ダンナ様はエスパー?

daisysacky

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第11章 トンネルを抜けて…

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 よく人から聴いたり、本で読んだりはしていたけれど、
それは…想像をはるかに上回る、大変な出来事だった。
もはや…自分のプライドも羞恥心もすべて、かなぐり捨てて、
わめき、泣き叫び、吠え、そして…
出来ることなら、今すぐにでも、この場を逃げ出してしまいたいような、
そんな凄まじい経験だった。
実際に…フッと力が抜けた瞬間、足元に生暖かい物体を感じ、
そして頼りない動物の声を聴き…
「おめでとう!女の子ですよ」
そう言われた時…気が遠くなるほどの達成感が、自分の身体を
走り抜けていた。
あの瞬間…半分意識がもうろうとした、その時に…
奇妙なことだけれど、久志の声を聞いたような気がした。

「がんばれ…あと、もう少しだ」
 実際は、分娩室の外のベンチで待っているはずなのに…
確かに、その息遣いを、自分の耳元で聞いた。
その声を聞いた時に…身体を津波が押し寄せたような、
激しい痛みが貫き、
「いきんで~!」
ありったけの力を振り絞り、自分の中のすべてを吐き出したような、
そんな気がしていた。

(ありがとう、久志さん)
 戦いが終わった時に、心の中でそうつぶやく。
するとその瞬間
(アカリ…お疲れ様)
間違いなく、彼女の耳元で、そうささやくのが聞こえた。
 
 誰かにその体験を話したなら…きっと、
そんな大変な思いをしたのね…
と、信じてはもらえないことだろう。
灯里自身も、信じられないのだから。
久志に、確かめたい…とは思うけれど、
きっと、困った顔で、心配するかもしれない…と思うと、
とても確かめる勇気が、起こらないのだった。
(やっぱり、久志さんって…エスパーなのだろうか?)
そう思うけれども。
実際は、想像を絶するほどの疲れに襲われ、半分意識を失うように、
その場でダウンしたのだった。
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