異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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ファンラウンド領、変人豪腕繁盛記編

10.いつの世にもアイデアマンは居る

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 ラスターとクロウには村長さんの話を聞きに行って貰っていたが、具体的に何を聞いて貰って来たのかと言うと……それは、村の昔の様子だった。

 とはいえ、村長さんの歳からすれば隆盛をほこった頃のトランクルの様子などまったく知らないはずだ。なにせ、トランクルが解放されて観光地となったのは、百年近く前だという。仮に村長さんが知っていたとしても、かなり末期の頃だっただろう。

 これでは効く事など何もないではないかと思われそうだが……しかし、こういう歴史のある街には、村長や役人だけが読める記録という物が残されている。

 特に、王族から払い下げられた土地であるトランクルには、かなりの資料が今も大事に保管されているのだ。
 ならば、村の復興を願う村長さんも当然その「隆盛を誇った時期」の記録を読んでいるに違いない。俺達がこれから調べる事よりはるかに、深い知識を持っているはずだ。それを教えて貰わない手はない。

 要は、村の復興を模索もさくして情報を集めていただろう村長さんに、美味しいとこをつまんで話して貰おうという事なのだ。

 あのピッカリした頭が光を失くすほどに悩んでいたのだろうから、俺達に対しても的確な話をしてくれるに違いない。
 そう思っての頼みだったのだが――ラスターとクロウは、俺が思った以上に有用な情報を持って帰ってきてくれた。

 村長さんが望んでいた「シアンさんから支援して貰う」と言うモノとは違う方向からのアプローチだが、この国の最高権威貴族であるラスター直々にお出まししたのが彼の心をいたく感激させたらしい。
 おかげで、村長さんのみならず役場の人達も全面的に協力してくれる事になったが……いや、ほんとにこういう時は凄いな貴族の力。
 俺達だけだったらこうはいかなかったかもしれん。

 まあそれは置いといて、肝心の内容だが……全盛期のトランクルは、それはもうきしにまさる程の繁盛はんじょうっぷりだった。
 いわく、昔のトランクルは明かりの消えぬ街と言われ、今は見られないが賭博場や娼館、数えきれないほどの酒場が所狭しとひしめき合っていたらしい。
 王都では俗世を離れた場所にある桃源郷として、貴族達もこぞって訪れ夜な夜な湖の上で光に包まれながら秘密の逢瀬を繰り返した事も有ったらしい。

 ……それが記録に残ってるのはどうかと思うが、とにかく凄かったようだ。

 娼館や賭博場があったのには驚いたが、多分もう壊されちゃったんだろうな。人が減る内に採算が取れなくなって、だったら代わりに家を建てよう……なんて事になったのかも知れない。とは言え、その土地を再利用する為の家も空き家になってしまっている訳だが……。

「その頃の飲食店とかはどうだったの?」
「主に貴族向けや金持ち向けが多かったようだな。まあ、旅が出来るような身分の者と言えば、街に住む一般市民や上流階級がおもだからな。冒険者も居たかも知れんが、まあまず金のない者には入れない場所だったようだ」
「しかし、ある時からその人気も急激に下がって行ったらしい」

 ラスターとクロウの言葉に、俺は首を傾げる。

「その“ある時”って……どんな事が起こったんだ?」
「簡単に言えば、客を奪われたのだ。そう、新たな保養地が見つかったせいでな。その名はゴシキ温泉郷……今現在最も人々に愛されている観光地だ」
「えっ……」

 ゴシキ温泉郷……って、俺達が初めて二人っきりで旅行したところじゃん。
 だけどまさかこんな時に名前を聞くとは思わなかった。

 目を丸くする俺とブラックに、クロウが言葉を続けた。

「温泉と言う珍しい要素もそうだが、ゴシキが“あらゆるものの為の観光地”だったのも大きいようだな。貴族だけではなくオレ達のような冒険者や、金をあまり持たない人々でも最低限の楽しみを見つけられるように作られているらしい。それなら誰だって行きたいと願うだろう」
「確かに……手の届かない場所よりも、手の届く場所の方が行きやすいもんな……そっか、それでトランクルは徐々に廃れて行ったのか……」

