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迷惑な客と幻のデザート
8.悪魔の記憶と人の業
しおりを挟む乗り物に化け物が取り憑く、というのはどこの国でも良くある話で、サーティン・リーズもその化け物達の中の一人だった。
彼もまた、多くの米国の乗り物に取り憑き、時には祝福を齎し時には悪戯にその姿で脅して見せる事も有ったという。だが、まさに狂気とも言える時代になると、彼はその行為すら厭い、一時は身を潜めるように暮らしていたという。
しかし、時とは流れる物だ。やがて時代はやっと落ち着き始め、地獄の様な光景もゆっくりと薄れ始めた。しかし未だに世界は様々な災いがくすぶり混沌として、妖怪すらも己の命の危うさに戦々恐々としていたという。
そんな時に、サーティンはふと思い立ち戦艦に乗ってふらりと日本に現れた。
数多くの日本人を乗せたみすぼらしい船を横目に見て、焼け野原後に辿り着く。
かつて自分の生まれ故郷のように、この地も古い歴史を繰り返してこんな光景になってまった事に、サーティンは寂しい気持ちになったという。
人の世はいつもこうだ。
人は人を憎み、虐げ、そうしないと生きていけない所まで自分を追い詰める。
その宿業が降りかかったかのような惨状に、かつて自分が興味を持った国がそうなってしまった事に、サーティンは嘆きと失望を抱いた。
無論、それは人外であり且つ異邦人でもあるサーティン特有の感傷だったが、彼の姿を最早見る事の出来ない人間達には関係のない事だったであろう。
――そう。存在しないものは、存在できない。
そんな現実を目の当たりにし、この多くの「人ではないもの」が集う国の、しかもまだ感化され切っていない田舎ですら、自分の居場所は存在しないのか。そう思って、サーティンは眩暈を感じ、旅半ばでとある山奥に墜落してしまったという。
その時に、彼はある一人の女性と出会った。
服装からして、何かの存在に仕える巫女。敵国で生まれたサーティンとは相容れぬ存在であることは間違いない。しかし彼女は、弱った異国の魔物を介抱してくれた。
自分達も苦しい時世であるにもかかわらずだ。
だが、彼女は幾つか奇妙な点があった。人里を離れるように山奥に家を建てており、不思議な事に様々な妖怪の世話をし暮らしていて……そのせいか、どうかすると外の世界の人間達よりも豊かな暮らしを送っていたようだ。
妖怪の世話をする事で、森の恵みを毎日貰っていたのだろう。
サーティンの事を憎まずに世話をしてくれたのは、そんな生活で心の余裕が有ったからかも知れない。
なんにせよありがたい事で、気付けばサーティンはつい長い時間を彼女達と過ごしてしまっていた。だが、妖怪は異国に長く留まれば徐々にその地の気に染まって本来の姿と異なる姿になってしまう。
そのため、サーティンも帰国すべく彼女に別れを告げたのだが――その時に、彼女が「好きな物を作ってやる」と言って――――
「それで、作ってくれたのが……ホットケーキなんデス」
和祁の作ったふんわりきつね色のホットケーキを咀嚼しながら、サーティンは遠い日に思いをはせるように天井を見上げた。
「苦しい時代で敵国ってことは……戦争のすぐ後……ですか?」
学校で教わった知識で話しに必死に付いて行く和祁に、サーティンは頷いた。
「人間が憎しみを持てば、それに流される妖怪もたくさんいマス。本当は、我々には関係ナイ事だったのデスがネ。まあそれはそれとして、彼女は私にとっても良くしてくれマシタ……。恋人……いや、まるで子供のように慈しんで、いたわってくれタ……。山の妖怪らしき者達も、警戒しながらも私の事を助けてくれたのデス」
「サーティンさん……」
和祁が同情するような声を漏らすと、相手は照れくさそうに苦笑する。
「私は、母に愛して貰えませんデシタ。生まれる前から呪われタ。だから、母のように愛してくれた人の味が、忘れられないのデス……。例え彼女がもうこの世から消えても、日本に来ればまた私は愛して貰えた記憶が蘇ル。母と同じ人間に、確かに認めて貰えたという思いが蘇ルのデス。だから……また、人に作って欲しくテ」
「それで、俺を無理矢理さらって行こうとしたんですね」
「ハイ。妖怪が自らの手で作る物、妖気でどうしても雑味デマス。だけど、人間の気なら、どんな妖怪でも美味しく食べられる。だから、ついカズキクンを見て、焦ってしまいマシタ……スミマセン……。今の世界、妖怪と話せる人間とても少なくなったカラ、つい……」
(なるほど、それならあの強引さも納得だな。なんで店長じゃないのかな謎だけど)
よく解らないままに連れて行かれそうになっていたが、そんな重い理由が有って、そこまで食べたいと願っていた物なら、ああまで強引になるのも仕方がない。
妖怪とは自分の欲望に素直に生きる存在だ。だからこそ、サーティンも暴走してしまったのだろう。
丈牙達も彼の話には思う所が在ったのか、黙って腕を組んでしまった。
「…………」
「むぅ……」
なんにせよ、サーティンの切実な願いを聞いて納得したのは間違いない。
となれば、二人も協力せざるを得ないだろう。
速来は自分から「人型になって手伝う」と言ってくれたが、丈牙は手伝おうと言う雰囲気すら感じられなかったので、これで少しはやる気になってくれただろうか。
そんな事を和祁が考えていると、丈牙がはあと溜息を吐いた。
「まあ、仕方ない……思い出を大事にする気持ちは解るからな。……この佐世保の【異界】自体が、そういう思いで作られた物だ。そういう事情があるなら、協力しなければこの世界で店主をしている僕の名が廃る」
「廃れるほどの名があったのか」
「うるさいな角付き色黒ネコモドキ。で、とにかく……まずは答え合わせだな。おい外人人外、彼女が居た場所はどこだ? それと、その彼女のホットケーキはどんな物だったか詳しく教えろ。僕が和祁に指導する」
やる気になると途端に色々と必要な物を閃くのは、やはり大人だからだろうか。
(毎日そのくらいやる気になってくれればなあ……)
そうすれば、この店の閑古鳥もこちらの苦労も減るのだが……と悲しくなる和祁を余所に、サーティンは再びホットケーキを摘まみつつ、うーむと唸った。
「ンー……。彼女が居たのは、中心地から少し遠かったデース。海は見えなくて、山に囲まれている場所で……あっ、でも、位置的に海は近かったデース! あとホットケーキは……思い返してみると、こんな豪勢ではありまセンデシタ」
「豪勢?」
どういう意味だろうかと眉間に皺を寄せると、相手はむぐむぐと頬を動かしつつ、再び天井を見ながら呟く。
「確か……もっと大きくて……ぺったりしっとりしてマシタ。あと、ここまで美味しくは無かったデース。色もそこの猫チャンの肌くらいでしたネー。だけど、あの時の私には……とても美味しくて、嬉しいものだったのデス……」
「ぺったりしてて……しっとり……?」
しかも、きつね色ではなくこんがり小麦色のホットケーキとは。
……それは果たしてホットケーキと言えるのだろうか。
どうやらサーティンが恋しがっているホットケーキは、蜂蜜以外にも難解な部分が多々存在するようだ。
ますます問題が増えた事を確信して、和祁達三人はがっくりと項垂れたのだった。
→
前置きながくなりましたけどホットケーキの材料探しの話です今回
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