どんなことも乗り越えようね

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二幕 第五章

幼稚園

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 春人と心乃が生まれてから三年の月日が流れた。
 裕美と寿也、歩乃華と志乃たちは、幼い春人と心乃に振り回されながらも、さらに上の兄や姉も育ててきていた。
 幼い子どもは、大人が発するシグナルの受信感度が一番敏感だと言うが、それは本当なのかも知れない。
 春人たちは両親のシグナルをキャッチしたのか、次第に二人で遊ぶ時間が増えていった。それも幼稚園に入ってから、一緒にいる時間が極端に多くなった。
 保育園に通っていた頃は、二人で、というよりかは、みんなで、という方が多かった。先生からもお子さんはたくさんの子たちと仲良くしてますよ、と言われ続けてきた。
 メンバーが誰一人として変わることなく通い始めた幼稚園で、春人たちはみんなと一緒にいる楽しさより二人でいる楽しさに気づいていった。
 お互いの両親はその事に気づきながらも、従兄妹だから大丈夫だと勝手に思い込み、あまり深く考えてはいなかった。
 子どもは純粋で思ったことは言ってしまう、それに以外にもその時の言葉は覚えているもので、それは固く結ばれた約束となって頭のなかに残る。

 幼稚園に入ってから二人でいることが当たり前になっていた僕たちは、今日も二人で花を摘んでいた。この場所はフェンスによって校門以外からは外へ出られなくなっている。そのフェンスに沿うように端から端まで花壇に花が植えられている。
 いつもは花壇の花を眺めて二人で話をして、花壇の周りに伸びている雑草の花を摘んでいた。
 ただ、春人たちはその日はいつもの場所から遠く離れた校門の近くにいた。
 小さく綺麗な白い花が太陽の光を反射してキラキラと輝いていた。
「うわあ。綺麗だね、心乃ちゃん」
 僕は摘んだ花を上手に結い合わせ心乃の首にかけた。心乃はそれを優しく撫でてほんの少しの間目をつぶった。
 僕は心乃を見つめて家族にも見せたこともないほどの笑顔を向けた。心乃もそれに共鳴するように同じように自然に笑顔になっていた。
「春人くん、ありがとう。絶対大切にするね! だからね……」
 僕は一瞬何が起こったか理解出来なかった。心乃とは従兄妹で幼い頃から、いや父親と母親から生を貰ったときから一緒に成長してきた。だから、幼いながらも友達以上の関係になることはないと思っていた。それに例えそんな口約束をしてもいつしか忘れていくんだと僕は思っていた。
 だからこそ、僕の頬に心乃の唇が触れた時には一瞬何も考えられなくなってしまった。
「春人くん……。私は春人くんのこと好きだよ。今もこれからもずっと……だからね、春人くん。春人くんも私のこと好きでいてくれたら嬉しいな……」
 心乃は頬を真っ赤に染めて教室へと戻っていった。
 僕はしばらくそこから動けなかった……

 そして幼稚園を卒園してすぐに僕は心乃と違う学校に通うため少し離れた場所へと引っ越した。
 引っ越したといっても元の家から凄く離れているわけでもなく、心乃とはいつでも会えるものだと僕は深く考えずに思っていた……
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