異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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ファンラウンド領、変人豪腕繁盛記編

  異世界で素晴らしい朝食を2

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 朝食。それは、一日の始まりをサポートする重要な食事だ。

 一日元気で居られるかどうかは朝食で決まると言われる事も多いが、それは概ね正しいと俺は思っている。なにせ、婆ちゃんに一日三食しっかり食べろと教えられたのだ、男なら一日一杯どんぶり飯なのだ。
 
 まあどんぶり飯がキツい時もあるけども、それはそれとして、動き始める時間に摂取するエネルギーなんだから、そりゃしっかり取った方が良いに決まっている。
 なにより、俺達のようにやる事が山積みで朝から動き回らなきゃ行けない奴らには、その栄養の価値は計り知れないだろう。

 ラスターとの約束を果たすために手料理を作る……という約束があるとは言え、それが朝食であるならば、手を抜く事も適当な献立こんだてを考える事も許されない。
 朝食なのだから、その時間帯に相応ふさわしい物を作らねばならないのだ。

 普通に考えて、朝からステーキとか……いや俺は良いけど、ブラック達は嫌がるだろうからな。あいつら中年だし。

 だから俺は、昨日の晩から完璧な朝食を仕込んでいたのである。
 そして、陽が昇って今日! 

「よし……よしよし、ちゃんとまともに仕込めたぞ……!!」

 白い簡素なエプロンを装備し、臨戦態勢。
 リオート・リングから件のものを取り出して、俺はにんまりと顔を緩める。
 そんな俺の背後でテーブルに食器を並べているリオルが、嬉しそうに軽い声で俺をはやし立てた。

「ヒューッ! ツカサちゃんやっぱすげえなあ。俺だって思いつかない料理を作っちまうんだから……家事妖精より家事上手いんじゃない?」
「へへ、そんな褒めんなって! まあこれ俺が考えた料理じゃないんだけどね」

 そう言いながら、箱型の陶器に収めたモノをじっとみやる。
 あとはコレを焼くだけだな……と思っていると、台所にぞろぞろとオッサン達が入って来た。遅いと言う訳ではないが、早起きした俺達から比べると、無理のないゆっくりした起床と言えよう。

 俺も朝食作りが無かったら普通に寝てるんだけどなあ……。

「ふわぁ~……つかさくんおはよぉ……」
「ウグ……おはよう……」

 ブラックは目を擦りながら舌っ足らずな挨拶をして、クロウは目をしょぼしょぼさせつつ耳を緩慢な動作で動かしている。
 まあ本当に分かりやすいオッサン達だ。でも、用意する前に起きて来てくれたので、文句は言わない事にしよう。

「おはよ、ブラック、クロウ。ちゃんと顔洗って来たか?」
「うぇ……? うー……まだ……」
「グゥ……」
「もー、ちゃんと洗ってこいよ! しゃきっとしてこい!」

 じゃなきゃメシ食わせんぞと凄むと、オッサン二人は渋々台所から出て行った。
 ったくもー、二人ともなんで普通に寝て髪の毛ボサボサになってんだよ……後で整えるように言わなきゃ……。

「ツカサちゃん主婦染みてる」
「はぁ!? なんで俺が主婦なんだよ!! 普通に朝食当番なだけだろ!」

 家事やってる奴が全部主婦に見えるなんて、お前は昭和のおっさんか!
 まったくいい加減にしてほしいもんだ。料理作って髪の毛を整えろと言っただけで主婦になるなら、学生寮で料理当番になった風紀委員も主婦になっちまうだろ。

 つーか、あいつらがキチンとしなさすぎなんだよ。
 ブラック達と付き合ってたら、誰だってオカンみたいになるって絶対……。

「……って、そう言えばラスターは? まだ起きてないのかな……」
「あれ、ツカサちゃん知らないの? きれーなお貴族サマなら、朝から庭で剣の稽古けいこをしてるよん」
「え、マジ……? 朝練だと……」

 なにそれ、ラスターったら意識高すぎない……?
 き、貴族だからか。貴族だから意識まで高いのか?

 朝から剣の稽古だなんて、漫画や小説の中でしか見た事ないんだけど……ってそりゃまあ当然か。しかし、ラスターってホントに傲慢ごうまんな所以外はまっとうに真面目なんだなあ……。

 でも、剣の稽古ってどんなんなんだろ。ちょっと気になる。
 朝食作ってから呼びに行ってみるか。

「んじゃまあ、先に朝食作るかな……えーっと……」
「ツカサちゃん何作るんだっけ?」
「ほんのり甘めのフレンチ……えーと……まあいいか。フレンチトーストと、ヒポカムの半生干し肉を油で炒めてカリッとさせた奴に、目玉焼きが今日の献立だぞ」

 そう。
 俺が昨日作ろうとしていたのは、フレンチトーストに使う為のバターだった。
 なくてもいいんだけど、これが有るのとないのとでは味が結構違うからな。出来ればみんなには美味い物を食べさせてやりたかったので、昨晩は頑張っていたのだ。

 フレンチトーストは、家庭科の授業で一度習っただけの俺でもそれなりに覚えているくらい簡単な料理だ。しかも、材料は特別な物を使う訳ではない。
 きちんとしたモノを作ろうと思うと少し手間がかかるが、それでもその程度だ。

 しかも、フレンチトーストは砂糖の量を調整できるから、甘めに作る事も出来れば、オトナな朝食用に少し抑え目に作る事だって可能なのである。
 ……まあ俺はドぎついくらい甘い方が好きなんだけど、今回は朝メシだからな。

 バロ乳と卵とほんのり甘めに感じる程度の砂糖を混ぜて、液体状に。
 味を見て確認してから、底の広い容器に液体をたっぷり入れて、そこに白パンを浸す。この世界の白パンは、中身は食パンっぽいけど形はまるきり丸いフランスパンって感じなので、切り取る必要が有るからちょっと大変だが、それはともかく。

 ひたひたの液体にしっかり片面を付けて、染みたのを確認してひっくり返すと、そのままリオート・リングに入れて一晩置く。

「……で、完成したのがこちらです」
「ツカサちゃん何言ってんの?」
「まあ気にするな。……そんで、これを今から焼く。そこで登場するのが……この手作りバターな訳だ!」

 リオート・リングを振って取り出したのは、金属の容器にしっかり保存した、俺様お手製のほんのり黄色い異世界式バターである!
 これを、温めたフライパンもどきの調理器具に載せて溶かして、後はじっくりと焼き目が付くまで焼くだけだ。

 鼻歌交じりでフレンチトーストを焼き上げていく俺の隣で、さきほどから後ろでじっと観察していたリオルが感心したような声を漏らす。

「しっかし……これがバターとはねえ……本当に出来るとは思わなかったよ。こんなこってりしてて美味い食べ物があるなんてなあ」
「ふっふっふ、凄かろう凄かろう」

 これがバターだよアケチクン、と意味不明な事をも居ながらも、俺は昨晩のキレてる俺の凄い行動を脳内プレイバックする。
 あの時の俺は、本当にIQがハンパなかった。

 だって、出来そこないのバターを口に含んだだけで――――

 足りないのは“油分……または、脂肪分”だと見抜いたんだぜ!

 ……そう、バロ乳のバターに足りない物……それはまさしく油分だった。
 よくよく考えてみると、バロ乳は牛乳よりもさっぱりしており、比較的牛乳嫌いな人でも飲みやすい程度の乳臭さだった。
 うろ覚えの話だが、牛乳や肉のニオイには、脂肪分の多さが深く関係していると聞いた事が有る。だから、乳脂肪分の多い牛乳は乳臭さが強いと感じる人が多いし、苦手に思う人もいるのだそうで……。

 それを考えると、生クリームが上手く作れなかった事も納得が行く。
 バロ乳には、乳臭さ……つまり、脂肪分が少ない。だから、生クリームも上手く作れなかったのだ。
 そのように仮定すれば、バターが出来なかった事も納得が行くじゃないか。

 これが正しい推測かは解らないが、とにかく泡立ったり固まる為に必要な成分がほとんど存在していないのであれば、バターにも「補助する物」が必要だと言う事だ。

 それを考えた俺は――――有る事を思い出したのである。
 ある料理では、バターの代用にオリーブオイルが使われる事が有る……と!

 ……そこまで考えれば、もう後は簡単だ。思いつくなり俺は裏庭にカンランの実を採りに行き、バター液に混ぜてシェイクした。
 その結果見事なバターが出来上がったって訳だ。

 しかし、味まで俺の世界のバターそっくりになるとは思わなかったな……。
 カンラン油が凄いのか、それともバロ乳が化学変化を起こしたのか。そこら辺は気になる所だったが、まあとにかく成功したんで深くは考えまい。
 俺は別に科学者でも研究者でもないからな。バターが出来ればそれでいい。

「でも、バターが出来た事でこれから料理の幅が広がるなー」
「うんうん、フレンチトーストを焼いてるだけでもすげー良い匂いだし、こりゃあ俺もツカサちゃんのお料理期待しちゃうなあ……」
「ふふふ、こうご期待……っ、と、これくらいかな」

 軽く焼き目が付いたのを確認してかまどからフライパンを遠ざけると、濡れた布巾ふきんの上に置く。リオルに皿を持って来て貰いトーストを全部移すと、一旦フライパンを流し台に置いて、俺はキョロキョロと周囲を見回した。

「……しかし三人とも遅いな。ベーコン……じゃなく、干し肉は薄切りにしてカリカリに焼くから、焼いて置いとく訳にもいかないんだが……」
「呼んで来たら? 俺その間に調理器具洗っとくからさ」
「お、ごめん。じゃあラスター呼んでくるわ。ブラック達はすぐ来るだろうし」

 台所と洗面所はそう離れてる訳でもないし、ラスターを呼んできた帰りに呼べば手間は無い。とにかく、トーストが冷めないうちに三人を回収しなきゃな。

 リオルにフライパンの洗浄を頼むと、エプロンを外し俺は早足で家を出た。
 ラスターは庭に居るとリオルが言っていたので、玄関から出てすぐに土だけの庭の方へと目をやると――――その殺風景な庭で、剣の修行にはげんでいるキラキラした青年を見つけた。

「おぉ……さすがは美形貴族……」

 よく、剣を振るう人の動きを「舞う」と言ったりするが、ラスターの動きはまさにそれだ。
 体を大きく、時に最小限に動かし剣を様々な方向から切り出すラスターの動きは、洗練されていて全く無駄が無い。
 ブラックも凄い動きをするけど、あれとはまた少し違う気がするな。

 ラスターはどちらかというと、フェンシングとかの“型”が有る綺麗な剣技というか、ブラックのトリッキーな動きとは違う正統派というか……。
 どっちも凄いんだけど、やっぱ使い手が違うと動きも違うもんなんだな。

 感嘆しながらじっとラスターを見つめていると……こちらに背中を向けてる相手は俺の気配を感じ取ったらしく、剣を振るのを止めて視線を寄越してきた。

「……ああ、ツカサか。どうした」
「あっ、ごめん。邪魔しちゃったか?」

 思わず謝る俺に、ラスターはフッと笑うと剣を収めて近付いて来た。

「フ……邪魔なんて思うわけが無かろう。この俺の華麗で超絶なる美しい神技に見惚れて、俺の事を更に惚れ直しているお前をののしれるやからがどこにいようか」
「誰がそんな事思ってると言った」
「まったく、お前はい奴だな……照れ隠しをしなくても良いと言うのに」
「あーもー本当人の話聞かんなお前はもう! とにかく朝食だ、はよこい!」

 トーストが冷める、と半ば怒鳴るように言うが、ラスターは傲慢スキルを発動しているのか俺の怒りなんてどこ吹く風だ。
 それどころか、俺の肩を抱いてきやがった。
 ぐううう抵抗したいのにこいつも力が強すぎるぅうう。

「愛する正妻の朝食か……そんな世にも稀な物を食す事が出来るなんて、俺はまさしく愛に祝福された神の寵児に違いない。まったく、世界とは不公平な物だな」
「だーっ!! 耳が痒くなるやめんかー!!」
「さあ行こう我が未来の正妻よ。なに、朝食が失敗作でも下等民らしい質素なモノでも構わんぞ、俺は。なんといっても、お前が作った物だからな」
「約束だから作ったんだよおいいい!」

 なにもーコイツ本当人の話聞いてくれないんですけど!
 つーか離せっ、この状態でブラック達と鉢合わせしたら、俺が後でとんでもない事になるだろうがー!!

 やめろともがくけど、それで脱出成功出来ていれば、俺だってもうちょっと自衛が出来てる訳でして……。

「ツカサの手料理、楽しみだな」
「はぁあ……」

 ああもう、こうなったらどうしようもない。
 どうかブラック達と廊下で鉢合わせしませんように……。












※サーセン食べた時の反応まで入らなかった…(´・ω・`)
 と言う訳で次はツカサちゃん万歳無双とブラックのやきもちです
 
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