異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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首都ラッタディア、変人達のから騒ぎ編

2.綺麗な○○は好きですか?

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 強い日差しの下に乱立するのは、黄土色の壁をした賽子サイコロのように四角い建物。
 二段にも階段状にもなっているその建物は、この国の首都・ラッタディアに住む庶民の家だ。

 ハーモニック連合国は南端の国だからか、西の国とは建物の様相が違う。
 この国の家は、俺がテレビで良く見ていた熱い国の建物とよく似ていた。

 日光を避けるために分厚く作られた家は、その壁を刳り貫いてドアや窓を作っている。恐らくこの国では、この土を固めたような家が一番造り易いのだろう。
 だけど、街の中心部や繁華街に行けば、そんな黄土色の家々とは違う細かい装飾をされた白亜はくあの建物がずらずら立ち並んでいた。

 日差しを跳ね返すかのように磨き立てられた白の壁に、色鮮やかな塗料で模様や宣伝文句が書いてある。その色鮮やかさは、まさに俺の世界のアラビアンな宮殿や街って感じだった。

 そんな街中を、ターバン・裸チョッキ・下が膨らんだズボンをフル装備して歩く男や、眉間が痛くなるほど細かい刺繍が施された服を着た金持ちが歩いている。
 髪色や肌色、服装すらもさまざまで、ここまで色々見せられると【綿兎の宿】のおじさんが言っていた「種族の坩堝」という言葉に納得せざるを得ない。

 これが、南の国ハーモニック。
 まさしくアラビアンナイトの世界!
 ……とは思ったけど、俺よくその話知らないんだよね。
 まあ雰囲気的にはそんな感じって事で。

「にしても……獣人とか魔族がいるって話だったけど……みかけないな」
「獣人は人に化けられるから見つけにくいと思うよ。人族の国に来る獣人は、耳や尻尾を隠せば見分けがつかないくらい、化けるのが上手い人達ばかりだからね」
「そっかー……」

 リベラルな国って言っても、やっぱ獣のまんまで歩く獣人はいないんだな。
 まあでも獣人娘の居る所はもう目星つけてるからいいけどね!

 ふっふっふ、伊達に数週間冒険者やってんじゃないぜ。
 情報収集スキルもばっちり磨いておいたんだぜ俺は。お蔭でケツ触られたり色々セクハラされたけど、しかし『獣人や魔族とぱふぱふ出来る店は、ラッタディアの飲み屋街にある』って情報はしっかり手に入れたもんね!

 勿論ちゃんと数人に聞き込みして、嘘やでまかせじゃないのも確かめ済みだ。
 彼らの中には娼姫としてお相手して貰った奴もいたらしく、そりゃもうご満悦だったよ。本当羨ましい限りだ……俺は女性も好きだが、獣人も好きだからな!
 えっちとかそう言うのは諸事情により遠慮するが、胸に突っ込んでいいなら遠慮なく突っ込みたい! もふもふおっぱいに包まれる、それが男の夢!!

 変態と言うなかれ、可愛い女の子は全て可愛い。これは世界の真理なのだ。
 例え角が付いてようが毛むくじゃらだろうがゴリラだろうが、可愛ければ全てがオッケーだ。俺としては可愛いは作って貰って大いに構わない。
 勿論ナチュラルも美味しく頂く。様々な所から萌えが生まれるのだ。
 だから俺は天然養殖どっちも大歓迎って何を言ってんだ俺は。

 ともかく、獣人や魔族にお相手して貰える所があるんだから焦る事は無い。
 睡眠薬でブラックを眠らせて、絶対にその場所に行ってやるんだ。

 ブラックに気付かれないようにニヤリと笑いつつ、俺は徐々に見えて来た首都・ラッタディアの中心部を見上げた。
 俺達が向かっている【世界協定】の支部がある建物は、首都の真ん中にある。
 何故かと言うと、そこがこの国の政治の中心だからだ。

 この国は王政とかじゃなくて、それぞれの地域の長だとか首領が集まって議会を開き、討論によって国の方針を決めるという政治の方法を取っている。だから王宮なんかはないんだけど、その代わり、中心部にはその議会が開かれるでっかい白亜の宮殿があるのだ。

 タージマハル的なアレ、と言えば解って貰えるだろうか。
 だから、政治に関わってくる世界協定の支部も宮殿の中に在るという訳。
 ラッタディアの宮殿は、色んな組織のオフィスをまとめた場所でもあるのだ。
 ……異世界でオフィスて、とは思うが、事実なんだから仕方がない。

「にしても、本当綺麗な街だよな。中心部は石畳敷いてあるし、色んな所に水路が有ってまさにオアシスって感じだし」
「当然さ、ラッタディアは世界一美しい都って言われてるからね。……この街は、太古の昔に存在したという巨大な国の王都で、その頃の栄華がそのまま残されてるんだよ。だから中心部はこんなに美しくて綺麗なんだ」
「へ~……この世界にも滅んだ文明ってあるんだな」
「そりゃ有るでしょ、歴史が有るからこその国なんだし」

 まあその通りなんだけど、ファンタジーの世界の国って「数千年続いてる」って場所ばっかり思い浮かんじゃうからなあ。
 このラッタディアの町並みだって、まさに古代からの都ってレベルだし。

