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苦しみの果てに
新たな友人
金曜日の朝、ビリーは朝にスムージーを作って持って来てくれた。クラリッサのレシピの、美味しいやつを。
そして、トイレから戻った後に、こっそり瓶に入った毛虫をポケットから出しながら輝く目で「アダムは今日は病棟勤務だからナースステーションにあとでこっそり放してくる。」って言った。
「ビリー、逃してって言ったのに!」私は怒った。
「いいじゃん、ちょっとぐらい楽しんだって。どう?痛みは。」ビリーは聞いた。
「夜中に痛くて目が覚めてーー鎮痛剤もらっちゃった。」私は言った。
「遠慮しないでもらうといいよ。大丈夫だから。」そう言ってビリーが私の額にキスをした時に、リアムが見たことがない長身で茶色の髪を短く切りそろえたなかなかハンサムな30代前半くらいのお医者さんを連れて来て「ああ、ビリーも来てた?ちょうどよかった。俺の後任のジョシュ・ウェルズ。ジョシュ、俺の友人で内科のアダムス先生ともうすぐ奥さんになる楓。奥さんは日本人で、まあ、夫婦揃って常連だから。覚えておいた方がいい。」って言った。
ジョシュは感じのいい微笑みを見せて「よろしく。」って言った。
ビリーも立ち上がって挨拶をして「あれ、リアムは今日が最終日?」って聞いた。
「うん、昨日タスマニアから帰って来た。ようやくいい家が見つかって。」リアムは言った。
「住居探しに行ってたの?」私は聞いた。
「うん。実家に住んでもいいんだけど、親と一緒にいるのもどうかな、って思って。実家の近くで家を探し始めたらそれがなかなか見つからなくて、ちょっと有休を消化して長居してきた。ーー寂しくなるな。今日で終わりだなんて。まあ、一応半年で戻ってくる予定だから。で、今日はコリンもフレッドも遅番だから今、紹介ついでに二人で回診してた。コリンから話を聞いたよ。もう頻繁すぎて驚きもしないけど。」リアムは笑いながら言った。
ビリーはここで「ごめん、リアム、俺も出勤しないと。夕方に花束の贈呈式があるって?俺も行くから。ーーカエ、またお昼に来るから。」って言って病室を出ていった。
リアムは熱を測りながら「36.8。ーーいいんじゃない?昨日熱が出てたって話だったけど、下がったみたいでよかったね。」って言って、私は「シャワー浴びれる?」って聞いた。
「それはコリンの判断だからもうちょっと待ってて。じゃあ、ジョシュ、傷を見て包帯を変えよう。ーーカエは見た?傷跡。」リアムは聞いた。
「まだ見てない。怖くって。」私は言った。
ジョシュは包帯を取りながら「それにしてもロビンソン先生はギプス使わなかったんだね?そういう方針?」ってリアムに聞いて、リアムは頷いて「ロビンソン先生の、ね。なかなか優秀だよ。それでしっかり治してるから大丈夫。手術も上手いし、リハビリも知識あるし。」って言った。そして、ウェルズ先生は「ほら、見てみて。まだ痛々しいけど。」って言ってーー私はこの時初めてケガをした足首を見た。まだかなり腫れていて、踝のあたりに縦に骨が出てた跡かなって思える7、8センチの痣と傷があって、控えめに言ってもグロくてちょっと気持ち悪くなった。
それを感じ取ったのかジョシュは「女の子にはちょっとキツイかな?」って爽やかに笑って、傷をガーゼで覆ってからまた包帯とサポーターを巻いてくれた。
リアムはその間「ハネムーンは?楽しかった?」って聞いた。
私はちょっと咳き込みながら「うん、最高に楽しかった。帰って来た途端これだもん。本当情けなくて。」私は言った。
「あれ、いつ結婚式?」ジョシュが聞いた。
「来週の土曜日。」私は言った。
ジョシュは口パクで「オーマイゴッド!」って言いながら笑って「それはーー気の毒だな。」って言った。
私は頷いて、リアムは「ビリーが一人で連れて行くって?」って聞いた。
「ううん、ライルが一緒に来てくれるって。」私は言った。
