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シーレアン街道、旅の恥はかき捨てて編
6.恋愛初心者の臆病さは凄い
しおりを挟む※すみませんやらしい部分諸事情で次回になりました申し訳ない…っ
代わりにちょっとじゃなくてだいぶやらしくするので許して…(;ω;)
翌日、ロサードと打ち解けた俺達は、途中まで旅をご一緒する事になった。
別に急ぐ旅でも無し、会話をするにしろ四人の方が収まりも良い。
なにより、他人が一緒にいるのでブラック達の喧嘩も抑えられる。
俺にとっては二十にも三十にも助かる事だったので、これは渡りに船だった。
まあブラックは不満そうだったが、国境の砦までなんだし許せ。後でちゃんと何かサービスするから。まだ何も考えてないけど。
……え? しょんべん手伝ったかって?
みなまで言わせんなよっ! 恋人でも然るべき時以外に触ったり見たりするのは勘弁して欲しいんだぜ! 無駄にテンション上げて忘れようとしてる俺を解って!
いや本当ああいうのは親子でもやりたくないよね。俺父さんにトイレ付いて来てって頼まれても嫌だわ。ブラックはまあ、まだアレだったけど、身内の股間とか風呂以外では見たくないわい。近親相姦物は二次元の話だから萌えると言うことを念頭に置いて俺は萌えて行きた……いやそういう話では無くて。
とにかくそうやって俺達は街道を一路北へと進んだのだが、この道を何度も往復したロサードが言うには、もうちょっと進んだ所に小さな村が有るらしい。
距離にしてみると丁度街道の中程にある村で、近くに川も流れているので風呂に入れると言う。今の俺達にしてみれば吉報だ。
まだ股間周辺にシミはついちゃいないが、まあ少なくとも俺達は数日風呂に入ってないからな……。
俺は我慢できなくて井戸の冷たい水で体を拭いてたけど、オッサン達は別なので正直この状態でサービスだのなんだのは考えたくない。汗臭そうじゃん。
やるとは決めたけど、なんていうか……その、そう言うコトになったら困るし、その、一応な! 準備だけはちゃんとしときたいって言うかさ!!
だから風呂に入って洗っておきたいっていうか! ね!
それに、二人旅ならそう言う事は気にしてなかったけど、今はクロウがいるんだ。仮にヤったとして、事後の臭いとか相手に伝わったら申し訳ないじゃん。
いや、別にそう言う事するわけじゃないけどね! 本当にね!
って言うか俺なんでこんな焦って弁解してるのかな……。
「き、期待してる訳ではないけど……」
自分でも知らない内にぽつりと呟いて、俺の隣で街道の先を見ている不機嫌そうなブラックに視線を向ける。
旅の仲間が増えたせいで「二人きりの時間」が更に減少したと思ってるらしく、かなりイライラしているようだ。ロサードと道中一緒に歩くのを了承したとは言っても、不満な事には変わりないモンな。
やっぱり今も、怒ってるんだろうか。
今更ながらにそんな事が気になって、俺はブラックの顔を見上げた。
「…………」
……なんか、横顔まじまじ見るのも久しぶりだな。
言動のせいで普段はそうは思えないけど、やっぱりブラックも格好いい顔してるんだよな。顎がガッシリしててまさに大人の男って感じだし、それに鼻も高くて彫りが深いシブい顔で……いや、なんかイラッと来るから褒めるのよそう。
でも、とにかく顔だけはコイツは本当に格好いいんだよな。
「……ん? ツカサ君、なに?」
振り向いて俺を見る菫色の綺麗な目に、ドキッとする。
今まで変なこと考えてたせいか妙に意識してしまって、俺は慌てて顔を背けた。
「な、なんでもない。それより……村は見えたか?」
「…………見えては、ないけど」
「なんだなんだ。不機嫌そうだなアンちゃん。村はもう少し先だぜ」
「ツカサ、ブラックに何かされたのか」
先程まで後ろで色々話していたクロウとロサードが、俺達に追いついて来る。
何かされたっていうか、なんか俺が変に意識してただけなんだけど……。
「ツカサ、顔が赤いぞ」
「んっ、い、いや、昨日の酒の臭いに当てられたのが治ってないのかな!」
「ほんとかなぁ」
俺の言葉に妙に突っかかるような拗ねた口調のブラックに、クロウがムッとして引き剥がすように俺を抱き寄せる。