 確かにゴシキ温泉郷は素晴らしい観光地だった。
 無料で見れる特殊な名所に、安価な温泉宿や酒場のみならずお貴族様まで訪れる高級な施設や薬効のあるお湯があるという至れり尽くせり具合。
 それに加えて火山地帯特有の珍しい物を使った「名物料理」まであるとなれば、これはもう行かずにはおれないだろう。

 完璧だ。完璧すぎる。
 まるで俺の世界の温泉地のようではないか。
 だけど……そう考えてみるとちょっと不思議だな。そこまで完璧な観光地がそうホイホイ自然と出来上がる訳じゃないし……と思っていると、俺の疑問を読み取ったのか、ラスターがフムと息を漏らして頷いた。

「さすがはパーティミル家だ、伊達に辺境伯とは呼ばれておらん。ありとあらゆる情報を使って、あのような桃源郷を作り上げたのだからな」

 パーティミル……って、ゼターの母親であるヒルダさんの領地か……?
 だとしたら、ちょっと納得かも。ヒルダさんもかなりの切れ者だし、そんな彼女をめとれるほどの優秀な一族なんだから、あのゴシキ温泉郷を作り上げる事が出来たのだって不思議とは思えない。

 なんてったって、相手は最高権威のお家だ。そこから下級の家に嫁に出るって、ガチで相手が有能な証拠だと思うんだよな。

 だけど……パーティミル領が相手かぁ……そら勝てんわなぁ……。

「なるほどね、殿様商売で権威に胡坐あぐらをかいてる内に、もっといい観光地に足元をすくわれてこんな事になっちゃった……と……」

 大体の話をまとめた俺に、ラスターは呆れ顔で肩を竦めた。

「トランクルはそもそもが“入植したら勝手に観光地になった”という場所だからな。その辺りに関してはまるで不勉強だったのだろう。……そんな素人が、研究を重ねて作り上げられた観光地に勝てるはずがない」
「まあ、そうだよね……。二人の話を聞く限り、名物料理も無かったみたいだし」
「それに、あのカレンドレスの花粉の被害も何度かあったようだからな」

 ああ、それって自殺……いや考えるのよそう。怖いし。
 そっか、温泉郷が出来たことに加えて憂鬱ゆううつ花粉のせいで色々と事件が起こったりしたから、その悪評も広まってこんな事になっちゃったのか……。

 となると、今からの挽回はちょっとキツいかもなあ。
 何もノウハウが無い……とは言わないが、村人達は観光地に住んでいるっていう意識が完全になくなっちゃってるし、村はすっかりしなびちゃってるし。

 こりゃ名物料理作ったり家を補修するだけじゃ駄目かもしれんぞ。

「湖と名物だけじゃ、やっぱ弱いよな……」
「そうだねえ。せめて、何か楽しめるような物がなければ、ゴシキ温泉郷どころかベイシェールからもお客は奪えないだろうねえ」

 だろうなあ……温泉地には娯楽がつきものだし。
 そして、観光地には特異性があるものだ。やっぱりカレンドレスの花畑だけでは多くの観光客を獲得する事が出来ない。
 だけど、薬効も有って曜気も摂取できる温泉地に勝てる特異性って……?