「ああ、じゃあ良かったね。一安心かな。後でまた誰か来るから。カルテ見るとさっそくマッサージとか始めてるもんね。慎重な俺とは大違いで笑っちゃうけど、まあ、いいんじゃない?体調は?悪くない?」リアムが聞いた。
「うん、喉の腫れもちょっと良くなって来た気がする。さっきビリーがまたスプレーしていってくれたから。」私は言った。
「うん、まあ、大事にしてね。」リアムはそう言ってジョシュと病室を出ていった。
その後は点滴をしに来たデヴィン以外は誰もお昼までこなくて、私は翻訳の仕事を仕上げてライルに送信した。
「熱が下がった感じだよ。ビリーはまた庭から毛虫を持って来てて、呆れちゃう。」って。
ライルからはすぐに返信が来て「まだ仕事してないかと思ったから驚いた。さすがだね。無理しなくていいから、本当に。ゆっくりやって。」って書いてあった。
そして、お昼にベーグルサンドを買ってアダムと病室に来たビリーの表情は暗くて、私は「どうかした?」って聞いた。
「ーー毛虫を放したら、アダムより先にエマーソンが見つけて今犯人探ししてるって。8Fまで自然に侵入するはずがない!って。」ビリーが言った。
アダムは笑って「自業自得じゃん。黙ってれば誰も分からないよ。お見舞いの人とか業者とかの靴についてきたかもしれないし、いくらでも説明のしようがあると思うけど。っていうか、酷いよね。本来なら俺がチクってやってもいいんだけど、まあ、ビリーだから。良かった、俺が発見者じゃなくて。」って言った。
ビリーは「まあね。俺が毛虫好きなの知ってるのってアダムとジェイくらいだから。まあ、虫繋がりでスズメバチをみたテッドとかも疑うかもしれないけど、今は自分の性病で頭がいっぱいだろうし。おっ、そう考えたらちょっと元気になってきた。」ってベーグルを一口食べた。
「ビリー、それ一口と私のゼリーを交換しない?」私は言った。
「やだ。風邪引きだから。」ビリーは言って、アダムは横で笑った。
「ふん、この前キスしたくせに。」私は拗ねた。
「あれはあとで後悔した。ヤバいと思って、うがいするまで唾を飲み込まなかった。でも、声はまだすごいけど咳は減ったんじゃない?」ビリーが言った。
「うん、ちょっと出るけどね。喉が軽くなったっていうか。ジェイが出す薬って効く気がする。アダムは?私のゼリーとベーグル一口交換しない?」私は言った。
「ごめん、俺も風邪引きたくないから。サンドイッチならあげられるけどね。ーーっていうかすごい夫婦だよね?二人して人の弱みにつけこんで人が食べているものを奪って。ロクでもない子供が育ちそう。」アダムが言った。
「俺が子供の時はノエルは何を交換しようって言ってもしてくれなかった。俺のプラレールとノエルのビデオゲームを1日だけ交換しようって言っても「絶対嫌だ!」って。ザンダーはかわいいけどノエルみたいに育つよ、きっと。まあ、アンナの力量次第かな。でも、俺とカエの子供は、人と喜んで交換する子供にしたい。人に分け与えるのを嫌がらない子に。いいよ、カエ、ほら。」ビリーはそう言うとベーグルを汚くちぎって、私にくれた。
「ありがとう。」私は笑ってベーグルを口に入れて「ーートイレ行ってないよね?」って聞いた。
「さっき寄って来た。あれ、手洗いしたかな?」ビリーは惚けて、私はビリーの肩を叩いて笑った。
アダムは笑いながら「俺の姉は交換を嫌がるどころかいつも俺から奪ってた。俺が大好きなチョコレートバーを食べてると、横から奪って「アダム!取れるならとってみな!」って。信じられないよね?今は俺の方が強いけど。この前電話がきて、二人目ができたんだって。ジェームズ以来すぐできなかったからちょっと予想外で。」って言った。
「へえ、おめでとう。楽しみだね?」私は言った。
アダムは頷いて、「まあね。」って言った。
「いつ生まれるの?」ビリーは聞いた。
「10月。」アダムが言った。
「叔父さんと一緒だね。すごい。」私は言った。
そこにフレッドが来てビリー達を見ると「ああっ!食事中?また出直すーー」って言った。
アダムは立ち上がると「終わったところだから大丈夫。カエのトレーも俺が下げるから。何、回診?」って聞いた。
