃんを引き離したから、夢ちゃんは心ちゃんをずっと一番に考えてきたんだよね。夢ちゃんはどうなの? もう自分の幸せを願ってもいいんじゃない」
「……」
 裕美の言葉に私は口をつぐんだ。自分でも心乃のことを一番に考え過ぎていることは分かっていた。ただ、心乃には本当に幸せになって欲しかった。じゃあ、私はどうなのか。そう考えた時、私には何も分からなかった。心乃の幸せが私の幸せだも思っていたから。
「夢ちゃん、そうだよね……ごめんね」
「え、何で裕美さんが謝るんですか?」
「夢ちゃんの気持ちを押さえつけたのが私たちだからだよ」
「……。でも、裕美さん。私は心乃が幸せになることが、私の幸せだとずっと思ってきました。今、心乃が幸せで私も幸せを感じています。ただ、心乃が幸せになった今、私は何かぽっかりとした空白がある気がするんです。それは裕美さんの言ったように私の幸せと心乃の幸せとがまた違ったからだと思います」
「うん。そうだよね」
「そろそろ私も好きな人と幸せになってもいいんですよね?」
「そうだね。夢ちゃんももう幸せになってもいいと思う。夢ちゃんは好きな人いるの?」
「うん」
 私は小さく頷いた。長い黒髪が顔を隠すように覆いかぶさった。顔を赤らめていた私は、裕美に表情が見られなくて良かったと心のどこかで安堵していた。
「そっか、夢ちゃん頑張るんだよ」
「ありがとうございます」
 私は春人の部屋へと向かうため、裕美の部屋を後にしようとした。
 ドアノブに手を掛けたとき、裕美の声が耳に届いた。
「夢ちゃんの好きな人って寿人だよね?」
「えっ」
 私は裕美の方を振り向いた。驚きで半分口が開いたままになっていた。
「寿人もね、夢ちゃんのことが好きなんだって。本当はもっと早くに伝えてあげたかったんだけどね、春くんと心ちゃんのことがあるから、言えなかったんだ」
 寿人は水沢家の長男で、水沢商店を継がずに公務員になる道を選んだ。春人の兄である寿人と私は、春人と心乃と同じで従兄妹になる。
 幼い頃から春人と心乃は幼いなりの恋愛感情があったが、私は寿人に恋愛感情を抱いていなかった。
 ただ、春人と心乃のことで、私たちも引き離された時に私は寿人に恋愛感情を抱いていたことに気づいた。
「裕美さん?」
「私は知ってたよ。夢ちゃんが寿人のこと好きだって。それに寿人もずっと夢ちゃんのこと好きだって言ってたんだ。あ、二人ともが好きだって分かった時に寿也さんが言ってたことがあるんだ。好きな人同士が離れ離れになるなんて可哀想だって。だからね、今回の春くんと心ちゃんのことはすぐに解決したの。だから、夢ちゃんも寿人と付き合ったらいいのよ」
「いいんですか?」
「もちろんよ」
「ありがとうございます」
 そう言って、私は裕美の部屋を後にした。
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