桜ハウスへいらっしゃい!

daisysacky

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第5章  いざ!出陣!

   15

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  それから「あ、お宅は?」と、遠慮なくジロジロと、淑子は
眉間にシワをよせて、にらみつける…
さすがの女も、淑子の迫力に押されたらしく
「あ、どうも…私は202号室の高垣と申します…」
クネクネとした様子で、頭を下げるので、さらに照れる貴文をドンと
腰で追いやると、
「あっ、それはわざわざどうも」と言うと、淑子はピシャンと
女の鼻先で、引き戸を閉めた。
すでにもう、怒りのオーラが、背中からあふれ出している…
待子が後ずさりすると…クルリと淑子は振り向き
「なにデレデレしてるのよ!」
般若のような…世にも恐ろしい顔で、貴文をにらみつけた。
だが…さすがにちょっとひるむ様子を見せる貴文も、やましいところはない…と、
ぐいっと淑子に近付くと、
「別に、デレデレなんて、してないよ」
真っ赤な顔で、ソッポを向く。
般若はさらに眉を吊り上げて…
「いいや、デレデレしてた」
「いや、してないってば!」
 さすがは長年連れ添ってきただけあり、あの般若のごとき淑子をも、
恐れることなく、傲然と立ち向かう貴文。
淑子と貴文の、子供じみた言い合いに、
「あのぉ~」
引き戸の向こうでは、まだ声がする。
遠慮がちではあるけれど、当惑しきった声だ。

「だから、何か?」
ピシャリと戸を開くと、その人物は、扉の向こうで辛抱強く
立ちすくみ、
「だから…ガス屋さん」
先ほどの女は、上目遣いで声を上げた。
それでようやく、女の後ろの方を見ると…
そこには作業着姿の男が、遠慮がちに控えていた。
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