ダンナ様はエスパー？

第8章 私を探さないで…

３８

「でも…友達でしょ？」
　どうにかこうにか、アリサは言葉を振り絞る。
「はぁっ？」
いきなり相手の口調が変わった。
なぶるように、猫なで声で話していたサヤカの口調が、急に一変する。
「別に、友達じゃないし。
　そこまでする、義理がある？」
「えっ…」
絶句するアリサの耳に、ククク…とサヤカの笑う声が響く。
この女は、だれ？
まるで見知らぬ女のように感じて、アリサは耳をふさぎたくなる。
「新婚だったのよね？
　おおよそ、ダンナと痴話げんかでもして、家出でもしたんじゃあないの？
　こんな…赤の他人に頼って来ようなんて…
　他に行く所が、ないのかしら？」

　一瞬、アリサは自分の耳を疑った。
（何なの、この人？）
もともと…自分のことを、バカにしていた…というのは、知っていたけれど…
アリサはすっかり、話す気力を失い、
「そう…私、勘違いしてたみたいね。ごめんなさい」
あっさりと引き下がった。
　本当のところは、まだ納得はしていないけれど…
これ以上聞くのは、もうムダだ、と判断した。
（こんな人の所に来ても…灯里が可哀そうだ）
心の中で、そう思う。

「じゃあ、灯里が来たら、伝えてください。
　久志さんは、ちっとも怒ってはいないって」
「はぁっ？」
何を言っているの？
再びクスクスと笑う声が聞こえる。
確かに…この人にとっては、なんのこっちゃなのだろう。
まるで、家出妻に伝える、伝書鳩の役割だ。
それはもう、仕方がない、と思うけれど…
何となく妙な空気に、アリサは戸惑う。
「ふーん、まぁいいけど…
　アリサも、あの子に振り回されないようにね！」
　
　こんな人に、頼ろうと思ったなんて…
灯里はよっぽど、追い詰められていたのか…
アリサの胸が痛んだ。