異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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ファンラウンド領、変人豪腕繁盛記編

 色々考えると深みにはまる2

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※すみません遅れました…:(;゙゚'ω゚'):





 
 
 俺もつくづく甘いなと思いながら緩い下り坂を降りて行く。
 一度は緩いカーブを描く道を取り囲む建物に隠れてしまった湖だったが、歩みを進める内に段々と湖の色が見えて来た。

 カーブが終われば、もうそこには視界いっぱいに広がる大きな湖が……と、感動したかったのだが……やっぱり、湖を囲む遊歩道を覆う野草のせいで、テンションが上がらなかった。

 ううむ……ちょっとこれは頂けないぞ……。

「……やっぱりみすぼらしいねえ……」
「うむむ…………」

 ブラックの正直な言葉に「そんなことないよ!」と返したくはあるのだが、残念ながら言葉が出てこない。
 誰もが見惚みとれる名勝めいしょうも保全の手を緩めれば汚れてしまうし、いくら自然と言えども永遠に同じ風景である訳ではない。

 森の木々は成長してゆっくりと領土を増やすし、山は様々な理由でゆっくりと形を変え続けている。川は人や獣が暴れれば歪む事も有るし、砂浜だって打ち付ける潮の流れによってはゴミで汚れる事も有るのだ。
 年月に耐えられる自然の風景と言う物は、どこにも存在しない。

 だからこそ、観光地の風景は地元の人が地道に守り続けている訳で、そんな彼らのお蔭で、観光客である俺達はいつだって綺麗な風景を楽しめているんだが……。この村にはそういう考え方は無かったようだ。

 まあ、村の人達は普通の入植者みたいなもんだし、別段お国からも「保全しろ」なんて言われてなかっただろうから、仕方ないかもしれないけどね。
 でもこの現状をみて放って置くってのはちょっとなあ……。

「うーん……村に住んでるって言うのなら、誰か一人くらい草むしりをしたりとかしてても良さそうなんだけど……みんな街に出ちゃったんだろうか」
「昔はちゃんと除草していたのかも知れないけど、人が減って街に目が向くうちに湖の事なんて忘れちゃったのかもね。……村人の住居区域も空き家が目立ったし、観光地だったのは昔の話だから……若者がいたとしても、彼らも風景が普通に思えちゃって、綺麗にしようと言う気も起きないのかも」
「なるほど……」

 これが普通だと思ってたら、確かに何かしようとは思わないな。
 そういえばこの場所が観光地だったのはだいぶん前の話だし、俺だって、自分の住んでる街が観光スポットですって言われても「ふーん」てしか思わないもんな。

 そうか……住んでる人の意識の違いってのも有るのか。
 だとしたら、まず先に観光地としてアピールしようっていう説明を村の人達にしなきゃいけないのかな。仮に俺達がこの湖の周辺を草むしりして綺麗にしたとしても、その後村の人達が手入れを続けてくれなきゃどうしようもないもんな。

 ぐう、観光地って、一から建て直しをしようとすると凄く難しい……。

「まあとりあえず、今日は深く考えずに歩いてみようよ。悩みながら歩いてたんじゃ、いい案も思いつかないだろう?」

 悩む俺にそう言いながら人懐こい笑みを向けてくるブラックに、俺はそれもそうだなと緩く苦笑して頷いた。
 ブラックが能天気なお蔭で助かってるけど……ほんと、あべこべだよなあ。

 でも、こういうのは嫌いじゃない。
 ずっと難しい顔してるより一緒にワイワイ楽しむ方が気分良いし、なにより一緒に居るならそら笑顔でいるヤツの方がいいもんな。
 うん、そうだな。せっかくブラックの機嫌が良いんだし、俺も眉間に皺ばっか寄せてないで、散策を楽しむことにしよう。何だかんだでまだトランクルの散策ってコレが初めてだしな。

 ……今まで何気に忙しくて、ほんと貸家かセイフトかって生活だったからね。
 だけどおかしいな、この村に来た時は、ついに俺もチート的スローライフ生活が送れると思ってたんだけどな……。

 ま、まあいい。今は散策だ。
 草ぼうぼうで歩きにくいが、ブラックと一緒に湖をぐるりと回ってみよう。

 とはいえ、村から少し外れたらもうそこはすぐ森なので、村を散策……とは言い難いんだけどね。まあいいさ。
 そんなことを考えながら、左側に建物が並ぶ湖の遊歩道を歩きつつ、俺達は時折ボロボロの木の柵に少し手を添えて湖を覗き見る。

 少し段差があるがすぐに深くなっているのか、湖は高い透明度にもかかわらず、底があまり見えない。今のところ魚が居るような気配はないが、水草っぽいものが生えているから水棲動物は居そうなんだけどなあ。

 ちらちら湖の水面を見ながら、村の範囲が終わる場所――マイルズさんの湖の畔の小屋が見えてくる所まで歩いてきた所で、ブラックがふと思い出したかのように俺に問いかけて来た。

