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ラクシズ泊、うっかり調合出会い編
3.お高い薬 頼まれて 1
しおりを挟む……やられた。ええ。完膚なきまでにやられましたよ。
翌日の俺は、お恥ずかしい話だが全然動けなかった。
いや、動けと言う方が無理だ。
おかげであまり顔を合わせたくないベイリーにお世話になっちゃうし、女将さんにも滅茶苦茶心配されるし、本当肩身が狭い。
違うんですよ女将さん。女将さん達は悪くないんだ、あのクソ野郎こと腹黒中年がナニが規格外で俺をいいように掘りまくったからいけないんです。
あんなもん誰が予想できるってんだ。
それにしても、あのブラックってオッサン本当にムカツク。
一発って言ってたのに、気絶した俺をもう一回使ってたらしい。おかしいと思ったよ、だって俺一回しか出してないのになんかすげえ量が腹の上にぶちまけられてたんだもん。なんだあれ、あの触手の消化液思い出したんですけど。俺の体かっぴかぴだったんですけど。
アイツの玉袋は特濃ミルクタンクかなんかなの? 種馬のバケモノなの?
いや、それはどうでもよくて、とにかく本当ムカツク。
俺の体を好き勝手したのもそうだけど、俺が初めてだって知ってて手酷くしやがったし、それに嫌だって言ったのに無理矢理やるし……。
抱かれる覚悟はしてたから本当はそこまでショックじゃなかったんだけど、だけど男に犯されたってのはやっぱり精神にクるものがある。
仕事だっていっても、俺は今まで「男だから云々」って教えられて来た訳だし、こんなことエロ漫画では有っても俺には起こりっこないと信じ切ってたから、割り切って覚悟したと言ってもやっぱり辛い。
俺まだ十七歳だぜ? 大人の対応しろって言っても無理があるよ。
でもまあ、大人しく出来なかったせいで余計酷い目にあったんですけどね。
強姦よりマシじゃんと思っても、あのクソオヤジのやったことって強姦に近いからな……森で出会った捕食植物に殺されるのが最低ランクだとしたら、アイツがやった事はそのちょっと上くらいな程度の最低行為だ。
後から聞いた話だが、女将さんによると。
「あのお客、アンタの事スッゴク気に入ったらしくてね。報酬にちょっと上乗せしてくれたよ。物凄い上客を一発で掴むなんて、アンタ本当凄いよ」
とか言ってて、アイツは随分と満足して帰ったようだ。なんだあいつ。帰りに落とし穴に落ちて下水道に流されればいいのに。
あと女将さん、それ言われても嬉しくないです。
とにかく何を言われようが今の俺には落ち込む要素にしかならない。
そんな俺の思いは解ってくれてるのか、女将さんとゲイリーは次の娼姫としての仕事を話すでもなく、俺の世話をしながら手伝いの仕事についてやこのラクシズの街の事を色々と話してくれた。
俺の体力の消耗は意外と激しかったらしく、三日くらいベッドで療養生活を強いられていたから、丁度良かったのかもしれない。
三日経つと楽天家な俺はすっかり元気になり、悪態もつけるようになっていた。
そうして、手伝いとして湖の馬亭の雑務をこなして二日ほど経ったある日。
今日も今日とて掃除に勤しんでいると、女将さんが不意に声をかけて来た。
「ツカサ、すまないんだけど、お使い頼まれてくれないかい?」
「おつかいっすか」
「ああ。ちょいと一般街の薬屋まで行って、回復薬と鎮痛剤を買ってき欲しいんだ。アンタ一人で蛮人街歩かせるのは危険だから、馬車も呼んでやる」
「馬車って……」
療養中の間に教えて貰った話では、一般人が馬車を使うのは相当お金がかかるらしい。日本で言う所の高級タクシーみたいなもんで、おいそれと呼べるようなものでは無い。本当は安価な人力車で移動するのが一般的なんだけど、蛮人街だと呼んでも来てくれないんだよなあ。
まあ人力車は人が動かす軽い車だし、ヘタに武装もできないしな。
しかし、馬車を呼ぶってのはよっぽどのことだ。
俺は雑巾を桶に放ると、女将さんに向き直った。
「構わないですけど……一体どうして俺を?」
俺をお使いに出すなんて、どう考えても余計に金がかかって不経済だ。
その問いに、女将さんは困ったような顔で腕を組む。
「それがね、ウチの娼姫の一人がヤバい客にひっかかっちまって、外に出た途端待ち伏せしてたソイツに怪我させられちまってさあ。アタシが買いに行きたいんだけど、どうしても外せない用事がね……だからアンタにしか頼めないんだ。なに、急ぐ用事じゃない。暇なら街を見て来てもいいさ。夜までに帰ってきてくれれば」
「ええっ、いいんですかソレ」
馬車で行き来できる上にぶらぶらしていいなんて、なんて贅沢。
「アンタ折角お金貰ったのに、今までずっと館の中にいたからね。良い機会だから気晴らししてきな」
「お、おかみさん…!」
あんた深けぇ、懐が深けぇよ!
