異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

文字の大きさ
387 / 1,264
帝都ノーヴェポーチカ、神の見捨てし理想郷編

4.普通ではないということは1

しおりを挟む
 
 
 オーデル皇国の首都、ノーヴェポーチカ――そこは、鉄の都である。

 都市を守る壁は鈍色にびいろの分厚い金属で造られており、その強固な壁には大小様々さまざまくだ、いや、ケーブルか……とにかく数種の導線が張り巡らされている。
 地面と接する所には、俺達三人を縦横に並べても足りないくらいの巨大な管が取り付けられていて、人の頭ほども有るボルトで厳重に留められていた。

 これが、あの脈動する管の終着点らしい。
 クロウが「他にも何本かあるようだ」と言っていたが、もしかしたらこの管は等間隔とうかんかくに壁に取り付けられているのかな。全景はたこ足みたいな感じだろうか。
 それにしても、あまりにも巨大な有様にはただただ驚かされる。
 「中世西洋風」のこの世界とは、真っ向から対立するほどの近代的な様相。
 ゲームでは、帝国って言ったら結構な確率でこんな風に未来的軍事国家になってたけど……実際に見てみると物凄く違和感がある。

 ……だって、俺達ってばファンタジー丸出しの装備と武器持ちなんだぜ?
 例え中の人が俺らと同じ格好をしていたとしても、このスチームパンクっぷりはちょっと度し難いだろう。いや、スチームパンクなら許されるのか……?

 まあそれは置いといて、俺達は比較的スムーズに門をくぐる事が出来た。
 それと言うのも、クロウを見て門番の人達が何かを察したのか、ここでも「引き留めて申し訳ありませんでした!」と独特な敬礼をされて、検問免除の上で速攻馬車を中に引き入れられたのである。

 たぶん、シアンさんが俺達の事を事前に知らせておいてくれたんだろうけど……なんかズルしてるみたいで少々良心がうずいてしまう。
 クロウもシアンさんからの書状を見せずじまいなのが不満だったのか、ちょっとだけ口を尖らせて不貞腐れたように耳を動かしていた。
 ぐ……可愛い……いやそんな事言っている場合ではない。

 とりあえず馬車とディオメデ達を馬車屋さんに返して、世界協定の支部に向かわねばなるまい。……と思って、門番に教えて貰った道をパカポコ馬車で進んでいるのだが……なんというか、街の様子に俺はすっかり度肝を抜かれてしまっていた。

 街の建物自体は、煉瓦にしっかりと漆喰が塗りつけられた冬仕様の西洋風の建物で、どこの家からも煙突が伸びている。この世界からすれば普通の家だ。
 しかし、だからと言ってこの街が普通であるはずが無い。
 道に等間隔で埋め込まれている真四角の金属フェンスの下には、剥き出しの道管が何本も通っていて時折湯気を噴き出しているし、よくよく見れば、そこかしこに鉄板で塞いだ壁や地面から伸びた管を引き入れている民家が見えて、唐突なサイバー感に戸惑ってしまう。

 今までの街とは全く違う雰囲気にキョロキョロと視線を動かしながらも、俺達は世界協定オーデル支部へと無事辿り着いた。

「……世界協定もちょっとした要塞みたいになってる……」
「ま、まあ、こんな土地だからね、しょうがないよね」
「金属に囲まれたところは苦手だ……」

 もうこうなると笑えてくるが、世界協定も中々の帝国の悪の城みたいな事になっていた。ああ、黒光りしてる。平和の為の施設とはとても思えない。
 入るのがとても躊躇われたが、意を決して俺達は足を踏み入れた。