「リハビリのマッサージに。ロビンソン先生はブキャナン先生の離任準備で忙しいから、その時に来るって言ってた。」フレッドは言った。
ビリーは頷いて「俺たちも連絡もらって行くことにしてる。午後に時間見て吸入させにくるから。今日まででいいかな?だいぶ良さそうだから。じゃあ、カエ、後でね。」って言ってアダムと病室を出ていった。
フレッドは椅子に座って私の右足の指をまた動かしながら「新しい先生に会った?」って聞いた。
「うん、朝にリアムが紹介してくれた。」私は言った。
「シドニーから来たんだって。カッコよくて看護師がキャーキャー言ってる。」フレッドは笑った。
私はちょっと笑って「確かに。モテそうだもんね。」私は言った。
「アダムス先生には負けるけどね。」フレッドはそう言って「楓はどこの出身?東京?」って聞いた。
「出身はね、北海道なの。ほら日本の一番北のーー」私が言うとフレッドは「ああ、ニセコ?」って聞いた。
「うん、ニセコがある所ね。」私は頷いて「高校からは東京で、今両親は東京の近くの横浜ってところにいるんだけど。フレッドは?」って聞いた。
「俺はケアンズ。メルボルンに来たのはいいけど、ホント友達いない。毎日家と病院の往復で終わってるし。楓は、仕事は?」フレッドは言った。
私はテーブルの上に乗ったパソコンと本を指さして「語学学校の事務もしてるんだけど、翻訳の仕事してるの。」って言った。
フレッドは笑って「ああ、なるほど。その英語力だと納得だよね。ロビンソン先生に「楓はこっちで生まれた人?」って聞いちゃったもん。そしたら「いや、日本のはず。」って言ってたから。」って言った。
「ーー覚えてる?私の友達を私とビリーが救急センターに連れて来た時のこと。」私は聞いた。
フレッドは「もちろん。」って頷いた。
「あの子がーー愛ちゃんがーーホストファミリーの家を出て引越しするって言うから手伝いに行ってたの。それで、持ってた段ボールに足を引っ掛けて階段から落ちた。痛すぎて自分の足がどうなってるかなんて見なかったけど、愛ちゃんは大泣きしてた。私が傷つけちゃったかなって思ってすごく気になってるの。あの後ボーイフレンドも出来てせっかくの新しいスタートを切ろうとしていたのに、台無しにしちゃったかなって思って。連絡もないし。」私は言った。
フレッドは手を止めて「きっとすごく心配してると思う。ーー俺ならそうだから。ショッキングな場面を見て動揺したのは事実だと思うけど、そのショックから立ち直らせてあげられるのも楓なんだと思う。連絡してみたら?喜んでお見舞いに来てくれるんじゃない?」って言った。
私はきっとこの「連絡してみたら?」の一言を誰かに言われるのを待っていてーーそれを期待してフレッドに愛ちゃんの話をしたんじゃないかと自分でも思った。背中を押してくれる誰かのこの一言が欲しくて。
私は、「フレッド、友達はみんな私を「カエ」って呼んでるの。良かったらどう?」って言った。
フレッドは立ち上がりながら笑って「男女の友情?いいね、最高だよ。ありがとう、カエ。」って言った。
フレッドが仕事に戻って私は自動車販売会のチラシの仕事をして、ビリーが来たのは3時ごろだった。
ビリーは私の喉を覗き込んで「ああーーまだちょっと赤いけどいいんじゃない?吸入は今日で終了。薬はあと2日くらいかな?あとはスプレーで。」って言って私の口に吸入器を入れて隣の椅子に座った。
私は吸入をとって「手洗ったよね?」って聞いた。
ビリーは「カエ!ちゃんと吸って!ーーどうだったかな?忘れた。」ってまた惚けた。
「ビリーったら!」って私はまた喋って、ビリーは「ほら!いいから!」って笑った。
そのあとはビリーに見つめられながら黙って吸っていると、ビリーは「黙って聞いて。ジェームズからメールが来てた。披露宴のテーブルクロスの色とかナプキンの色とかの最終確認。あとでカエのパソコンのアドレスに転送しておくから見てみて。ちゃんと車椅子で移動できるように段差もなくしてもらったし、立たないといけない時に立ちやすいように柔らかいクッションも用意してくれるって。本当にみんなに支えてもらってるよね?ライルに今日確認してホテルももう1泊予約したし、あとは行くだけだよ。やっと夫婦になれる。今から興奮してる。」って言った。
