異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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ゴシキ温泉郷、驚天動地編

 ほのぼのキャンプご一行 2

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 ってなわけで、今日の夕飯は干し肉のスープと穀物パンだ。
 質素に思えるけど、この世界の旅ではパンは贅沢品だ。穀物パンは、俺達が食べてるような柔らかくてほんのり甘いパンとは違い、歯ごたえがあってパサパサしてる。色もちょっと浅黒い。これが庶民の主食になっている。
 朝食のサンドイッチも勿論穀物パンだ。
 
 白いパンは生成が大変らしくて、やっぱり高級品扱い。
 小麦とかあるみたいだけど、やっぱり俺の世界とは少し設定が違うんだろうか。穀物パンって、ライ麦とかの穀物じゃないみたいだし……。
 でもこれはこれで美味いので、俺は喜んで食べている。

 干し肉はカッチカチで塩っ辛いものが普通だけど、それほど日数がかからない旅だと、半生っぽい塩分の少ない干し肉がよく食べられる。
 紙みたいなビーフジャーキーじゃなくて、少し分厚い鶏ささみみたいな形で、色もそんなに濃いわけじゃない。
 長く保存しなくていいからだろうけど、おつまみっぽくて美味そうだった。

 長旅だと固い干し肉でゲンナリするかもだが、短い旅なら冒険が大いに楽しめそうだ。干し肉はファンタジー好きには夢の食べ物だし、どうせなら出来るだけ美味しく食べたいからな。
 荷物袋から食材を出すと、俺は早速調理を始めることにした。

「ツカサ君、鍋の方は僕が用意するね」
「おう、頼む」

 木の枝を集めたと思ったらもう火を起こしたらしく、ブラックが早速小さな鍋を設置する。相変わらず早い。本当冒険者ってアウトドア強いなあ。
 俺はブラックから借りたナイフで干し肉を切ろうとしたが……良い事を思いついて、手を止めた。
 俺ってば実は、そこらへんにタマネギモドキやマーズロウが生えてるのを見つけちゃったんだよね。アレを使ったら美味いんじゃないかと思うわけだよ。

 マーズロウっていうのは聖水に使われる薬草の一種で、聖水に仄かな香りを与え、他の薬草のエグみを取るのに使われている。
 疲労緩和剤を作った時に試食してみたんだが、俺はピーンと来た。
 これはハーブだってね!
 ハーブってことは、とりあえず料理に加えたらより美味そうになりそうじゃん? 原理とかよく解らないけど、生食して大丈夫だったんだし、味気ないスープにうまいアクセントになるだろう。

 タマネギモドキは、俺が勝手に命名しただけでちゃんと「タマグサ」ってパチモンみたいな名前が付いてる。玉草ってことかな?
 ネギ坊主みたいに草の天辺にタマネギが生えちゃう変な植物になってるけど、味はタマネギだし文句は言うまい。

 てなわけで、調理開始だ。
 肉は最初に軽く洗って、厚みを残してぶつ切り。マーズロウは葉っぱを細かく刻んで水を張った鍋に入れる。タマグサも男らしく適当に切ってしまおう。決してツンと来るのが嫌だからじゃないぞ。面倒くさいからだ。
 肉とマーズロウを入れたら暫く煮込んで、スープを逐一味見する。煮詰めれば煮詰めるほど塩味が出て来ちまうから、加減が難しい。もう少しでベストかなと思った所でタマグサを入れて、タマグサに火が通ったら完成だ。
 
「干し肉スープ・マーズロウ風味って感じ?」
「キュキュー!」
 
 我ながら美味しそうに出来たと思う。
 ロクにも試食して貰ったけど、余程美味しかったのか嬉しそうにくねくねしていた。フフフ、俺って実は料理の才能もあるのかな。照れるぜ。
 木製の器に盛って、焚火の場所に持っていく。
 あたりはもう薄暗くなっていて、ちらほらと光の粒が大地から湧き出し始めている。またあの幻想的な光景が見れそうだ。