しかしブラックはそれを睨み付けるだけで、何も言わなかった。
「…………ほんとに治ってないだけ?」
そう言いながらクロウと俺を交互にジロジロと睨む相手に、俺は全てを察した。
ああ、こいつ……やっぱまだ怒ってるんだ。
それに不安がって、俺の事を疑っている。
ブラックの気持ちは少し悲しかったけど、それも俺が口下手なせいなんだと思うと悲しくもなれなくて、ただ黙る事しか出来なかった。
シーレアン街道の中程にある村・ベイラル。
村の全ての人間が農家であり、驚く事にその全員がこの街道周辺の畑を任されている立派な「派遣公務員」という変な村だ。
このベランデルンは、国土のほとんどが畑と言っても良い。だが、その広大な畑を維持する為には普通の農家だけでは手が足りず、こうして元々村が存在しない場所に村を作り上げて兵士を派遣しているのだと言う。
なので、この小さな村は実は他の村よりも設備が整っている。
旅人が来ることも想定して建物を作っているのか、国のお達しで兵士が運営している宿屋もあるし、農業をしている兵士達がこんな辺鄙な場所で退屈しないように小さいながらも酒場や賭場が在る。
物資は定期的に国から支給されるので、実際普通の村よりもこういう所はリッチで品揃えが良い。
「だーが、この村にも物足りない点は沢山ある。それを、俺達行商人が定期的に持って来てやるのよ。お堅い上層部が送ってくる物資や遊び道具ってのは、遊び心が足りねえ。だから、俺達の商売も殊更上手く行くのさ」
「何不自由ない所でも、そういうのはあるんスね」
「逆だよ逆。何不自由ない暮らしをして真面目に働かされてるからこそ、度し難いモノに惹かれるのさ。人間ってのは欲が尽きねえからな。そこに俺達が付け込……おっと、素敵な物をお届けできる可能性があるってことよ」
うーむ、さすがオラオラ系な口調をしているロサードさん。
口調を裏切らぬほどのどうしようもないゲスな感想だ。
でもまあ、そういう場所だって事を事前に教えて貰ったのはありがたい。
おかげで宿屋のシステムも他とは違うって解ったしな。
「それで、これから君達はどうするの」
夕方くらいにやっとこのベイラルという村に到着した俺達は、四人部屋を取ってやっと一息ついていた。
わりと小さそうな宿だったのに四人部屋が在ったのは驚きだが、俺達とロサードで料金を折半した結果この部屋が一番安かったのでここにしたのだ。
ブラックには悪いかなと思ったけど、朝のあの時からブラックは不機嫌そうに黙ったままで何も言ってくれなかったので仕方がない。
正直二人部屋とかも考えたけど、不必要にそういう事するとなんか見せつけてるみたいで俺も嫌だし……でも、そのせいで余計に怒ってるんだよなあ。
やっぱどうにかして二人っきりの時間を作ったりした方が良いのかなあ……とか悩んでる俺に構わず、ブラックとクロウはロサードに応えた。
「……僕はこのまま寝るよ」
「オレはメシを食う」
「そうか。じゃあみんな宿からは出ねえんだな。俺は行商に行って来るから、この予備の鍵を貰ってくぜ。んじゃな」
そう言うと早速部屋を出て行ったロサードに、俺達はしばし沈黙する。
部屋の中の妙な空気が物凄く息苦しくて、俺も逃げようかなと思っていたら……意外な事に、ブラックが立ち上がった。
「ブラック?」
「トイレ行って来る」
そう言うと部屋を出て行こうとする相手に、俺は慌てて立ち上がった。
「俺もちょっと行ってくる! クロウ、お腹すいたら先に食堂行ってていいから、鍵だけはちゃんと掛けといてくれよ」
「了解した」
俺がクロウに言う間にさっさと出てしまったブラックに焦って駆けだそうとしたが、不意にクロウに腕を取られて俺はその場でたたらを踏んでしまった。
「く、クロウ?」
なにか用事があるのかと振り返ると、相手は俺をじっと見つめて…………。
「ツカサ、頑張れ」
そう言うと、ぐっと親指を立てて俺に突き出してきた。
…………あれ、これ、なんか察されてます?
「あの、クロウ」
「解っているぞ。ツカサは優しいからな。アイツの捻くれた心をほぐしに行くのだろう。オレはちゃんと戻って来るから、存分にやってやるといい」
「う、うぐぐ……」
そうハッキリ言われるとなんかもう、なんかもう……!!
