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波乱の大祭、千差万別の恋模様編
20.現実は「くっ、殺せ…」とか言えないくらい痛い
しおりを挟む※わりと一方的に殴られてるので、そう言うのが嫌な方はご注意ください
この話を飛ばしても次回の展開にはあまり支障はありません(´・ω・`)スマヌ
「普通の子供なら、吊るされただけで泣きだすってのに大人しいじゃないか。お前もやっぱり冒険者なんだねえ」
帆を上げるための柱に縄を通されて、体が吊り上げられる。
腕と腹の部分だけに縄を通されているので、当然俺の全体重はその部分に集中していて苦しい。漫画や物語じゃ見慣れた光景だが、その吊るされ方がこんなに辛いとは思ってもみなかった。
これ、腹部が圧迫されるから息がし辛いし、なにより筋肉が少ない部分に体重が全部かかってるんだ。こんな状態で腹にパンチ喰らったら、一発で出ちゃいけない物が出てしまう。しかも、手が痛い。めっちゃくちゃ痛い。
エロ漫画を見て緊縛プレイはとても良いものだと思っていたが、実際やらされるとこんなにキツいとは。うう、今まで萌えててごめんなさい。
だけど、それでもファスタインに負けたくはない。
朝から何も食べてなくて良かったと心底思いつつ、俺は目の前のファスタインをキッと睨み付けた。
「何されたって、お前だけには絶対謝んねーからな。それよりもガーランドの手を早く治してやれよ。アンタの部下だろ」
「心配いらないさ。後で回復薬をかければあんな傷すぐに治る」
だからって人を刺したり怪我させたりしていいわけねーだろ!!
恋は盲目とはよく言うが、盲目にしては度が過ぎる。いくら女子だからって美女だからって、俺にも許せる事と許せない事があるんだぞ。
良いから早くガーランドを手当てしろと騒ぐ俺に、ファスタインは実に煩そうに顔を歪めると、当たり前のように俺の頬を強く引っ叩いた。
「ッ……!! ぐぅ……っ!」
い、ったい……!
一瞬意識が飛んだが、痛みですぐに引き戻されて俺は顔を歪めた。
頬が熱くてじんじんする、口の中が切れたかもしれない。
今までも何度か頬を引っ叩かれた事があったが、ここまで痛くなったような気がする。もしかしてアレは加減して叩かれていたのだろうか。そう思わせるほどに、細く綺麗な手が繰り出した平手は強烈だった。
屈服しないと思っていなければ、今の攻撃で俺完全に負けを認めてたかも……。
ビンタって想像以上にいてえ……。
口の中で広がる鉄の味に顔を歪める俺に、甲板の上に転がっていたガーランドが手を庇いながらコッチに這い寄って来た。
「あ、姉御、カンベンしてくだせえ……っ、ツカサには、俺が言って聞かせますんで、だからっ、く……折檻だけは……っ」
「ガーランド……」
必死に俺達の方へと這いずってくるガーランドに、ファスタインは鬱陶しそうに目を細めると、ガーランドの腹を蹴りあげた。
「あっ!!」
「げふっ……!!」
胃の中の物を嘔吐して蹲るガーランドに、こちらに背を向けたファスタインは苛ついた声を漏らして溜息を吐く。
「はぁ……お前は本当にバカだな。私が大人しくしろと言ったら大人しくしていろと何度も教えただろうが。お前も躾け直した方が良いのか?」
その言葉に、俺は慌てて口をはさんだ。
「ま、待ってよ!! 悪いのは俺じゃん、そいつ関係ないじゃないか!! やめろよ、ガーランドは怪我してるんだぞ!?」
「……良かったなガーランド、お前の妻は頭は悪いが献身的だぞ」
そう言いながら頭を蹴るファスタインの凶行に、俺は言葉を失くす。
なんで、何でそこまで人を傷つけられるんだよ。
「アンタ……なんで自分の部下にこんな……」