私は「私もだよ。ビリーとーー」って言いかけたら、ビリーは「カエ!本当に言うこと聞かないんだから!ちゃんと吸って!」って笑って「あー、本当かわいい。ジェイも「相当言うこと聞かないよね?」って笑ってた。ほら、終わったかな?トイレは?行っておく?」って聞いた。
「うん。行っておく。」私はゆっくり立ち上がってビリーにつかまって、トイレに行って、手を洗ったあとでビリーに抱きついた。
ビリーは「おっ。」って言って笑って優しく痛くないように抱きしめてくれて、私は「昨日ね、ビリーが帰ってからちょっと弱気になって泣いちゃった。コリンが慰めてくれたけど、一番の慰めはあのゾウさんだった。ビリーの匂いがするんだもん。もうーービリーの匂いで安心するようになっちゃってる。これがないと生きていけない、って思っちゃうくらい。ありがとう、あれを持って来てくれて。ゾウさんを見る度に、頑張って耐えないとって強くなれる。愛してる。」って言った。何日もしていないかったせいかビリーは勃起していてーー私とビリーは同時に「ーーチロチローー」って言いかけた時にコリンが「カエ?トイレ?」って言って病室に入ってくる音がして、ビリーは「おっ!ヤバい。カエ、先に行って。」って焦って、私は仕方がなく松葉杖と壁に掴まりながらトイレから出た。
私を見るとコリンは「本当ふざけるなよ、一人で行くなって言ったのに!」って怒った。私は頭がパニックになって「ううん、違うの。ビリーが一緒に行ってくれたんだけど、そのーー的を外して今拭いてくれてた。」って言った。
コリンはポカーンとして、「ビリー?いる?」って呼びかけた。
ビリーはトイレの中から「いる。今、掃除してたから。ごめん、カエを一人で歩かせて。」って言った。
コリンは笑って「ーービックリした。怒鳴ってごめん。ほら、車椅子に乗って、ブキャナン先生を見送りに行こう。ーーところで、どうすれば女性が的を外すの?」って聞いた。
「ちょっとーー間に合わなくて。」私は座らせてもらいながら言った。
そこにビリーが赤い顔をして出て来て「行こうか?」って言った。
そして、私たちはリアムの見送りに出た。
そして、トイレから戻った後に、こっそり瓶に入った毛虫をポケットから出しながら輝く目で「アダムは今日は病棟勤務だからナースステーションにあとでこっそり放してくる。」って言った。
「ビリー、逃してって言ったのに!」私は怒った。
「いいじゃん、ちょっとぐらい楽しんだって。どう?痛みは。」ビリーは聞いた。
「夜中に痛くて目が覚めてーー鎮痛剤もらっちゃった。」私は言った。
「遠慮しないでもらうといいよ。大丈夫だから。」そう言ってビリーが私の額にキスをした時に、リアムが見たことがない長身で茶色の髪を短く切りそろえたなかなかハンサムな30代前半くらいのお医者さんを連れて来て「ああ、ビリーも来てた?ちょうどよかった。俺の後任のジョシュ・ウェルズ。ジョシュ、俺の友人で内科のアダムス先生ともうすぐ奥さんになる楓。奥さんは日本人で、まあ、夫婦揃って常連だから。覚えておいた方がいい。」って言った。
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「住居探しに行ってたの?」私は聞いた。
「うん。実家に住んでもいいんだけど、親と一緒にいるのもどうかな、って思って。実家の近くで家を探し始めたらそれがなかなか見つからなくて、ちょっと有休を消化して長居してきた。ーー寂しくなるな。今日で終わりだなんて。まあ、一応半年で戻ってくる予定だから。で、今日はコリンもフレッドも遅番だから今、紹介ついでに二人で回診してた。コリンから話を聞いたよ。もう頻繁すぎて驚きもしないけど。」リアムは笑いながら言った。
