異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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神域島ピルグリム、最後に望む願いごと編

19.ただそれだけで救われる

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 ※二話連続更新です

 
 
 恥ずかしい事をした後って、なんだか顔が合わせ辛くなるよな。

 だ、だってさ、その……落ち着かせて貰ったお礼とは言え、ぶ……ブラックの言うがままに、あんな所でフェラしちゃったし……の、飲んじゃったし……。
 …………うぐぐ……そのせいで喉がイガイガするし口の中気持ち悪いししばらくずーっと咳き込むし、無駄に曜術で水出しちゃうしクロウには「ははーん?」て感じで察されてめっちゃ恥ずかしいしで本当にもうどうしたもんか……。

 幸い、クロウは俺達のやらかす事に慣れっこだったので、バルコニーに戻ってからも兵士達に勘付かれないようガードしててくれたんだが……ああもうなんつうか凄い申し訳ない恥ずかしい。何やってんの俺マジで何やってんの。
 今そんな事してる場合じゃないでしょおバカ! 俺のスカポンタン!

 ……とまあ本気で怒ってないだろみたいな古臭い罵倒を自分に向けて見たものの、当然ながらそれで己への戒めになるなんてちっとも考えちゃいなかった。
 つーか、本当に情けない話だが……俺って奴は、こんな状態であんなスケベな事もしたと言うのに……何故だか少し気分が浮上してしまっていたのだ。

 いや、うん、別に理由が分からないほど俺はバカではない。
 でも人間って奴は時々自分の感情に目を反らしたくなる生き物で、なんつうかマジで自分が簡単すぎてもう呆れ果てて仕方なかった。

 だって、ブラックに肯定されて、あ、あんな風に、ワケ解んなくなるくらい「好き」って言われて、結局は自分のけじめの問題なのにウジウジして男らしくもなかった俺を、ただ優しく抱きしめて話を聞いて、面倒臭かっただろうにそれでも「何が有ろうともずっと一緒に居る」なんて……い、言って……くれて……。

 ………………やっぱ俺、簡単かな……。
 でも、ブラックにああやって慰められると弱いんだよ俺……。

 ちゃんと考えなきゃいけない事で、自分自身で答えを出さなきゃ行けない事だって自分でも解ってるのに、それでも俺はブラックに肯定して貰えると「それで良いか」と思ってしまう。無論、それで許された気になっては駄目だって解ってるんだけど……ブラックに「何が有っても裏切らない」と態度で示される度に、泣きそうになるほど心が軽くなって、ほっとして、思わず腕の中で浸ってしまいそうになるんだ。

 それほど自分がブラックに寄りかかってるんだと思うと、酷く恥ずかしかった。
 だって、俺はブラックを守りたくて、一緒に戦いたくて頑張ってたのに、結局のところブラックに守って貰ってるだなんて……しかも、対象はメンタル面……。

 ああぁあああもうこれじゃアベコベなのに!!
 俺がメンタル弱い時のブラックを守りたいの! 男らしく「俺の胸で泣いても良いんだぜ……?」みたいにしたいの!!

 なのに俺って奴は自分で自分の事すら律する事も出来なくて、逆にブラックにギュッとされてぽやーっとなって、め、め、メス……みたいにフェラ……あ、あぁあああ。

 ぐおぉおおおあの記憶だけでも誰か消してえぇえええええ!!

「ツカサ、どうしたツカサ。アレが不味すぎて気分が悪いのか?」

 思わず頭を抱えてしまっていた俺に、クロウがすかさず話しかけて来る。
 俺を休んでる兵士達から隠してくれてありがとうクロウ。でもその質問はなに。

「き、気分はもう大丈夫だから……それよりごめんな、こんな事させて……」

 ボソボソと囁くと、クロウは俺の真正面で無表情なまま首を振る。

「気にするな。ツカサの気分が良くなるなら、肉壁でもなんでもなるぞ」
「じ、自分の命は大切にして……」
「それにしても……ツカサがこれほど気分を悪くしているのに、アイツは一体どうしたんだろうな。戻って来てからずっとあの調子だぞ」
「うん……」

 クロウが言う「アイツ」が居る方向――――罠の制御装置がある部屋を見ながら、俺も軽く頷く。その最中、視界の端に黙ったまま静かに座っているマグナを見止め、余計に心配になってしまった。

