異世界日帰り漫遊記

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白砂村ベイシェール、白珠の浜と謎の影編

1.不思議な村と島の話

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 青い海、青い空、白い波止場にリゾートっぽい建物!

 ここが西の果てだと思わなければ、道の向こうに見える村はまるで南国の避暑地のようだ。しかし、やはりあの村が荷揚げの場所と言うのは確かなようで、波止場はとばにはそこそこの大きさの木造船が何船か停泊していた。
 ……周囲は砂浜なのに、どーんと固められた波止場に思いっきり船をつけて。

「周囲は砂浜なのに船が近くまで来れる波止場……? なんじゃこりゃ、どういう地形になってんだここ……」

 街道の先に見えたベイシェールの全貌を眺めて、俺は首を傾げる。
 村のまわりは草原からいきなり砂浜に切り替わっており、それはまあ、俺の世界でも変な光景じゃないんだが、それなのに船舶がベイシェールの真ん前の波止場に停泊しているのが奇妙なのだ。

 ……だって、ここ砂浜だぜ?
 話に聞いてはいたが実際に見るとすげー違和感だ……と眺めていると、俺の隣で変態……ブラックが不思議そうに顎を指で擦る。

「村の真正面だけ深くなってるのかな? 天然の船渠せんきょみたいになってるとか」

 船渠……船のドックか。ドックって、船を造ったり修理したりするための、凹型の場所だよな。そうか、村が在る位置だけ丁度深くなってて、それで天然の船渠になってるって訳か……いやしかし、入るのすげー難しそうだな。
 掘ったら砂と水が出て来る地面といい、本当どうなってんだこの地帯。

「ベイシェールの村は人口が数百人程度で、半分程度が昔から住んでる人達らしいよ。後の半分は商会の支部なんかの関係者だとか」
「あー、なるほど。荷揚げする所だもんなぁ」
「しかし、こんな奇妙な港は初めてだ」

 獣人の国でもこんな場所は見た事がないのか、クロウもキョロキョロと見回している。まあ普通は砂浜に大きな船が接岸するなんて有り得ないもんな……。
 そんなことしたら船が動けなくなっちまうし。

 でも「昔から住んでる」ってブラックが言ってたから、そういう土地だって事は村の人も最初から知ってたわけで……うーん? ますます「なんでこんな所に村を作ったんだろう」って疑問が湧くな……。

「そんなに気になるんなら、シンジュの樹を貰うための許可証を村長に見せに行くから、その時に聞いてみれば?」
「そうだな……そうするか」

 村を回る前に、大事な許可証を見せなきゃな。
 そう思い、俺達は街道と村を繋ぐ木製の橋を渡った。……ん? 橋?

「あれ……もしかしてベイシェールって陸地と切り離されてる……?」
「ツカサ、村を囲っている水は海水だ。……恐らく“この村の部分だけ”が、まともに地面と繋がっている大地なのだろう」

 クロウが橋の下を流れる水を嗅いで、ふむと感心したように声を出す。
 この村の部分だけがしっかり地面と繋がってるってことは……。

「じゃあここって、超絶間近まぢかに有る島って事なのか……」
「あれ、ツカサ君そう言う事よく知ってたね」
「え?」

 橋を渡り切って感心したように言うブラックに、俺は思わず聞き返す。
 いやだって、島は地面と繋がってるもんだろ普通。学校で習ったし。
 何を言っているんだと目を丸くしていると、ブラックも同じような顔をして俺を見返してきた。

「あれ、ツカサ君の世界ではそう言うのも習うの?」
「普通はそうだけど」
「えぇ……ちょっとした学術院並だな……。ツカサ君の世界ってもしかして学者ばっかりいる世界なの……?」
「いや普通の子供が普通に教わる話だから……つーかなんでそんな事言うの」

 島の構造なんて誰でも知ってるんじゃないの、と言うと、ブラックは困ったように眉根を寄せて肩をすくめた。

「残念な話だけど、この世界では島が『モンスターではない』と言われ始めたのがここ三十年程度の話なんだよね……」
「は? も、モンスター?」

 歩きながら聞き返すと、クロウはうんうんと頷く。

「そう。昔は小島などは“クジラ”と呼ばれ、彼らは夜に動くモンスターだと思われていた。だからクジラには人が寄りつく事なく、クジラが嫌がる炎を灯して、その脅威を退しりぞけていたと言われている。……現に海には島ほどの大きさのモンスターがいるから、それと混同していたんだろうな」
「まあ、モンスターの背中に住むなんて、誰だってゴメンだしね」
「島がモンスター……」

 日本の昔話に「島たちは夜に動いて歌ったり宴会をしたりする」なんてのがあるけど、まさかモンスターと混同されてるとは思っても見なかった。
 でも、確かにそうだよな……この世界には巨大な海獣が死ぬほどいるわけだし、まだ準飛竜なのにあれほど大きいロクショウの事を考えれば、海にぽつんと浮かぶ島だってモンスターじゃないかと警戒する事も有るだろう。

