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入学編
第17話 選択科目(四)
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◇ ◇ ◇
ジルヴェスターたち一年A組の面々はメルツェーデスの引率のもと、上級生の選択科目の授業風景を見学していた。
一年生が履修する選択科目を選考する上で、少しでも参考になればと学園側が用意している授業見学の時間だ。
一年生と上級生では選択科目の種類に違いはあるが、実際に自分の目で雰囲気を確認しておくのは大事なことだろう。
「この専攻科目は工学技術研究という」
一同はメルツェーデスの説明に耳を傾ける。
現在ジルヴェスターたちが見学しているのは、工学技術研究――通称・工技研――という科目を専攻している二年生の授業だ。
魔法工学に関する科目は他にも複数あるが、工技研は魔法工学技師ライセンスの取得を志す者を対象とした科目である。
「現状魔法師を目指す者に比べて、魔工師を志す者は圧倒的に少ない。諸君には少しでも興味を抱いてもらえると、私個人としても学園側としても嬉しい」
魔工師を志す者は魔法師を志す者に比べると絶対数が圧倒的に少ない。どこか魔法師が主役で、魔工師は脇役といった漠然とした風潮があり、そういった印象を持っている者は多い。
「魔工師を目指す奴の大半はキュース魔法工学院に行くよな。魔工師関連の授業はわざわざランチェスター学園で扱わなくても良くないか?」
メルツェーデスの言葉を聞いて疑問を抱いたアレックスは、呟くようにジルヴェスターに問い掛けた。
魔法師は派手で活躍の場を目撃する機会が多いが、魔工師はあまり表に出てこないので、直接お目にかかる機会が少なく、地味なイメージがあるのは拭い切れない事実だ。
実際に見た上で、凄さのわかりやすい魔法師の方が憧れる子供は多いだろう。対して魔工師は直接お目にかかる機会が少ないのに加えて、一定以上の造詣を有していないと凄さを理解することができない。故に、必然的に魔工師に憧れる子供が少なくなってしまうのだ。
「確かにキュース魔法工学院を選択する者は多いが、魔工師を志す者の絶対数が少ない現状、少しでも魔工師の人数を確保したいんだろう。それに選択肢を増やすこともできるからな」
キュース魔法工学院はウォール・ツヴァイ内の南東に位置し、キュース区に設置されている国内に十二校ある国立魔法教育高等学校の内の一校だ。
キュース区はウォール・ウーノ内の東南東に位置するワンガンク区に次いで工業が盛んな区だ。工場や工房はワンガンク区ほどではないが、販売店はキュース区の方が多い。
そういった経緯でキュース魔法工学院は魔法工学に力を入れており、関連したカリキュラムが多く、魔法工学技師を志している生徒が多く在学している。
キュース魔法工学院だけではなく、他の学校でも魔工師の育成に取り掛かれば、それだけ生徒の将来への裾野を広げることができるのでデメリットはないだろう。
「対抗戦もあるから尚更だ」
「なるほど。確かにそれはあるか」
ジルヴェスターの説明にアレックスは頷いて納得した様子を示す。
対抗戦に出場する選手のMACを調整するのは、技術スタッフとしてチームメンバーに選抜された生徒の役目だ。MACの調整次第で勝敗を分けることもある。学園側としては勝率を上げる為に優れた技術スタッフを育成したいという思惑もあった。
「だから俺たちにこの授業を見学させたんだろう」
ジルヴェスターは学園側の意図を推測する。
「さすがだな。お前の推測通りだ」
ジルヴェスターとアレックスの会話を聞いていたメルツェーデスが、彼の推測を肯定した。
「いえ、少し考えれば自ずとわかることです」
「そうだな。諸君にプレッシャーを与えるわけではないが、対抗戦は政治的な側面もある。学園側としては、可能な限りいい成績を残してもらいたいというのが偽らざる本音だ」
その言葉に一人の男子生徒が、「それ、プレッシャーっすよ……」という呟きを零した。
対抗戦は生徒が主役の祭典だが、政治的な側面があるのは否定しようがない事実だ。
より良い成績を残した学校は、十二校ある国立魔法教育高等学校の中でも強い発言権を得ることができる。その影響力は馬鹿にできない。
「まあ、今気にしても仕方のないことだ。まずはしっかりと学業に取り組むことだな」
