異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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祭町ラフターシュカ、雪華の王に赤衣編

22.ノリで約束すると後で後悔する

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※今回の話は読まなくても今後の展開に支障ありません(;´Д`)スンマセン…
 お祭りの話と区切ったら会話だけになってしもうた…





 
 
 紹介状を見せてしばし受付で待つと、執務室へと案内される。
 相変わらず他のアポイントメントとか無いんかいと思ってしまうほどの速さだが、話が出来るのならこの際それは言うまい。

 受付の人に扉を開いて貰って執務室へ入ると……初めて対面した時と変わらず、街長はニコニコと笑いながら俺達を迎え入れた。

「やあ、可愛い君……とその他二名。さあ入ってくれたまえ」
「ハナからムカツクなあ」
「ツカサこいつ殴っていいか」
「だめだめ」

 最初からトップスピードでブチギレないで下さい頼むから。
 ツッコミする気力すらげちゃったが、ここで気持ちが死んではいけない。俺は気合を入れ直すと、ブラック達と共に街長の前に立った。

 紹介状を渡すと、街長は珍しい物でも見るようにその内容を読んで、俺達に……と言うか俺に目を向けた。

「ふむ、君達が何をやりたいかは大体把握した。……しかし、下働き程度しか能の無い人間をこちらが金を出して教育してやるなど、酔狂にもほどがあると思わないかね。エレジアも君も人が良すぎる。天使のようだ」
「天使違います。やってみなけりゃ解らないでしょう。ただ国の支援にすがるだけの存在を放って置くよりはマシだと思いませんか?」
「思わないねえ。こちらには何の得も無い。……我が愛しい娘エレジアの話では、配達業者として雇用するとの話だが……その事務所の土地や経営に関しての教育、おまけに諸々の用意や給料の支払いは当分こちらが持つ事になるんだ。新たな財源とは言え実るまでの苦労が多すぎる。街の大事な税をそんな事には使えないよ」

 ぐう、確かに……。壁際の人達が全員上手く仕事を行えるかどうかってのは、経営者側からすると疑わしいかも知れない。しかし、そこで立ち止まって貰っては困るのだ。
 何としてでも受けて貰わねばならない。
 そんな俺の思いを読み取ったのか、クロウが一歩前に出た。

「種と言うものは、育ててみなければ良い実が成るかどうか解らない」

 反論するようなクロウの言葉に、街長は鼻を鳴らして椅子にふんぞり返る。

「しかし、劣悪な種は実を実らせないどころか水と肥料を食い散らかすばかりで、一向に芽が出ず死ぬものも有ると言うが?」
「だからと言って上手く育つ可能性のある種を育てないのは、怠惰とも言えるがな。良い種もそんな愚者が育てれば、芽も出ず枯れるだけだ」
「ほう、そこの獣人君はずいぶんと口が達者なようだね」

 違います見た目に似合わず好戦的なだけなんです……。
 ブラックは完全に街長を敵視してて一言目には殺すとか言いそうなので、俺が「言うなよ」と睨んで止めているのだが、思えばクロウもブラックに負けず劣らずガンガン言うタイプだったね。ブラックだけ止めても無駄だったよね。死にたい。

「なんにせよ決定権は私にある。いくら可愛い君の頼みでも、そんな未来の定まらない計画を持って来られては、ねえ」

 ちらりと俺を見る街長。なんかやらしい目付きだけど、負けないぞ。
 俺は内心で気合を入れると、キリッと顔を整えて街長に向き直った。

「あの、じゃあ……取引をしませんか」
「取引……ほう、可愛い君が私に何かをくれるのかな? 嬉しいね」

 そう言うと整えた髭を指で触りながら、街長は姿勢を正した。う……なんか妙に食い付いて来たけど、平常心だ。負けるな俺。

「もちろんです。もしその計画に協力してくれるなら、俺もそれ相応のお礼をします。例えば……回復や」
「お礼とは、君が私の嫁になってくれると言うことかな!」
「は?」

 三人揃って間抜けな顔でハモってしまった。
 いやだっておかしいでしょ、何故この流れでいきなり欲望爆発させてんのこのオッサン! 俺普通の取引持ちかけましたよね、別にいやらしい雰囲気とかカケラもありませんでしたよねえ!?

 ロクまでもがポカーンと口を開けているのに構わず、街長は椅子から立ち上がって夢見る乙女のごとく両手を組んで俺を見つめて来た。

「それは願ったりかなったりだ。いやあ私も妻に先立たれて後添えを探していた所でね、君のような可愛らしく能力も有る存在に妻になって貰えたら、どれほど幸せかと考えていたんだようん」
「に゛ゃっ、んなっ、ち、違う! そういう取引じゃありませんっ!!」
「またまた照れて」
「照れてないぃ!! 俺は失敗しない回復薬の製法とかをですねっ」
「そんなの私の範疇ではないよ。利益はあるだろうが、今のままでも街は充分に潤っているしね。過ぎたるはおよばざるがごとしだ。それなら自分自身が豊かになる取引をして心に余裕を持った方が、より良い執務が出来るというもの」
「ギャーッ近寄るなぁああ!」

 予想外過ぎる、こんなの聞いてない。こんな街長でも、真剣な話の時くらいはちゃんと真面目にしてくれると思ってたのにぃいい!
 やめてよして触らないでとばかりにブラックとクロウの後ろに隠れると、街長も流石に二人の存在を無視できなくなったのか、ふうと溜息を吐いた。