「ねえツカサ君、そういえばなんだけど……観光地についての知識も、ツカサ君の世界では普通に習ったりするの?」
「ん? ん~……? どうだろ……俺より年上の人とかは習うのかも知れないけど、俺は学校……えっと、勉強する所では習った事ないなあ」

 本当に「そういえば」な話題だなと思いながら素直に答えると、ブラックは心底不思議そうに首を傾げて俺をじっとみやる。

「じゃあ、どこで?」
「どこで……っていうと、何とも言い難いけど……俺の場合は、旅に行った時とかに家族に軽く教えて貰った感じかなあ。あと、勉強とは別に、そう言うのを優しく説明してくれる媒体がいくつかあって、それを流し見したりして……。まあなんつーか、又聞きレベルだよ」

 テレビだとか漫画だとか言うと説明が面倒臭いから、微妙に解りにくい説明になってしまったが、ブラックなら理解してくれるだろう。
 そんな俺の期待に応えるようにブラックはフムフムと頷いていたが、なぜだか急に羨ましそうな顔になって、先程から握っていた俺の手にギュッと力を込めた。

「そっか……。やっぱり凄いなあ、ツカサ君の世界って。知識を得るのが苦にならない程に、学ぶ方法が多様化されてるんだね……。それに、ツカサ君の家族って、凄く頭が良いんだろうなあ」
「頭……婆ちゃんと父さんは間違いなく良いと思うけど、母さんはどうかな……」

 正直、一週間ポトフ祭りとか一週間蜂蜜祭りをやらかして家族に無理矢理食わせるような人は、頭が良いと言ってはいけないと思うのだが……。
 地獄の日々を思い出してちょっと首を傾げる俺に、ブラックはふふっと笑った。

「嬉しいなあ」
「な、なんだよ急に……」
「だってさ、最近ツカサ君自身の話って聞けてなかったから」

 ……そ、そうかな? 俺、話してなかったっけ?
 でも、そうか。そう言えばそうだな。

 二人きりの時と比べたら、自分の事ってあんまり話した事なかったかも……。

「ツカサ君の世界がどんな場所かって気にならないわけじゃないけどさ。でも……僕は、ツカサ君がどんな風に暮らしてたかって事を聞く方が、ずっと嬉しいんだ」
「ぅ…………」

 そ、そんな満面の笑みでこっち見んなよ。
 なんか居た堪れなくなるじゃないか。なんで自分の下らん身内話を聞かせただけで……。ええい近寄るな、顔を近付けるな!

「恋人の僕だけが、ツカサ君の“全部”を知る事が出来るんだなぁって思ったら……凄く楽しくて、嬉しくて……たまらなくなる」
「あっ……!」

 握っていた手をぐっと引かれて、ブラックの方へと思わず倒れ込んでしまう。
 だが相手は俺をしっかりと抱きとめて、それから俺の頬にキスをした。
 きっ……キスって……おい、ここ外! 外なんですけど!

「ねえ、ツカサ君……ツカサ君の話、もっと聞かせて。僕だけに、別の世界にいた頃のツカサ君の全部を聞かせてよ……」
「ちょっ、ちょっと……あのっ、そ、そんな、聞いてもつまんないぞ……!?」

 自分でも何言ってんだと思ったが、野外のひらけた場所で抱き締められて頬やら首やらにちゅっちゅちゅっちゅ吸い付かれていては、混乱せずにはいられない。
 とにかく腕の中から逃れたくて、ぎこちない声でそう言うが……ブラックは離す素振りすら見せず、俺を抱き締めたままちくちくの無精髭で頬擦りしてくる。
 いて、イテテ。

「つまらなくなんてないよ。だって……僕が知らないツカサ君の話だよ? 大好きな人の知らない部分を知る事が出来るなんて、最高じゃないか」
「だ、だからそう言う事シラフで言うなってば……!」
「ツカサ君だって、そうでしょ?」
「う…………」

 問われて、思わず声が詰まってしまう。

 …………正直な話、さっきブラックに思ってた事を考えると、何とも言えない。

 そりゃ、ブラックが昔の話を話してくれたら……俺だって、嬉しいとは思う。だって、ブラックは過去の事を話したがらないし、辛そうな事を無理に訊くのは俺としても嫌だし。
 だから、少しでも話してくれるなら嬉しいって思うけど……でも、俺の日本での事なんて、友達に話す事すら下らない事ばっかりでつまんなくて、むしろブラックに聞かせるような良い話なんてないし……。

「ああもう可愛いなぁ! ツカサ君、ツカサくんんん~~~!」
「わっ、わー! や、やめろ、こんな所でサカるなぁああ!」

 なんで今発情した!? そう言う話じゃなかったよね!?

 更にキスをしようとしてくるブラックを必死に牽制するが、力の差は圧倒的だ。
 抱き締められたままではどうする事も出来ず、俺は抵抗虚しく強引に唇を奪われてしまった。ああもう、なんでこんな事になるんだか!