宥めるようなメルツェーデスの言葉に、生徒たちは少し落ち着きを取り戻したようだ。代わりに今後の学業に向けて気を引き締めている。
「そもそも対抗戦の出場選手に選ばれるのかもわからんしな」
アレックスは口元を釣り上げ、意地の悪い笑みを浮かべて場を茶化す。
「確かに」
「今気にしても仕方ないことよね」
「まずは選手に選抜されるように頑張らないとな」
アレックスの茶化しが功を奏したのか、少々張り詰めていた場の空気が霧散し、生徒たちは気持ちを切り替えるように言葉を漏らした。
「次へ移動するぞ。静かについて来なさい」
今は授業見学中だ。
工学技術研究の授業は見学内容の一部でしかない。見学はこの後も続く。あまりのんびりしていてはいくら時間があっても足りない。
そもそも見学しているのはA組だけではない。各クラス三十人ずつでA組~H組まであるので、効率良く行わないと時間を無駄に浪費してしまう。
メルツェーデスの案内のもと、次々に授業見学を行っていく。
共通科目である魔法実技を始め、術式研究、剣術指南、医学講座、野外活動指南など、様々な選択科目の授業を見学した。
魔法実技の授業に瞳を輝かせる者もいれば、剣術指南の授業を食い入る目で見つめる者など、各自充実した時間を過ごせたようだ。
一同はA組の教室に戻ると各々席に腰掛けた。
「明日から本格的に授業が始まる。一般科目はもちろん、選択科目の授業も始まるので各自検討しておくように」
魔法師を育成にするのに時間はいくらあっても困らない。むしろ時間は多い方がいい。
入学早々だが選択科目の授業も始まる。あまりのんびりしていられないのが実情だ。各自選択科目の吟味に時間を割く必要がある。
「先程も言ったが、悩んだ場合は一度体験してみるといい。今はなんとも思わなくても、一度授業を受けてみたら興味が湧くこともあるからな」
初めから選択する科目が決まっているのなら別だが、迷っているのなら一度体験してみるのは大事なことだ。何事も経験してみないことにはわからないことだらけだろう。
「相談はいつでも受け付ける。遠慮なく私のもとを訪ねるといい」
そう締め括ったメルツェーデスの号令で、この日は解散となった。
メルツェーデスが退室すると、各自自由に動き始める。
帰り支度をする者、選択科目について話し合う者、クラブ見学に行く者など様々だ。
ジルヴェスターたち一年A組の面々はメルツェーデスの引率のもと、上級生の選択科目の授業風景を見学していた。
一年生が履修する選択科目を選考する上で、少しでも参考になればと学園側が用意している授業見学の時間だ。
一年生と上級生では選択科目の種類に違いはあるが、実際に自分の目で雰囲気を確認しておくのは大事なことだろう。
「この専攻科目は工学技術研究という」
一同はメルツェーデスの説明に耳を傾ける。
現在ジルヴェスターたちが見学しているのは、工学技術研究――通称・工技研――という科目を専攻している二年生の授業だ。
魔法工学に関する科目は他にも複数あるが、工技研は魔法工学技師ライセンスの取得を志す者を対象とした科目である。
「現状魔法師を目指す者に比べて、魔工師を志す者は圧倒的に少ない。諸君には少しでも興味を抱いてもらえると、私個人としても学園側としても嬉しい」
魔工師を志す者は魔法師を志す者に比べると絶対数が圧倒的に少ない。どこか魔法師が主役で、魔工師は脇役といった漠然とした風潮があり、そういった印象を持っている者は多い。
「魔工師を目指す奴の大半はキュース魔法工学院に行くよな。魔工師関連の授業はわざわざランチェスター学園で扱わなくても良くないか?」
メルツェーデスの言葉を聞いて疑問を抱いたアレックスは、呟くようにジルヴェスターに問い掛けた。
魔法師は派手で活躍の場を目撃する機会が多いが、魔工師はあまり表に出てこないので、直接お目にかかる機会が少なく、地味なイメージがあるのは拭い切れない事実だ。
実際に見た上で、凄さのわかりやすい魔法師の方が憧れる子供は多いだろう。対して魔工師は直接お目にかかる機会が少ないのに加えて、一定以上の造詣を有していないと凄さを理解することができない。故に、必然的に魔工師に憧れる子供が少なくなってしまうのだ。
「確かにキュース魔法工学院を選択する者は多いが、魔工師を志す者の絶対数が少ない現状、少しでも魔工師の人数を確保したいんだろう。それに選択肢を増やすこともできるからな」