 …………俺達が変な事をしてバルコニーに戻ってきた後、ブラックがそのまま罠の解除をしに行くと言ったので、素直に任せて一時間ほど外の風に吹かれていたのだが……そうしていると、マグナが急に立ち上がってどこかへ行ってしまったのだ。

 そんで再び戻って来た時にはえらく険しい顔をしていて、後は今の通りだ。
 マグナは今の今まで、ずっと黙りこくって座っていた。

 ……最初は「亡者になった兵士達の所に行くのかな?」なんて思っていたのだが、帰ってきた時間の速さと、ブラックが籠っている部屋から微かに漏れ聞こえた、口論するような声を考えると……ブラックと何かを話しに行って帰って来たのは明白で。

 だからこそ心配で仕方が無かった。
 マグナの態度からして何か深刻な話題を話しに行ったんだろうし、それであれだけ真面目な顔をして黙ってるって事は……笑える結果にならなかったって事だよな。
 とすると、ブラックの方も今のマグナと同じ状態になっているかも知れない。

 マグナは年の割にオトナだから心配いらないと思うけど、問題はブラックだよ。
 相性の悪いマグナと離してどうなってるか全く想像がつかない。
 こちらに戻って来ない事を考えると、妄想に妄想が上掛けされてしまって、何だか心配で堪らなかった。

「変な破壊音は聞こえないし、ちゃんと罠解除を頑張ってくれてるみたいだけど……だったら、なんでこっちに帰って来てくれないんだろう……」
「何故破壊音」
「いや、ブラックだったらイラついて何かドゴンドゴンしてるかなって……」
「ああ……」

 何に苛ついたか、は、敢えて言わずにいると、クロウは察して頷いてくれた。
 だよな、やっぱりそうだよな。ブラックなら、マグナと話してイライラしてたって、何もおかしくないんだもんな、ああ……。
 うーん、やっぱり心配になって来た。ちょっとぐらい見に行っても良いよな?

「やっぱ俺、ちょっと様子覗いて来る」
「オレも一緒に行くぞ。ツカサ一人にしてはまた抜け駆けされかねん」
「ん゛、んんん」

 そりゃまあ、無いとは言い切れないんですけれども。まあ良いか。
 俺はジェラード艦長に一言伝えてから、ブラックがいる部屋に入る事にした。
 今度はクロウが一緒だけど……ま、クロウなら大丈夫だろう。なんたって、ブラックとは妙にウマが合うんだもんな。うむ。

 そんな事を思いながら薄暗い部屋の中に入ると――真正面の壁に、大きな画面が映し出されていて、そこには地図のような物がデカデカと映し出されていた。
 おお、やっぱりブラックはちゃんと仕事をしてくれていたんだな。
 こういうのはブラックが一番得意だもんなぁ……しかし、一人で頑張って貰ったのは寝覚めが悪いな。せめて愛想よく労おう。

「ぶ、ブラック。お疲れ様。どう、上手くいってる?」

 そう言いながら、古代コンピューターの前に陣取って、緑色に光る鍵盤をポチポチと触っているブラックに近付くと――――相手は急に振り向いた。

「ツカサ君っ」

 あまりの言葉の勢いに、猛スピードで突進してこられるんじゃないかと身構える。
 が、意外にもブラックはその場でとどまり、なんだかマゴマゴし始めた。
 なんだブラックらしくない。何をそんなに躊躇ってるんだ。思わずそんな事を考えてしまうが、そう言えばブラックはマグナと何か話してたんだっけか。

 その時に何か気になる事が有ったのかな。
 ブラックって意外と妙なポイントで“気にしい”が発動するから、なんか判りやすいんだよなぁ……。でも、マグナと話して俺にまごついてるってことは……なんか俺絡みの話でもしたんだろうか。俺と話したくないって訳じゃないみたいだけど。

「ブラック、どうかしたのか」

 問いかけながら近付くと、相手は更に慌てだす。
 だが逃げるような感じでは無くて、何だか戸惑っているようだった。なんの話をしたのか非常に気になるけど、この態度なら聞かない方が良いよな。
 ……まあ、何も不満が無いなら別にいいか。

「ツカサ君……」

 ブラックが腕を伸ばせばすぐに捕まる距離まで近付いたけど、目の前のオッサンは相変わらずしょげたままだ。俺はブラックみたいに気の利いた事なんて言えないし、抱き締めてやるにも腕が足りないけど……。

