桜ハウスへいらっしゃい!

daisysacky

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第18章  さようなら、桜ハウス

   12

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「あっ、どちら様?」
 ようやく気付いたように、マイコはあわてて飛びのく。
「はじめまして!山田です」
 口をモゴモゴさせたまま、Tシャツの裾で手を拭くと、
目尻をフッと緩めた。
「すみません!誰でもOKと聞いていたので…
 ずうずうしく、部外者なのに、ついて来てしまいました」
「もう」
杏子が彼を突っつくと、恥ずかしそうに頭をかいた。
何だかその様子も初々しい。
「いえ、いいんですよ。
 どちら様でも、大丈夫です」
先ほどまでうつむいていた大家さんが、満面の笑みを浮かべる。
もともと社交的な彼女は、お客さんが大好きなのだ。

「あっ、待子!この勢いで、クマさんに告白しちゃいなさいよ」
突然杏子が、待子の背中を押しやる。
「あっ、それ、いいかも!」
いきなり特上のエサを投げ出されたかのように、すぐさまマイコが
食いつく。
「呼んじゃう?ここに!」
「電話するわよ」
「いいわねぇ」
サラさんまで、ニヤニヤしている。
「えっ」
突然の展開に、待子がたじろぐ。
 目をランランとさせた女たちの視線が、一斉にこちらに
向いている。
「そうそ!公開告白なんて、どう?」
明らかに面白がって誰かが声を上げる。
「みんなが証人ね!」
「なんだったら、代わりに話そうか?」
杏子も、マイコも、レイコさんまで!
面白がって、嬉しそうにうなづいている。
「えっ、それは、ちょっと」
焦って口をモゴモゴと、言い訳を探していると…
「それは本人にまかせましょ」と、にこやかに大家さんが
みんなに声をかける。

「あっ」
急にいいことを思いついた、とマイコが叫ぶと、
「丁度大家さんもいることだし…
 占ってもらいましょうよ」
ひときわ大きな声で、マイコが主張する。
「えっ?」
「それ、いいわね」
「2人の恋が、うまくいくかどうか」
「相性は?」
他人事なのか、女たちは本人そっちのけで、口々に大きな声で
話始める。
「そりゃあ…いいけど…」
大家さんは、チラリと待子の顔をうかがう。
急なことで、まだ飲み込めない待子なのだが…
「いいから!この際、頼んでみたら?」
待子の顔をのぞき込み、杏子がポンと背中を押した。
しかたがない…待子がしぶしぶうなづくと同時に、
わぁ~と歓声が上がる。

 そうとなったら、話が早い。
みんな急に活発に動き始める。
待子だけは、取り残されたように、ポカンとその様を見守っている。
テーブルの皿が、あっという間に、端によけられ、
真ん中に大きな空間を開ける。
いつの間にか大家さんは、タロットカードと水晶の玉を
かかえて戻って来る。
「それじゃあまず…あなたの生年月日を教えてください」
椅子に座ると、急に真面目な顔で、待子の顔を見つめた…


   おわり

  長々と読んでいただきまして、ありがとうございました!
 明日からは、新連載を始めます。
 よろしければ、お付き合いくださいね。
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