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こぎつね望む露の花 (この章だけ喫茶要素少なめです)
4.妖怪こどもと佐世保独楽
しおりを挟む喧嘩ゴマ――とは、独楽を回してぶつけ合い、相手の独楽を失速させたり土俵から打ち出せば勝利とされる、日本に伝わる古い遊びの一種だ。
その起源は、『ぶちゴマ』という独楽を回す縄で叩いて加速や軌道を変える遊びだと言われており、日本の喧嘩ゴマはそれに加えて『投げゴマ』という、回し飛ばしてぶつけ合う独楽の手法が多く取られている。
かつては子供達に人気のある遊びのひとつであったが、時代が進むにつれて、独楽よりもベーゴマとメンコ、ベーゴマとメンコよりもテレビゲーム……と言った具合に子供の遊びが変化してしまい、現在では土産物や民芸品としての扱いが一般的になってしまっていた。
子ぎつねの言う『喧嘩ゴマ』とは、その中でも佐世保に伝わる独楽――いわゆる【佐世保独楽】という独特な形の独楽を使った、やけに危なっかしい勝負だった。
「ええっ!? あ、相手の独楽を割ったら勝ち!? なんすかそのコマ遊び、怖いんですけど! てかコマって割れるんですか!?」
丈牙の説明を聞いた和祁は、にわかには信じられなくて目を剥く。
しかし丈牙は別段気にするでもなくさらりと肯定した。
「佐世保独楽はそう言うもんさ。だから、別名は【喧嘩独楽】とも言われて、独楽も普通のより大きく、独楽の先には剣という鋭い金属が付いている。まさに相手を打ち倒す為の独楽ってところだな」
「はえぇ……」
「だが、そのコマ勝負だって、プライドをかけた伝統的な真剣勝負さ。だから、特別な掛け声だってあるんだぜ? そんな風に、あんまり楽しそうに人間が喧嘩させるもんだから、佐世保の妖怪……特に子供の妖怪は、大体が争いごとをこの【喧嘩独楽】で済ませるようになってな。まあ、佐世保における異界の、独特の決まり事みたいになったのさ」
喧嘩するのは自分達では無く独楽、と言う事か。なるほどと和祁は思った。
妖怪ともなると凄い術が飛び交う戦場をいとも容易く作れそうだし、子供同士ならば、術を暴発させて双方が怪我をしないとも限らない。
人間よりも苛烈に喧嘩する存在だからこそ、こういう勝負を採用したのだろう。
(でも、佐世保にそんな土産物が…………あっ、もしかしてあれか……? 佐世保駅の構内に有った、でっかいどんぐりみたいなオブジェ……)
和祁はプラスチック製の格好いいベイ……いや、コマしか見た事が無かったので、駅であの独楽をちらっと見かける度に「なんのオブジェだ」と首を傾げていたのだが、まさかコマだとは思わなかった。あんなにずんぐりむっくりしている物が独楽だとは誰も思うまい。
(いや、調べない俺も悪いんだけどさ)
しかし、興味が無ければ、疑問に思ってもすぐに忘れてしまうものだ。
「で、どうして君はコマの事を和祁に頼みに来たんだい?」
「こま、いっぴゃあ回すのたいへん、ぎんぺは出来らいれす……。れも、にんげんは、こまぞうずて、ぎんぺのおかしゃんにききあした。だかあ、てんちょにおねあいして、きあした」
綺麗に焼けた和祁のホットケーキをまくまくと満足そうに食べながら、子ぎつねは頬を一杯に膨らませて一生懸命に説明する。
まだ小さくて言葉が上手ではないのかたどたどしいが、それもまた可愛らしい。
「ゾウズ? ああ、上手って意味か……。なるほどね、だからイナマキの所から、ずっと和祁を付けて来たのか」
「イナマキさん? えっ、この子イナマキさんの所の子なんですか?」
まさか子持ちだったとはと驚くと、丈牙は違う違うと手を振った。
「この子は“お米”っていう化け狐の子供で、銀平と言う。妖術の修業をするために、イナマキの所で丁稚奉公してるんだよ」
「で、でっちぼーこー」
「えー……師匠と弟子の関係になって、住み込みで働いてるという事だ」
「なるほど」
丈牙の言葉は、和祁には理解出来ない事が多い。
それもこれも「知っている物事」が違うからではあるのだが、古い言葉を学ぶ術も知らない和祁には、こうやって訊く事しか出来なかった。
(店長ってマジで何歳なんだろ……。でっちぼーこーっていつの時代の言葉?)
響きからして現代的でない事は解る。
江戸時代とかそこら辺だろうかと思っていると、子ぎつねはホットケーキを食べ終えたのか、綺麗に前足を合わせて「ごちそうさま」と言うと、再び和祁を見上げて、キラキラとした黒い瞳で和祁にお願いをしてきた。
「にんげんのひと、かじゅき、おねあいしあす。ぎんぺはくらこにかちたいえす」
なむなむと言いながら和祁を拝む小さくて可愛い子ぎつねに、和祁はどうした物かと困り顔で丈牙をみやった。
「店長…………」
そんな和祁に、丈牙は何とも言えない顔で眉を顰めたが……ハァと溜息を吐いて、ひらひらと手を振った。
「どうせ暇だからね、付き合ってやったらいい。独楽ぐらい、人間なら簡単に回せるだろう。心配する事は無い」
「うーん……良く解んないけどベイ○レードみたいなもんなら、俺にも出来るかな」
「なんだいそれは」
「えっ、店長ベイ知らないんスか。マジすか。ヤバ……」
「おい」
あっ、怒りそう。
本能で危険を察知した和祁は、場の空気を変えるべく子ぎつねの目線まで体を屈めて、大丈夫と笑った。
「役に立たないかも知れないけど、俺で良かったら付き合うよ」
「カズキが付き合うならハヤキも付き合う」
今まで黙っていた速来が、自己主張するかのように屈んだ和祁の肩に乗る。
子ぎつねの銀平はそんな一人と一匹を見て、嬉しそうに口を開けた。
「わあ! あいあとごじゃあす!! ぎんぺ、くらこにかてあす!」
黒い前足を必死にぱたぱたさせて嬉しがる子ぎつねに、思わず庇護欲が疼く。
別段動物に好き嫌いは無かった和祁だったが、やはり子供と言う物は見ているだけで、守ってやりたくなる父性が芽生えるものだ。
(うう、くらこって言うのが何だか分からないけど、精一杯付き合おう……)
無邪気に喜んでいる子ぎつねのためなら、頑張って独楽も回そうではないか。
それに、美女妖狐イナマキとも何故かすんなり会話が出来たのだから、今度は自分と年が近い子ぎつねと仲良くなれば、話術もより上手くなるかも知れない。
そうと決まれば、即行動だ。
「あっ、でも独楽がないし、どこで練習すればいいのやら……」
「だったら僕が独楽を用意しよう。丁度いい練習場も有るしね」
「……? それ、どこっすか?」
「真夜中の鯨瀬埠頭」
鯨瀬埠頭……と言えば、佐世保駅のすぐそばにあるフェリーの発着場で、ささやかな広場とターミナルが有る場所だが……。
「時限門はまだメンテナンス中じゃなかったんですか」
「ああ、だから、君にはここに体を置いて行って貰う」
「え? そ、それってどういう……」
「まあ、成ってからのお楽しみ……だよ」
そう言いながら、意地の悪い猫のように目を細めて笑う丈牙。
あまりの薄気味悪さに、和祁は思わず慄いてしまった。
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