「うぅうう……頭痛くなってきた……」

 何か思いつけそうな気もするんだけど、今日はちょっと色々情報を仕入れすぎて整理できる気がしない。
 とりあえずリオルを含めた五人で「どうしたらトランクルを人気観光地に出来るか」という事を一晩考えようという結論を出し、俺達は今日はもう寝る事にした。



   ◆



「ではツカサ、明日の朝食を楽しみにしているぞ」
「う、うん……」

 ベッドがやって来たと言う事で、「貸家に泊まって俺の作ったメシを喰う」約束を履行すべく、ラスターは意気揚々と客間へと消えて行った。
 本当にこんな事で良いのかなあとは思うが、ラスターが良いと言うのだから仕方がない。今日は手料理を振る舞ってやる事が出来なかったが、明日はちゃんと料理をだしてやらないとな。
 約束だからってのも有るが、実際ラスターには結構助けて貰ってるし。

 ブラック、クロウと共にラスターを客間の前で見送って、じゃあ俺達も寝ようかと二人を見上げると、クロウが少し耳を伏せているのが目に入った。
 あれ、どうしたんだろう。

「ツカサ…………明日は一緒に居て良いか?」
「え? う、うん。名物考えなきゃ行けないし……なに、どうした? 何か困った事でもあったのか?」

 耳を伏せてるって事は悲しんでるか落ち込んでるって事だし、俺が知らない間にクロウに何か有ったのかも知れない。
 そう思って慌ててクロウを見やると、相手は何故かすぐに耳を立てた。
 あれ……落ち込んでるんじゃなかったの。

「そうか。一緒に居て良いか。……じゃあ、今夜はツカサのために、一生懸命案を考える事にするぞ。おやすみ」
「んんん?! お、おやすみ……?」

 さっき落ち込んだと思った熊さんがもう機嫌が直った……いや本当にどうしたんだろうか……。めちゃくちゃ気になるんだけど、でもまあ、引き摺るほどの事ではなかったって事かな……? だったらいいんだけど……。

 すでに閉じられてしまったクロウの部屋の扉を見やるが、それで何かが変わる訳でもない。仕方がないので、残ったブラックの方を向くと……ブラックは、何故かまた変な顔でニヤニヤと笑いながら俺を見下ろしていた。

 おい、お前その笑い方犯罪だぞ。完全に痴漢とかのそれだぞ。やめろ。

 何を笑ってるんだと眉根を寄せると、ブラックは何を思ったのかいきなり真正面から俺を抱き締めてきた。

「えっ、ちょっ!?」
「ふ、ふふふ……ツカサ君……僕の部屋に来てくれるよね……?」
「部屋って……え? なんで?」

 真面目に何でか判らずに問い返すと、ブラックは顔を歪めた。

「つ、ツカサ君今日した約束もう忘れちゃったの!? 僕にフェラしてくれるって言ったじゃない! フェラ!!」
「わ――!! や、やめろっ、大声で言うな!!」

 慌ててブラックの口を塞ごうとするが、しかし相手は首を振って俺の手を逃れ、俺を非難するように声を荒げる。
 やめろっ、二人が出て来るだろ!!

「ツカサ君が忘れるからでしょ! 忘れないようにもう一回……」
「だあもう解った解った!! ……や、約束だし…………やるよ」

 お、男に二語は無い。約束したんだから、ちゃんとやりますよ。
 …………凄く恥ずかしいけど……。

 だけど流石にブラックの顔を直視する事は出来なくて、何だかぶっきらぼうに言ってしまった俺に、それでもブラックは上機嫌で抱き締める腕を強めて来た。
 ああ、これ、逃れられない奴……。

「ふ、ふへへ、じゃ、じゃあ……部屋、行こうか……」
「…………」

 ああもう、なんでこうこのオッサンは口を開けば変態みたいな事しか言わないのかなあもう! も、もうちょっと、ムードのある言葉とかで誘ってくれたら……その……俺だって、こ、こんな嫌そうな顔しなくたっていいのに……。

 …………って、何を考えてるんだ俺は。
 ムードのある言葉で誘われてもフェラはフェラだろ!!
 ヤバい、オッサンに引き摺られて俺までおかしくなってきた……。










※つぎはお約束のアレです(´^ω^`)
 
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