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第18章 パン屋の王子様

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(この人はきっと…本当のことを、知っているのかもしれない)
 本能的に、アナスタシアはそう思う。
そんなこととは気づかずに、男はあらためて彼女に確かめる。
「あの人…まだ、帰っていないんですか?」
そこから少し出た所の空き地に出ると、男は木の根元に座り込んだ。

 一瞬、あの人って、誰だ…と思う。
けれどもすぐに、それは母さんのことだ、と彼女は気が付いた。
「ええ、2~3日前から、全然帰って来ないんです」
急に心配になって来た。
この人は本当に…母さんのことを知っているのだろうか、と不安に
なってくる。
 すると男はうーんと腕組みをすると…
「確か、王子と話してくる、と言ってたなぁ」
考え込むようにして言う。
「それ…本当ですか?」
母さんの性格だったら、やはり、おとなしく引き下がるわけがない。
彼女はすぐに、納得した。
「なら…その別荘の場所、知っていますか?」
思わず身を乗り出すように、男に近づいたので…
ハンスはあわてて、彼女の袖をぐぃっと引いた。
 男はハンスとアナスタシアの顏を見比べると、ニヤリと笑い、
「知ってるよ」と言う。
「なんだったら…ご案内しましょうか?」
少しからかうような目付きで、そう言うので、
「お願いします」
思わずアナスタシアは、男の手を自分の両手でつかんだ。
「ぜひ、すぐにでもお願いします!」
重ねて言うと、男はおやおや~と笑い、
「まぁ、いいですよ」
ハンスに向かって、ニヤリとする。
「ま、もっとも…ご期待に沿えないかもしれないけれど」
思ったよりもあっさりと、男はうなづいた。

 ハンスの顏が、青ざめている。
何か言いたそうに、目を泳がせて、落ち着きがない。
アナスタシアがあまりにも、大胆な行動を取っているので、
驚くよりも、心配になってきたのだ。
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