桜ハウスへいらっしゃい!

daisysacky

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第3章  魔女の館と、人の言う…

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  玄関先で話し込んでいると、正面玄関のドアが開き、1人の
おばあさんが姿を現した。
「あら、お客さん?」
ヒョウ柄の不動産屋を見ると、おばあさんは縮んだ腰をさらに
かがめて、あいさつをする。
「この方…もしかして、新しく入居する方?」
無邪気な顔をして聞くので、待子は思わず
「いいえ、見学に来た者です」
蚊の鳴くような、小さな声でささやいた。

 とんでもないとこに来てしまった…
待子は思わず、立ち尽くした。
するとヒョウ柄の不動産屋に、腰軽くあいさつをしたおばあさん…
今度は待子の顏をのぞきこんで
「あら…今度はずいぶん若くてかわいらしい方を、連れてきたのね」
ニコニコしながら、近付いて来た。
 一見すると、普通のおばあさん。
ちょっと服装が、若いかなぁ~と思うけれど、やけによく似合っている。
それはやはり、若い人相手の下宿屋さんをしてるせいかなぁ~と
待子は好意的に考えていた。

「うん、今度は…割とちゃんとしている人みたいね」
チラリと、待子と淑子を見比べると、大きな声でフジヨシさんに
声をかける。
「あ、この大家さんね、この界隈では結構評判の占い師さんなのよ」
なぜか得意気に、フジヨシさんは言った。
「評判なんて、とんでもない…」
ニコヤカに笑うけれど、おばあさんのその瞳の奥は、案外鋭い光を
帯びていた。
「あなた…こんなトコって言うけど、ここは結構いいトコよ」
サラリ…と、待子の心を読んだように言うと、
「ここの人はね…食い詰めてここにたどり着いたり、色々と事情があって
 流れてきた人が多いのよ。
 だけどね、みんなとってもいい人たちよ!」
おばあさんは、まっすぐな瞳を、待子に向けて来た。
待子はまるで、自分の心を読まれるのを恐れるように、
あわてておばあさんから目をそらすと、あさっての方を向いた。
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