最強魔法師の壁内生活

雅鳳飛恋

文字の大きさ
43 / 141
入学編

第42話 襲撃

しおりを挟む
 ◇ ◇ ◇

 一月二十五日――ランチェスター学園は放課後になり、生徒は各自自由に過ごしている。
 そんな中、生徒会室にはクラウディアを始め生徒会のメンバーが集結していた。

「――会長、奴らは本当に来るのでしょうか?」

 自分のデスクの椅子腰掛けている赤みをおびた黄色の髪が特徴の少女が、クラウディアに尋ねる。

「情報源は確かよ。もちろん何事もないのが一番だけれど」
「うぅ。本当に何も起きなければいいのですけど……」

 生徒会長用のデスクに陣取るクラウディアが答えると、茶髪の少女が縮こまって怯えるように呟く。

「まあ、なるようになるでしょ~」
「先輩は気にしなさすぎですぅ」

 脱力感満載のビアンカにツッコミを入れる茶髪の少女。

「クラーラはかわいいなぁ~」

 椅子に座っているクラーラと呼ばれた茶髪の少女のことを、ビアンカは背後から抱き締める。

 クラーラと呼ばれた少女――クラーラ・チョルルカは、生徒会庶務を務めている二年生だ。

 白い肌をしており、茶色の髪は空気感を含んでいて軽やかさのあるナチュラルミディにしている。瞳の色は髪と同じだ。

 白で統一された制服を着こなす姿は清潔感と清楚な印象を周囲に与えており、カーディガンだけ茶色の物を身に付けている。きっと髪の色と合わせているのだろう。

「いずれにしても警戒を怠ることはできないわ」
「そうですね。各自、気を抜かないように注意しましょう」

 クラウディアの言葉に副会長のサラが相槌を打つ。

「カオル先輩には伝えておられるのですか?」
「ええ。昨日の内に伝えてあるわ。ヴェスターゴーア君にもね」
「そうですか」

 赤みをおびた黄色の髪が特徴の少女は納得して頷く。

 風紀委員長であるカオルと、統轄連総長であるオスヴァルドには事前に報告を済ませていた。
 学園の治安維持に関わる問題は、風紀委員と統轄連の職分だ。

「それにしても反魔法主義団体過激派組織ヴァルタンですか……」

 綺麗な姿勢のサラが顎に手を当てて考え込むように呟く。

「わたしはあまり詳しくないのですが、ヴァルタンとはどのような組織なのでしょうか?」

 ビアンカに抱き締められているクラーラが首を傾げて尋ねる。

「私にも教えてください」

 赤みをおびた黄色の髪の少女も教えを乞い、デスクに身を乗り出して耳を傾ける。

「そうですね――」

 後輩二人に向けてサラが説明をする。

「――なるほど。とにかく関わらないに越したことはない連中ということですね」
「ええ。フェアチャイルドさんはもちろん、私たち魔法師には縁のない存在です」
「私の方から遠慮しますよ」

 サラの言葉に、フェアチャイルドと呼ばれた赤みをおびた黄色の髪の少女は肩を竦める。

「情報によれば魔法師も組しているみたいね。全く困ったものだわ」
「魔法師の風上にも置けない愚劣な連中ですね」

 嘆息するクラウディアにフェアチャイルドも同意する。――フェアチャイルドは少々辛辣だが。

「アンジェは手厳しいなぁ~」

 そんなフェアチャイルドのことをビアンカが茶化す。

「仕方ないですよ。会長もフェアチャイルドさんも魔法師としては無視できないことですから」
「まあ、確かにそうだよねぇ~。大変だよね。お嬢様は」

 クラウディアは言うに及ばず、フェアチャイルドも魔法師の名門の家系である。

 アンジェの愛称で呼ばれている少女――アンジェリーナ・フェアチャイルドは、生徒会書記を務めている二年生である。

 白い肌、緑色の瞳、くびれミディにしている赤みをおびた黄色の髪が特徴だ。

 桃色のブラウスの上に紺色のカーディガンと赤色のジャケットを羽織り、灰色のスカートを膝より上の短めにし、黒のオーバーニーソックスを穿いている。スカートとオーバーニーソックスの間に広がる素肌が魅力的で眩しく、異性の視線を釘付けにすること間違いなしである。

 フェアチャイルド家は魔法師界の名門に当たる一族だ。
 ジェニングス家ほどではないが、リリアナの家系であるディンウィディー家や、アレックスの家系であるフィッツジェラルド家などと同等に位置する名門だ。――いや、フェアチャイルド家の方が少し上位かもしれない。

 クラウディア然り、アンジェリーナ然り、魔法師の名門たる家門にとって、反魔法主義者も反魔法主義団体に加担する魔法師も邪魔な存在以外の何者でもない。

 魔法師界の名門として確固たる意志とプライドを持ち、責任を負っている身としては、魔法師ながら反魔法主義団体に組する者など路頭の虫以下の存在だ。

「私たちの苦労を知らずに、未熟な己を受け入れられず、境遇を言い訳にして反魔法主義に成り下がるなど厚顔無恥もはなはだしい限りです」

 アンジェリーナは棘を隠そうともしない口調で辛辣な言葉を吐く。

「アンジェの気持ちは痛いほどわかるけれど、大半の人は私たちが普段どのような生活をしていて、どういった活動をしているのかわからないだろうから多少は仕方ないと思うわ」

 クラウディアはフォローするように言葉を紡ぐが、内心に溜まった吐きどころのない複雑な感情が滲み出ている。

「――とはいえ、反魔法主義団体に加担するような者は、決して許すことも見逃すこともできないわ」

 非魔法師の反魔法主義者も無視できないが、クラウディアは一魔法師として、魔法師界の名門の一門として、魔法師でありながら反魔法主義に成り下がる者の方が白い目を向けざるを得なかった。感情的にも立場的にもだ。

