異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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湖畔村トランクル、湖の村で小休憩編

20.熊さんは可愛くてとても力持ち

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 昨晩のアイスクリームの成果はと言うと、一言で言えば大成功……
 いや、大成功過ぎた、と言った所か。

 なんせ、オッサン二人がアイスに口を付けた瞬間、同時にクワッと目を見開いたと思ったら、凄まじい音を立てながらアイスをがっつき始めたんだもんな。
 特に感想も言わず無言で食べ進めたんで、「あれ、分量マズったか!?」とか焦っちゃったよ。まあ、本当の所は美味しすぎて褒める暇すらなかったという事だったから安心したけどさ。

 それにしても、あの時の二人の顔ったらなかったなあ。食べ終わると「もう無いの?」とばかりに切なげな眼を俺に向けて来るんだもん。子供だよ子供。
 目なんかキラキラさせちゃってさ、本当なんかもう、しょうがないなーって言うかなんていうか……いやまあ、それはともかく。

 二人の興奮した様子に、思わず「喉を音楽隊か何かが通過しませんでした?」と聞きそうになったが、んなわきゃないのでぐっとこらえて、俺は二人からの称賛しょうさんを文字通り浴びるほど受けて鼻高々にならせてもらった。

 アイスクリーム自体は俺が発案した訳じゃないんだが、しかし素晴らしい料理をよく作ってくれたと褒められるとやっぱり悪い気はしない。
 俺としても、このアイスクリームには自画自賛を禁じ得なかった。

 口に入れた途端に甘く蕩ける食感。冷たいのに舌にダイレクトに伝わる甘さと、乳製品特有のまろやかな風味。そもそも乳製品に飢えていた俺にとって、この悪魔的な甘さは本当に涙が出る程美味しかった。
 ああ、この味ですよこの味。俺はこう言うのがずっと欲しかったんだ。

 ……しかし、乳製品にあまり縁の無い世界の人でも、こう言う食べ物を美味しいと思うものなんだな。
 まあ、ブラックは元々冒険者として世界中を旅してたから、乳臭いのには慣れてたのかも知れないし、クロウはそもそも性質が獣だからなあ……乳臭さなんて気にならなかったのかもだけど……普通の人はどうなんだろうな。

 一瞬「あれ? 俺ってばコレで商売出来るんじゃない?」って思っちゃったけど、乳臭さに慣れてない人達には厳しい物なのかな……うーむ、難しい。
 仮に食べ物で商売をするとしたら、こう言う手間がかかる物じゃなくて、もっとお手軽で身近な物を選択した方がいいような……。
 となると、同じ「冷たい」でも果実のシャーベットとかの方が売れるかなあ。
 うむ、そうだな。今度はシャーベットを作ってみよう。
 どんな果物を使えばいいかが問題ではあるが。

 まあそれはおいおい考える事にして、アイスクリーム大作戦で華麗な成功をおさめた俺は、気持ちよく眠りについて気力充填の朝を迎えた。
 さあ今日は丸一日庭に時間を費やすぞ。

 体力は満タン回復したし、庭いじりの為の道具などもバッチリだ。何より今回はクロウという超有能な助手もいるから、心配はいらない。
 ちなみに、ブラックにも「草むしりするか?」と聞いたのだが、ブラックはこういう事はあまり得意ではない……と言うか土いじりが嫌みたいで、ギルドで紹介状についての話をして来ると言って逃げてしまった。

 いつもなら「一緒」と言うとすぐ食いついてくるんだけど……土を掘り返したり草をむしるのは苦手なのかな。

 まあでも、草が潰れた時の独特の青臭さとか、土を掘った時の熱がこもった不思議なにおいを嫌う人もいるからなあ。ブラックって意外と好き嫌いとかが激しいよね。俺相手でも意外と意見を曲げなかったりするし。
 でもまあ、ブラックの意外な一面が見れてちょっと楽しかったので良し。

