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こぎつね望む露の花 (この章だけ喫茶要素少なめです)
14.サンドイッチと美味しいお茶
しおりを挟むお銀がどこからか大きなピクニックシートを取り出し、野原に広げる。
そこに和祁達と狸妖怪三匹が座り込むという、なんだか妙な集まりになってしまったが、今更そんな事を指摘するのも居た堪れない。
という訳で、化け狸のお銀が綺麗な所作で緑茶を淹れるのを眺めつつ、和祁は丈牙に持たされていたお弁当を開けた。
「おお、サンドイッチ」
「さんろいっちー?」
「お馬鹿な鈍ギツネですわね。サンドイッチというのは、パンに色んな具を挟んだ食べ物……いわばおにぎりの外国版ですわ!」
「えぇえ!?」
先程まではあんなに銀平に突っかかっていた蔵子も、母親の手前それほど強く出られないようだ。しかし、お姉さんぶりたいのは変わらないようで、銀平にちょいちょいちょっかいをかけては「ふふん」と悦に入っていた。
その度にお銀は蔵子を窘めるのだが、岩磊はお銀には頭が上がらないようで、困り果てたような顔をしながらオロオロと二人を見比べている。
(岩磊さん、お銀さんの一族には頭が上がらないみたいだなあ……。というか、何か子供と妻に甘すぎて尻に敷かれてる人みたいだ)
ドラマでよく見かける風景だが、実際に見ると頑張れと応援したくなる。
島から出て来たと言っていたので岩磊は居候の身なのだろうが、忠義を尽くす主君を諫める事が出来るようになって欲しいと願うばかりだ。
和祁はそんな事を思いつつ、存外にも沢山詰め込まれていたサンドイッチを分け、それぞれに渡した。速来と岩磊は多めに、銀平と蔵子はそれなりに、お銀にも渡し、結局少ない量になってしまった皿は和祁が引き受けた。
健全な高校生男子としては物足りない量だったが、分配する役が多く取る訳にもいくまい。
(い、良いんだ、帰ったらなんか食べさせてもらうから……)
この場は大人になって我慢しよう。
全員で「いただきます」と手を合わせて、和祁は一切れを取って口に入れた。
「おっ……普通のハムサンドだと思ったけど、なんか甘い? でも不思議とマヨネーズの酸味と合うな~! なんだろこれ、なんでこんな美味いんだ?」
「知らんが何やら美味いな」
いつの間にか虎の姿から猫の姿に戻った速来も気に入ったらしく、サンドイッチをがっついている。どうやらかなり気に入ったらしい。
それは他の者も同じだったようで、それぞれ幸せそうな顔で目を細めていた。
「あまうまれすー!」
喜びながらむしゃむしゃと頬張る銀平に、岩磊も大きく頷く。
「うむ、これが佐世保の味というもんじゃな!」
「ふ、ふんっ。人間風情にしては美味しいサンドイッチを作るじゃない……」
岩磊とお銀に挟まれて座っている蔵子も、まんざらでもなさそうだ。
お銀も美味しそうにサンドイッチをゆっくりと上品に咀嚼していた。
(佐世保の味ってのが解んないけど……もしかして、佐世保のサンドイッチって甘い味付けが普通なのかな?)