いやー最初目つき悪くて怖いとか思ってすみませんでした。
俺はいそいそと支度をして、待機していた馬車(タクシー用の馬車は狭くて小さくて造りが適当)に乗り込みさっそく一般街へと向かった。
このライクネス王国の街は、その殆どが三つの区分に分かれた構造をしている。
一つは、俺達みたいな住所不定戸籍なしの人間が流れ込む蛮人街。一つは、真っ当な暮らしをしている人達がいて、お店や宿屋が並んでいる一般街。そして最後の一つは、お貴族サマとかお金持ちが宿泊したり買い物したりする、身分の高~い人しか入れない高等区だ。
最初「江東区?」って思ったのはナイショだ。
因みに、蛮人街と一般街は別に交流がない訳でもなく、一般人が娼館やアブナイ道具目当てでよく訪れたりするらしい。安宿を求める貧乏な冒険者も多いらしいんだけど、殆どは娼館に通う人間で害はないと女将さんが言っていた。
にしても、一般街で売れないような粗悪品や危険な道具、えっちなお店は蛮人街にって……本当スラムだなあ。
そんな街が併設されてるからか、三つの区域の境目には警備隊の詰所があって、通るたびに俺達は積み荷の検査を受けなければならない。冒険者も例外じゃないらしく、蛮人街から来ると爆発物なんかを没収されていた。
女将さんの話では便利な抜け道があるようで、盗品を扱う商人はそっちから出て行くのだが、俺には今の所関係ないか。
無事検査も終えた俺は、かぽかぽと馬車に揺られて薬屋へ向かった。
どうでもいい事だが、盗賊に出くわした時に見た一本角の牙が生えた黒い馬、やっぱりこの世界では一般的な馬だったようだ。
ディオメデと言うんだそうで、元々はモンスターだったが守護獣として人間に飼いならされたものが繁殖してそこそこ大人しい馬になったらしい。
それでも取り扱いが難しくて、馬車を扱える者は少ないそうだ。
まあ、元がモンスターだから気性が荒いのは当然だけどね。
しかしこの世界、思ったより職人が多い。
馬車使いもそうだけど、娼姫だったり布屋だったり、女将さんに少し聞いただけでも多種多様な職業が存在している。満遍なく物を覚えるっていうよりも、自分の適性に応じた一系統を伸ばす傾向にあるようだ。
うーん、ゲームでは双剣士だとか攻撃&魔法使いだとか中途半端にやってた俺には、実に身につまされる世界である。
「でも、その世界でよりにもよって娼姫やってる俺ってなんなんだろう……」
俺別にやりたくてやってるんじゃないんだけどね。
そんな事を考えている間に目的地に着いたようで、俺は馬車の金を払うと薬屋に入った。薬屋は他の家と同じでやっぱり狭い。けれど店には壁を覆う程の棚が並び、その棚には何かの草や色とりどりの液体が入った瓶が並んでいる。俺はこの世界の字を覚えてまだ間もないので、パッと見では何がなんだかよく解らない。
そう、俺、文字覚えたんですよ三日の間に。
この世界の字は日本の文字の使い方と同じらしくて、案外すんなり覚える事が出来たんです。今じゃちゃんと自分のお宿の名前も読めるぜ。
赤点常習犯だけど記憶力はいいからな、俺。どんなもんだい。
「なにかお探しで?」
自画自賛に浸る俺に気付いたのか、店主が近寄って来た。
薬屋ってイメージぴったりの、ほがらかな雰囲気のあるおじさんだ。
いや、薬屋にイメージがあるのかは知らないが。ごめん適当に言った。
「あっ、えっとですね、このお金で足りる回復薬と鎮痛剤を一個ずつ売ってほしいんですけど……」
女将さんから貰って来た代金を見せると、店主はそれを数えて、棚に並んでいる大小の瓶を見渡す。そのうち、小さな瓶を一つだけ持ってきて、申し訳なさそうに頭を掻き出した。
「すまんが……回復薬がなくて、鎮痛剤しか用意できないんだ」
「えっ、何でですか?」
「王都の方で暴動が起きて、回復薬が騎士団に根こそぎ接収されちまってなあ。その上、王都の流通も滞っちまったから、あっちから薬が届く事もなくて……こっちもホント困ってるんだが……」
余った分は返すよ、と残りの代金を戻されてしまう。
どうしよう、これじゃ女将さんに申し訳ない。
→
※長くて分けちゃったんで次は同日20時更新です
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