「部下だからこそ、だよ。お前も私の部下になるんだ。逃げたり逆らったりしないように、しっかりと教え込まなきゃな」
「……くそっ…………」
目の前に戻ってきた相手に悪態を吐きつけるが、負け犬の遠吠えと思っているのか、ファスタインは勝ち誇ったような顔で片眉を上げるだけだった。
吊るされたとは言っても、その高さはファスタインと同じ目線になる程度だ。
唾を吐きかけてやればいい挑発行為だったろうが、それをやってしまえば相手と同じ位置に落ちると感じて、悔しいけど出来なかった。
もちろん、逃げる事も不可能だ。
フレイムで縄を燃やして逃げ出す事も出来たけど、今の状況では集中できない。
恐らく俺が少しでも変な素振りを見せたら、ファスタインは容赦なく俺に攻撃を食らわせるだろう。それを受けて冷静でいられるかは、俺にも解らなかった。
だけど、耐えるしかない。
「……やるなら、やれよ」
「随分殊勝になったね。まあいい、それじゃあ思う存分やらせてもらおう……!」
ファスタインがそう言った瞬間、縄で締め付けられていた腹に、強く重い一撃が撃ち込まれた。
「ッ、がっ……!! げほっ、う゛ぁぇっ」
言葉にし難い苦痛と、衝撃と、込み上げる物に喉を塞がれて俺は体を折る。
女の人のパンチって、こんなに強い物なのか。
そう思ってしまう程の強烈な痛みに、俺は空っぽの胃をひっくり返してしまった。
「フフッ、汚いねぇ。お前もリリーネも、下賤な奴らと何も変わらないじゃないか。よくも“自分は潔白です”とでも言うような態度でいられたもんだ」
「げはっ、っが、げほっ……げっ……」
「特にお前、純情そうな顔して男を二人も手玉にとってるんだろう? そんな淫乱な奴をどうしてガーランドが妻にしたいと思ったのか疑問だね」
言い返したいけど、声が出ない。
喉が吐瀉物の名残でヒリついて、咳しか出てこなかった。
「ほらほら、何か言ったらどうだ! 一撃で大人しくなる程度か?!」
ファスタインは上機嫌で笑いながら、俺の髪を掴んで引上げ、そのまま平手打ちを繰り返した。脳みそがブレて、頭が痛みと苦しみとしか視界の乱動に混乱して、何が何だか分からなくなる。
認識できる事は、苦痛と誰かの笑い声だけだ。
体が無意識に逃れようともがくが、上げた足は空を蹴り、体はその度に殴られた腹と手に体重をかけて、苦しみから逃れる事は出来なかった。
ただ、ぎしぎしと体が揺れて頭が溶け出しそうで。
「っ、ぁ゛……」
そして、何度目かも解らないどこかへの暴行を受けて、俺は呻き声を上げ口の端から血を吐いた。
「良い恰好になったじゃないか」
ファスタインのその声に、ぎしぎしと悲鳴を上げる体を見下ろす。
「……ぐ……」
たしかに、酷かった。
体を刃物で傷つけられたわけじゃないが、恐らく服の下にある肌にはしっかりとあざや傷跡が浮かび上がっているだろう。
いつ漏れたのか解らない鼻血や口を切った時の血が服にかかっていて、ちょっとしたスプラッタだった。嫌な臭いもする。またどこかで胃液を吐いたのか。
もはやどれもがいつ何度目で出来たものかすら分からない。
ただ、霞んだ目で痛みに呻きながら自分の姿を見る事しか出来なかった。
……だけど、俺は負けたなんて思っちゃいない。
殴られても蹴られても、耐えてやったぞ。いつもは軟弱な俺だが、やる時はやれるんだ。自分を褒めてやりたいよ。
けど、も、もうダメだ……もう、意識がもうろうとしてて失神しそう……。
「どうだ、これで分かっただろう? お前もリリーネも、結局は圧倒的な力の前には屈するしかない脆弱な存在なのだ。お前達は私に敵わないと認めろ」
また髪を引っ張られて、無理矢理上を向かされる。
ああ、勝ち誇ったファスタインの顔を見ることになるのか。嫌だなと思って顔を僅かに歪めた俺に、相手は何を勘違いしたのか、一瞬顔を強張らせると乱暴に俺の頭から手を離した。
