ダンナ様はエスパー？

第8章 私を探さないで…

１８

「そんな、とんでもない…」
　むしろご迷惑をおかけして…と、恐縮した顔で、久志は運転手さんを見る。
（おそらくは…女性が1人で乗り込んできたから、気になったんじゃあないのかなぁ）
そう久志は推測していた。

　ぱっと見は、20代くらいの、今どきの若者のようだ。
職業に貴賎はない、と彼は考えているので、それは気にしないのだが…
派手な見た目の割に、意外と真面目な人柄のように、見受けられた。
「お役に立てるかどうか、わかりませんが…」
妙に緊張した面持ちで、その青年は頭をかいた。
そうして久志と目が合うと…
「あっ、そうそう。
　何だか、ずいぶん思いつめた様子だったと思います」
ためらいがちに、そう言った。
「そうなんですか？」
久志が身を乗り出して聞くと
「はい」
素直にうなづく。

彼は、久志のことをどう思っているのだろう？
妻に逃げられた夫？
それとも、暴力夫？
いや、捨てられた哀れな夫…くらいに、思っているのかもしれない。
だが、妙に腰が低いところとか、とてもフレンドリーな雰囲気を見て、
思ったよりも、協力的な対応だ…
ありがたい、と感じていた。

（あっ、そうそう！）
肝心なことを、聞くのを忘れていた。
　久志は、自分の気になることを、思い出す…
それは彼にとって、1番残酷で、1番気になることだ…
「あのぉ」
意を決して、思い切って口に出す。
「彼女…誰かと一緒にいましたか？」
まさか、とは思う。
でも、もしかして…とも思う。
精一杯平静を装って、何とか聞いていた。