いやでも、これアレだよな、クロウも俺達の関係を納得尽くで応援してくれてるんだし、クロウは群れの二番目として群れの平和を願ってるってのもあるんだし、じゃあこうやって送り出してくれるのも相手にしてみりゃ当然で……。
でも慣れない、こうやって送り出されるのは慣れないぃいい。
「早く行かないと見失うぞ」
「わ、わかった……!」
ぱっと腕を離されたのを合図にするかのように、俺はそのまま駆けだした。
クロウに自分達のやらしい部分を見られたかのようで恥ずかしいのと、ブラックがどこかへ行ってしまうという焦りで慌てて部屋を出てしまう。
だけど足は止まらず、少し遠くにいるブラックの背中に向かって走っていく。
そうしないとブラックがそのままどこか遠くへ行ってしまうようで怖くて、俺は無意識のうちに顔を歪めていた。
追いついて何を言おうかなんて考えてない。
だけど、俺に嫌な気持ちを抱いたままで、いて欲しくなかったから。
「ブラック、待てよ……っ!」
そう叫んだ俺の声が届いたのか、相手の背中はびくりと震えて立ち止まった。
「…………何か用?」
声が、冷たい。ああ、やっぱり怒ってるんだ。
だけど、ブラックの事を責められない。
怒ったってどうしようもない事だって解ってても、恥も外聞もなく怒ってしまう時だってある。それに……怒ると言う事は、それだけ俺の事を気にしているんだと理解しているからこそ、余計に俺にはブラックへの申し訳なさが募っていた。
解ってるよ。アンタだって怒りたくないんだよな。
ただ、いままでずっと二人っきりで相手が自分だけを見ててくれたから、他の奴にその目が向かうのが嫌なだけなんだよな?
でもそれを言ってもどうしようもないから、怒るしかないんだ。
いつか相手が解ってくれて、思い通りにしてくれるまで。
俺にだってその気持ちは解るよ。だから俺も困ってるんだ。
こんなこと初めてで、どうしたらいいのか解らなくて。いつも隣でヘラヘラと笑ってる奴が冷たいから、俺も妙に空回っていつもの自分じゃなくなってて、余計にアンタに誤解させて……。
解決策はいっぱいあったはずなのに、俺は困る事しか出来なかった。
時間を置けばアンタが機嫌を直してくれるって、心のどこかで思ってたから。
……でも、駄目だった。だから、今焦ってるんだ。
こんなの、いつもの自分じゃない。違うんだよ。
アンタの事怒らせたいんじゃない。俺だって、誤解を解きたいんだ。
何もできないままで、アンタが愛想尽かして離れて行くのは嫌だよ。
怒ってるその気持ちが、いつ「好き」という感情を燃やし尽くすのか解らない。
恋なんて移ろいやすい物だと誰かが言っていた。相手の信用を失えば、もう二度と愛して貰えないって事も、腐るほどいろんな物語で見た。だから、怖いんだ。
今更思い知ったんだよ。
アンタに好きだって何度も言われる事が、どんなに幸せな事だったかって。
俺が……自分でも驚くほど、アンタの優しさに依存してるって事も……。
だから、嫌われるのなんて絶対にいやだ……!
そんな事になるくらいなら、俺の言葉でまだアンタが喜んでくれるのなら、どんなに恥ずかしくったって、俺は。
「…………っ、はぁ……は……」
息が続かなくて言葉が出ない。
ブラックが訝しげに俺を見る視線が痛くて目を伏せそうになったが、堪えて俺は不機嫌な相手の顔を仰ぎ見た。
「お……俺も……っ。一緒に、トイレ行く……っ」
「……付いて来たの? いいよ別に、あの熊の所にでも……」
行けばいい、という言葉を遮って、俺はブラックの手を掴む。
その勢いに狼狽した相手に、俺は震えそうになる口を堪えて告げた。
「う……嘘……トイレじゃ、ない……っ」
「……え?」
顔が勝手に赤くなっていく。
いつもの俺が心の中で「言うな」と暴れていたが、一世一代の虚勢で押し込んで、俺はブラックにはっきり言ってやった。
「デート……っ……あんたと、二人きりで……したかったから……っ」
だから、逃げないで。
これ以上の事は言えないけど、解って。
痛いくらいに赤面した情けない顔の俺をみて、ブラックは驚いたようにただ目を瞬かせていた。
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