ビリーはここで「ごめん、リアム、俺も出勤しないと。夕方に花束の贈呈式があるって?俺も行くから。ーーカエ、またお昼に来るから。」って言って病室を出ていった。
リアムは熱を測りながら「36.8。ーーいいんじゃない?昨日熱が出てたって話だったけど、下がったみたいでよかったね。」って言って、私は「シャワー浴びれる?」って聞いた。
「それはコリンの判断だからもうちょっと待ってて。じゃあ、ジョシュ、傷を見て包帯を変えよう。ーーカエは見た?傷跡。」リアムは聞いた。
「まだ見てない。怖くって。」私は言った。
ジョシュは包帯を取りながら「それにしてもロビンソン先生はギプス使わなかったんだね?そういう方針?」ってリアムに聞いて、リアムは頷いて「ロビンソン先生の、ね。なかなか優秀だよ。それでしっかり治してるから大丈夫。手術も上手いし、リハビリも知識あるし。」って言った。そして、ウェルズ先生は「ほら、見てみて。まだ痛々しいけど。」って言ってーー私はこの時初めてケガをした足首を見た。まだかなり腫れていて、踝のあたりに縦に骨が出てた跡かなって思える7、8センチの痣と傷があって、控えめに言ってもグロくてちょっと気持ち悪くなった。
それを感じ取ったのかジョシュは「女の子にはちょっとキツイかな?」って爽やかに笑って、傷をガーゼで覆ってからまた包帯とサポーターを巻いてくれた。
リアムはその間「ハネムーンは?楽しかった?」って聞いた。
私はちょっと咳き込みながら「うん、最高に楽しかった。帰って来た途端これだもん。本当情けなくて。」私は言った。
「あれ、いつ結婚式?」ジョシュが聞いた。
「来週の土曜日。」私は言った。
ジョシュは口パクで「オーマイゴッド!」って言いながら笑って「それはーー気の毒だな。」って言った。
私は頷いて、リアムは「ビリーが一人で連れて行くって?」って聞いた。
「ううん、ライルが一緒に来てくれるって。」私は言った。
「ああ、じゃあ良かったね。一安心かな。後でまた誰か来るから。カルテ見るとさっそくマッサージとか始めてるもんね。慎重な俺とは大違いで笑っちゃうけど、まあ、いいんじゃない?体調は?悪くない?」リアムが聞いた。
「うん、喉の腫れもちょっと良くなって来た気がする。さっきビリーがまたスプレーしていってくれたから。」私は言った。
「うん、まあ、大事にしてね。」リアムはそう言ってジョシュと病室を出ていった。
その後は点滴をしに来たデヴィン以外は誰もお昼までこなくて、私は翻訳の仕事を仕上げてライルに送信した。
「熱が下がった感じだよ。ビリーはまた庭から毛虫を持って来てて、呆れちゃう。」って。
ライルからはすぐに返信が来て「まだ仕事してないかと思ったから驚いた。さすがだね。無理しなくていいから、本当に。ゆっくりやって。」って書いてあった。
そして、お昼にベーグルサンドを買ってアダムと病室に来たビリーの表情は暗くて、私は「どうかした?」って聞いた。
「ーー毛虫を放したら、アダムより先にエマーソンが見つけて今犯人探ししてるって。8Fまで自然に侵入するはずがない!って。」ビリーが言った。
アダムは笑って「自業自得じゃん。黙ってれば誰も分からないよ。お見舞いの人とか業者とかの靴についてきたかもしれないし、いくらでも説明のしようがあると思うけど。っていうか、酷いよね。本来なら俺がチクってやってもいいんだけど、まあ、ビリーだから。良かった、俺が発見者じゃなくて。」って言った。
ビリーは「まあね。俺が毛虫好きなの知ってるのってアダムとジェイくらいだから。まあ、虫繋がりでスズメバチをみたテッドとかも疑うかもしれないけど、今は自分の性病で頭がいっぱいだろうし。おっ、そう考えたらちょっと元気になってきた。」ってベーグルを一口食べた。
「ビリー、それ一口と私のゼリーを交換しない?」私は言った。
「やだ。風邪引きだから。」ビリーは言って、アダムは横で笑った。
「ふん、この前キスしたくせに。」私は拗ねた。
「あれはあとで後悔した。ヤバいと思って、うがいするまで唾を飲み込まなかった。でも、声はまだすごいけど咳は減ったんじゃない?」ビリーが言った。