 しかし、本当外国だとかファンタジーの世界の街とかってすげーよなあ。
 ラッタディアは都市機能や人が集中する場所だからか、どこもかしこも煌びやかで綺麗な水を流す水路が至る所に通っている。少し歩いただけでも絵になりそうな場所が幾つも有って、思わず感嘆の溜息が出るほどの美しさだ。
 俺には一生縁が無さそうな場所だけに、本当もう感動しっぱなし。
 この街はまるで水の都ヴェニスだね。俺テレビでしか見た事ないけど。

 しかしいつまでも驚いてはいられない。
 観光気分もそこそこにして、俺達は中枢の宮殿へと向かった。

 中枢の宮殿は、やはり各組織の重要施設があるとあって、流石にフリーパスでは入れない。門番の人に身分を提示しても、前庭を抜けて宮殿のドアの前まで来るとまた身分証明を求められる。
 ウンザリするが、セキュリティのためだから仕方ない。

 警備の人にやっとオッケーを貰えて、俺達は中へと通された。
 やっと辿り着いたぞ、と解放された気分で宮殿のエントランスに入る。
 すると……――受付の前に、なにやら人影がぽつんと立っていた。

「あれ、って……」

 見覚えがある、黒いローブ姿。
 思わず身構えた俺達に対し、相手はカツカツと靴音を立てて近付いてきた。

「ツカサ・クグルギ様、ブラック様、お待ちしておりました。我らが首長がお待ちです。こちらへどうぞ」

 透き通るような、男だか女だか解らない声。
 黒いローブの人間から出て来たとは思えない美しい声に、俺は面食らった。
 けれど、ブラックは相手の声も既に解っていたかのようで。

「行こう、ツカサ君」

 な、なんだ。いつになく真剣な顔してるじゃん。
 ここってそんなにシリアスな場面……なの?

 良く解らないけど茶化すのもどうかと思い、俺は素直にブラックの後に続いた。
 エントランスの端に在る、金の手すりが付いた螺旋階段を上っていく。三階まで来ると、周囲の細かすぎる壁紙があまりに目に痛くて、俺は頭痛を覚えた。
 うわーもう本当こういうの苦手。目が疲れる。

 壁紙が細かすぎて、漫画にしたら背景描く人が死ぬんじゃなかろうか。

「キュ~」
「ありゃりゃ、ロクも目が回ったか。目ぇ閉じてな」

 ロクは自然の子だからこういうのは慣れてないよな。
 螺旋階段とかも今まで無かっただろうし。
 顔を掌で覆ってやると、ロクは落ち着いたのかスヤスヤと眠り始めた。最近本当眠る事が多くなったな、ロク……なんか病気じゃないといいんだけど。

「こちらです」

 ひいこら言いながら最上階まで階段を上ると、黒いローブが廊下へと誘う。
 緋毛氈の敷かれた廊下はやっぱり豪華絢爛で、そこかしこに金の装飾が見えた。華美ここに極まれりとゲッソリしたけど、通された部屋もまた凄かった訳で。

「こちらでお待ちください」

 中に入ると、唐草模様の壁紙の洪水。
 天井は丸く、フラスコだかフレスコだか知らないが、写実的で美しい中世絵画っぽいのが描かれている。調度品も家具もラスターの成金趣味な屋敷といい勝負だ。この世界本当ゴリゴリに飾り立てるの好きね。

 だもんで、当然庶民派の俺は居心地が悪く、ふっかふかのソファに小さくまとまって座るしかなかった。ブラックは流石のお坊ちゃんと言った所か、この部屋の華美さなんて気にもせず足を組んでふんぞり返っている。
 ぐうう、一番部屋にそぐわない恰好してんのにコイツうう。

 でもそんな姿に少し緊張が解れて、俺はブラックに問いかけた。

「ブラック、その……シアンさんってどんな人?」
「容姿のこと? うーん……君が好きそうな美人とかじゃあないよ」
「えっ……そ、それ……どういう……」

 意味での「好きそうじゃない」ですか、と、続けようとしたと同時。

「あら。随分とご挨拶ね、ブラック」

 ドアの方から、落ち着いた壮年の女性の声が聞こえた。
 黒いローブから漏れた声の比じゃないくらい、とても綺麗な声が。

「シアン……」

 これが……シアンさんの声?

 ブラックの言葉に思わず振り返って、俺は思い切り目を見開いた。
 神族という存在で、世界協定という大きな組織に属した女傑。
 世界の為に、俺を殺そうとしていた……怖い存在。
 その人の、姿は。

「おばあ、ちゃん……?」

 一瞬、俺のお婆ちゃんに見えた。
 いや、そうではない。彼女は年老いているが、俺のお婆ちゃんとはまるで違う。美魔女っていう言葉が最近流行ってたけど、シアンさんはまさにそう言いたくなるほど綺麗な老年の女性だった。

 けど、彼女の姿みて驚いたのは、それだけじゃないんだよ。

「貴方が、ツカサ君ね?」

 凛として美しい壮年の女性の声で、俺に笑いかけるシアンさん。
 稲穂色の輝く髪が、さらりと耳に掛かって流れる。とっても絵になる光景だ。
 しかし、今の俺にはそれを綺麗だと言う余裕はない。
 だって。だって、シアンさんは。

「え……エルフ……」


 ――そう。
 彼女の耳の先端は、人間よりもずっと長い。
 神族のシアンさんは、エルフとしか言いようのない姿だった。









 
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