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王都シミラル、貴族の陰謀と旅立ち編
何で貴族って袖にヒラヒラがついた服着るの? 2
しおりを挟む「おお、ツカサ! ようやく来たか」
そう言って近づいて来るのは、金の髪をキラキラさせた問答無用の超絶美形。貴族の男キャラって何故か長い髪を一つ結びにしている事が多いが、この男も例に漏れず赤のリボンで緩く括り肩に流している。
服装がシャツとズボンだけっていうのは、自分の家だからだろうか。
くそ、ラフな格好してても周囲にほわほわ花が散っててムカつく。
美形効果嫌い。
「ではラスター様、夕食の時間になりましたらお呼びいたします」
「うむ。ご苦労だったなメラス」
俺を部屋に押し込むと、執事のメラスさんはさっさと引っ込んでしまった。
うわーやだー、一人にしないでー。
「しかしツカサ……あんな所にいるとは思いもしなかったぞ。探し回っても見つからんので、どこかへ溶けてしまったのかと半ば諦めかけていた」
「そのまま見つからない方がよかったなあ……」
ボソボソ言うけど、どうせこいつには聞こえてないんだよなあ。
「だがそれを発見できたと言う事は、俺は驚くほどの幸運を身に付けているに間違いない。幸運の女神が加護を与えているのだ! お前もそう思うだろう」
「いえ全然」
「そうかそうか、ハハハ照れんでも良い!」
「人の話聞いてねえなコイツ」
風呂の時から思ってたけど、今更ながらにゲンナリする。
もしかしてリタリアさん以外の貴族って全員こんななの?
いや、そんな事は無いはず。そう信じたい。
「さて、ツカサよ。お前には幾つか聞きたい事が有る」
「ケツが処女かそうでないか?」
「ケツ? ああ臀部か。お前のような者が、その年まで処女を守り切れる訳がなかろう。心の広い俺はそういう事は気にせんので安心しろ、お前の全ては俺の許容範囲内だ。しかし今回はそういう言う話ではない」
おいそれどういう意味だ。てか聞こえてたのか。
いや、まあ、確かにヤられましたけどね。ケツの処女失いましたけどね。
でもラスターって処女厨じゃないのか……意外……。
貴族ってそう言うの気にすると思ってたけど、そうでもないのな。変な事思っちゃって悪かったな……。こっそり謝っとこう。ごめんなラスター。
しかし、そう言う話じゃないって、じゃあどういう話だ。
「単刀直入に聞くが、お前の力は何だ?」
「……え?」
「曜術師とかいうおためごかしは聞きかんぞ。お前の力の根源は木や水の曜気だけではない。何かもっと違う物のはずだ」
何を、言ってるんだろう。この男は。
もしかして……俺の本当の力の事を知ってるってのか?
そんなバカな。
「根源って……言われても」
「最初は把握できなかったが、リタリアへ流し込んだ力を見て確信した。お前には本来の曜術師とは全く違う力がある。俺は、お前のその力の事を聞いているんだ」
「いや、あの、さっぱり分かんねーんですけど。アレだってワケ解んない内にリタリアさんが元気になってたし、俺だって何が起こったのか知らないんですって。俺は日の曜術師になりたてのヒヨっ子ってだけで、それ以上でもそれ以下でもないんですよ、マジで」
ヤバい。なんでだ、なんでコイツそんな事言えるの?
リタリアさんの事だって俺自身まだよく解らないのに、どうしてラスターは確信してるって顔で俺を見て来るんだ。
まさかコイツ、俺の力が何なのか知ってるのか……?
でも、ブラックは俺の力を見た事がないって言ってたし……。
ブラックが知らない事を、ラスターが知ってるって……あり得るのかな?
自分が使えない属性の術の使い方を教えられるくらい博識なブラックが、年下だろうラスターの知識量に負けるとはどうしても思えない。
でも、もし本当に俺の力の本質を知っていたとしたら?
