ビリーと私のオーストラリアDiary

Kaede

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失望と支え

支えあい

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ビリーと一緒にベッドに入った後、ビリーはすぐに寝息を立て始めて、私も割とすぐに寝たんだと思う。でも、怖い夢を見て起きた。ビリーの手の関節が私の手の下でボキッていう感触を私が感じて、それを何回も繰り返す夢を。はっと目を開けると寝室の窓の外には満月が見えていて、ベッドの脇の時計はまだ日付が変わる前の11時30分過ぎだった。心臓がドキドキしていて、それに合わせて傷口もズキズキしていてーー。ビリーがケガしている事を忘れてうっかり無意識にビリーの手を探したらーーちょうど左手に当たってしまって、ビリーはビクッとして「ああ・・・」って言った。
「ごめん、ビリー、痛かった?」私は囁いた。
「うん、ちょっとーーー」
それからはビリーも多分眠れなかったんだと思う。何回も寝返りを打って、ため息をついていたから。
それでも朝は来て、アダムが6時過ぎに起きる音がするとビリーもベッドから出てシャワーを浴びに行った。私はベッドの中でうずくまっていた。顎が熱を持っている感じで痛くて。ちょっと涙を流した。
私が7時過ぎにキッチンに行った時ビリーはテーブルに座っていて、ちょっと具合が悪そうな顔をしていた。
「カエ、おはよう。どう?大丈夫?」アダムが聞いた。
「ーー痛くて眠れなかった。」私はまたちょっと泣いた。
「二人とも大変だな。ビリーもあまり眠れなかったって言って酷い顔してる。」アダムは言った。
「まあ、こういう時もあるよ、仕方ない。」ビリーは言った。
アダムは自分とビリーには買ってあったイングリッシュマフィンにチーズを挟んで焼いて、それに「昨日カエの体温で溶けたから」って言って大量のグリーンピースを一緒に盛っていて、ビリーは呆れ返っていた。私には食べやすいようにスクランブルエッグを少しと食べやすく潰したグリーンピースとカウンターに置いてあったキウイフルーツを切ってくれた。
「カエ、少しでいいから食べて。そしてまた鎮痛剤を飲むといいよ。」ビリーは言った。
私は痛くない方の歯でゆっくり噛みながら時間をかけて食べた。
ビリーも目をこすりながら美味しくなさそうに食べていてーーそれを見たアダムは「引越しは予定通りやるの?」って聞いた。
「うん、やりたいと思ってる。9月になるとノエルの所の子供がいつ生まれるか分からないし、その後日本に行ったりもしたいし、申し訳ないけどみんなに手伝ってもらってやりたいと思ってる。」ビリーは言った。
「俺を使自分は椅子に座ってコーヒーでも飲む気?」アダムは笑いながら聞いた。
「そうそう。よく分かるね。」ビリーもちょっと笑った。
「いいよ。それでも。その手でどうするんだろうな、って思っただけ。箱詰めとかも手伝うから言ってよ。」アダムは言った。
「ジェイミーによろしく言っておいて。」私は言った。
「ああ、うん。分かった。」アダムは頷いた。
「本はどうだった?」ビリーが聞いた。
「昨日夜中まで読んで読み終わった。なんていうか、アメリカの闇は深いなって思った。でも、アメリカだけじゃない。この国だってそうだし、カエ、日本だってそうだと思うけど、貧富の差が広がって貧しい人たちは何も変わらないと思って人生を諦める。教養もないから負の連鎖から抜け出せない。他人や社会の仕組みを非難するだけで変えるパワーがないっていうのかな?でも、ヴァンスは成功を掴んだ。周りの人との良いつながりがあったし、自分の生まれた環境に負けないで努力したからだよ。その点だけはすごいと思う。俺も、自分の過去から抜けさせるようにちょっと頑張ってみようかな、って思った。そして、もっと周りの人たちを大事にしたいって。まあ、それだけ。ごめん、語った。」アダムは照れ笑いををしてコーヒーをガブガブ飲んでーー「ビリー、全然話は違うけど、いらない下着とトレーナーとかある?引越し作業に着ていって捨てられるようなやつ。朝になって気がついたけど、いきなり泊まったから。まさかスクラブで行くわけにもいかないし。」って言った。
「ああ、がある。冬に泊まる時ように置いてあるけど、着てるの見た事ないし、どうせ引越しの時に捨てようと思ってたから持って行っていいよ。ダサいミッキーマウスの絵がかいたやつだけど。どう?下着は俺のを。どうせサイズ同じだし。」ビリーは言った。
「やだ、キモい。」私はつい口走った。
二人は笑って、ビリーは「まあね。確かにキモい。でも、二日同じパンツ履くより良くない?」って言った。
「俺はカエにキモいって言われたのがショックだな。ーーでも借りてくよ、ビリー、いい?」アダムは言った。
「うん、好きにして。」ビリーは言った。
アダムが出かけたあと、私はその後また鎮痛剤を飲んでベッドに戻った。ビリーは「11時前に病院に行こう。起こしてあげるから、休んでてもいいよ。」って言ってくれた。
そして、その言葉通り、ビリーは10時30分過ぎに起こしに来てくれて、「昨日の事が本当に恥ずかしくてたまらない。」って言いながらもちゃんとこの日も診察室までついて行ってくれた。