「んっ……んぅ……ッ!」

 ざりざりした髭の感触の中で、生暖かい唇が俺の口を優しく食んでくる。
 合わせ目を舌先がなぞるのが恥ずかしくて思わずブラックの服を握ると、相手は吐息を漏らしてもう一度強く口付けて、やっと顔を離した。

「ふは……はぁ、は……つ、ツカサ君……可愛ぃ……」
「っ、も……バカ……! い、いくら人が居ないからって、こんな……!」
「ごめん……だって、ツカサ君があんまり可愛い顔するから……」

 解り易くショボンと眉を寄せるブラックに、烈火のごとく怒ろうとした俺の意気が引っ込む。おい待て俺の怒り、絶対反省してないって解ってるのに、なんで引っ込むんだ俺の怒りぃいい……!

「だ、誰が可愛い顔だ! んな顔してないんですけど!?」
「え~? ツカサ君も僕の事知りたいって思ってくれたんだよね? その証拠に、僕が『そうでしょ?』って言ったら、可愛い唇がきゅって小さくなってほっぺが赤くなったもの……ふ、ふふ……可愛いよぉ、ツカサ君んん……」
「あっ、や……っ」

 またブラックが俺をぎゅうぎゅうと抱き締めて、キスをして来ようとする。
 だけど何故か力が入らなくて、どうしていいのか解らず手をブラックの顔に添える事しか出来ない。心臓がどきどきして、頬が痛くて、足の力が抜ける。
 自分の考えていた事がバレて恥ずかしいからなのか、それとも別の要因があるのか、解らないけど、どうしようもなくて。

「ツカサ君……嬉しい……嬉しいよ……。ツカサ君も、僕の事大好きなんだね……こんなに甘い美味しそうな顔して、目を潤ませて……あぁ……たまらない……」
「や……や、だ……だめだって、こんな所で……!」

 頬に当てた手がちくちくする。必死に押し退けてるはずなのに、ブラックの顔はちっとも遠ざかってくれなくて、また俺に近付いて来る。
 菫色すみれいろの目が輝いているのが解る度にまた胸が痛くなって。
 こんな場所で乳繰ちちくり合ってる場合じゃないと解ってるのに、どうしても力が入らなかった。

「ねぇ、ツカサ君……セックスしよ……? ツカサ君があんまり可愛い顔するもんだから、僕もう股間が……」
「わぁああ! ばかっ、だ、だめ、だめだってばあ!!」

 外でそんな事言うんじゃねーよ!
 誰も見てないって、誰かが見てたらどうすんだよ!!

 慌ててブラックの口を塞ごうと手を伸ばすが、ブラックは止まってくれない。
 それどころか、俺をがっちりホールドしたまま「何があっても今すぐヤるぞ」と言わんばかりに目をギラつかせて腰を押し付けて来て。

「ひっ……! や、ま、待って、だめ、今だめだって」
「ツカサ君……」

 あああああこのままだと最悪な場所でヤられてしまうー!!

「おい、お前ら人の小屋の前でイチャつくんじゃねえ」
「わあああぁあああ!!」

 ほら見つかったばかばかばかー!!
 やだもう恥ずかしい穴が有ったら入りたいここから逃げたいああもううう!

「お、おい落ちつけツカサ。邪魔して悪かったよ」

 混乱して思わずブラックの顔を思いっきり引き剥がしてしまう俺に、焦ったように知っている声が話しかけてくる。
 この声って……マイルズさんか?

 恐る恐る振り返ると、そこにはまさに困惑顔のマイルズさんが立っていた。
 って、あぁ……知り合いにとんでもない所を見られてしまった……。

「お、お見苦しい所を見せて申し訳ありません……」
「いや、俺は別に異性主義じゃねえからいいけどよ……それより、お前らなんだ。散歩か? 旦那さんよ、こんな所でサカらずともベッド作ってやっただろ。ちったあ嫁にも遠慮してやれよ」

 嫁違う。嫁違いますってマイルズさん。
 でもブラックはマイルズさんの派手な勘違いに満更でも無かったのか、妙に素直に俺を手放すと自慢げに鼻の下を指で擦った。

「ふ、ふふ、まあ……そうだね、焦る必要も無いしね……」

 なんだこいつ殴りてえ。股間まだテント張ってんぞこら。

「何でも良いけど、昼間っから野外はやべえぞー、モンスターも出るかもしれんしな。特に湖の近くなんざ、逢引なんぞするもんじゃねえって」
「え……何であ、逢引は駄目なんですか?」

 普通、湖ってリア充カップルがよく徘徊はいかいしてる場所だよな。
 ドラマでそういうシーンを見る度に「湖の水枯れ果てろ」と思うくらいにド定番のデートスポットなのに、どうして逢引……デートしちゃいけないんだろう。

 先程の事はすっかり忘れて目を丸くする俺に、マイルズさんは話してくれた。
 俺達がまだ知らなかった、この湖についての話を。











※名勝…お国が「すげー!この景色すげえ!自然すげえ!価値たっか!
        すっげえ美的風景文化財(名勝)って認めて保護しちゃお!」
      って感じで認定された自然風景とか庭園とか展望地の事。
      ツカサの家は婆ちゃんと旅行に行くので旅行先で名勝に行きがち。
 
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