「はいよオッサン」
「ありがとう。わっ、何これ本当に干し肉のスープ? 凄く良い匂いなんだけど」
「ふっふっふ、食べてみんしゃい」

 ブラックの隣に座ってニヤニヤと椀を差し出す。気持ち悪いとか言うなよ。
 相手は暫くスープの香りを嗅いでいたが、一口飲んで目を見開いた。

「うっ、うまい……! 干し肉のスープってこんな風になるんだ!? 肉も丁度柔らかくなってるし、タマグサがシャキシャキしてていい感じにスープを飽きさせないね!」

 おお、そんなグルメレポーターみたいな感想は期待してなかったんだけど、そこまで褒めてくれるとなんか逆に恥ずかしいな。
 ガツガツと椀を掻きこむブラックに驚きつつも、俺もスープを口にする。
 確かに美味く出来てる! けど、やっぱもうちょっと味が欲しいよなあ。調味料とかあったらもっと美味いスープになったんだけど、うーん惜しい。

「あの、ツカサ君」
「ん?」

 難しい顔をして味わっていると、横から申し訳なさそうな声が飛んでくる。
 なんだろうと思って振り返った先には、ブラックがしょぼんとした顔で肩を竦めていた。

「お……おかわりあるかな。あの、パン食べるの忘れちゃって……」

 手に持っている椀はからっぽだ。
 もう食べてしまったらしい。
 
「……そんなにうまかった?」

 こくんと頷かれて、俺は何だかむず痒いような恥ずかしいような変な気持ちになってしまった。別にブラックがどうのって感じじゃないんだけど、なんかこう、今ならブラックに対して全然腹が立たないっていうか。
 不思議と顔が笑顔に緩んでしまう。

「おかわりならまだ鍋にあるから、好きに食べろよ」
「あっ、ありがとう!」

 ぱあっと顔を明るくして脱兎のごとくおかわりしに行くブラックに、堪えきれずとうとう噴き出してしまう。なんだかなあ、もう。
 笑いつつ、穀物パンをちぎってスープに浸して食べる。
 うん、やっぱ食パンみたいにはスープが染み込まないけど、味は穀物パンの風味に負けずに結構絡んでて美味い。もっと味を濃くしてもいいな。
 帰ったら、湖の馬亭のみんなにまかないで作ってあげよう。
 
 夜になるにつれて段々と光の粒の量が増していくキャンプ場を見ながら、俺とブラックとロクショウは、夕食を静かに楽しんだ。
 光が浮かぶ世界で焚火をしながらメシって、本当夢みたいだ。

 そうこうしている内に、小鍋は空になる。オッサンが三回もおかわりするなんて思わなかったから、俺は一杯しか食べられなかった。ロクも御椀一杯ぺろりと食べたし、何気にこのパーティーってエンゲル係数高いぞ。
 まあ旅なんて滅多にない事だし、別にいいけどな。
 色々と複雑な思いになりながらも後片付けを終わらせた俺は、また焚火のそばに戻ってきた。夜はやっぱり少し冷える。
 光の粒は別に暖かさを持ってるわけじゃないから、ただ明るいだけなんだよなあ。

「……そういえば、この光ってなんなの?」

 今までファンタジーだからって流してたけど、よくよく考えるとおかしい。
 地面から光出ないから。蛍とかじゃない限り光の粒とか飛ばないから。
 
「これはね、この世界自体の『気』が具現化したものだよ。属性はないけど、代わりに誰でも扱える。風を扱ったりとか他の付加術なんかの力は世界の力を借りて発動してるんだ。だから……ほら、みてごらん」

 そう言って、ブラックは指を立てる。
 すると、無軌道に舞っていた光の粒が急に指の先に収束し始めたのだ。

「うわっ、すげえ……」
「夜になると何故か光るんだよね。でも、辺り一面を光らせるほどの大量の気は、人族の国だともうライクネスみたいな田舎が多い所でしか見られないんだ。他の国では道具の燃料とかにもされちゃうから」
「ああ……産業革命ってやつか」
「この光は、この世界の命そのものだ。だから、本当はこんな風にまぶしいくらいに気が溢れてる状態が……一番自然なんだけどね」