……どうする俺、どうしよう。
迂闊に答えたら、泥沼だ。
「日の曜術師……俺と同じか。だが、俺にはお前のような力はない。お前のアレは【法術】とも流れが違う。そんな力をお前は何故使えるんだ」
「だ、だから知らないんだって」
それは本当だ。第一、俺の【創造】の術とラスターが感じてる力が同じものって確証はないし。もしこいつが俺の力の正体を知っているとしても、その正体を教えてくれない限り、俺は何も言えない。
うっかり相手が確信を得るような事を言って不利になるのはごめんだ。
そうして俺達は暫し睨みあうような視線をぶつけていたが……ラスターはふうと溜息を吐いた。
「……嘘はついていないようだな」
「だって本当だし……」
そう言うと、ラスターは難しい顔で腕を組む。
どうやら、納得いかないながらも信じてくれたみたいだな。
この男、人の話は聞かないけど、わからんちんという訳でもないらしい。
このまま問答続けてても不毛だもんな。だって俺、リタリアさんが回復した理由なんてマジで解んないし。それを相手も理解したんだろう。
俺に原因があるのは確かだとは思う。けど、だからって印象最悪の貴族にそれを喋る義理は無い。そもそも、ラスターが何故俺の力を見破ったのかまだ解らないしな、手の内を明かされなけりゃこっちも黙秘権だ。
俺をこんな恰好にして部屋に連れて来たって事は、少なくとも拷問するつもりではないんだろうし。こっちも怯えずに強気で行かなきゃ。
しかし、初対面の時はなんだコイツと思ったけど、実は色々と考えてる奴なのかもしれない。侮りがたい奴だ、ラスター・オレオール。
何度も叫ぶから名前覚えちゃったよ畜生。
「……まあいい。それはおいおい調べて行けばいい話だ。聞きたい事はまだある。お前、俺を助けたあれはどこで習った?」
アレって、ハイムリッヒ法の事か。それくらいはちょっと話してもいいかも。
でもこの世界って俺の世界みたいな学校ってあるのかな。少なくともラクシズには学校みたいな施設は無かったし、もしかしたら貴族とかでっかい街の子しか学校にはいけないのかも。
このあたりはちょっと脚色した方がいいのかもしれない。
「ええと……ばーちゃんの……とにかく、習ったんだよ」
「バーチャン? なんだそれは。モンスターか?」
「俺の婆ちゃんになんてこと言うんだお前は!! お婆さん、祖母!」
「ああ、お婆様という事か。下賤の言葉には慣れてないのだ、すまんな」
誰かハリセン持ってこい。
いやだめだ堪えろ。怒ったら何をポロッと言っちゃうか解ったもんじゃない。俺は冷静になるように努めながら、思いつきの台詞を並べ立てた。
「俺の家に伝わる体術だよ。喉に何か詰まった時にはこうしろって教えられたんだ。俺のばーちゃんは何でも知ってるから、色々教わった」
嘘じゃないぞ。テレビで見て家族はみんな「ぼんやりと……」ってぐらいには知ってるはず。婆ちゃんのことだって、何でも知ってるってのは間違ってはいない。俺は本当の事は言ってないけど嘘もついていない!
「なるほど……体術か。しかしそうすると、お前は他にも何か知っていそうだな。隠し立てしても無駄だぞ、どうせお前は逃げられない。そのお婆様から習った事を教えて貰おうではないか」
「ゲッ、そ、そんな事言われたって急には……ってか、アンタ結局何が知りたいんだよ。さっきから俺の力についての質問ばっかだけど、最終的には俺をどうしたいの。俺って側室として拉致されたんじゃねーの?」
そうだよ。コイツの質問って、なんかフワフワしてて要求が見えてこないんだ。
「何」を「何で」知りたいのかっていう所がいまいち解らない。
俺の力が不思議なのは解るけど、知ってどうする。
兵士にしたいだけなら、屋敷に来させて風呂に浸ける理由はない。側室にしたいからって理由なら、こんな質問より経験済みとかもっと身体的な事を聞くだろう。
危険人物扱いならそもそも屋敷に連れてこないしな。だから、ラスターの質問は変なんだ。
なにより、確認や訊問にしては聞き方が手ぬるすぎる。
知り合い程度の相手に正直に秘密を話す人間なんていない。そんな奴ばかりだったら、今頃世界はお花畑だ。ラスターもそれは解っているはず。
俺を害のない存在と認識している。
だから部屋にも呼んだし、一対一で話をした。
手ぬるい問いに、答えが返ってこない事も予測していたはずなんだ。
答えを引き出そうとしていないのなら、これは尋問でも確認でもない。
ラスター個人の興味から来る質問と言う事になる。
なら、俺に理由を聞かせてもいいはずだろう。
「何が知りたいか教えて貰わないと、俺も答えられない」
俺が少し強めの声でもう一度問うと、ラスターは少し戸惑ったように視線を逸らした。
「何が、知りたい。うむ……そうだな……。あの体術については、国の利益になると思ったからだ。貴族や国王陛下は常に暗殺の脅威にさらされている。毒殺だけでなく、あの時の俺のように憤死極まる無残な殺し方をされる場合があるのだ。だが、お前の知識があれば救う事が出来る。だから、あの体術を教えて貰おうと思って訊いた」
なるほど。てか、ラスターってば凄い偉い。
俺達の事を下賤下賤って言ってるわりに、すげえ勉強家じゃん。だって、格下の相手から、人を守るための術を教えて貰おうとしてたんだろ?
