上 下
9 / 25

出会い①

しおりを挟む
列車内はかなり混み合っており、どの席も満席状態になっている。
 僕達と同年代であろう少年、少女が楽しく談笑しているのが個室の窓から窺える。

「シロイこっち」

どうやら、前を歩いていたフレイが空席を見つけたらしい。
少し離れていた為、手を振って待ってくれていた。

(やっと座れる)

荷車を降りてからずっと立ちっぱなし為、正直助かる。
 小走りでフレイの元へ向かい、お互いに向かい合わせに腰を下ろした。

フレイは早速、自宅から持ってきたであろう本を読み出す。

「また魔法の本読んでるの?」
「ええ」

お転婆なのに勉強熱心なんて最初は冗談かと思って笑った。
 その時、拳が飛んできたのは言うまでもない。

僕は手持ち無沙汰になり、窓へと視線を移し高速で移り変わっていく景色を眺める。

少し時間が経った時に、ふと先程の事を思い出した。

「翡翠さん何か変じゃなかった?」

返事はない。
 シロイの言葉は届いておらず、フレイは本の世界に旅立っている。


「流石にあんたも気付いたわよね」

 聞いていないと思ったが、どうやらシロイの話はしっかりフレイの耳へと届いていたらしい。

だが、相変わらずフレイの目は文字を追っていて、何を考えているかは分からない。

「あんな顔、もう二度と見ないと思ってたのに。」


どういう意味なのか。

「二度と?」

不思議に思い聞き返すが、フレイは読んでいた分厚い本を閉じ窓の外を眺めるだけ。

いつも元気で笑顔が一番似合う翡翠さん。

あんな表情を別れ際で見るなんて心配でならない。

暫く僕達の間は静寂が生まれる。

聞こえるのは列車がレールを走る音と男女が談笑している声だけ。

シロイは早々に聞くのを諦め、再度外へと目を寄せる。
だが、同時に通路に繋がる扉が叩かれる音が聞こえた。
フレイは素早く反応する。
扉を開けて待っていたのは、男女の2人組だった。



「すいません。席が空いていなくて、良ければ相席しても構いませんか?」
しおりを挟む

処理中です...