「君達も解らない人だね。これは私なりの譲歩だよ? 本来なら変えなくても良い事を変えてまで、君達の案を採用しようとしているんだ。どうせ関わったのなら最後まで責任を持ってくれてもいいだろう」
「冗談じゃない、ツカサ君の恋人は僕だ。まともな交渉も出来ない男が僕のツカサ君に手を付けようなんて、ちゃんちゃらおかしいね!」
「ほぉー、言ってくれるじゃないか。無精髭の不潔な男が」
「娘にまで迷惑をかけるような男には言われたくない」

 ああぁ二人の視線がぶつかりあってバチバチ言ってる……。見たくなくてロクの可愛い顔の方へと視線を逸らすが、そんな事をやっても状況は変わらない訳で。
 どうしようかと頭を抱えていると、クロウが無表情のままボソリと呟いた。

「決闘しろ」
「は?」
「はい?」

 オッサン二人が「何を言ってるんだコイツは」とばかりにクロウの方を向く。
 ブラックは言うタイミングに関しての「何言ってんだ」だろうけど、街長は本気でポカンとしているようだ。予定が狂ったが、この分だと正しい方向へ修正出来るかもしれない。さすがはクロウ。いいぞ、もっと言ってやれ。

「どうせこのまま喋っていても平行線だろう。ならば、純粋に積み重ねてきた力で勝負をして白黒つければいい。お前もただ街長をしている訳ではあるまい?」

 クロウが街長の靴先から頭のてっぺんまでを眺めて言うと、相手は胸を張って腰に手を当てる。

「無論、代々街長を担う者としてただ席に座っているだけではないさ。貴族としての研鑽と護国の為の剣術の鍛錬を欠かした事はない」
「ほう、冒険者風情に負けるはずはないという事だな。だったら、この不潔な男と対決して、剣士らしく堂々と勝ち取れば話が早い」
「おいお前殺すぞ」
「ふむ……それもそうだな。では早速……」
「ちょーっと待ったぁー! どうせならその決闘、祝福の儀の目玉演目として行いましょう!」

 やっと俺の出番だ。
 ブラックと街長の間に割って入ると、俺は街長に向かってにっこりと笑った。

「いや、待ってくれ。祝福の儀で決闘だなんて前例がないぞ」
「俺達……っていうかナトラ教会がジェドマロズの担い手になるのも初なんですし、炎の曜術師が冬将軍をやるのも初なんでしょう? だったらこの際、とことん盛り上げてたらいい。祭りも盛大になって一石二鳥ですよ」
「む……それはまあ……」
「負けるつもりはないのだから、大勢の観客の前でやっても構わんだろう」

 クロウの言葉に、街長は少し悩んだが……俺をちらっと見ると、決心したように拳を握って俺達に宣言した。

「よし分かった! 決闘は祝福の儀の後、そこでこの子を賭けて勝負だ!」
「望むところだ、せいぜい首を洗って待ってる事だね」

 やったー! これでブラックが勝てば壁際の区域の人達がー……っておい!

「だからなんで俺が賞品なんだよ! バカ! バカかあんたら!」
「私が可愛い君をめとる為なのだから当然だろう」
「ツカサ君、こういう輩は一度半殺しにしないとダメなんだよ」
「本末転倒だろうがっ! 俺達は嘆願書の内容を受理して貰うために来たんだろ、それがどうしてこんな話にすり替わってんだ!」
「あっそれもそうだね」

 ソウダネ、じゃねぇえええよ。
 頬にパンチいれたろかと思ったが、ぐっと堪えて俺はまた街長を見た。

「あの、ブラックが勝ったらさっきのお願いも受け入れて貰えますか?」
「もちろんだとも。厄介事の解決方法は単純明快であるほうが良い。それが純粋に自分が鍛錬した力での決着であれば、なおのことだ。剣士の模擬試合など、何百年も行っていなかったが……うむ、最近は祝福の儀もありきたりになって飽きる観光客がいたからな。一度試してみるのも良い」

 そう言いながら、街長は実にスムーズに流れるがごとく俺の手を取る。

「私が勝ったあかつきには、街長夫人としての何不自由ない生活を約束しよう」
「……えーっと……じゃあ、ラークが勝ったら壁際の区域の人達への就職支援と、あと彼らをみだりにさげすもうとするのはやめてくださいね」
「ああ解っている、挙式は祭りの間に行おう」
「ツカサ君、こいつ今ここで殺した方がこの街の為なんじゃないかな」

 俺もちょっとそう思ったけど、同じだけ強引な奴にばっかり遭遇しているので(ブラックとクロウ含む)なんも言えねえ。
 まあ、自信満々なのは良い事だ。
 調子に乗ってくれればくれるほど、こっちの要求を飲ませやすくなるからな。

 そう考えて、俺はふと自分の思考に違和感を感じた。

 ……なんだかんだで俺、ブラックが負ける訳ないと思ってるみたいだ。

 いや、別に、負けて欲しいとは微塵みじんも思ってないけど……でも、コレって仲間と言う意識から来るものなんだろうか。まさか、恋人として……とか……。

「う……」

 思わず顔が赤くなってしまったが、俯いていたおかげでその情けない顔は誰にも解らないようだった。










 
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