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第2章
56話 初めての弱音
しおりを挟む「初めまして。社長の秘書をしています。岸田と言います」
「初めまして。柳本スミと言います」
顔のアザを見られたくないスミは下ばかり見ていた。
秘書はスミのアザに気付き裕二に対して怒りが込み上げてきた。
「あの…僕、ある程度は知ってますので大丈夫ですよ」
「えっ…」
「小田病院の先生から聞きました。社長はまだ僕が知ってること知りませんけど」
「…そうでしたか」
「そこまで酷い事されて別れないんですか?」
「別れられるなら今すぐにでも別れたいです」
「もしまた何かされるのが怖くて別れられないのなら協力します」
「…色々あるんです。私の親のことも…」
「…そ、そうですか。すみません」
「いいえ」
「それと社長のことなんですが…」
「シュンがどうかしたんですか?」
「僕の口から詳しくは言えませんが経営が上手くいってなくて…信頼していた部下にも裏切られて社長は苦しんでます」
「えっ…全然気づきませんでした」
「スミさんの前では心配させたくないから元気なフリしてるんでしょう」
「そんな…」
「社長はそういう人です」
「、、、、」
「正直言うと、社長はスミさんと出逢って変わったと思います。僕は今の社長が好きです。社長には幸せになって欲しいから僕は応援します」
「岸田さん…」
「スミさん、社長は何も言わないですが会社の事や家の事でかなり辛いはずです。慰めてやって下さい」
「…はい。わかりました」
そう話すと秘書は帰って行った。
シュン…気づいてあげられなくてごめんね…
私は裕二のことだけなのにシュンは抱えている事が多いんだよね…
本当は苦しいのに私の為に…
スミはシュンを守りたいと強く思った。
翌日、シュンは朝から裕二に奪われた取引先全てに足を運んだ。
必死に説明したが相手にされなかった。
車で会社に戻っていると秘書からの電話が鳴った。
「社長、今どこですか?」
「会社の近くだけど」
「すぐ戻って来て下さい」
「どうした?」
「それが…営業部が…」
「えっ」
電話を切ったシュンは急いで会社に戻った。
社長室に入ると営業部の社員が3名立っていた。
「どうした?」
「それが…退職したいとの事です」
「退職⁈3人とも⁈」
「申し訳ございません。今日付けで辞めさて下さい」
「私もよろしくお願いします」
「僕も…すみません」
「そんな、急に困ります」
その時シュンは裕二の顔が浮かんだ。
「もしかして柳本グループに引き抜かれたんですか?」
「えっ…どうしてそれをっ」
「おい、君っ‼︎社長っ、違いますっ」
「…わかりました」
「今までお世話になりました…」
3人は一礼して出て行った。
「柳本グループ…社員まで!!」
「俺、行って来る」
「社長!今行って話しても一緒ですよ。柳本社長はきっと引き下がりませんよ」
「じゃあ、このまま黙って見てるのか⁈」
「何か対策があるはずです。柳本社長の弱みさえ掴めば…少し時間かかるかも知れませんが調べますので、社長は今出来る事をして下さい」
そう言うと秘書は出て行った。
シュンは裕二の弱みを掴むなど考えもしなかった。
その後は20時近くまで資料の整理をしていた為、別荘に着いたのは23時だった。
「ただいま」
「おかえり。遅くまでお疲れ様」
「スミ、髪切った?」
「あ…うん。自分で切ったんだ」
「えっ、自分で?」
「昔、美容師になりたくて学校に通った事があるから。結局美容師にはならなかったんだけど」
「へーっ、そうなんだ…俺の髪も切って」
「えっ…シュンの髪を⁈ちゃんと美容室でやってもらった方がいいよ」
「行く暇ないし、スミに切って欲しい。前髪と横を少しだけ。お願い!」
「…まぁ少しなら」
「じゃ、急いでシャワー浴びて来るね」
そう言ってシュンは浴室に行った。
シュン…笑ってたけど疲れてる感じだった…
スミは昨日秘書から話を聞いていたのでシュンのことが心配だった。
シュンの髪を切り終えるとそれぞれの部屋に行った。
シュンのことを慰められていないスミはベッドに入っても眠れず、思い切ってシュンの部屋に行った。
「シュン?起きてる?入っていい?」
「えっ…あ…うん…」
シュンはベッドで横になっていた。
「ど…どうしたの?」
「…ちょっと話ししない?」
「眠れないの?」
「…うん」
「わかった。何話そうか」
「…シュン?」
「ん?」
「無理してるでしょ」
「何を?」
「元気に振る舞ってるけど本当は…」
「…大丈夫だよ」
「私には気を遣わないで」
「え?」
「私はシュンに今まで自分をさらけ出してきたしシュンに助けてもらってばかりだった…」
「、、、、」
「だから今度は私がシュンを助けたい。だってシュン…本当は今すごく大変でしょ?辛いなら我慢しなくていいんだよ。せめて私の前では」
「…スミ」
「私の前では強がらなくていいから」
「、、、、」
「これだけ言いたかったの。じゃ…部屋に戻るね」
部屋を出ようとするとシュンがスミの手を掴んだ。
「えっ」
「本当は…」
「シュン」
「本当はすごく苦しいし怖いんだ」
シュン…
「どうしたらいいか…わからない」
初めて弱音を吐いたシュンをスミはそっと抱き寄せた。
「秘書から聞いた…会社上手くいってないんでしょ?」
「…うん」
「地曽田グループが…どうして」
「俺のせいなんだ…」
「自分を責めないで。会長は?解決してくれないの?」
裕二が絡んでいると知ったらスミは黙ってないと思いシュンは言えなかった。
「…会長には頼らない」
「…どうして?」
「会長に助け求めるって事は家に戻るって事になるから。それだけはしたくない」
「シュン…ねぇ1つ聞いていい?」
「何?」
「会社で何が起こってるの?」
「…それは」
「言えない事?」
「…大事な人達が居なくなっていってるんだ…取引先も…社員も…」
「え⁈ど、どうして⁈」
「、、、、」
シュンは黙ったままだった。
「も…もしかして私…関係してる?」
「え?」
「私のせいじゃ…?」
「スミは関係ないよ」
「、、、、」
「スミ…」
「…え」
「スミとこうしているとすごく落ち着く…」
「シュン…」
「離れたくない」
「え?」
「今日だけ一緒に寝たい…」
シュンが弱音を吐いて甘える姿を初めて見たスミはシュンをとても愛おしく感じた。
「うん…」
スミがベッドに入るとシュンは優しく抱きしめた。
「スミ…ありがとう」
「何が?」
「色々と…」
「私は居なくならないからね」
スミはシュンの腕の中で朝まで眠った。
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