 それに、この世界の夜の海も暗い。海には大地の気の光が届かないからな。
 だからこそ余計に、この世界の人達はを恐れたのだろう。

 ……そっか、そういう発想は無かったな、さすがに……。

「だけど、三十年くらい前にとある魔族の冒険者が地下神殿から海に放り出された時に、島が“海の底の大地”の一部である事を発見してね。それから検証が続けられた結果、大多数の島は大地であると認められたのさ」
「発表された時は、獣人の国の皆も耳を飛ばさん位に驚いたものだったな」

 俺はクロウの慣用句の方に驚いたんだが。
 耳を飛ばさんばかりにって……獣人特有の言い回しなのかな? 確かに獣人だとケモミミが目立つ特徴だけど。オッサンについてても凄く可愛いけど。

「ツカサ君?」
「あ、いや、何でもない。でも、なんでそんなに解らなかったんだろうな」
「海賊は海にはほとんど潜らないし、僕達は基本魚とかは食べないからねえ……。東方の国ならまた違った知識が有ったのかも知れないけど、東方の国との行き来は制限されてて情報は全然流れて来ないし」
「なーる……。そんなに海と接してなけりゃまあ当然か……」

 かつて船が大海を渡る事が出来なかった頃、海は死地であり文明の終わる所だと言った人も居たと言うが、この世界ではそれがまだ続いてるんだな……。
 魔物が下から不意打ちしてくる場所なんだし、考えてみればそりゃそーか。

 俺の世界では、積極的に人を襲う海の生き物なんてごく一部だし、どっちかって言うと天候の変化の方が怖いから、ピンとこなかったけど……モンスターに襲われる確率の方がずっと多いんなら、海を忌み嫌うのも無理はない。
 ……そういう部分も海賊が遠巻きに見られてる理由なのかな?
 危険性から言えば海賊の方が高いもんな……色々と……。

「おっと、あそこかな? この村の役場は」

 ブラックが指さした場所には、一際大きな平屋の建物が有った。
 街の中心部だし、どうやら間違いなさそうだな。中に入ると思ったよりも高級な内装が目に入って来て思わず面食らってしまったが、許可証を持って来た事を受付のお姉さんに話すと、すぐに村長の所に通して貰えた。

 アポなしで直通って、村長さんヒマだったんだろうか。
 リゾート地っぽい所はどこもゆっくり時間が流れているのだろうかと思いつつも、俺達はつつがなく村長さんに会う事が出来た。

「おお、貴方がたがシンジュの倒木を買いたいと仰っていた冒険者さん達ですか」

 執務室で出迎えてくれた村長さんは、いかにもリゾート地の支配者と言った様子のお腹の出た……いやいや、恰幅の良い、人の良さそうなおじさんだ。
 この世界は美形が多いが、男はわりと千差万別なのでこういう普通のおじさんを見ると俺も安心する。特にライクネスは普通の容姿の人が多くて安心するなあ……髪の色がみんな奇抜だけど。
 村長さんと握手をしつつ、ブラックが許可証を渡す。

「ふむふむ、貴方達は充分な技量をお持ちであり、信頼に足ると……。なるほど、あのセイフト周辺の野盗を退治なさったのですね! いやいや、先にご連絡を頂いてはいたのですが、お会いしてみるとなるほど、これは頼もしそうな方々です」

 ニコニコと笑いつつ俺達の手を取って強引に握手をする村長さんに、ブラックとクロウはなんだか微妙な顔になる。

 初対面の人間に即座に距離を縮められるのが苦手なのは解るが、大人なんだからもうちょっと我慢してくれ。村長さんにブラック達の態度を気取られないように、俺はすかさず村長さんに問いかけた。

「あ、あのそれで! 売って頂けるんでしょうか……!?」

 手もみをしながら腰を低くして思いっきり下手に出る俺に、村長さんはニコニコと笑っていたが、しかしその笑顔にじわじわと汗が出始めた。
 つーか、なんか眉が困ったように歪んでいる。なんだ、これ嫌な予感がするぞ。

「いや~……それが、ですねえ」
「ま、まさか……購入できないとか……」
「いえそうではない、そうではないんですよ! ですがその……お売りする前に、少し困った事が起こっておりまして……」

 あ。これアレだ。
 ゲームでよくある「目的のモンが欲しけりゃ、別のクエストをこなすんだな!」のいやらしい奴だ……。

 ブラック達もそう言う雰囲気が解ったのか、思いっきり眉間にしわを寄せていたが、こうなってしまっては最早話を聞かずに帰る訳にもいかず、俺達は半ば強制的に村長さんの「困ったこと」を聞く羽目になってしまったのだった。

 さ、さてはセイフトの冒険者ギルドめ、はかったな……。










※ベイシェール編
 別名「ツカサが苦手なモノにもてあそばれる編」も軽い感じで行きますので
 よろしくおねがいします(*´ω`人)
 
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