 ってな訳で、俺とクロウは朝から草むしりに勤しもう……としたのだが。

「うわーお……熊さんパワーってやっぱしゅごい…………」

 目の前で繰り広げられている光景に、思わずそう呟いてしまう。
 いやだって、本当にすごいんだもん。

 あれだけ草が生え放題だった庭を、クロウ……いや、熊さんモードのクロウが、その太く広い熊手で片っ端から土を掘り返し、根を張った草を根こそぎ剥いでいく光景を目の当たりにして、驚くなっていう方が無理だろう。

 これあれだ。ブルドーザーだよ。熊さんブルドーザー。

 ズガガガガとか言う効果音付けたいくらい、クロウは容赦なく庭の雑草を引っこ抜いて更地に変えて行った。そりゃあもう、あっという間に。
 俺の出番がないまま、丸一日を覚悟していた草むしりは、クロウの活躍によって一時間も経たない内に終わってしまった。

「ツカサ、これでどうだ。草はなくなっただろう? ……まあ、土まで掘り起こしたせいで、少々草を集めにくくなってしまったが……」

 申し訳ない、と耳を垂れるクロウに、俺は慌てて頭を振る。
 おいおいこれで文句言うなんて出来る訳がないよ。だって、この後俺がやる事と言ったら、掘り起こされた土の間から草を拾って集めるだけなんだもん。
 確かに草まで土塗つちまみれだけど、はらえば済む事だしな。

 むしろ引っこ抜くと言う労働作業が無くなっただけで物凄く楽だ。
 こんなに楽をしてしまって良いのかと心配になるほどなのに、どうしてクロウを責められようか。むしろ褒めるべきだよ!

「集めにくい事なんてないよ! 草を拾うだけで良くなって、凄くありがたいって。しかも、根っこから掘り起こしてくれてるから、またすぐに新しい草が生えて来てしまうって事もないし……こっちは大助かりさ」

 ありがとな、と抱き着くと、クロウは嬉しそうにぐるぐると喉を鳴らした。

「役に立ててうれしいぞ、ツカサ。今度は何をするんだ? 草集めか?」
「うん。土を払って、草を一か所に集めるよ。そんで、クロウに耕して貰った庭を、畑の区域と観賞用の庭にする区域とで分けようと思ってるんだ」
「用途が正反対だが大丈夫か?」
「まあ、観賞用の庭は実験的なモンだから……。とりあえず、出来る範囲でやってみようかなって思ってさ」

 俺みたいな奴がハイソな家に必ずある美しい庭を作ろうと思った理由は、実は「庭いじりをしたいから」というだけではない。
 ガーデニングに使われている植物を、一度確かめておきたかったのだ。

 この世界で一般的に販売されている観葉植物はどんな物なのかとか、どれくらいで成長するのかとかを知る事が出来れば、そう言う植物を増やして売るのも良いかなあ~なんて思ってたわけで……。いやほら、俺ってチート能力持ちだしさ、種と精神力さえあれば、どんな植物でも育てられるじゃん。
 だったら、プラントハンターみたいな事も可能じゃないかと思ってさ。
 ハンターなら冒険も出来るし一石二鳥だろ?

 あ、ちなみにプラントハンターって言うのは、簡単に言えば「外国の珍しい植物を発見して売る人」の事。昔は国が「持ってくな!」って命令を出してた植物を、盗むように国から持ち出したりする悪い人もいたらしい……というか、今でもそう言う人がいるって事を婆ちゃんに聞いた事が有るけど……ファンタジーの世界ではまずそう言う事を心配しなくていいから、良いかなって思ってさ。

 オーデルの植物園を見た時に、ちょっとその事を考えてたんだよね。
 ……まあ、あの、こっそりよその国から持ち出すってのはダメですけどね!

