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ラクシズ泊、うっかり調合出会い編
6.自分の才能と隣の変態中年が怖い
しおりを挟む回復薬の調合が成功したあの日から、俺の生活は劇的に変化した。
一般人や冒険者には不可能だと言われていた薬を、俺が完璧に作ってしまったのだ。それからというもの、館の娼姫さん達から感謝され、女将さんには抱き締められ、湖の馬亭では俺は英雄扱いになっていた。
これがあの日から三日経った現状です。
意外と時間経ってないとか言わないでおねがい。
感謝された時、娼館で回復薬?と疑問に思ったのだが、蛮人街の娼姫にはなくてはならないアイテムなんだそうな。
蛮人街の娼姫は外に出ればお誘いをかけられるため、そんな下賤な相手を巻くのにしょっちゅう玉のお肌を傷だらけにしてしまうらしい。
だから、化粧品と同じくらい回復薬が大事だったのだが、品切れで困っていた。そんな所に俺降臨である。娼館が歓喜に沸いたのは当然だった。
可愛かったり美人だったり美熟女だったりのお姉さま方からお礼を言われたり、抱き締められるのは嬉しい。かなり嬉しい。柔らかい。ヘヘ、ヘヘヘ……。
思わぬ役得に俺は張り切り、ここ最近は家庭のお薬を勉強するために日々研究に勤しんでいた。おっぱ……苦しんでいる人たちの為ならえんやこらだ。
あれから俺はかなりの薬を作れるようになった。特殊だったり高度な薬は無理だけど、一般的な解毒薬や湿布薬に疲労緩和薬や精力増強剤はお手の物。
ラインナップがアレなのは、娼館ゆえと思って頂こう。
意外な事に変態中年ことブラックも手伝ってくれて、俺はそれなりの薬師にランクアップしていた。隣に元々の薬の事を知ってくれてる人がいると、人体実験なんかしなくてもいいから凄く助かる。
助かるけど、信用した訳じゃないからな一応。
「ツカサ君、材料買って来たよ」
「ああ、さんきゅ……じゃなかった、あんがと。そこ置いといて」
乳鉢で材料をさらに細かく擦りつつ、俺はブラックに指示する。
「何を作ってるんだい?」
「いや、もーちょっと回復薬が飲みやすくなんないかなあって思って……もっと細かくすり潰して色々試してみてるんだ」
「飲みやすく……よくそんなこと考えるね」
つくづく不思議だ、と無精ひげの顎を擦るブラック。
この世界の人間は慣れちゃってるから平気なんだろうけど、俺は嫌なんだよもう。回復薬試し飲みしまくって喉苦いの。気持ち悪いの。子供用シロップとは言わないから、せめてもうちょっとのど越しをどうにかしたいんだ。
中々うまくいかないんだけどね。
「どうにかサラっとさせられたら、他の飲み物に混ぜられそうなんだけどな」
「毒を盛るならよくあるけど、薬を混ぜる発想はなかったな。画期的だね」
なんでそんな物騒な所から混ぜる文化が入ってるのこの世界。怖い。
「そんなに変? 俺正直、エールも葡萄酒も苦手なんだけど……あ、そっか、あの味だから毒を入れても気付かれないと思ったわけね」
「まあ、薬を入れても味は変わらないだろうけどね」
苦笑するブラックに、今度ばかりは俺も大いに同意した。
この世界のエール(ビールのご先祖様みたいな飲み物)は、麦芽を発酵させる所までは一緒だが、いかんせんわずかに苦いだけで味が薄い。葡萄酒も中途半端に発酵している酸っぱいゲロ甘な飲み物という感じで、俺にはかなりの苦痛だった。
何もかも行き過ぎなくらい甘かったり酸っぱかったり薄かったり。
葡萄酒は所によってはちゃんと美味しいものがあるらしいけど、庶民に回ってくるのは大抵しょうもないゲロ甘酸っぱいアルコールなし飲料だ。
水は多量に飲んだら腹を壊すらしいので、みんなこの飲み物を水の代わりにしていた。当然、お茶もない。果物はあまり甘くないし代わりにならない。
昔ゲームの世界に憧れて調べた事があったが、俺の世界の西洋だって最初はお茶なんてものはなかった。他の場所から伝播して一般に普及しただけで、それまでは子供にも飲める葡萄酒やエールが一般的だったのだ。
粗悪な葡萄酒やエールは蜂蜜とかの甘味料をどばどば入れて味を誤魔化してたらしいけど、多分この世界も一緒なんだろうな。
水が心配なくがぶがぶ飲めて、多種多様な飲料がある世界に居た俺って、実は幸せだったんだなあ……。
あと不満を言うようだが、この世界の庶民の味付けは大味だ。
食べるのが大好きな俺にとって、この世界はかなりきつい。
そのうち料理も覚えたいなあ。
「にしても、薬がこんだけマズいんだから、先人はなんか混ぜ物しようと思わなかったのか?」
「昔は果実の汁を使うと言う案もあったがね。でも、色彩が変わってしまったり薬効が薄れたりして、どうしても商品にならなくて破棄されてしまったんだよなあ。薬を飲みやすくするのは大変な作業だ」
「だよね~……。でも色彩が変わっちゃうとそれだけで売れなくなるの?」
「いつもの回復薬ですよと言われて出された物が、見た事もない色をしていたら……誰だって戸惑うだろう?」
「それもそうか……」
でも、色彩が変わる程度なら売り方を変えればどうにかなるのでは。
やってみる価値はあるかも。
「多少薬効が薄れても、材料はその辺にあるもんなんだし量産できるし、ガブガブ飲めるようになったら元の分の量飲めるし、結果的に儲かるんじゃないかな? 味に関しては考える必要があるけど」
「キミ、時々商売人みたいなこと言うね。木の曜術師なのに……」
「だーかーらー、俺そのキのなんたらじゃないってば」
回復薬が作れるようになったら、みんなからそう呼ばれるようになったんだよなあ。でも俺別に特別な事なんてしてないんだけど。
普通に作ったら普通に薬が出来ただけだし、本にも一般人が作れない事はないって書いてあったんだから。
でも改良って、本当難しいんだなあ。
「果物は甘くないから、砂糖を加えて……ああ~、頭が痛い」
こんな時に思い出すのは、あの柿のような味がしたツタニンジン。そして、それを教えてくれた俺の可愛いパートナーのロクショウだ。
俺はあれから暇があれば奴隷屋の周辺を探し回っていたが、結局ロクを見つける事は出来なかった。やっぱり森に帰ってしまったんだろうか。
あの森にはもう二度と行きたくないけど、でもロクには会いたい。
「ロク、大丈夫かなあ……」
「ロクって何?」
「俺のヘビの名前。ここに連れて来られるまで、一緒に居たんだ。でも奴隷屋のオッサンに外に放られちゃって……守護獣? ってのにしてなかったから、簡単にポイだよ。はあ……」
この広大な世界、探すのには無理がある。
街にはバリアが張ってあって入るのは無理だろうし、一体どこに居るんだろう。
「良かったら僕が探してあげようか」
「……無理でしょ」
「出来るよ。奴隷屋の周辺までは、障壁が張ってあるんだ。だからもしそのロクショウというダハがいるなら、障壁に阻まれて外に出られないはず。査術を最大にして気配を探せば、小さな蛇なんて居場所はすぐに判る」
ほう? 査術? 今なんといった?
「ロクの居場所わかるの!?」
思わず食いついた俺に、ブラックはニコニコと笑った。
「代わりに、ご褒美くれるかな?」
……可愛いロクショウを取るべきか、俺のケツを守るべきか。
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