桜ハウスへいらっしゃい!

daisysacky

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第15章  いのち短し 恋せよ乙女?

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  この公園は、時折ぼぅっとしたい時に、オニギリを持って、
ブラリとやって来る場所だ。
ブランコの近くのベンチに、いったん座ると、
砂場で小さな男の子が、鮮やかなブルーの小さなバケツを持って、
せっせとスコップを動かしている。
いつものように、ぼぅっとしたいところだが、やはり待ち合わせの人の
ことが、気になっている。
わずかにヒリヒリする足を、励ましながら ゆっくりと、公園の中を
突き進んでいく。
 植え込みの側のベンチで、杖を握り締めた老人が、ベンチに座り
あごを杖の握りに乗せて、くつろいでいる姿が、チラリと見えた。


「あ、大丈夫だった?」
ようやく入り口とは反対側の、公衆トイレの近くにある、電話ボックスに
近付くと…
足元にうずくまる佐伯さんの姿を見つけた。
自転車は、植え込みの陰に、横倒しに投げ出されていた。
よっぽど怖かったのだろう…別人のように、小さくなってしゃがみ込んでいる。
「ね、大丈夫だった?」
 のぞき込む待子を見上げると、
「うん、大丈夫」
 さっきまでの恐怖も…ようやく胸の奥にしまい込み、
出来るだけ平静を装ってみた。

「ね、こっちへは、来なかった?」
あらためて待子が聞くと、佐伯さんはそこまで考えていたらしく、
頭を激しく振る…
「ね、あの人って、知り合い?」
気になったので、一応聞いてみる…
 どう見ても…あきらかに彼女を笑っていたとしか、
思えないからだ。
すると佐伯さんがうつむくと
「こんな人だったとは、思わなかったよ」
小さな声で、つぶやいた。
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