「お疲れ様」

 爪先立ちになって、ブラックの横っ面や髪を撫でてやる事は出来る。
 そうやって、頑張ったブラックを労うことぐらいしか出来ないけど……少しでも元気を出して欲しかった。例え、俺には理解してやれない事が原因でも。
 すると、ブラックは無精髭だらけなざりざりの頬を撫でた俺の手を取り、軽々と自分の方へ引き寄せるとまたもや抱き締めて来た。

「つかしゃくんん……うぅう……」

 いかにも泣き出しそうな声で俺をぎゅうぎゅうと抱き締め、大きな体を丸めて肩口に顔を押し付けてくるブラック。そんな事をする時は、決まって心にダメージを負った時だ。やっぱり何か有ったんだろうな。
 今は少しでも元気を出して欲しくて、間近にある頭を撫でてやると、ブラックは唸りながらぐりぐりと頭を押し付けて来た。おうおう、懐きよるわ。

「元気、でた?」
「でたぁ……。うぅ…………ねぇ……ツカサ君は、幸せだよね。僕と婚約者になってとっても幸せだよね、僕と一緒だよね……?」
「ん、んん?」

 元気が出たと言ったくせにまだ詰って来るブラックの言葉に、思わず面食らう。
 幸せって……おい、クロウの前でそんなコト問いかけるのかよお前は。

 いや、でも、それを聞く事でブラックが元気になるのかも知れないし……。
 だ、だったら……まあ……その……脈絡が掴めんが……。

「あ……アンタが幸せなら……その……」

 何だか、顔が熱くなってくる。別に「俺も幸せだよ」で良いじゃないか。
 なのにどうして本当の事を言おうと思うと、口が急に堅くなっちまうんだろう。
 恥ずかしがらずに言ってやるのが男ってもんだろう。だって、ブラックはその言葉を求めてるんだから。……で、でも……なんかその……ああやっぱり恥ずかしい!

 大体、おやつの時間にどら焼きとお茶で「あー幸せ」なんて軽々しく言うのと違うんだぞ、こういうのって人と人とのお付き合いの問題で、だから、し、幸せって言うのは「アンタが好き」って言ってるのと一緒で、う、ううぅうう……あーもうチクショウっ!

「しっ……幸せじゃっ、無かったら……ゆ……指輪、貰ってなぃ、し…………!!」

 うわあもうアホ俺のバカなんだこの返答は。
 なんでスマートに言えないんだよ余計に恥ずかしいわバカバカバカ!!
 だあもうブラックの顔見れないよ!

「ふあっ……ふあぁあ……つかしゃぐぅうん……っ! しゅきぃっ、あいしてぅうう!」

 あ゛ーっなんだお前っ急に力いっぱい抱き締めてくんな痛い骨折れるってば!
 イデデデデッ、いっ、と、とにかく元気になったのか?

 ギリギリと拷問の如く抱き締められながらブラックを見やると、相手は顔から色々と汁をだだ漏れさせて俺を凝視していた。
 ……うん。ええと……これは大丈夫な顔かな……。
 カッカしていた体の中の熱が一瞬で蒸発してしまったが、まあいい。

「ツカサ君好きぃいいいい」

 うんうん、解ったからちょっと俺の首に鼻水と涙擦り付けて来るのやめようか。
 ブラックの気持ちが少しでも軽くなったらとは思ってるけど、俺にも許容範囲と言う物があってだなおい。わざとか。わざとやってんのかお前は。怒るぞ。

「ずるいぞブラック。オレもツカサを抱き締めるぞ」
「あああああ前後から肉布団んんん」
「だあってめぇ駄熊僕とツカサ君の愛の語らいを邪魔するんじゃない!!」
「鼻水ズルズル啜りながら言うなあ!!」

 まったく締まらない……いやでもブラックはこうでなくっちゃな。
 俺に遠慮してまごまごしてるのなんてブラックらしくないし、面倒臭いぐらいがいつものブラックらしいんだから。この際、迷惑極まりないのは置いとくとしてだ。
 今だけは素直に好きなようにさせてやろう。……俺だってさっき、恥ずかしながらも好きに泣き喚かせて貰ったんだし……。

 そんな事を思いながら、心頭滅却で今の肉布団状態を耐えていると。

『……こんな場所でまでか…………』
「…………ん?」

 今話し掛けられたような気がしてブラックとクロウの顔を見やるが、二人はぎゃあぎゃあと言い合っていて俺に話しかけた様子はない。
 ということは……これはもしかして「声」かな?









 
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