 入ってすぐの受付ロビーは、ラッタディアとあまり変わりがないようで、思わずホッとする。これで中まで金属ガッチガチだったらどうしようかと思ったよ。

「ツカサ様、お待ちしておりました」
「ああっ! エネさん!」

 ここで登場するとは解っていらっしゃる。俺の萌えの具現者金髪巨乳毒舌エルフのエネさんが、相変わらずのローブを被って俺達に近付いてきた。

「あと一日シアン様を待たせるようでしたら、マナーも守れない下等な人族として切り捨てる所でした。御無事に到着されてなによりです」
「相変わらずですねエネさん……」

 でもまあ本気で言っている訳でもないから、いいけどね。
 頬を掻きながら苦笑する俺の後ろで、ブラックがまたエネさんに敵対心バリバリの声で不機嫌そうに言う。

「どうでも良いからさっさと案内してくれよ。ほんと女って無駄話が好きだよね」
「ツカサ様、悪い事はいいません。あの性根の腐った将来は朽ちて行くだけの中年など捨てておしまいなさい。こちらの方でいい男を紹介しますから」
「なんだとこの無駄巨乳!!」
「我々の美を解しない下等な羽虫に、私の美貌が解るとは最初から思っておりません。が、愚弄するならこちらにも考えが」
「あーもー二人ともやめろってば! エネさん、シアンさんを待たせちゃいけないから、早く行きましょう!」

 間に入ってそう言うと、エネさんはじろりとブラックを睨んだが、俺の言う事の方が重要だと思ったのか俺達を案内するために歩き出した。
 はぁ、全くもう。どうしてこうブラックとエネさんは仲が悪いんだろう……。

「ブラック、もうちょっとエネさんと仲良く出来ない?」

 歩きながらこそこそと話を振ると、ブラックは不機嫌そうに口を尖らせたまま、目の前を歩くエネさんを睨み付けながら目を細めた。

「ムリ。相手が……っていうか神族が僕の事見下してる内は絶対嫌だね」
「見下してるって……そんな風には見えないけど」
「あの女は人族全員を見下してるから、僕だけ特別って訳じゃない。シアンも、僕の仲間だったからそうじゃないけど……他の奴らはみんなそうだよ」

 だから仲良くしたくない、と眉根を寄せるブラックに、俺は何と言っていいのか解らず黙る事しか出来なかった。
 何が理由なのかは……聞かない方が良いんだろうな。
 普通に解決できることなら、ブラックは「どうして相手が自分を嫌うか」を話してくれていただろう。だけど、今のはそうじゃ無かった。
 過去の時の事を話すのと同じように、理由だけあえてぼかしたのだ。

 ってことは……俺にはあんまり知られたくないって事だろう。
 だったら深く掘り下げて聞けないよな……。

「こちらです」

 俺達の微妙な雰囲気をあえて壊すかのように、エネさんが俺達に声をかけた。
 応接室らしき場所へといざなわれて入ってみると、そこにはもうシアンさんが居て、豪華なソファに座り優雅にお茶を飲んでいた。
 ああ、久しぶりだなあこの光景……。

 そしてやっぱり実物のシアンさんは立体映像よりも美しい。ちゃんとおばあさんの顔なのに、それでも美しいって言うのは本当凄いよな。

「あら、ごきげんよう。……と言いたいところだけど……ブラック、貴方またエネと喧嘩したのね。もういい加減彼女くらいには慣れなさいな」

 カップを置いて困ったように眉をハの字にするシアンさんに、ブラックはフンと鼻息を漏らしながら腰に手をやる。

「慣れる? こいつらに慣れて仲良くなるなんて、御免こうむる。そんな事をするくらいなら、また隠遁生活してた方がマシだね」
「はぁ……この子ったら……ま、いいわ。座って。クロウクルワッハさんの父親の件についての事を今から話しますから。……それと……貴方達がアタラクシアで見て来た事も、ついでに話して貰えるかしら」

 そう言っていつもと変わらぬ様子で笑うシアンさん。
 だけど、その二つはどちらも俺達にとっては重要な事だ。

 俺はブラックとクロウの顔を見ると、覚悟するように頷いて席に座った。










 
しおりを挟む
感想 1,346

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

少年探偵は恥部を徹底的に調べあげられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...