「うん、ちょっと出るけどね。喉が軽くなったっていうか。ジェイが出す薬って効く気がする。アダムは?私のゼリーとベーグル一口交換しない?」私は言った。
「ごめん、俺も風邪引きたくないから。サンドイッチならあげられるけどね。ーーっていうかすごい夫婦だよね?二人して人の弱みにつけこんで人が食べているものを奪って。ロクでもない子供が育ちそう。」アダムが言った。
「俺が子供の時はノエルは何を交換しようって言ってもしてくれなかった。俺のプラレールとノエルのビデオゲームを1日だけ交換しようって言っても「絶対嫌だ!」って。ザンダーはかわいいけどノエルみたいに育つよ、きっと。まあ、アンナの力量次第かな。でも、俺とカエの子供は、人と喜んで交換する子供にしたい。人に分け与えるのを嫌がらない子に。いいよ、カエ、ほら。」ビリーはそう言うとベーグルを汚くちぎって、私にくれた。
「ありがとう。」私は笑ってベーグルを口に入れて「ーートイレ行ってないよね?」って聞いた。
「さっき寄って来た。あれ、手洗いしたかな?」ビリーは惚けて、私はビリーの肩を叩いて笑った。
アダムは笑いながら「俺の姉は交換を嫌がるどころかいつも俺から奪ってた。俺が大好きなチョコレートバーを食べてると、横から奪って「アダム!取れるならとってみな!」って。信じられないよね?今は俺の方が強いけど。この前電話がきて、二人目ができたんだって。ジェームズ以来すぐできなかったからちょっと予想外で。」って言った。
「へえ、おめでとう。楽しみだね?」私は言った。
アダムは頷いて、「まあね。」って言った。
「いつ生まれるの?」ビリーは聞いた。
「10月。」アダムが言った。
「叔父さんと一緒だね。すごい。」私は言った。
そこにフレッドが来てビリー達を見ると「ああっ!食事中?また出直すーー」って言った。
アダムは立ち上がると「終わったところだから大丈夫。カエのトレーも俺が下げるから。何、回診?」って聞いた。
「リハビリのマッサージに。ロビンソン先生はブキャナン先生の離任準備で忙しいから、その時に来るって言ってた。」フレッドは言った。
ビリーは頷いて「俺たちも連絡もらって行くことにしてる。午後に時間見て吸入させにくるから。今日まででいいかな?だいぶ良さそうだから。じゃあ、カエ、後でね。」って言ってアダムと病室を出ていった。
フレッドは椅子に座って私の右足の指をまた動かしながら「新しい先生に会った?」って聞いた。
「うん、朝にリアムが紹介してくれた。」私は言った。
「シドニーから来たんだって。カッコよくて看護師がキャーキャー言ってる。」フレッドは笑った。
私はちょっと笑って「確かに。モテそうだもんね。」私は言った。
「アダムス先生には負けるけどね。」フレッドはそう言って「楓はどこの出身?東京?」って聞いた。
「出身はね、北海道なの。ほら日本の一番北のーー」私が言うとフレッドは「ああ、ニセコ?」って聞いた。
「うん、ニセコがある所ね。」私は頷いて「高校からは東京で、今両親は東京の近くの横浜ってところにいるんだけど。フレッドは?」って聞いた。
「俺はケアンズ。メルボルンに来たのはいいけど、ホント友達いない。毎日家と病院の往復で終わってるし。楓は、仕事は?」フレッドは言った。
私はテーブルの上に乗ったパソコンと本を指さして「語学学校の事務もしてるんだけど、翻訳の仕事してるの。」って言った。
フレッドは笑って「ああ、なるほど。その英語力だと納得だよね。ロビンソン先生に「楓はこっちで生まれた人?」って聞いちゃったもん。そしたら「いや、日本のはず。」って言ってたから。」って言った。
「ーー覚えてる?私の友達を私とビリーが救急センターに連れて来た時のこと。」私は聞いた。
フレッドは「もちろん。」って頷いた。