貴族のプライド高いお坊ちゃんがそうそう出来るこっちゃない。
暗殺に備えてってのも、王様に仕える貴族らしくてなんか忠誠心感じるなあ……ってちょっと待って。暗殺?
今、ラスターってば「あの時の俺のように」って言った?
まさか……ラスターはあの時まさに殺されかけてたってのか……?
「あっ、アンタあの時殺されかけてたの!? 俺、てっきり誤飲か何かかと……」
「傍目には解らんだろう。暗殺とはそういう物だからな。最近はライクネスも色々ときな臭くて、そういう事件が起こっている。俺もその内の一人になる所だった。……そう、だからこそ、俺はお前を側室として迎えようと思ったのだ」
「えーと……それとコレがどう繋がるのか判りません」
「お前の能力は、神が齎した素晴らしい能力だ。だが、悪人に渡ればその力は途端に民を苦しめる悪の力となるだろう」
ブラックにも言われたことだ。
びくりと身をすくめた俺に、ラスターは容赦なく畳み掛けてくる。
「自身自分が何の力を持っているのか解らないのなら、尚更外に放り出しておく事は出来ん。その力を学び、人の為に役立てるべきだ。リタリアにしたようにな」
「…………」
「ツカサ、お前の力は我が国に益を齎すものだ。慈愛の女神によって与えられし力……そう、お前は神の化身なのだ。俺はそう信じている。だからこそ、俺はお前を側室に……いや、手に入れておきたい。俺の物にしておきたい。ただ一人俺を助けたお前を、手放すわけにはいかんのだ」
な、なに言ってんだこいつ。
神の化身とか俺の物とか、わけわかんね……。
やだこっち見つめないで、恥ずかしくて見てらんないんだけど。
ちょっ。近付いて来ないでくれってば!
「俺の神子、俺をより輝かせるために側に居てくれ」
距離を詰めて来たラスターに、思わず後退ろうとする。
だが、それは敵わなかった。
歯の浮く台詞を嬉しそうに言い、ラスターは広い胸で俺を抱き締めたのだ。
逃げ出そうとしても強く抱きしめられて、俺はどうしようも出来なかった。
ふわりと香ってくる花の匂い。だけども女じゃない、大人っぽい男らしい胸板。散々人を下賤下賤言っておいて、なんで、こいつ抱き締めて来るの。
なんなんだよその「俺の為に」って。世界は自分中心に回ってんのかよ。
そうは、思うけど。
「…………」
なんでコイツ、こんなに腕が震えてるんだろう。
その事に気付いてしまったら、何も言えなくなってしまった。
「俺、どうなんの?」
もう、なんか、この状態はとりあえずしょうがない。俺が知りたかったことも何だか有耶無耶になってるのも良しとしよう。だけど、俺の立場が今後どうなるかだけは知っておきたい。
それだけでも分かってないと、明日が不安だ。
ブラックとロクが助けに来てくれる時に逃げられる場所にいないと、どうしようもないし。俺はまだ逃げるのを諦めた訳じゃないからな。
そんな事を考えつつラスターを見上げると、相手は綺麗な顔でふっと微笑んだ。
「決まっている。これからは、ずっと俺の側に居るんだ。お前は俺の幸運の神子なのだからな」
「…………っ」
綺麗な笑顔をして至近距離で言われて、俺は思わず言葉に詰まる。
顔だけは良いコイツに笑われてときめかない奴がいるなら、お目にかかりたい。だから、俺がドキッとしたのは普通の事なんだ。うん、きっとそうだ。
っていうか、待ってくれよ。ずっと側にいるってこいつ今言ったよな?
「照れているな。頬が薄紅に染まっているぞ、愛い奴め」
「あっ、あの……ずっと俺の側にって……」
まさか、四六時中って訳じゃ……脱出するスキくらいはありますよね?
別の意味でドキドキして訊く俺に、ラスターは素敵な笑みのままで答えた。
「決まっているだろう。お前の部屋は俺の自室の隣……ほら、そこに扉があるだろう。そこから繋がる場所だ。お前の部屋にはあの扉しかないから、何かあれば俺を呼ぶと良い。あと、食事も風呂も共にするぞ。お前には貴族の常識と言う物がないだろうからな、これからしばらくは俺が……この文武両道な俺が手取り足取り教えてやろう。喜ぶがいい、ツカサ」
ええ……。
これ、なんてムリゲー?
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