異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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ラクシズ泊、うっかり調合出会い編

8.再会、そして真価

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 ぎい、とぎこちない音を立てて、扉が開く。
 薄暗い店の中には謎の紫の発行物体や、おどろおどろしい物品が雑に置かれている。ドクロとか牙とかテーブルに放っていていいの。
 お化け屋敷さながらの光景にブラックの後ろに隠れるが、相手はどんどん突き進んでいってしまう。

「ろ、ロク……ロクー?」

 返事はない。

「店の奥にいるんじゃないかな。店主もいるかもしれないから、気を付けて」
「あ、あの……姿を消す術とかって、ないの」
「あるにはあるけど、それは動いたら意味のない術なんだ。視覚を騙すだけだからね。透明人間にはなれない」

 うう、意外とリアルな世界だな……。いいじゃん、魔法で女湯覗いたって。
 
 人気のない店を見回して、カウンターの奥に隠された扉があるのを見つける。
 ゆっくりと開いて、まずはブラックが中を確認した。危険はなかったようで、指で合図されてゆっくりと中に入る。扉の向こうには狭い廊下が続いていた。廊下は緩やかに下に降りているようだ。秘密の地下室ってやつかな。
 暫く音を立てないように慎重に動きながら、地下室へと向かう。

 長い下り坂の先に、民家には不釣り合いな鉄扉がはめ込まれていた。
 ここにロクがいるのか……酷い事されてないといいけど……。
 今すぐに飛び出していきたかったが、何が起こるかわからない。
 ぐっと堪えて、ブラックに任せることにした。

 ブラックは鉄扉に鍵がかかっていない事を確認して、俺を数歩下がらせる。
 そうして、一気に扉を開いて入り込んだ。

「なっ、なんだお前!」
「問答無用!」

 ドカッ、と何かを倒す音がして、沈黙が続く。
 ほどなくして、ゆっくりと扉が開いた。

「おいで」

 ……何をしたかは、聞かないでおこう。
 ぼく草食系なんで暴力嫌いです。

「ロク?」
 
 地下の部屋は、実に狭い。
 中央に大鍋が置かれていて、中身はなんか変な色をしてるが、気にしない。
 とにかくロク、ロクだ。
 俺は必死に名前を呼んで地べたを這いずりまわる勢いで探した。と。

「あっ、ここから声が聞こえる……!」

 キャビネットの中でかすかに聞こえる高い鳴き声に、俺は慌てて扉を開けた。

「ロクー!」
「キュゥウウ~~!!」

 そこにはやっぱり、俺のロクショウが捕まっていた。
 ご丁寧に小さな檻に入れて逃げ出さないように鍵をかけているのがムカツク。俺のロクになんてことするんだ。でも人間の手でなら簡単に開けられる仕掛けにしてあったので、開けてすぐ出してやった。
 途端に俺の方に飛びついてくるロクショウ。ううう可愛い。冷たいけど可愛い!

「ロク~! ごめんな、置いて行って、怖い思いさせて……!」
「キュウゥ、キュウ~~~」

 スリスリと頭を頬に擦り付けてくるのが本当に愛らしい。
 俺はロクを潰さないように抱きしめながら、会えなかった分たくさん甘やかしてやろうと心に誓った。ちゃんと世話をすることやロクが頭がいい事を教えれば、女将さんだって嫌とは言わないだろう。なんたって俺は黒髪の娼姫……っていうよりもう薬屋さんだけど、まあ大事な存在だし。

「再会の喜びを分かち合うのはもうそれくらいでいいんじゃないかな……」

 あ、ブラックが居る事を忘れてた。

「そ、そうだな……ありがとう。ほら、コイツがロク……ロクショウだよ」

 抱え上げてブラックに見せてやると、相手はロクに顔を近づけた。

「やあ。君は中々の能力を持ってるようだね。おかげで場所を特定できたよ」
「キュウゥ~」

 照れるぜ、みたいな感じでくねくねするロクに、ブラックもニコニコと笑う。
 そういえば……カンノーなんたらとか言ってたな。

「あのさ、どうやってロクを見つけたんだ?」
「そうだったね。ええと、そのことは……ここから出て話そうか。警備隊を呼んでおいたからすぐに来るはずだ。この地下室は違法な毒物だらけだから、流石に警備隊も無視できないだろうし」

 え。警備隊? いつ呼んだんだ?
 なんか知らせる用の道具とか持ってたんだろうか。
 色々と疑問はあったが、片頬を晴らして気絶している店主が目を覚めたら面倒なので、俺達はそそくさと退散する事にした。

 来た時と同じように玄関から外へ出たのだが、やっぱり誰一人として俺達を構うものはいない。後で聞いた話だけど、五番街の危険なお店は商品の性質上いつ強盗に遭ってもおかしくないらしくて、そこにいる人間達は店主が気絶させられてもノータッチでわれ関せずを貫いてるらしい。
 ヘタに関わったら面倒だから、って感じだろうか。

 湖の馬亭にまでたどり着くと、俺とブラックはようやく安堵の溜息を吐いた。
 安全とは言い難いけど、俺にとってはここが一番気の休まる場所だ。

「……で、さっきの話だけど」
「うーん、簡単に言うとだね……査術っていうのは、基本的に自分より格の低い相手には全然感知されないものなんだ。勿論、それを妨害する事も出来ない。査術の妨害は同格の力を持つ相手か格上しか出来ないからね。だから……このロクショウ君も、僕の査術を感知できないはずなんだけど……」
「出来ちゃったと」
「ああ。その上、こっちの術に干渉して、感応能力で僕に直接自分の位置を知らせて来たんだ」

 よくわからん。

「つまり……ロクは、普通ならありえない『査術を使ってる相手の強い力を利用して、自分の居場所を教える』って技をやってのけたっつーこと?」
「かいつまんで言えば、そう。……どうやらダハというモンスターは、その能力で遠く離れた仲間と連絡を取っているみたいだね。これは他のモンスターにはない特殊な能力だよ」
「遠くの仲間と話せるのか? ロク」
「キュゥ~!」

 またもやエッヘンと胸らしき部分を張るロクショウ。
 そーかそーか、お前はやっぱり凄い子だったんだな~!

「ツカサ君、一つ断っておきたい。そのダハ……ロクショウ君の力は、思ってる以上に凄まじい。使い方を誤れば、人が死ぬだろう」
「え……」
「僕の査術に干渉できたということは、恐らくこの子は誰の査術でも察知して干渉できる。それに、遠方の仲間を呼ぶ事すら出来るとなれば、彼の仲間の大群が押し寄せてくるかもしれない」

 あのピラミッドの中に虫地獄がある映画みたいに、ロクの仲間がやってくるっていうのか。地面中を蛇が埋め尽くす……うう、ロクは可愛いけど、それはちょっと鳥肌が立つな。
 青ざめた俺に、ブラックは頭を掻いた。

「ロクショウ君を守護獣にするのなら、ちゃんと躾けるんだよ」
「ひゃ……ひゃい……」

 諌めるような言葉に、是も非もなく頷く。
 今日は、ブラックがなんだか普通に大人の人に見えた日だった。






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