異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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ラクシズ泊、うっかり調合出会い編

4.回復薬の調合? できらぁ! 1

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 交渉しようと決めてから俺は往来を行く数十人の冒険者たちに片っ端から話しかけた。数うちゃ当たる戦法だったんだけど、やっぱりみんな回復薬が大事なのか、同情はしてくれるけど分けてはくれなかった。
 まあそりゃそうだよな。傷を回復する薬なんて、切らしちゃ大変だし。

 あと、これは話している内に判った事だが、回復薬は開封して分けることが出来ないらしい。
 この世界の回復薬はゲームでよくあるポーションみたいな飲む薬で、分けようと思っても開封したらすぐ飲まなきゃ薬効が無くなってしまうのだ。すぐって言っても一日程度は余裕があるそうだが、そりゃ渡したくても渡せないよな。
 結局俺は回復薬の性質を知っただけで、得る物は得られなかった。

「はあ~……世知辛いなあ」
「仕方がない事だ。王都での暴動事件はかなりの負傷者をだしたからね。だからといって一般人が使う薬まで奪ってしまうのは頂けないが……まさか遠方のここにまで接収に来るとは思わなかった」

 背後霊が何か言ってるけど無視。
 暴動ってなんだろうとは思ったけど、それは女将さんに後で聞けばいい。
 にしてもどうしよう。お店も駄目、冒険者もだめ、となると……一旦戻るしかないけど、その前に何かやれる事はやっておきたい。
 そういえば、薬屋のおやじさんが自分でも作れる云々って言ってたな。気休めにしかならないけど、回復薬が見つかるまでの間持たせることは出来ないかな。
 でも、どうやって作るんだろう。

「うーん、回復薬ってどうやって作るんだ」
「あっ、僕作り方しってるよ」
「…………」
「材料も製法もばっちり。木の曜術師のを見てたから」
「………………」
「でも作るの難しいよ。だから、僕の回復薬をだね……」

 はっ、そうだ。
 製法といえば教科書や秘伝書、書物と言えば図書館。そうだ図書館で調べればいいじゃないか、俺は文字が読めるようになったんだし。
 そうだそうと一人で頷き、俺は早速図書館へと向かう事にした。
 うん、だから付いて来ないで。背後霊早く成仏してね。






 そんなこんなで図書館に着いたのだが。

「……ええと……ツカサ君。街の図書館っていうのは、身分証明がないと入れないんだよ。言いたくはないが、蛮人街の子供や大人が金の為に盗んだり、悪人が知識を悪用しようとしたりするからね」
 
 ああはい。それパルテノン神殿みたいに入り口にばんばん石柱立ってる図書館のドアに書かれてますね。もうその手の質問にウンザリしてるのか、分かり易くでっかい文字で、金のプレートに刻まれてますね。
 だから背後霊喋るな。余計むなしくなる。

「いきなり頓挫……」
「…………ツカサ君、来て」

 俺が落ち込んでいると、いきなりぐいっと手を引かれた。
 まさかこんな場所で一発……なんて青ざめたが、相手はそうではなく俺を引き連れて図書館のドアを開けた。いや、俺今プレート見て入れないって絶望してた所なんですけど。なに中に入ってんの。
 しかし相手は気にせず、シックな雰囲気のホールをどんどん直進していく。
 ドアの真正面にカウンターがあって、そこには何人かの黒い服を着た人達がいた。あれって俺の世界で言う司書さんとかかな。やだやめて。俺ローブ着てるけど中の服すげーみすぼらしいんだから。きちっとした人に会わせないで。

「図書の閲覧をしたい」

 あああ話しかけちゃったよ。
 頭を抱える俺に構わず、眼鏡をかけた美人のお姉さんが書類を取り出す。

「身分証明をお願いします」
「私の証明でこの子の閲覧も頼む」

 言いながら、ブラックは何かのメダルのようなものを取り出す。それを見て、お姉さんは目を見開いたが、すぐに冷静な顔に戻ってお辞儀をした。

「かしこまりました。では、図書の保護のため、お二方にはリングを付けて頂きます。閲覧が終わりましたら、こちらにおいでください。尚、規定に則り、お連れ様の身分が証明出来ない場合は、禁帯出図書、術関係の書籍の閲覧は出来ませんのでご了承ください」

「ああ、大丈夫です。……ほら、ツカサ君もこれをつけなさい」

 渡されたのは、細かい文様が刻まれた金の腕輪だ。少し躊躇ったが、素直に腕に嵌めると、自然に縮んで丁度いいサイズになってしまった。マジックアイテムか何かだろうか。これを嵌めてると、本を持ち出せないとか?
 腕輪をしげしげと見ていたが、はいごれ……ブラックに促され、豪奢な装飾をされた石の階段を上がる。
 そこには、どこかの宮殿の広間かと思う程に広い部屋があり、天井に届く程の大きな本棚がぎっしりと並んでいた。
 そのどれもに隙間なく本が詰まっていて、様々な人が色んな場所で吟味している。
 中には空を飛んで本を……
 って、空飛んでる!?

「おっ、おっ、おっさ、あの人おそら」
「え? ああ、風の術だね。上の方には素質のある者が使える術の本ばかり置いてあるんだ。素質のない一般人の目には触れないようにね」
「風の術って、誰にでも使えるんだ」

 さっき術関係は俺には読めないっつってなかったっけ。
 俺の疑問を知ってか知らずか、相手はああと言葉を継いだ。

「術って言っても、曜術師が専門で学ぶ術の本は見せられないってことだよ。風の術や発光の術、その他の付加術は一般にも開放されてるよ。ただ、術を使える素養がなければ意味がないだろう? だから、ああして上にあげてあるんだ」
「へえ……」
「さ、本を探そう。ツカサ君が欲しがっているのは右奥にある」
「へえ……」

 ってなに俺普通にこいつと話してるんだ。
 いけない、びっくりしすぎてうっかり話しちゃった。

「てか、アンタ回復薬の作り方知ってるんじゃなかったっけ」
「うん。でも、君は僕に教えてもらうより自分で探す方がいいんだろう? 僕は手伝いだけさせてもらうよ」
「そ……そう……」

 駄目だ、優しくされると俺すぐに尻尾振っちゃうからつい返事しちゃう。
 こいつは強姦魔こいつは強姦魔こいつは強姦魔。
 忘れずに心にとどめておこう。とりあえず、癪だけど案内される。

 正直な話こいつから買うのも一つの手とは思ってるけど、それは最終手段。この際だから図書館で必要な情報は知っておきたい。
 ロクショウの種族だって、図書館で調べてみたかったのだ。
 あの子がどんな場所が好きでどこに隠れているかを知る事が出来れば、休みを貰えた時に俺のパートナーを探しに行けるからな。








※例によって長かったので同日20時以降更新
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