キュース魔法工学院はウォール・ツヴァイ内の南東に位置し、キュース区に設置されている国内に十二校ある国立魔法教育高等学校の内の一校だ。
キュース区はウォール・ウーノ内の東南東に位置するワンガンク区に次いで工業が盛んな区だ。工場や工房はワンガンク区ほどではないが、販売店はキュース区の方が多い。
そういった経緯でキュース魔法工学院は魔法工学に力を入れており、関連したカリキュラムが多く、魔法工学技師を志している生徒が多く在学している。
キュース魔法工学院だけではなく、他の学校でも魔工師の育成に取り掛かれば、それだけ生徒の将来への裾野を広げることができるのでデメリットはないだろう。
「対抗戦もあるから尚更だ」
「なるほど。確かにそれはあるか」
ジルヴェスターの説明にアレックスは頷いて納得した様子を示す。
対抗戦に出場する選手のMACを調整するのは、技術スタッフとしてチームメンバーに選抜された生徒の役目だ。MACの調整次第で勝敗を分けることもある。学園側としては勝率を上げる為に優れた技術スタッフを育成したいという思惑もあった。
「だから俺たちにこの授業を見学させたんだろう」
ジルヴェスターは学園側の意図を推測する。
「さすがだな。お前の推測通りだ」
ジルヴェスターとアレックスの会話を聞いていたメルツェーデスが、彼の推測を肯定した。
「いえ、少し考えれば自ずとわかることです」
「そうだな。諸君にプレッシャーを与えるわけではないが、対抗戦は政治的な側面もある。学園側としては、可能な限りいい成績を残してもらいたいというのが偽らざる本音だ」
その言葉に一人の男子生徒が、「それ、プレッシャーっすよ……」という呟きを零した。
対抗戦は生徒が主役の祭典だが、政治的な側面があるのは否定しようがない事実だ。
より良い成績を残した学校は、十二校ある国立魔法教育高等学校の中でも強い発言権を得ることができる。その影響力は馬鹿にできない。
「まあ、今気にしても仕方のないことだ。まずはしっかりと学業に取り組むことだな」
宥めるようなメルツェーデスの言葉に、生徒たちは少し落ち着きを取り戻したようだ。代わりに今後の学業に向けて気を引き締めている。
「そもそも対抗戦の出場選手に選ばれるのかもわからんしな」
アレックスは口元を釣り上げ、意地の悪い笑みを浮かべて場を茶化す。
「確かに」
「今気にしても仕方ないことよね」
「まずは選手に選抜されるように頑張らないとな」
アレックスの茶化しが功を奏したのか、少々張り詰めていた場の空気が霧散し、生徒たちは気持ちを切り替えるように言葉を漏らした。
「次へ移動するぞ。静かについて来なさい」
今は授業見学中だ。
工学技術研究の授業は見学内容の一部でしかない。見学はこの後も続く。あまりのんびりしていてはいくら時間があっても足りない。
そもそも見学しているのはA組だけではない。各クラス三十人ずつでA組~H組まであるので、効率良く行わないと時間を無駄に浪費してしまう。
メルツェーデスの案内のもと、次々に授業見学を行っていく。
共通科目である魔法実技を始め、術式研究、剣術指南、医学講座、野外活動指南など、様々な選択科目の授業を見学した。
魔法実技の授業に瞳を輝かせる者もいれば、剣術指南の授業を食い入る目で見つめる者など、各自充実した時間を過ごせたようだ。
一同はA組の教室に戻ると各々席に腰掛けた。
「明日から本格的に授業が始まる。一般科目はもちろん、選択科目の授業も始まるので各自検討しておくように」
魔法師を育成にするのに時間はいくらあっても困らない。むしろ時間は多い方がいい。
入学早々だが選択科目の授業も始まる。あまりのんびりしていられないのが実情だ。各自選択科目の吟味に時間を割く必要がある。
「先程も言ったが、悩んだ場合は一度体験してみるといい。今はなんとも思わなくても、一度授業を受けてみたら興味が湧くこともあるからな」
初めから選択する科目が決まっているのなら別だが、迷っているのなら一度体験してみるのは大事なことだ。何事も経験してみないことにはわからないことだらけだろう。
「相談はいつでも受け付ける。遠慮なく私のもとを訪ねるといい」
そう締め括ったメルツェーデスの号令で、この日は解散となった。
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