改訂版 草凪ときつねの思い出ごはん。

ちはやれいめい

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白キツネの章

1 食堂にきつねがやってきた

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 神奈川県鎌倉市かながわけんかまくらしに、草凪家くさなぎけのいとなむ食堂「くさなぎ」がある。

 長谷はせ駅から歩いて十分くらいのところにあって、昼は旅行のお客さんや近所の人たちがひっきりなしに立よるから、とってもにぎやか。

 私はひとりむすめの草凪マコト。中学校が夏休み中だから、家の仕事を手伝っている。
 
 夜になるとお客さんもまばらになる。ようやくひと息。
 ずっとはいぜんしてたから足がいたいや。

「マコト。のれんおろしてくれる? わたしはそうじするから」
「はーい、母さん」

 私は大きく返事して、を下ろすために外に出た。

 その時、店の入口にふと小さなカゲが現れた。

「ん?」


 犬にしてはハナがほそいような気がする。シッポもふとくて大きいし。

 だとするとキツネかな? 真っ白なキツネだ。

 キツネは私と目が合うと、小さく前足をうごかしながらゆっくりと歩いてきた。そのまま私の前でちょこんと座る。



 このあたりに野生のキツネなんていたのかな。

 おいなりさまの神社においてある像でしか見たことがないけれど。


 こんなに人なれしてるなんて、誰かにかわれている、のかな。

「キツネちゃん。うちの店に、なにかご用? ごはんを食べに来たのかな……なーんて、自分で言ってておかしいや。キツネがごはんを食べにくるなんて、あるわけないない」

 キツネは私を見上げて、前足で地面をかるく叩いた。

「草凪、またあの料理をおねがいできるかね」

「キツネがしゃべった!?」


 私の耳がおかしくなければ、草凪、と呼んできた。


 意味がわからないよ。なんでキツネがしゃべるの?
 ゆめ?
 ていうか、なんで私の名前をしっているの?

 それに、また、っていうのはがあってはじめて使う言葉でしょう?


 このキツネが言う草凪は父さんのことかもしれない。

 店の引き戸を開けて店内にいる父さんに聞く。

「父さん! 白いキツネが来てる。ごはん、あげたことあるの? またあの料理を食べたいって言ってるんだけど」

「はあ? 何をわけのわからんことを」

「私もわけわかんないよ」

「キツネがどうしたのよマコト」

 母さんも店先に出てきた。

 キツネはじっと私たちを見つめる。

「はらがへった。前に作ってくれたアレをたのむ」
「キツネがしゃべったーーーー!?」

 父さんと母さんが叫んでのけぞった。

 そうだよね。おかしいよね。
 キツネがしゃべってるの。


 どうしてこんなことを言ってくるのか、考えてもわからなかった。

 ようやく落ち着きを取り戻した父さんが、キツネの前に座り込んで考える。

「俺はキツネにめしをやったことなんてないんだが。……てことは親父かじいさん? そうなるとこのキツネは何年生きてるんだって話になるが」

「そうさなぁ、あのころは刀を持った人間がたくさんいたが、今の人間はよくわからん黒い板を持っているんだな」

「………………刀ってことは、明治時代かその前?」

 しゃべっている時点でふつうのキツネじゃないのは明らかだけど、どうやらこのお客さま、数百年を生きるというやつらしかった。


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