「よくわからんが、ツカサが考える事だからきっと良い事だな」
「そんな……そうとは限らないかもよ? 庭いじりも畑作りも、上手く行くかどうかは全く解らないわけだし」
「それでも、楽しい。楽しいのは良い事だ。ツカサが楽しいなら俺も楽しいぞ」
「クロウ……ほんまにええこやなあ……」

 えっちな事が関わらなけりゃ、本当良い奴なんだけどなあ。
 熊の姿だって本当に可愛いし……こんなキュートな熊ちゃんが、どうしてあんな直球言葉責めしてくる悪いおっさんになるんだろう……。

 嫌いな訳じゃないけど、なんかこう、もうちょっとさあ。

「ツカサ?」
「あ、いや、何でもない。……そうだ! クロウには物凄く手伝って貰っちゃってたから、お礼しないとな!」
「ング?」

 不思議そうな顔で首を傾げる熊ちゃんに心臓を打ち抜かれそうになったが、ぐっと堪えて俺はリオート・リングから用意していたアイスを取り出した。
 途端に、クロウの耳がピンと立って、ふごふごと物凄い勢いで鼻を鳴らし出す。目なんてもうキラキラ輝いていて、アイスに興味津々だった。

「あ、あいすくりーむ!」
「ははは、この程度じゃ足りないかも知れないけど……うおっ」

 差し出した瞬間に、器に入ったアイスクリームを大きい舌でべろんと舐めとってしまうクロウに、思わずビビる。
 お、おい、可愛いけど流石にそうがっつかれると怖いぞ!
 しかしクロウは俺に構わずに器に入ったアイスクリームを全て舐めてしまうと、名残惜しいようにぺろぺろと自分の口の周りを舐めていた。

「グゥ……もう無いのか?」
「あんまり食べすぎるとお腹壊しちゃうからダメだよ」
「足りない……」

 そりゃあ熊の姿で食べたら足りないでしょうとも。
 さっきまで生き生きと立っていた耳をしょぼーんと垂れて、クロウは潤んだ目で俺の顔を見上げる。うぐっ、あざとい、あざとすぎる……!!
 でも沢山食べたら本当にお腹壊すし、冷たい物に慣れてない人に多量にアイスを食べさせるのはちょっと……。

「ツカサ、アイスはもうダメか? もうないのか?」
「あるけど、一度にたくさん食べるのはダメ」
「……じゃあ、別の物が欲しい」

 別の物? なんだろう。
 解らずに首を傾げていると――クロウは、俺の股間にその大きな熊の鼻をずぼっと突っ込んできた。

「うわぁああ!? ちょっ、く、クロウやめなさいって!!」
「アイスがダメならこっちが欲しい。……ツカサ、沢山手伝って腹が減ったんだ、だから……一番美味いものがほしい……」
「わ、解った、解ったから熊の姿でそんなこと言うなあ!!」

 可愛い姿のままじゃやめろって頭をはたく事すら出来ないじゃないか。
 ちくしょう、卑怯だぞクロウ!!

「本当か、嬉しいぞツカサ。じゃあ、ブラックが帰ってこない内に喰わせてくれ」

 そう言いながら、クロウは素直に俺の股間から鼻を退いた。

 こ、この野郎……さてはコレを狙ってたんじゃ……。

 そんな事を直感的に思ったが、それを言うとまた変な風に突かれかねないので、俺は泣く泣くクロウに従って家に入るしかなかった。











※次は軽く変態的なことをするので注意

 プラントハンターのお蔭で花開いた文化ってのもあるんですけど
 文明が成熟しきった現代ではそんなもん花開く訳がないですし
 完全に金儲けのために乱獲されまくっているので
 勝手に持ち出すという悪事は本当にやめて欲しいですね(´・ω・`)
 今現在ではヤマユリや日本特有の珍しい植物がその標的になってて
 心無いプラントハンターのせいで、ある地域ではその野草が絶滅したり
 山自体が踏み荒らされたりして本当に地方は困ってたりします…
 まあホントにハンターの仕事なのかとか疑問はありますし
 プラントハンター自体が悪いって訳じゃないんですけどね…
  
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