 この大地の命を吸い取って進化している国が、沢山あるんだろう。ブラックの少し寂しそうな横顔を見ているとそう思えた。
 文明が進化するのは良い事だけど、その代わりに失ってしまう物もある。
 この世界ではそれが『世界の命』なんだろうけど、なんだか怖いな。この光が完全に消えてしまったら、大地が死んでしまうかもしれないわけだし。

「湿っぽい感じになっちゃったね、ごめん。今のは無かった事にしよう。それよりツカサ君、キミも指を立てて、光を呼んでごらんよ」
「えっ、んなこと出来んの?」
「簡単さ。指に意識を集中させるだけでいい」

 もしかしてそれだけで素質って解ったりするのかな。
 知るのが怖い気もするけど、いつまでもアルノカナーナイノカナーとか悩んでても仕方ない。いっちょやってみるか。
 目を閉じて、指先に光が集まるイメージを思い浮かべて集中集中……。

「これは……すごいな」
「え?」

 ブラックの驚く声に目を開けてみると。
 サッカーボール大の光の玉が、俺の指先に集まっていた。

「わお……」
「キュゥウ」

 サッカーボールとは言っても、実際は光の粒の集合体だ。球体にはなっているが、じっと見ると光が集まってぐるぐると回っているのが分かる。
 この感じだと、ガラスの中の水にキラキラ光るラメが入ってるスノーボールっていう置物の方に似てるなあ。結構きれいだ。

「俺って、素質ある?」
「うん……凄くね。これは想像以上だったけど、曜術師じゃなくても君にはかなりの素質があるみたいだ。それに……」
「それに?」
「お嫁さんの素質もあ」

 言わせねえよ!
 般若の顔で再び拳を見舞うが、ブラックは呻くものの俺から視線を離そうとしない。

「ねえツカサ君。そのー、ちょっとお金上乗せするから、触るのはダメかな?」
「なに穏やかにドスケベな事言ってんの」
「だってここ数日何もしてないし近くに君がいるし二人っきりだしいい雰囲気だしもう正直ガマンできなくて」
「いい大人なんだから我慢しろよ! 発情期かお前は!!」
「君が隣にいると僕は毎日発情期で困るんだけどね!?」

 逆切れすんなバカオッサン!!
 
「さーわーるーなーっ!」
「ちょっとだけ! ちょっと触るだけだから! 入れないから!!」

 そう言って穏便に終わったエロ漫画はエロ漫画じゃねえ、ただのギャグ漫画だ。このパターンだと10割完封勝利で全部挿れられるわコンチクショウ!!
 ぐいぐい近づいて来るオッサンの熱気が気持ち悪くて、両手で相手の顔を押さえて引き剥がそうとするがビクともしない。
 くそう、運動不足の俺のバカ。

「ね、お願い。そうだ、触るの許してくれたら本買ってあげる」

 なぬ。
 でれでれしたブラックの顔を凝視して、俺は思考を停止した。

「ほ……本?」

 実はこの世界、本がかなりの貴重品。
 どうやら本を作るのがかなり面倒らしく、それほど冊数が刷れないらしい。なのでかなり値段が高く、本棚がぎっしりつまる程度の本を持ってるのは金持ちくらいしかいない。回復薬が500ケルブ……銀貨五枚の値段だとすると、エロ同人誌なみの薄い本でもこの世界では金貨十枚はする。
 俺の世界のお金で言うと、回復薬五百円、薄い本一万円だ。
 日々のご飯に使うお金が銀貨一枚くらいと言えば、大体高すぎるのが判るだろう。
 そんな本を、買ってくれるだと?

「ツカサ君、植物図鑑欲しがってたよね。買ってあげる。だ、だから……」

 本。鑑定スキルの使えない俺には、この世界では唯一の情報源。
 そして、極上の娯楽だ。
 触るだけで、分厚い本一冊……

「…………さ、触る……だけだぞ」

 学校にエロ画像持ってくる俺が、そもそも堪え性や危機感なんて持てるはずがなかったよなあ。うん。








 
当然の話ですが、この世界の素材だから適当レシピでも美味しいわけで
現実で再現するとウゲーな味になりますのでご了承ください(´・ω・`)
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