ジョンは「まあ、順調そうだね。痛いうちは学校や仕事も無理はしない方がいい。痛くなったりしなければ次は土曜日でいいよ、」って。私は顔が赤くなった。
その後家に帰って、ビリーは昼食を作ってくれた。シロップがたっぷりかかったパンケーキを。
「ごめん、俺は手が痛くてナイフで切るのが厳しいから自分で一口サイズに切ってゆっくり食べるといいよ。」って。シロップで柔らかくなっていて食べやすくて、少し元気が出た気がした。
昼食後はまた二人揃って鎮痛剤を飲んで、午後はソファに座って引越し前に買っておきたい家具を話し合った。
私はこの週の中頃から学校の冬休みが一週間だけあって、そのあたりに家具を買いに行きたいねっていう話をしていたから。
「この前話したキングサイズのベッドと、あともう一つ、ロフトに置くベッドを買いたいな。今、俺たちが使ってるベッドは古いから処分しようかな。そして、もう一つのベッドを客間に置く。」ビリーが言った。
「うん、あとーー観葉植物の木を2つくらいと、仕事部屋にソファも欲しいな。サイドテーブルと。どう?」
「俺も家じゃ大した仕事はしないけど、小さなデスクが欲しいな。あとはフロアランプをいくつかとそうだな、照明器具も買わないとーー」ビリーはメモを取りながら「大忙しだね。
」って言った。
「カーテンとカーペットも。」
「ああ、それもだね。」ビリーは頷きながら書いた。
「あとね、ビリー、フライパンとかのキッチン用品も少し買い足したいかな。お皿とかも。」
ビリーは私を見て笑って「いいね。」って嬉しそうに言った。
「いつ買いに行ける?」私は聞いた。
「金曜日はどう?土曜日当直だから、金曜日は休みだし。あと残りの物は日曜日かな。」
「分かった。ーー手術はいつなの?」
「仕事次第だけど、一応は明日の3時ってリアムとは話してた。急患とかが多くなければ、ね。1時間ちょっとくらいって話だから、終わったらもうそのまま帰る。」
「ドキドキする?怖い?」私はビリーの肩に手を回した。
「まあ、怖くないって言ったら嘘になる。初めてだし、リアムは「切開して整復してからドリルで穴をあけてピンで固定する」って言っててーー話を聞いた時は動揺した。リアムに心配されるくらい。今も話すと怖くなって来る。」ビリー苦笑いをして、「カエが小指をやったよりちょっとだけ大掛かりな感じかな?リアムは一週間は相当痛いって言ってたから、覚悟しなきゃ。薬もあまり強いのは飲みたくはないから、楽しいことをして気を紛らわせるしかないかな。またキツいリハビリ生活かと思うと本当気が重い。手も足もこんなで本当情けないし。ーー嫌になる。」
私は頷いて「明日、病院に行ってあげようか?手術の時。不安でしょ?」って聞いた。そうして欲しいから。ビリーにしては珍しく怖がってるだって思ったから。そういう時こそ傍にいて支えてあげたいって思ったから。
「いいよ、から見せられないし。」ビリーはちょっと笑った。
「ううん、。待合室で待ってるからーー。どう?」
私は少し笑ってーー傷が痛くて顔をしかめた。
ビリーは私の目を見て痛い方の顎に優しく手を当てて「じゃあお願いしようかな。」って微笑んで、本当に軽く私の唇の上にキスをして「これ以上は抜糸までやめておく。」って言った。
そして立ち上がると「今のうちに買い物行ってこようかな。アダムがなんだかんだ食べて行ったっぽいから手術前に冷蔵庫いっぱいにしておかないと。何か食べたいのある?」って聞いた。
「ーーマッシュポテト。」私は言った。
「了解。」ビリーは笑った。
「ビリー?」
ビリーは振り向いた。「何?」
「ーー愛してる。気をつけてね。」
ビリーは頷いて「俺も愛してる。」って言って出て行った。
私はそれからソファでうたた寝をしてしまってーー起きたら私の上にはブランケットがかけられていてビリーは隣でアダムが置いて行った「ヒルビリー・エレジー」を読んでいた。
私を見ると「ああ、起きたか。大丈夫?帰ってきたら寝てるから心配した。」って聞いた。
私は頷いて「ーーピークは越えたかな?なんかズキズキ感が少し弱くなった気がする。」って言った。
「夜は何食べる?俺はにステーキ買ってきたけどーーカエはマッシュポテトと野菜スープとかでいい?」
私は頷いて、「一切れだけちょうだい。」って言った。
ビリーは嬉しそうに「いいよ。ーーじゃあ作るかな。」って言ってーーその日は一緒に夕食を作った。一緒に作るなんてーー初めてに近いくらい久しぶりで楽しかった。ビリーも不安でいっぱいなはずなのにいっぱい笑っていてーーまるで笑えば恐怖が消えていくかのようにーーでいようと努力してくれてるんだなって思った。私を心配させないために。ビリーは、私を笑顔にするためならどんなことだってしてくれるし、もっと甘えてもいいんだって思った。どんなに痛くて苦しい時でも私のためになら何でもしてくれるって。私も、ビリーを最優先に考えてこれからビリーを支えていかなきゃって思った。そう思いながら、ビリーにステーキを切ってあげた。
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