「……っ、ぅ……」
「ふ、フフッ……なるほど、痛みではそうそう屈服しないと言うんだな」
何も、言ってない。
だけどそう言う事も出来ず黙っている俺に、ファスタインは何を思いついたのか、おかしな事を言いだした。
「そうか……お前は少し変わったヤツだったな」
「……?」
何を言っているんだ、と、痛む首をゆっくりと上げようとしたと同時。
「なら、これはどうだ」
ファスタインは自信満々な声でそう言って――――
俺の上着の胸元を掴んで、引き裂いた。
「……っ……え……?」
これ、なんで。
どういうこと。
「痛みで駄目なら、羞恥はどうだ」
「な……っ……」
「ほう、こういう事にはすぐ反応できるみたいだな」
しまった。半端に理性が残ってるせいで、反応してしまった。
そんなにすぐに反応したら、相手にヒントを与えたのも同じじゃないか。
最早感情を隠す気力も無くて顔を歪める俺に、利はこちらに有りと言わんばかりにファスタインはまたあの勝ち誇ったかのような顔で笑った。
「なにも、泣き叫ばせる方法は痛みだけではない」
俺に言い聞かせるように呟いて、ファスタインは懐からナイフを取り出した。
何をするのかと少し怯えた俺に、相手は綺麗な顔で微笑みながら、その刃をゆっくりと俺のズボンへと当てて来る。
まさか、とは思ったが、女の人がそんな事をするなんて思えない。
そんな訳がないよなと自分を納得させようとしたが、ズボンを引っ張られて裾がナイフで勢いよく切り裂かれたのを見て、俺はひきつる喉で息を呑んだ。
「っ、ぅっ……!!」
「フフフ……アハハハハ……随分と良い反応をするじゃないか。そうか、リリーネにもこうやればいいんだな? 可愛らしいな、こんな事で急に嫌がりだすなんて」
そう言いながら、ファスタインは俺のズボンを下から切り裂いて行く。
破かれたズボンはまだ辛うじて繋がってはいたが、しかし素肌に霧が混ざる湿った空気が触れて来て、俺は無意識に足を寄せた。
けれど、それは相手を調子づかせるだけで。
「もうすぐズボンがなくなるぞ。上半身は傷があるからまだ恥ずかしくないだろうが、足は真っ白なままだろう? ほら、ここを切ると……」
「あっ……っ……!」
ついにはズボンの合わせにまでナイフが突きつけられて、俺はその恐怖に竦む。
ファスタインはそんな俺の顔を実に愉しそうに見て、そのまま合わせの留め具をナイフで切り飛ばしてしまった。
支えの無くなったズボンは、あっけなく下に落ちる。
後に残ったのは、下着だけだった。
「顔が赤いな。分かりやすくて可愛いぞ、ツカサ君。……とは言え、下着を取ってもお前は反発心が強い。これ以上は開き直りそうだな」
う……ば、バレてる……。
だって、もう気力がないんだ。恥ずかしさはあるけど、この二人しかいないのなら見られたっていい。人が多くなると困るが、そんな事しないだろうし。
なにより、彼女はリリーネさんが好きだ。百合なのだ。
だから、俺は恥ずかしいけど耐え切れると思っていた。でも。
「なら……人以外の存在に辱められ、それを人に見られるのはどうだ」
「ぇ……!?」
そう言って、ファスタインは懐から乳白色の小さな玉を取り出した。
「化け物に絞め殺されながら犯されたら、泣き叫んで許しを請うかな?」
ファスタインの言葉と共に、乳白色の玉が淡く光り出す。
その光に引き寄せられたかのように船のすぐそばで巨大な水飛沫が巻き起こり――巨大なクラーケンが、船に体当たりせんばかりの至近距離に現れた。
→
※と言う訳で次回ちょっと*です(大したことないですが)
また変な触手に絡まれるのでご注意ください(´・ω:;.:...
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