「まあ、今は反魔法主義者について議論しても仕方ないわね。私たち学生にどうこうできることではないもの」
「そうだねぇ~。クラウディアやアンジェはともかく、私たち一般人にはどうしようもないことだし」

 クラウディアの言葉にビアンカが乗っかる。

 クラウディアやアンジェリーナは魔法師界の名門として他人事ではないし、影響力や発言力もある。関わりたくなくても関わらざるを得ないだろう。

 しかし、ビアンカ、サラ、クラーラなどは魔法師なので全く関係ないとまでは言わないが、彼女たちは一般的な魔法師の家庭の出なので別世界の話に等しい。影響力も発言力もなければ、直接関わりようのない立場なのだ。

「そうですね。今大事なのは目先に迫ったヴァルタンの対応です」

 サラが話題を軌道修正する。

「ヴェスターゴーア君に伝えて、各クラブはなるべく早く切り上げるようにお願いしてあるわ」

 既にクラウディアが対応済であった。

「学園内に散らばるより、寮で固まっていた方が守りやすいもんねぇ~」

 ビアンカの言う通り、生徒があっちこっちに散らばっているよりも、寮に集まってくれた方が守りやすい。寮には寮監もいるので尚更だ。

「――先輩、いい加減離してくださいぃ~」
「ダメ」
「うぅ」

 ビアンカに抱き締められているクラーラが懇願するが、ビアンカは断固として拒否する。ビアンカの表情は脱力感満載だったとは思えないほど真剣だ。

「ふふ。風紀委員には学園を見回りしてもらっているわ」

 ビアンカとクラーラのやり取りになごんだクラウディアは笑みを零すが、しっかりと伝えるべきことを説明する。

「町の方はどうしていますか?」

 アンジェリーナが尋ねる。

「統轄連と協力して町の方も見回りしてもらっているわ。ただ、学園の防衛が最優先なので町の方の人員は少ないわね」
「それは仕方ないですね」

 クラウディアがそう答えると、アンジェリーナは肩を竦めた。

「残念ながら今は学園長がおられません。なので、学園長に頼ることなく対応せざるを得ないわ」
「本日学園長は対抗戦についての会議で魔法協会本部へ赴いています」

 クラウディアの説明をサラが間髪入れずに補足する。阿吽の呼吸だ。

 ランチェスター学園から、魔法協会本部があるセントラル区までは鉄道での移動になる。そう簡単に戻って来られる距離ではない。
 学園長であるレティの手を当てにしない方が賢明だろう。

(正直、がおられる限り何も心配はいらないと思いますが、わざわざ手を煩わせるわけにはいきませんからね。私たちで可能な限り対処しましょう)

 クラウディアは内心で思っていることを決して口にはしない。
 油断されても困るからだ。しっかりと気を引き締めて、自分たちの手で局面を乗り越えなければ成長に繋がらない。

「会長、生徒には伝えなくてよろしいのでしょうか?」

 クラーラがビアンカの腕の中から質問する。

「ええ。余計な混乱を招くわけにはいかないもの」
「そうですね」

 反魔法主義団体ヴァルタンがランチェスター学園への襲撃を企てていると生徒たちに伝えても、余計な混乱を招くだけだ。何事も知らない方がいいことはある。

「先生方には学園長から伝えられているはずよ」

 生徒を守るのは教師の務めだ。
 教師陣には朝の段階でレティから伝えられていた。

「各自MACを常備の上、万全の状態で備えておくようにね」

 クラウディアの言葉に全員が頷いて各自MACの確認をする。

「さて、警戒するあまり仕事を怠るわけにはいかないわ。警戒は風紀委員と統轄連に任せて、私たちはいつも通りの仕事をしましょう」

 クラウディアの言う通り普段の仕事を怠っていいわけではない。仕事は待ってくれないのだ。

 その後は彼女の号令の下、各自各々の仕事に取り掛かるのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

湖畔の賢者

そらまめ
ファンタジー
 秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。  ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。  彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。 「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」  そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。  楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。  目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。  そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。

主人公に殺されるゲームの中ボスに転生した僕は主人公とは関わらず、自身の闇落ちフラグは叩き折って平穏に勝ち組貴族ライフを満喫したいと思います

リヒト
ファンタジー
 不幸な事故の結果、死んでしまった少年、秋谷和人が転生したのは闇落ちし、ゲームの中ボスとして主人公の前に立ちふさがる貴族の子であるアレス・フォーエンス!?   「いや、本来あるべき未来のために死ぬとかごめんだから」  ゲームの中ボスであり、最終的には主人公によって殺されてしまうキャラに生まれ変わった彼であるが、ゲームのストーリーにおける闇落ちの運命を受け入れず、たとえ本来あるべき未来を捻じ曲げてても自身の未来を変えることを決意する。    何の対策もしなければ闇落ちし、主人公に殺されるという未来が待ち受けているようなキャラではあるが、それさえなければ生まれながらの勝ち組たる権力者にして金持ちたる貴族の子である。  生まれながらにして自分の人生が苦労なく楽しく暮らせることが確定している転生先である。なんとしてでも自身の闇落ちをフラグを折るしかないだろう。  果たしてアレスは自身の闇落ちフラグを折り、自身の未来を変えることが出来るのか!? 「欲張らず、謙虚に……だが、平穏で楽しい最高の暮らしを!」  そして、アレスは自身の望む平穏ライフを手にすることが出来るのか!?    自身の未来を変えようと奮起する少年の異世界転生譚が今始まる!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...