1 / 1
もう、行くから。
しおりを挟む
「待ってるから」
それが妻の口癖だった。
僕が仕事で遅くなったとしても、そう言って夕ご飯が冷めても待っててくれたりした。
僕の妻はとても優しい。どのくらいか?言葉では表せない程だ。
出会いはよくある、合コンというものだった。
最初は期待なんてして無かった。どうせ、出逢っても直ぐに別れが来てしまうであろう。
そんな思いを覆したのが彼女だった。艶々の橡色の髪に、真黒な目。
誰が見ても、美しい、そう思うだろう。
一目惚れだった。今まで一目惚れなんてした事ない僕が、一目惚れという感情を知った契機となった。
どうやら、彼女も僕を気になっていた様で、付き合う事になった。
まさかの展開で僕は少し驚いたけど、精一杯彼女を幸せにしよう、そう思っていた。
それから約1年が経っただろうか。ちょっぴり高級なレストランを予約して、僕は彼女にプロポーズをした。
彼女の真黒な目に、涙が浮かぶ。 返事は、「はい、喜んで。」本当に嬉しかった。
それから毎日、幸せだった。裕福な生活とは言えないし、彼女を心から満足させてあげられてるか、僕にはわからない。けれど、僕はとても幸せだった。仕事から帰ると「おかえり」の言葉があって、その言葉があるだけで僕は生きてる事を実感した。
仕事が終わった夕方頃、彼女と2人で散歩するのが日課だった。
いつも通りの道。特別感もない。
けれど、夕まぐれの美しい景色と彼女の綺麗な横顔。身体を包んでくれるような優しい彼女の声と烏の鳴き声。
私はこのいつも通りの特別感の無い道が大好きだった。
そんな日がいつまでも続く事を願っていた。いや、続くと思っていたのだろう。
不幸は突然やってくるものだ。
いつも通る踏切、カンカンという音が鳴り響く。
五歳くらいの少年だろうか、遮断桿はもう降り始めているのに、その子はまだ渡れずにいた。電車はもう見える程に、来ている。
いつの間にか、僕の手から彼女の手が無くなっていた。咄嗟に少年に近寄り、踏切の外に出したのだ。
ああ、なんて優しいのだろう、なんて脆いのだろう、
自分の生命を犠牲にしてまで少年救った彼女は、もはや天使だったのではないか。 元々天使で、空の彼方に帰らなきゃ行けないから、事が起こったのではないか、そんなくだらない事まで思ってしまう程、僕は彼女の死を素直に受け入れられなかった。
神は本当に不平等なのかもしれない。
なぜだ?なぜこうなる? 僕の想い描いていた日々が徐々に消えてゆく。
これからどう生きればいいんだ? 僕は彼女依存していたのであろう。もう、あの肉じゃがも、あの美しい顔も、優しい透き通るような声ももう見れないし、聞けないんだ。
葬式には、多くの人が参列してくれた。彼女の友達や親族、僕の友達など。
不幸中の幸い、顔だけは綺麗なままであった。ただ眠っているだけのような、清々しい顔だった。彼女は少年に恨みも無いだろうし、寧ろこれが彼女の運命だったのかもしれない。
それから数年が経った今、僕は1人ながらも仕事に励み、毎日を過ごしている。
僕は今の生活が苦でも無いし、怖くない。だって、彼女は僕を待ってくれている。
いつもの口癖。「待ってるから」
今もそう言ってくれているような、そんな感じが心の中にずっとある。
だから、だから、僕は怖くない。
いつかその時が来るまで、僕は今世を生きようと思う。
それが妻の口癖だった。
僕が仕事で遅くなったとしても、そう言って夕ご飯が冷めても待っててくれたりした。
僕の妻はとても優しい。どのくらいか?言葉では表せない程だ。
出会いはよくある、合コンというものだった。
最初は期待なんてして無かった。どうせ、出逢っても直ぐに別れが来てしまうであろう。
そんな思いを覆したのが彼女だった。艶々の橡色の髪に、真黒な目。
誰が見ても、美しい、そう思うだろう。
一目惚れだった。今まで一目惚れなんてした事ない僕が、一目惚れという感情を知った契機となった。
どうやら、彼女も僕を気になっていた様で、付き合う事になった。
まさかの展開で僕は少し驚いたけど、精一杯彼女を幸せにしよう、そう思っていた。
それから約1年が経っただろうか。ちょっぴり高級なレストランを予約して、僕は彼女にプロポーズをした。
彼女の真黒な目に、涙が浮かぶ。 返事は、「はい、喜んで。」本当に嬉しかった。
それから毎日、幸せだった。裕福な生活とは言えないし、彼女を心から満足させてあげられてるか、僕にはわからない。けれど、僕はとても幸せだった。仕事から帰ると「おかえり」の言葉があって、その言葉があるだけで僕は生きてる事を実感した。
仕事が終わった夕方頃、彼女と2人で散歩するのが日課だった。
いつも通りの道。特別感もない。
けれど、夕まぐれの美しい景色と彼女の綺麗な横顔。身体を包んでくれるような優しい彼女の声と烏の鳴き声。
私はこのいつも通りの特別感の無い道が大好きだった。
そんな日がいつまでも続く事を願っていた。いや、続くと思っていたのだろう。
不幸は突然やってくるものだ。
いつも通る踏切、カンカンという音が鳴り響く。
五歳くらいの少年だろうか、遮断桿はもう降り始めているのに、その子はまだ渡れずにいた。電車はもう見える程に、来ている。
いつの間にか、僕の手から彼女の手が無くなっていた。咄嗟に少年に近寄り、踏切の外に出したのだ。
ああ、なんて優しいのだろう、なんて脆いのだろう、
自分の生命を犠牲にしてまで少年救った彼女は、もはや天使だったのではないか。 元々天使で、空の彼方に帰らなきゃ行けないから、事が起こったのではないか、そんなくだらない事まで思ってしまう程、僕は彼女の死を素直に受け入れられなかった。
神は本当に不平等なのかもしれない。
なぜだ?なぜこうなる? 僕の想い描いていた日々が徐々に消えてゆく。
これからどう生きればいいんだ? 僕は彼女依存していたのであろう。もう、あの肉じゃがも、あの美しい顔も、優しい透き通るような声ももう見れないし、聞けないんだ。
葬式には、多くの人が参列してくれた。彼女の友達や親族、僕の友達など。
不幸中の幸い、顔だけは綺麗なままであった。ただ眠っているだけのような、清々しい顔だった。彼女は少年に恨みも無いだろうし、寧ろこれが彼女の運命だったのかもしれない。
それから数年が経った今、僕は1人ながらも仕事に励み、毎日を過ごしている。
僕は今の生活が苦でも無いし、怖くない。だって、彼女は僕を待ってくれている。
いつもの口癖。「待ってるから」
今もそう言ってくれているような、そんな感じが心の中にずっとある。
だから、だから、僕は怖くない。
いつかその時が来るまで、僕は今世を生きようと思う。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
貴方なんて大嫌い
ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と
いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている
それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる