異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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最果村ベルカシェット、永遠の絆を紡ぐ物編

22.秘密1

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 ツカサは記憶を失い、自分が知っている存在ではなくなった。
 だが、何故だろう。そんな彼が“自分の知っているツカサ”と同じ物に思えるのは。

(……人の本質は変わらないって言うけど、反論する自信失くしちゃうなあ……)

 ツカサは「アンタは変わったんだ」と常々言ってくれているが、今は見知らぬ他人であるブラックの事を甲斐甲斐しく世話して笑いかけてくれる彼を見ると、善だろうが悪だろうが、結局人の本質と言うのは変わる事は無いのではと思えてくる。

 今のツカサは、ブラックと愛し合った記憶のない状態だ。
 異世界の記憶も無く、仲間の事も覚えておらず、彼があれほど愛していた守護獣の事ですら、頭によみがえってくるような事は無い。
 だが、それでも、彼は変わらないのだ。

(僕といる時は、良く笑う。可愛い顔を輝かせて、僕の話を聞いてくれる。召喚珠しょうかんじゅの事だって、ホントはツカサ君の手に触れたからペコリアや藍鉄あいてつ君が出て来たってのに、ツカサ君は僕の術だと勘違いしてはしゃいでた……)

 誰を憎む事も嫉妬する事も無い、ただ子供のような純粋な心。
 記憶を失ったツカサには初めてのご対面だっただろうモンスターですら、怖がる事も無く、新しい友達が出来たと優しく抱きしめていた。
 もし暴力で従えただけの守護獣であれば、絆が失われた今の状態では、簡単に返り討ちに遭ってしまうという事も知らないで。

(あのクソガキの接し方や、気持ち悪い“理想のツカサ君”を押し付けられたって事も有るんだろうけど……でも結局、ツカサ君はこういう子なんだな……)

 あの悪人面の鷲鼻の男も、みすぼらしい風体になっていた自分ですらも、ツカサは恐れずに受け入れ助けようとした。
 それだけは、本人の本質が博愛だったからという事に他ならない。
 例え記憶を失っても、ツカサはどの道自分の愛した彼になってしまうのだろう。

(だけど、それは……記憶を封じられているからだって、思っても良いよね……? ツカサ君のその優しさは、封じられた記憶からにじみ出たものだって、思っても……)

 そうでなければ、何だか自信が無くなってしまいそうだった。
 彼の愛を取り戻す事が出来るのだろうかと。

(そもそも……どうやって、ツカサ君の“支配”を解除したら良いのか……今の僕にはまったく解らないんだけどね……)

 考えて、わらの山に背中を投げ出す。

 ――あれから……ここで再会してから、ツカサは本当によく世話をしてくれた。

 体をおおうための布をくれて、服を洗濯してくれて、それに食料もこっそりと運んで来てくれる。隻腕せきわんになって不自由をしているブラックの為に、森の中を流れる小さな川から水をんで来て、やさしく髪を洗ってもくれた。

 最初は戸惑っていたきこり小屋の仕組みもブラックが教えるとすぐに理解して、今では火打石を使い、自分一人で簡単に火を起こせるようにすらなったのだ。
 だが、それでも、彼はブラックの【フレイム】が見たいのか、最後の火打ちだけはブラックに臆面もなくせがんでくるのだが。

(僕に……ぼ、僕に……あんなに、無邪気に可愛くなぁ……っ)

 てのひらで顔を覆って表情を押し戻そうとするが、しかし、あのツカサを思い出すと、勝手に笑みが浮かんでくる。その表情が気持ち悪いかどうかはともかく、あの意地っ張りなツカサが「ブラック、炎見せて!」などと目を輝かせながら子供らしく自分に懇願して来る様は、どうにこうにも非常に可愛らしくてたまらなかった。

 そんな事に喜んだり興奮したりしている場合では無いと解っているのに、どうしても体が興奮で熱くなり、ツカサの体に手が伸びそうになる。
 何より、忌々しいはずのツカサの首輪が「彼は所有物だ」という様々な妄想を膨らませて、正直別の所も膨らみそうだった。

(あぁ……もうかなり我慢してたから、ツカサ君が来るだけで勃起しそう……)

 満身創痍だった時は興奮どころではなかったが、ツカサが毎日ひまを見つけては自分の所に嬉しそうに駆け寄ってくるのを見ている内に、体が元気になるのだ。
 もしかすると、黒曜の使者の力が無意識に発動しているのかも知れないが、自分の体の事を考えると、多分ツカサが毎日世話をしているからと言う方が大きいだろう。ここ数日、数刻だけとは言え、あれだけ望んでいたツカサの手を存分に得られた事は、ブラックの中で大きな癒しとなっていた。

(ツカサ君の手も、体も、笑顔も全然変わらない……。そりゃ、まあ、仕草とかちょっと違うし、女好きなところとか耳年増なところも消えちゃったから、ちょっと頭が足りない感じの純粋無垢っぽくなっちゃってるけど……)

 ああ、でも、やっぱり好きだ。

 例えその性格が変わろうとも、彼が彼であって自分を受け入れてくれるのなら、何も問題が無いように思えてくる。要するに、ツカサならなんでもいいのだ。
 彼が自分を「なにか」と勘違いしていようが、入口など些細ささいな問題でしかない。
 最終的に手に入れられれば、全ては丸く収まるのだから。

(ツカサ君今日は来てくれるかなあ。いやそんな事言ってる場合じゃないんだよな。何とかしてツカサ君の“支配”を解かないと……)

 一応、傷の治療をされている途中で己の“真名”を呼び掛けてみたのだが、何故か“支配”が解ける様子は無かった。いや、そもそも、ブラックが知っている情報は「命令の競合を避けるために、支配したグリモアの属性によってツカサの瞳の色が変わる」という情報だけだ。それを解除する方法も、上掛けする方法も知らない。

 こんな事なら、もっとあの残像眼鏡にただしておけば良かった。だが、最早その事をやんでも仕方がない。こうなっては、自力でツカサをどうにかしなければならないのだから。しかし、どうしたものか。

(もういっそさらっちゃいたいけど……あのクソガキがどんな命令をツカサ君にかけているかも判らないしな……)

 もしあの小僧が「霧の結界から抜け出した瞬間に死ぬ」などという命令をしていたとしたら、それこそ恐ろしいことになる。
 ただの命令ならどうとでも出来たが、ブラックもあの小僧も“グリモア”だ。
 グリモアがツカサの死を願えば、ツカサは簡単に死んでしまうのだ。もう二度と今現在のツカサのように復活する事もなく、傷も再生しないままで。

(それだけは……それだけは、避けたい……)

 だが、どの範囲までがツカサを縛る命令なのだろう。
 他人と会う事を制限していないのであれば、命令はツカサの行動を縛る物では無い可能性がある。だとしたら、首輪を付けてツカサを奴隷だと思い込ませている事にも納得が行くが……。

(ツカサ君を犯した途端にツカサ君が死ぬ可能性も無くは無い……)

 あの偏執的な小僧の事だ。気持ちの悪い命令を加えていてもおかしくは無い。
 ツカサの体の心地良さを知れば、まず手放したくなくなる。そもそも、あの年恰好の少年の体など滅多に抱けないのだ。クソガキがその魅力の虜になって、醜い嫉妬を滾らせた命令をしていないとは言えなかった。

 しかし、そう考えると……嫌な想像が頭の中で膨らんでいく。

(……ツカサ君があの小僧に毎晩毎晩犯されてたらどうしよう……)

 別に、それしきでツカサを手放そうとは思えない。
 だが……その可愛らしい顔や声を、あのクソガキが堪能していると思ったら。
 自分だけの物だったツカサの肉穴を、ツカサが真に許してもいないあのガキが好き勝手に犯しているのだと思ったら……それだけで、はらわたが煮えくり返りそうだった。

(僕の、僕のツカサ君なのに……旅の一員でも無い、僕に許可すら求めていないあのクソガキが、ツカサ君と……!)

 怒りにのどが潰れて息が出来なくなる。だがそれを抑える事すらも出来ず、ブラックは強く拳を握って土のままの地面を叩いた。
 どん、と、音がして、藁のすぐ横の地面がへこむ。
 だがそれでもいきどおりが収まらず獣のような息を漏らしていると。

「……いる?」

 外の明かりが漏れてくるほどの隙間だらけな扉の向こうから、やけに潜めた可愛い声がする。その声を間違えようがなく、ブラックは応えた。
 ……先程までの怒りなど、まったく覚えていないとでも言うように。

「いるよぉ、ツカサ君っ」

 そう言うなり、扉が元気よく開いて誰かが飛び込んでくる。
 植物で編んだバスケットを抱え、まるで何者かに追われていたかのように素早く扉を閉めた相手は、顔を明るくしながらこちらに早足で近付いてきた。

「ブラック! 傷の具合はどう?」

 赤い瞳を輝かせてブラックを見るのは、先程まで思っていた自分の恋人だ。
 今日も今日とて瞳の赤い色以外は本当に可愛らしい。顔が緩むブラックに、ツカサはニコニコと笑いながらバスケットを開けて何やら沢山取り出す。

「今日はお菓子とか、あと色々と持って来たぞ! このお菓子はさ、レッドがこの前、村の外に出た時にお土産で買って来てくれたんだ。あと、家の中のボロ布とかで敷き布作って来たんだ。ずっと藁の上じゃ、ブラックだって辛いもんな!」

 相変わらず、なんというか……

(ツカサ君……なんか……僕の奥さんみたい……)

 不穏な固有名詞は無視するとして、お菓子を持って来たり、ブラックの事を考えて小物を持って来てくれたりと、どう考えてもこれは献身的な妻ではないのか。
 あまりにも飢え過ぎてそんな事を思ってしまったが、そこまで行くと過ぎた妄想と言えなくもないので、ぐっとこらえる。今はあの小僧と同じ妄想はしたくなかった。
 それよりも、ツカサを元に戻す術だ。

「ブラック?」
「あ、ああ、ごめんね。ありがとう。お菓子美味しいよ」

 ツカサが作ってくれた菓子と比べると雲泥の差がある固焼きのクッキーなせいで、うっかり感想を忘れてしまったが、それでもツカサが持って来たと言うだけで価値がある菓子だ。ここは大人として社交辞令の感想も言うべきだろう。
 礼を言ってにこりと笑うと、ツカサは目を丸くして顔を赤くする。口は笑みに似た感じで緩んでいるが、これはどちらかと言うと何かに熱狂的になっている顔だ。

 そこまで自分に熱狂してくれるとは恋人冥利に尽きるが、しかしそういうことでも無いのだろう。多分、あれだ。またツカサは「ブラックと混同しているなにか」との共通点を見つけて興奮しているのだ。

(そういうツカサ君も可愛いけど……一体ナニと勘違いしてるのか気になるなあ)

 もしその偶像と相違が出来たら、ツカサはガッカリするのだろうか。
 それなら、こちらのボロが出る前に早く決着を付けないといけないのだが……などと考えていると、ツカサは小屋の端にあったタライを持ち出して、持参して来た水を取り出した。

「ブラック、体拭いてやるから服脱いで」
「え? ああ、うん。でもそれだったら、火をつけてお湯を沸かそうか」
「ほんと?! じゃあ俺、もっと水用意するよ! 川に行ってんでくる!」

 あからさまに嬉しそうにするツカサに苦笑しながら、ブラックは追加の水が来るのを待って、これまた小屋に有った鍋にたっぷりと水を入れて囲炉裏の上に置いた。
 恐らく、この集落のきこりは、森に泊まりがけで木を伐採し加工するから、このような器具などが置かれているのだろうが、それにしても用意が良い事だ。
 おかげでツカサに毎回喜んで貰えるのだがと思いつつ、ブラックはいつものように軽く詠唱して、囲炉裏にくべた薪に火をつけた。

「ふわぁ……」
「ツカサ君、コレ好きだねえ」
「だって、曜術を見たのブラックが初めてだし! それに、ブラックの炎はなんだか怖くないし、普通の火と違う感じがするから好き」

 好き、とはまた情熱的な事を言ってくれる。
 だがそう思うのは、やはり左腕の酷い火傷の痕を気にしているからだろう。
 本人は炎を怖がっていないが、それでもやはり記憶を失ったのは炎のせいかも知れないと思うと、気にせずにはいられないようだ。
 その傷は、ブラックとの絆を守るために受けた傷だと言うのに。

(なんか、やだなあ……)

 今のツカサにとっては、あの腐れ小僧が一番重要な存在だ。
 言葉の端々に「レッド」という耳がただれるような単語が含まれる事からしても、彼が小僧に対して全幅の信頼を寄せているのは間違いない。
 さもありなん。記憶を失ってからはずっと一緒に居て、様々な事を教え込まれて、しかも相手はツカサを従える“ご主人様”気取りと来ている。そんな相手に様々な学習を受ければ、そのように思い込むのも無理はないだろう。