しかし確かにこれなら子供でも美味しく頬張れる味だ。
辛子の辛さなど一切なく、甘さとマヨネーズのわずかな酸味、それにバターの味がマッチしていて少し塩味のあるハムと見事に調和している。
初めて食べる味ではあったが、和祁もこの佐世保独特のサンドイッチはお気に入りの味になりそうだった。
(朝から食べたいから、店長に作り方教えて貰おうかな~……)
甘めの味付けが、タマゴとトマトを挟んだものにも合う。
酸味との相性がいいのは、大分県の名物であるタルタルソースや甘酢を使ったチキン南蛮と一緒の原理だろうか。
思えば九州はやけに甘い料理が多いな、とテレビで見た知識を反芻していると、お銀が緑茶を和祁に差し出してきた。
「どうぞ、お飲みください。こちらも彼杵の最高級の茶葉ですので……」
「あっ、ありがとうございます」
ソノギというのが何かは判らないが、甘くなった口に緑茶を含む。
すると、口の中がさっぱりすると同時に爽やかなお茶の喉越しと、思った以上に苦みのない、甘みさえ感じるお茶の味を感じ、和祁は驚いてしまった。
緑茶というものは苦さや渋みが当たり前と思っていたが、ここまで控えめな茶が有った事には驚くばかりだった。
「お……美味しいです……! お茶ってこんな飲みやすい物があるんですね」
まだ子供舌の和祁にとっては、彼杵の緑茶は衝撃的だった。
思わず褒めちぎると、お銀は袖で口元を隠して嬉しそうに笑った。
「うふふ、嬉しゅうございますわ。彼杵も私達の里の波佐見と同じく、長らくひっそりとしてきた場所……良い所を見出して頂けるのは、よその土地と言えど嬉しい事」
「波佐見……お銀さん達は、あの波佐見焼の里の妖怪なんですか」
だから、食器店でもあれほど波佐見焼を推していたのかと納得する和祁に、お銀はゆっくりと頷いて語り始めた。
「私と蔵子は、波佐見に在る葉山という地域に居を構えていた化け狸の一族です。佐世保市とは隣同士……東彼杵と言う場所に面す地域として、昔から私どもは、波佐見焼の窯を愛し、時にはその窯を手伝い、人間と共に陶器を売り歩いてまいりました」
「ぎんぺのおかしゃもはさみれす!」
手を上げて主張する銀平の言葉に、和祁は目を丸くする。
「って事は……お銀さんとお米さんは、同じ故郷なんですか」
「はい。お米もまた、化け狐として波佐見の陶工達に手を貸す人好きの妖怪でした。若い頃は私達も蔵子のようにやんちゃで、化け勝負をして人間に叱られる……なんて事もありましたわね」
ころころと鈴を鳴らすような声で笑うお銀に、和祁はまるで昔話のようだと思う。
いや、彼女達は間違いなく昔話の世界の住人なのだろう。
だからこそ、今これほどに遠い目をして昔を懐かしんでいるのだ。
「仲がいいのか」
速来の問いに、お銀は頷く。
「今も度々、お米の所には食料を運んだりしております。銀平ちゃんが家にいる頃は、よく遊んであげましたね」
「あい! おぎんおばちゃ、すきれす!」
無邪気に喜ぶ銀平を見て、速来は解せんとばかりに眉間に皺を寄せた。
「だったら、何故このナマイキ子狸、ギンペを襲う?」
またもカタコトになってしまった速来だったが、それは和祁も気になっていた。
その問いに蔵子が何故か渋い顔をしたものの、お銀はそんな娘を小さな声で叱ると、申し訳なさそうな顔で話を続けた。
「それは……銀平君と蔵子の名前が原因なのです。……先程も申しました通り、私とお米とは古くから交流を続けておりました。故に、互いが互いを忘れぬようにとの願いを込めて、それぞれの子供にお互いの名前と連想する物……お米は銀平、私は米を立派に守る蔵を名に頂く蔵子と名付けたのです。ですが……」
「それが納得いかないんですのぉ!! どうして私があ……っ、ね、寝たきりの狐に関連する名前で、その子の銀平が立派なお母様の名を使うんですの……」
言葉尻が弱くなるが、しかし蔵子は口を尖らせて拗ねたような表情をやめない。
「つまり……化け狐のお米さんに関係する名前が嫌だから、銀平をずっといじめてたって事? ……それはまた……」
なんというか、他人にはどうしようもない問題だ。
思わず岩磊をみやると、さもありなんと言った様子で頬を掻いていた。
「だって……だって、わたくしは狐よりも立派な化け狸の一族ですのよ、お母様の娘ですのよ! なのにっ、なのに、銀平がお母様の名前なんて、ずるい……ぐすっ、ずるいですううううわぁあああん!」
「あああっ、お、お嬢様落ち着いてくだせえ!」
泣き出す蔵子に、岩磊が慌てる。
和祁達もどうしたら良いのか解らず、助けを求めるようにお銀をみやると……彼女は少し何かを考えていたようだが……小さく息を吐いて、蔵子を抱き上げた。
「ふっ、うう……うぐっ、お、おがあしゃま」
「そんなに思いつめていたなんて、知らなかったわ。……ごめんなさいね、蔵子。でも、貴方の名前は何も簡単につけたものでは無いのよ。それに……私が貴方を蔵子と名付けたのには、理由があるの」
「りゆう……?」
子供らしい泣き顔でお銀を見上げる蔵子に、お銀は優しく微笑んで頷いた。
「お米は、優しい狐なの。貴方には、そんな立派な人になって欲しかったのよ」
言いながらお銀は微笑んで――ある昔話を語り始めた。
→
サンドイッチの話はまた改めてやります(*´ω`*)
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