ビリーと私のオーストラリアDiary

Kaede

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春の訪れ

ケビン

私は次の日の午前中、3つのランチを持って病院に行った。ビリーの分とリアムの分と、それとアダムの分。中身はチキンとバジルのマヨネーズ和えにバルサミコ酢で味付けしたニンジンを入れたサンドイッチ。左手が不自由で作るのはちょっと大変だったけど、ニンジンは朝にビリーが切っていってくれた。
「アダムも食べるかな?」って言ったら「喜ぶと思うから朝に言っておく。」ってビリーは言ってた。
リアムは「ああ、カエ、ビリーから聞いたよ。大変だったね。頭の方はもう大丈夫なの?」って聞いてきた。心なしかちょっと痩せたみたいだった。多分、デビーが美味しいお料理を作ってくれなくなったから。
「うん、めまいが1週間続いて大変だったけど、ビリーがすごく面倒を見てくれて・・・。」
「ビリーはまた風邪でもひいたの?昨日ちょっと話したときに咳してて、また喘息かと思って。聞こうとしたときに呼び出されて聞けなかったんだけど、気になってた。」
「うん、気管支炎らしいんだけど。最初はまた喘息になるかと思って心配したけど、今回は大丈夫そう。多分私の面倒を見にお昼休みに帰ってきたりしてて疲れが溜まったんじゃないかな。なんか、かわいそうなことをした気がして。」
「「愛」だな。」リアムは笑った。「で、手首の方は大丈夫そうだよ。そのままあと2週間くらい固定して、あとはサポーターでもつけてゆっくりリハビリしていこう。手術とかは必要ない。全治3か月くらいかな。」
「リアム・・・デビーとのこと、残念だったね。昨日ビリーから聞いたの。」
「ああ、なんか将来を考え始めた矢先のことで、ショックで。新しいシェアメイトとも上手くいっていなかったし、学校も期待通りじゃなかったみたいで。俺が相談にのってあげる時間がなかったのも事実だから、後悔はしてる。」
「寂しかった、のかな。」
「たぶんね。」
「今度ね、リアムを慰めるパーティーをやろうって言ってたの。どう?気晴らしに。」
「ああ、楽しみにしてる。ビリーに連絡させて。」
「うん。あと、これね、お昼作ってきたの。デビーの代わりにはならないだろうけど、良かったら食べて。」
「うわー、嬉しいな。ビリーはやきもちやかない?ありがとう!」
帰りに寄った内科は混んでいてとても忙しそうだったから、通りかかった看護婦さんにサンドイッチを預けてきた。
「ビリーに渡せば分かるはずです。」って言って。とても優しそうな看護婦さんで、「本人を呼び出してあげるわよ。」って言われたけど忙しい時に呼び出すまででもないと思ったから「いいです。」って言ってきた。私はボーイフレンドの職場にまで押しかけて何かするような方ではないし、ビリーの負担にもなりたくないから。ビリーを密かに支える影のような存在でいたいと思っている。一時間後、ビリーからは「遠慮しないで呼び出してもらえば良かったのに。アダムも喜んでる。ありがとう!」ってメールが来てたけど。

そして、その日の午後、翻訳のウェブサイトに登録した。日本語と英語の翻訳。新しい第一歩。
登録したあとの適性試験にも合格して、後は仕事の依頼を待つだけ。登録者はいっぱいいるんだろうし、どのくらいの頻度で仕事があるのかも分からないけれど、アシュリーは「働ける時間がある時だけやればいいって聞いたの。」って言っていた。実際、その通りで実際に始めてみたら依頼がメール出来て、できる人が応募するようなシステムだった。私はさっそく履歴書の翻訳を引き受けた。日本の会社で働き始めるオーストラリア人の男性の履歴書。緊張したけれど完璧に訳せた自信はあった。

次の週、私は初めてケビンに会った。語学学校の新人講師。中肉中背で、感じの良いアメリカ人。同じ年で、最初から仲良くなった。
「初めまして。ケビンだ。」
「初めまして。楓だけど、みんなカエって呼んでる。よろしくね。」
「こっちで育ったの?英語が上手いね。」
「ううん、日本で育ったの。ここではパートタイムで週に何回か働いてて、普段は学校に行ってる。ケビンはアメリカのどこ出身?」
「マサチューセッツなんだ。プロビンスタウン。ケープコッド。知ってる?」
「あー、なんか聞いた事ある。保養地か何か?」
「そうそう。よく知ってるね。アメリカに行ったことある?」
「あー、ないかな。実はね、イギリス派だから。イギリスには行ったことあるけど、アメリカにはないかな。」
「なんだ、がっかりだな!」ケビンは笑ってた。
「ケビンはなんでオーストラリアに来たの?」
「ちょっと言い方は変だけどーーアメリカ社会に疲れた。のんびり外の世界を見てみたくなったんだよ。わかる?」
「分かる。私も日本社会にうんざりしてここに来たから。」私たちは笑った。
「ねえねえ、ケビンが来たから明日、ちょっと早めのハロウィンパーティーやろうって言ってたの。まあ、パブで飲み会ってこと。歓迎のね。講師たちで。カエも来ない?」ターニャが聞いてきた。
「行く!」私は言った。

その日帰ってからビリーは「サンドイッチありがとう。カエに会えなかったのが残念だった。」って言ってくれた。夕食のテイクアウトの中華料理を食べながら。
「内科、すごい混んでたでしょ。だから、邪魔かなって思った。」
「ああ、でもいつもあんな感じだし、待ってたのに。」
「そう?じゃあ、もしまたがあったら、ね。どこかに受け取りにきて。」
「あ、アダムも美味しいって食べてた。アダムはカエの作る料理の味が好きだってーー俺もだけどーー。「ビリーと別れたら俺の嫁に」とか言うから足踏んでやった。」ビリーは笑いながら喋った。
「あははは!そうだ、語学学校に新しい講師が来たの。言ったっけ?」
「ううん。聞いてない気がする。男?」
「うん。ケビンっていう、アメリカ人。何?男の人か気になるの?」私はからかうように言った。
「いやーーそうじゃないけど。どんな人かなと思って。」
「私と同じ年で、「アメリカ社会にうんざりしてオーストラリアに来た」って言うの。」
「へえ。いろんな人がいるね。」そう言いながらビリーゴマ団子を一口で食べた。私の視線に気がついて言った。「何?」
「え?いや、ビリーが大きく一口で食べるのが前から大好きで。いつまでもモグモグしてるのがかわいくて。それで見ちゃった。」
ビリーは照れてるみたいだった。
「あ、とにかくそれでね、明日歓迎会やるっていうから、行ってくる。夜は好きに食べて。」
「分かった。帰り迎えに行くよ。ほらーーまだ怖いだろうから。」
「本当?嬉しいな。スティーブンが乗せてくれるなら頼むけど、もしダメだったらお願い。」
「任せて。」
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