「あの子がーー愛ちゃんがーーホストファミリーの家を出て引越しするって言うから手伝いに行ってたの。それで、持ってた段ボールに足を引っ掛けて階段から落ちた。痛すぎて自分の足がどうなってるかなんて見なかったけど、愛ちゃんは大泣きしてた。私が傷つけちゃったかなって思ってすごく気になってるの。あの後ボーイフレンドも出来てせっかくの新しいスタートを切ろうとしていたのに、台無しにしちゃったかなって思って。連絡もないし。」私は言った。
フレッドは手を止めて「きっとすごく心配してると思う。ーー俺ならそうだから。ショッキングな場面を見て動揺したのは事実だと思うけど、そのショックから立ち直らせてあげられるのも楓なんだと思う。連絡してみたら?喜んでお見舞いに来てくれるんじゃない?」って言った。
私はきっとこの「連絡してみたら?」の一言を誰かに言われるのを待っていてーーそれを期待してフレッドに愛ちゃんの話をしたんじゃないかと自分でも思った。背中を押してくれる誰かのこの一言が欲しくて。
私は、「フレッド、友達はみんな私を「カエ」って呼んでるの。良かったらどう?」って言った。
フレッドは立ち上がりながら笑って「男女の友情?いいね、最高だよ。ありがとう、カエ。」って言った。
フレッドが仕事に戻って私は自動車販売会のチラシの仕事をして、ビリーが来たのは3時ごろだった。
ビリーは私の喉を覗き込んで「ああーーまだちょっと赤いけどいいんじゃない?吸入は今日で終了。薬はあと2日くらいかな?あとはスプレーで。」って言って私の口に吸入器を入れて隣の椅子に座った。
私は吸入をとって「手洗ったよね?」って聞いた。
ビリーは「カエ!ちゃんと吸って!ーーどうだったかな?忘れた。」ってまた惚けた。
「ビリーったら!」って私はまた喋って、ビリーは「ほら!いいから!」って笑った。
そのあとはビリーに見つめられながら黙って吸っていると、ビリーは「黙って聞いて。ジェームズからメールが来てた。披露宴のテーブルクロスの色とかナプキンの色とかの最終確認。あとでカエのパソコンのアドレスに転送しておくから見てみて。ちゃんと車椅子で移動できるように段差もなくしてもらったし、立たないといけない時に立ちやすいように柔らかいクッションも用意してくれるって。本当にみんなに支えてもらってるよね?ライルに今日確認してホテルももう1泊予約したし、あとは行くだけだよ。やっと夫婦になれる。今から興奮してる。」って言った。
私は「私もだよ。ビリーとーー」って言いかけたら、ビリーは「カエ!本当に言うこと聞かないんだから!ちゃんと吸って!」って笑って「あー、本当かわいい。ジェイも「相当言うこと聞かないよね?」って笑ってた。ほら、終わったかな?トイレは?行っておく?」って聞いた。
「うん。行っておく。」私はゆっくり立ち上がってビリーにつかまって、トイレに行って、手を洗ったあとでビリーに抱きついた。
ビリーは「おっ。」って言って笑って優しく痛くないように抱きしめてくれて、私は「昨日ね、ビリーが帰ってからちょっと弱気になって泣いちゃった。コリンが慰めてくれたけど、一番の慰めはあのゾウさんだった。ビリーの匂いがするんだもん。もうーービリーの匂いで安心するようになっちゃってる。これがないと生きていけない、って思っちゃうくらい。ありがとう、あれを持って来てくれて。ゾウさんを見る度に、頑張って耐えないとって強くなれる。愛してる。」って言った。何日もしていないかったせいかビリーは勃起していてーー私とビリーは同時に「ーーチロチローー」って言いかけた時にコリンが「カエ?トイレ?」って言って病室に入ってくる音がして、ビリーは「おっ!ヤバい。カエ、先に行って。」って焦って、私は仕方がなく松葉杖と壁に掴まりながらトイレから出た。
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コリンは笑って「ーービックリした。怒鳴ってごめん。ほら、車椅子に乗って、ブキャナン先生を見送りに行こう。ーーところで、どうすれば女性が的を外すの?」って聞いた。
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