 だがそれが、ブラックを心の底から苛立たせた。

「お湯もういいかな……」

 黙り込むブラックに気付かず、ツカサはタライにお湯をそそいで、触れやすいように水を加えたりしながら熱さを見ている。
 それをぼんやりと見つめていると、ツカサは近付いて来てブラックのシャツを脱がし始めた。苛立ってはいるが、ツカサに当たる気持ちは無い。それとこれとは別だ。
 体を洗って貰えばスッキリするかもしれないと考えて、ブラックは上半身を相手に曝して見せた。すると、ツカサは改めてブラックの裸をまじまじとみて、初々しくほおを染める。

「えっと……そういえば、明るくしてブラックの裸みたの初めてかも……」
「あれ、そうだっけ」
「だ、だって、体拭くのまだ二回目だし……」

 そう言いながら、ツカサはブラックの色々とたくましい胸元を見たり、適度に割れた腹を見て、自分の腹のあたりをポンポンと確かめている。

「そんなに僕の体が珍しい?」
「あ、いや……レッドはこんなに色んな所に毛とか生えてないし……俺も、なんでか知らないけどツルツルだから……ううむ……森で暮らすとこうなるのかな……」
「森って……」

 もしかして、ツカサは自分を森の人型モンスターとでも思っているのだろうか。
 それはそれでショックだ。

「…………あれ? ブラック、なんでここ出っ張ってるの?」
「え?」

 複雑な気持ちに浸っていた所で急に話し掛けられて、ツカサを見やる。
 すると彼は……なんと、ブラックの股間をまじまじと見つめていた。
 思わず狼狽してしまったが、しかしそれも仕方のない事だ。何故ならブラックの股間は、先程までの興奮と落ちこみの連続で熱が治まり切っていなかったらしく、軽く勃起してしまっていたのだから。

(ああぁ……本当にもう、なんで僕って奴は……)

 さすがにこの段階で勃起を見せつけてしまうのは駄目だろう。
 軽蔑されるのではないかと思わず身構えたが、ツカサはブラックのズボンの膨らみを熱心に見つめて、少し考える素振りを見せた。

「えっと……ブラックもここに……その……俺と同じモノがあったりする?」
「同じ物って、ペニスのこと?」
「えっ、ここってペニスっていうの?」

 言うのも何も、当たり前の名称ではないか。
 逆にこちらが驚いてしまったが、いや待てと脳内で自分を制する。あの面倒な小僧の事だ、ツカサを無垢に育てたいとか何とか考えて、わざと性器の名称などのいやらしい単語を教えなかったのかもしれない。だとしたら……。

「ああ、ツカサ君……そこはね、大人と子供で言い方が違うんだよ」
「そうなんだ……。じゃあ、ブラックとかレッドのはペニスって言うの?」
「…………」

 まるで、有益な情報を知ったとでも言うように深く頷きながら、平気で「ペニス」などと言う、何がいやらしいのかすら理解していないツカサ。
 少年とは言えど道理を知る程度の年齢であり、本来のツカサであれば通常は恥ずかしがって絶対に言わない性器の名称を、こんなに素直に発言している。

(こ……これ、は……ヤバい……)

 いつものツカサなら、絶対に顔を真っ赤にして拒否するのに。

「ブラック?」
「あ、ああ、なんだい?」
「なあ、ブラックのと俺のは違うの? それとも俺のも同じペニスって名前?」
「ああいや、ツカサ君のはね……」

 今、こんな事をしていていいのだろうか。
 もっと他に考える事が有るんじゃないのか。というか、そもそもこのように悠長にしている時間も無いかもしれないというのに、欲に負けて行動していいのだろうか。

 頭の中で理性的な抑止の言葉が幾つも出てくる。
 ブラックも、そうすべきだと思っていた。そう思ってはいたのだが。

「俺のは?」

 何も知らない、真っ白なままのツカサが、首を傾げている。
 その姿はあまりにも、可愛くて……――――

「うーん……それはまあ、見ないと解らないなぁ……。ふっ……ふは……だ、だからさあ、ちょっと……ツカサ君のを、見せてくれないかなぁ……?」

 今の今までツカサに飢えていたブラックには、到底抗いきれるものではなかった。














※次、なんかただの変態が無知な少年に悪戯してるみたいなゲス回で
 特に話が進む事も無いので、苦手な方はスルーお願いします…!
 
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